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第53話 摩訶不思議、魔法国の観光

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


次回予告を書く際、いつも迷うのが「世界観をどうするか」と言うことです。本編そのままの世界観で書くか、メタ発言とかしちゃうIF寄りな世界観で書くか。すごく迷います。


現在進行形で悩んでいるので今も決まっておりません(汗)なのでその時の気分で次回予告の世界観が変わります。


アニメとかでもシリアス展開の中でも予告やCMでふざけるやつありますよね。あれ、好きなんです。あんな感じを目指したい。(ほど遠い)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「き、聞いたことがあるって本当ですか」


『はい。でも、本当に聞いたことがあるだけです。実態が分かっている訳ではございません。正直、情報と言うほどのものではないかもしれません』


 ここにいる誰もが心当たりなしと思っていたが、意外な人物が知っていたことに驚いて確認すると、自信なさげな返答があった。


『構わないわ。ラピュセル、アナタの知っている範囲で話して頂戴』


 シャルム国王が毅然として話を進めるように促し、ラピュセルさんはこくりと頷いて口を開いた。


『畏まりました。そんなに長くはならないと思うのでお話しますね』


 全員が口を噤んでラピュセルさんの言葉に耳を傾ける。


『あれは、私がまだ鏡に閉じ込められる前、貴族としての地位を失い家族で田舎暮らしを始めた頃、お父様を訪ねて来られたのがネトワイエ教団の方だったと思います』


「まあ、ラピュセルさんにお父様のお知り合いだったのですか?」


 シルマが前丸くしてそう聞けばラピュセルさんは首を横に振った。


『いいえ。知り合いと言うわけではなかったみたいです。聞いたこともない教団の方が訪ねて来られたので少し気になって、少し下品だとは思いましたがお夕飯の準備をしながら聞き耳を立てていたんですが……なんと言うか、怖かった印象があります』


『怖い?何か攻撃的な発言をされたの?それとも暴力振るわれたとか』


 シャルム国王が聞けばラピュセルさんはまた首を横に振った。


「いえ、直接何かをされたわけではございません。お父様はもちろん、私もお母様も大事なかったですよ。怖いと思ったのは訪ねてきた方の雰囲気です」

『雰囲気と言うことは殺気が隠せていなかったと言うことですね。うむむ、そいつは中々の未熟者ですね』


 クラージュが顎に手を当ててラピュセルさんの記憶の中の人物をディスる。違う、クラージュ、論じるべきはそこじゃない。


「その訪ねて来たと言う方は先ほどのライアーさんなのでしょうか。教団の代表なのですよね」


 シルマが首を傾げてそんなことを言い、それに聖が同意する。


『確かに、ラピュセルさんが鏡の中に入る前ってなると随分前の話になるかもだけど、魔族とか親族は長生きもすれば見た目も若いからね。同一人物である可能性は十分にある』


俺も同じことを思ったのでラピュセルさんに確認してみることにした。


「ラピュセルさん、その訪問者の容姿は覚えていますか」


 俺の質問を受けたラピュセルさんは唸りながらも一所懸命考え、そして頬に手を当てて困った表情で言った。


『ごめんなさい。その方、真っ白いローブを着ていたから顔も体系もよくわからないわ。随分前の出来事だから記憶違いもあるかもしれないけれど』


「い、いや、別に謝らなくても……。今回襲撃して来た奴と同じなのかなぁ程度に聞いただけだったので!気持ち程度の確認だったので気にしないで下さいっ」


 あまりにも申し訳なさそうな態度で返されて俺は悪いことをしていないのに罪悪感に囚われた。責めるつもりは毛頭ないので慌ててフォローを入れたが俺は背筋が凍り付いた。



ラピュセルさんに悲しそうな表情をさせてしまったせいか、ミハイルの視線が痛い。“てめぇ、何様のつもりだラピュセルを泣かしたら潰すぞ”と視線がそう言っている。もう怖すぎてミハイルの方を見ることができない。


『どんな話だったかは覚えている?』


『はい。それなら覚えています』


 シャルム国王が話の続きを求めた。ラピュセルさんがまた話を始めたので俺はミハイルからの突き刺さる視線から解放された。


『ざっくりと言えば勧誘ですね。”今の生活は辛くないか。一度世界をリセットしてゼロから新しい世界を一緒に創ってみないか”、そう言っていました』


「そんなに昔から世界破滅の計画を企てていたのか」


 うむむ、なんだかこの件な根が深そうだぞ。もう地面にがっちり根っこが張り付いている気がする。


 世界にマイナスなイメージを抱く気持ちはわからないでもないが、なんで壊すと言う発想に至るんだよ。怖すぎだろ、物騒な思考回路持ってんじゃねぇよ。


『なるほど……表立って行動はしないけど、社会的地位を奪われたりして世界に不満や不安を抱いているヒトたちのみに声をかけて勧誘をしていたということだね』


 聖は納得して深く頷いていた。俺も納得だ。公に勧誘や宣伝をして無暗に数を稼ぐよりも同じ考えを持っていそうなヒトたちに声をかけた方が効率がいいし、結束も固そうだ。


 しかも、そんなアブナイ思想を掲げる教団なんて一発摘発されそうだし。聖たちが旅をしている間も名前を知られることはなかったってことは、色々なものに警戒しながら本当に水面下で暗躍しているのだと思う。


 ああ、そこはかとなく嫌な予感。長い間隠れて活動していたおかげでなにか大きな準備が整っている気がする。このタイミングで神子一行に強い憎しみを持つフィニィの勧誘にも成功しているし、絶対フラグだよな。


 数多のゲームやアニメを履修して来た俺には分かるんだ。イカレ暗躍系集団がどれほどヤバいかと言うことが。


「そこまで思想が一致しているのであれば、教団と前長様に繋がりがあった可能性はあるのでしょうか」


 これからの未来を想像して恐怖で震える俺の隣でシルマがのんびりと疑問を口にした。それを聞いたケイオスさんが唸る。


「繋がりねぇ……そこのところはどうなんだ」


 ケイオスさんが眉間に皺を寄せたままアンフィニに話を振るとキッパリと否定の言葉が返って来た。


「繋がりはない。少なくとも、俺たち兄妹と共に過ごしている時は第三者と繋がりがあるような素振りはなかった」


『じゃあ、繋がりはナシってことだ。まあ、さっきのあいつの発言からしてそうだとは思っていたけど、世界の破滅とそれを望んだ前長に心酔してたって感じかな』


「とんだサイコ野郎じゃねぇか」


 出て来る真実が全部不穏なので思わずツッコミを入れてしまった。


「その後は、どうなったんだ」


 ケイオスさんがラピュセルさんに向き直るとゆっくりと返答がある。


『今の生活に不満はございません。と父がキッパリお断りをしたら、“そうですか”とだけ言い残してその場を去って行きました。それからは特に何も、変わったことはなかったです』


「あ、結構あっさり引き返すんだ。もっと強引な手段を取ったのかと想像してた」


 この手やつは“入団しなければ家族の命は~”パターンだと思い込んでいた俺には拍子抜けな展開だった。


『変に脅したり、騒ぎ立てたりすると注目を集めるからだろうね。確実に仲間を集めたい場合はよっぽど欲しい人材でない限り引きくのが賢い選択だと思うよ』


 ご丁寧に聖がそう解説してくれた後、シャルム国王がうんざりとしながら盛大にため息をついた。


『当時の世界(クレイドル)は相当治安も悪かったし、貧富の差も激しかったからね。もし推測通り同族と思しきヒトたちに声をかけて回っているのだとしたら、その勧誘に賛同しているヒトも多そうだわ』


「ああ、代々受け継ぐ形で規模を拡大してそだな。無名なのに規模は大きいとか意味が解らん」


 ケイオスさんも良くない推測に苛立たし気に頭をガリガリと掻いて悪態をついた。このヒトたちは実際に世界を旅して現実を目の当たりにしてきているから、事態の大きさを実感しているのだろう。


 つまり、今の状況はとてつもなく「ヤバい」と言うことだ。これは急ぎの旅になりそうな予感。そして、俺のレベル上げが後回しになりそうな予感もする。


『私がお話しできることはこれぐらいです。大した情報でなくて申し訳ございません』


『いいえ。十分よ、ありがとう。アキラ、前みたいに追跡はできないのかしら?』


 シャルム国王はラピュセルさんに微笑んだ後、涼しい顔で聖に問いかける。それを受けて聖は少し声のトーンを落として言った。


『それが……あのライアーとか言う男、相当な魔術師だね。追跡されないように上手く魔力の気配も痕跡も見事に消しているよ』


 用意周到じゃねぇか。チートの敵とかホントに勘弁してくれ。二次元の世界と違って攻略本もサイトも見ることができないし、難易度を下げることもできないこの状況……まさに絶望的じゃねぇか。


 ああ、このパターンはアレだ「本気を出せばできるけど長として個人に干渉することはできないんだ。ごめんね」って言葉が返って来るやつだ。


 すっかりお約束になりつつある展開にを予想してげんなりと身構えていると、突然明るい声色で聖が元気良く、そして得意げに言った。


『でも大丈夫!本気の僕の千里眼からは逃れられないんだから』


「えっ」


 予想外の言葉に俺は目を見開いて固まった。口をパクパクさせて必死で言葉を探すが動揺しすぎて中々言葉が出て来ない。


 ケイオスさんとシャルム国王もさすがにその発言は予想していなかったようで、驚きを露わにしていた。


「おいおい。お前が協力的なのはめずらしいな。どう言う風の吹き回しだ」


 素直な感想をぶつけたのはケイオスさんだった。俺もシャルム国王も同意意見のため、うんうんと頷いて聖を見る。


『ちょっと!僕を薄情者みたいに言うのはやめてよ。今回の件に関しては僕の役割を果たす必要があるからね。フルパワーで能力を発揮させてもらうよ』


 つまり、今回の件は世界の長としては容認できないから“長として世界を守るために”関わると言うことか。


 それはちょっといや、大分心強いぞ。長が味方とかもう最高で最強じゃねぇか。これは勝ったかもしれない。


『あ、言っておくけど僕はあくまで僕の責務と責任を果たすだけだよ。つまり目的が同じなだけ。誰が危険なめに遭っても個々に補助することはないから、そのつもりでヨロシク~』


 心を躍らせる俺を聖がバッサリ斬り捨てる。ひどい、しかも軽いノリで間延びして言いやがった。腹立つ……!


『なるほど、そう言うことね。でもまあ、能力の制限は緩和されたのは良いことね。そこは前向きに捉えましょう。


「ああ、そうだな。使える力は少しでも多い方がいい」


 シャルム国王もケイオスさんもよく納得できるな。いまいち納得ができずにため息をついてふと視線を横にやるとそこには 聖の正体を知らないシルマ、シュバルツ、ミハイルが俺たちのやり取りがよく分からずにキョトンとしていた。


 ヤバい、凄い変な空気だ。聖って何者なんだって空気がもの凄く伝わって来る。あっ、こっち見るなよ。悪いが聖の正体を伝えるわけにはいかないんだ。


「相手を追跡できるのなら話は早い。あいつらはどこへ行ったんだ」


 聖に集中しつつあった意識をさらりとケイオスさんが本題に戻しながら逸らす。上手い、ナイスです。ケイオスさん。


『えっとねぇ……あ、風の国アエラスだよ』


「アエラスって、あいつがいるところか」


 即座に追跡を完了させた聖にケイオスさんが反応した。なんでちょっと嫌そうなんです?それにあいつって誰ですか。


『一旦アジトにでも戻ると思ったのだけれど神子の仲間を潰すことを優先しているのかしら』


 あいつと称される人物のことを聞きたかったがシャルム国王の言葉で質問の機会を奪われる。ま、いいか。後から聞こう。


 そしてシャルム国王の疑問も最もと思う。こういう謎の組織って大概アジトを持っているのがセオリーだ。勝手なイメージだと人里離れた森の奥とか、切り立った岩がそびえ立つ雷鳴りまくりの謎の場所とか、あとは地下首が多いかな。


「いや、わからないぞ。決まった場所にアジトを作るともしもの時に足がつくからな。元々そんなものは存在してしまう可能性がある」


『なるほど、旅するサイコパス教団ってトコね。嫌になるわ』


 ケイオスさんの推察にシャルム国王は納得して頷いた。

 ははぁ、物には色んな見方があるんだぁ。ステレオタイプに囚われまくりな俺には柔軟な発想と広い視野を持つことなんて不可能なのかもしれない。


『よし、今僕たちが話し合えるのはこれぐらいだね。日も落ちて来たことだし、ここらで一旦切り上げよう』


 これ以上は話が進まないと判断したのか、聖が言った。それに対してシャルム国王とケイオスさんも同時に頷く。


『そうね、無駄話をするよりさっそく行動に移した方がよっぽど有益だわ』


「ああ。そうだな、賛成だ」


 シルマが大興奮の2英雄(実際は3英雄)の会議はいともあっさりと幕を下ろした。全く成果がなかったわけではなかったし、本当に少しだけだが話が進んでよかったと思う。


 通信を切る前、最後にこれだけは決めておこうとシャルム国王が言った。

 

『ネトワイエ教団についてはアタシたちの方でも調査を進めるわ。他の仲間たちへの連絡はアタシたちに任せて頂戴。情報が手に入ったら随時連絡するから、アンタたちも旅をしながら教団を追ってもらえるかしら。もちろん、進展があったら報告してね』


『うん、神子の関係者全員に状況を伝えるしかないと思う。連絡も随時するから、よろしく』


 聖が真剣に頷き、ケイオスさんもしっかりと同意した。


「ああ。俺も色々と調べてみるよ。それに人工魔術師が関わっている可能性があるなら、俺の研究が役に立つかもしれないしな」


『決まりね、じゃあそういうことでよろしく』


『みなさん!またお会いしましょう』


『ミハイル、頑張ってね~』


 画面の向こうでシャルム国王が優雅に手を振り、クラージュが満面の笑みで再会の言葉を述べ、ラピュセルさんが穏やかにミハイルに言葉を送った。


「ああっ!ラピュセルー!!」


 ケイオスさんお手製の鳥籠の中に閉じ込められたままのミハイルが籠のなかでバタバタと暴れて切ない声を上げた。


「むぅ、ボク、眠いかも」


「わ、私、英雄の方々と行動を共にすることになるの?し、しかも他の英雄の方とも会うことになるんだよね。嘘……緊張して来た」


 日も落ちたせいか、シュバルツはすっかりお眠モードで目をこすり、その隣に座るシルマは今後、世界を救った英雄たちと共闘することになり、少し嬉しそうにしながらも緊張してブツブツと独り言を呟いていた。


 俺は頭を抱えた。緩い、緩すぎる。さっきまであんなにシリアスモードだったのに光の速さでぐだっとしは始めている。


 だ、だめだ。相手は未知なる敵!もっと緊張感を持たないと命が危ない。

 フィニイのことは気がかりだし、世界の平和とやらも非常に気になるところだが、自分の未来も大事だ。どんな大事に巻き込まれ様とも、俺は絶対に自分の未来に平穏を取り戻して見せるっ!!


 俺は強く心に誓い、窓越しにオレンジから漆黒へと姿を変えた空を見上げ、ふと今後の労働によってその未来が脅かされることを想像してしまい、盛大なため息をついた。



 シャルム国王との通信を切った後、ケイオスさんが唐突に言った。


「お前たち、この国は初めてなんだろ」


「は、はい。全員初めて……だよな」


 俺が振り向いて確認するとシルマがこくこくと首を縦に振り、シュバルツもまどろみのなかでゆっくりと頷いた。


 ミハイルは鳥籠から解放されたが超絶不機嫌なせいで無視された。アンフィニは遠慮がちに頷いていた。


 それらの反応をみたケイオスさんがにかっと豪快に笑った。


「なら、丁度いい。せっかく我が国に来たんだ。ちょっと観光して行けよ。宿も俺が声をかけておいてやる」


 その有難い提案に俺とシルマは顔を見合わせて頷いた。


「はい!是非っ」


「ありがとうございます」


 宿のことは頭からすっぽり抜けていたので嬉しい。宿を探すのは手間だからこう言う配慮は本当に助かる。それに加えて魔法の世界の観光……なんだかテンションが上がてきた!!


「はは、返事だ。俺の知り合いの宿だから安くできるか交渉してやる。宿までの道は商店街になっているから、旅支度をするには丁度いいと思うぞ」


 そう言ってまた明るく微笑んだ。ケイオスさんって腹黒かと思ってたけど、いや、腹黒でちょっと怖いヒトであることには間違いないけど、面倒見がいいんだなと思った。



 宿との連絡はすぐ着き、宿までは観光がてら歩いていくことになった。ケイオスさんは学校を空けるわけには行けないと言うことと、ネトワイエ教団関連で調べたいことがあると言うことで同行できないとの事だった。


 行く道は宿が並ぶ観光地だからなのか、夜でも多くの店に明かりが燈り、観光客や店やのヒトが多く行き交い、呼び込みをしたりして活気にあふれていた。


 そんな中、俺たちは貰った地図を頼りに歩みを進める。はぐれてはいけないと思い、なるべく身を寄せて歩くことにした。


 ……がミハイルは騒がしい場所が苦手だから空から追いかけると言って飛びあがって行ってしまった。何とも迷惑で自由な奴である。


 アンフィニはシュバルツが抱きかかえることになったが、特に不満はないらしく、大人しくしていた。少し元気がないのはまだフィニィのことが気がかりなのだろう。


 ああ、でもなんだろうこの感じ、夜風は冷たいのに周りの雰囲気が温かい。夜の街を歩く、なんて前の世界でも滅多にないことだったためか、自然と浮足立ってしまう。この言い様のないワクワクふわふわした感じは祭りに言った時の感覚に似ている。


 俺が通っていた高校は極端に遅くならない限りは祭りの参加は許されていたのでそう言った特別な日はテンションが上がっていたな。ああー、懐かしい……あの頃は平和だった。


 しかもここは魔法の国。ひとりでに浮く商品やランタン。見たこともないカラフルな食べ物、ヤモリやコウモリの黒焼きと言ったちょっと目を逸らしたくなる様なモノが並び、その非現実な雰囲気が余計に心を高揚させる。


『クロケル、見て!魔法の杖があるよ』


 聖に言われて視線を動かせばそこには“魔法の杖(マジカルステッキ)出張店”の看板があり、手持ちサイズのモノから長い杖タイプのモノなど大小様々な杖が並んでいた。


 興味が湧いて店に近づき、覗いてみると材質も様々でますます興味を掻き立てられた。


「そう言えば魔術を使う時って杖がいるのか?」


 魔法使いと言えば杖と言うイメージがあるが、ケイオスさんやアリスは魔法を使う時に杖を振るっている様子はなかった。


 片やシルマは魔術を使う際は必ずと言っていいほど杖を使っている。例外があるとするならば、不幸な事故でシルマと温泉で鉢合わせた時、痛烈で強烈な電撃をくらわされた時ぐらいか。あの時は杖を使わずに魔術を使っていた。


 杖を使うか否かでなにか違いでもあるのだろうか。それとも個人のこだわりと言うだけなのだろうか。


 シルマは俺の質問にうーん、と小首を傾げてからにっこりと笑って言った。


「魔術を使えるものであれば基本的には杖なしでも使えますよ。絶対必須と言うわけではないです」


「そうなのか。じゃあなんで杖を使う奴がいるんだ?」


「杖の有無でメリットとデメリットがあるんですよ。私の場合は杖を持っていた方がメリットが大きいんです」


「へぇ、面白そうだな。具体的に聞いてもいいか」


 元々ファンタジーな作品が好きなこともあり、湧き出る興味と高揚が抑えきれずにここが店の前と言うことも忘れ質問を重ねる。


「そうですね……。杖を持っていれば魔術のコントロールができます。場面によって力の威力を使い分けることができるので、安全に魔力が使えます」


「なるほど。杖を使うのは初心者向きってことか」


「そうですね。杖があれば子供でもそれなりの魔術は使えますから。でも杖で魔法を使うことは初心者向けと言うだけでなく、体力面でも楽なので多くの魔術師は杖を使うのですよ」


「魔法を使うのに体力がいるのか」


 この世界のことについては全てにおいてわからないことだらけで、質問ばかりの俺にシルマは微笑みを絶やさずに丁寧に答えてくれる。


「魔力回路は体の中を巡っていますから、乱用すればどうしても負担がかかってしまうんです。ほら、血管の流れが早くなったり遅くなったりしたら、お身体に支障がでるでしょう?それと同じです」


「ああ、確かにそう言われるとわかりやすい。じゃあ、体のことを考えると杖がある方が良いと言うことになるのか」


 俺の言葉を聞いて少し考えてからシルマが言った。

「単純に言えばそうです。でも杖を介して魔術を使うと最大の力で攻撃しても威力は落ちます。どんなに術者の能力値が高くても、MAXの火力は出せません」


 杖がアース線的な役目を果たしていると言うことか。何かがあった時、ある程度魔力が流れていれば平気って感じか。


 勝手にわかりやすいものに変換して考えているとシルマは更に話を続けた。


「逆に杖がなければそのヒトの100パーセントの火力で攻撃ができます。なので攻撃特化なら杖なし。正確且つ安全に魔力を使いたい場合は杖ありの方がいい、と言う結論になります」


「成程、わかった。ありがとうシルマ……なあ、その杖はお前が買ったのか」


 シルマの杖は星がモチーフの長い金色杖だ。目の前に並んでいる杖とも比べても豪華な造りだ。だから、そうやって手に入れたか少し気になった。


「ああ。これですか、こればおばあ様から頂いたものなんです。おばあ様も魔術師だったので、おさがりを頂きました」


「そっか、じゃあ大切な杖だな」


「はい」


 シルマは愛おしそうに杖を抱えて頷いた。


「俺も杖とか持つべきかな。そしたら魔術が使いやすくなるかも」


 目の前に並ぶ杖を覗き込んでなんとなくそう言ったのだが、聖が呆れた様に言った。


『わざわざ杖を買わなくても、君は魔法騎士なんだから、その剣が杖みたいなもんでしょ』


「は、剣?」


 俺が腰にぶら下がる剣に目を落とすとシルマがうんうんと頷く。


「魔法騎士様は剣を使って魔力を打ち出すことがありますからね。確かに杖と同じ役割なのかもしれません」


 俺の杖、こんなに近くにあったのかよ……まさに灯台下暗し。いや、全く使えてないわけだから宝の持ち腐れか。


 軽く自己嫌悪に追い言っていると遠くの方でシュバルツの声がした。


「クロケルー!シルマー!見てこれ凄いよ」


 視線をやるといつの間にか俺たちから離れていたシュバルツが遠くの露店で千切れんばかりに手を振っていた。


「あいつ、勝手に行動してっ」


 はぐれてはいけないと思い、シュバルツの方へ慌てて向かおうとしたその時だった。


「チッ」


 舌打ちだ。小さいけど舌打ちが聞こえた。そうですよね、こんなに長い間店の前に立って何も買わないとか迷惑ですよね。ごめんなさい、冷やかしのつもりはなかったんです。


 ふと隣を見ればシルマも音を拾ったらしく苦笑いを浮かべていた。俺たちは罪悪感を覚えながらも店主に会釈した後、逃げる様にシュバルツの元へと走った。



「こら、勝手に移動して迷子になったらどうするんだ!危ないだろ」


 辿り着いて早々、俺は心配する気持ちが先行して思わず怒鳴ってしまった。思いのほか大きな声が出てしまい、シュバルツがビクッと肩を振るわせた。


「ごめんなさい……」


 満面の笑みから一変、泣きそうな表情になったシュバルツを見て心が抉られる。やばい、言いすぎたかも。


「シュバルツくん、クロケル様はあなたを心配して怒っているのですよ。わかりますね」


 動揺で何も言えない俺の代りにシルマがシュバルツと目線を合わせて(と言ってもシュバルツの方が高いため見上げる形になるが)優しく言った。


「うん、わかってる。クロケルは怖いヒトじゃないから。だから、ごめんなさい」


 シュバルツはしおしおに落ち込みながらそう言った。怒られても俺に信頼を置いてくれるなんて……どうしよう、かわいい。これが子を持つ親の気持ちか?


「うふふ、なら大丈夫ですね。それで、どうしましたか」


 優しく問われたシュバルツがパッと笑顔になる。


「うん。あのね!これ、宝石なのに甘い匂いがする」


「宝石?」


 俺とシルマがシュバルツの指さす方を見ればそこには色とりどりで様々な形をしたモノがキラキラと光を放って鮮やかに並べられていた。


 ん、確かに綺麗だけどこれ、もしかして。俺が考えを口にする前にシルマが楽しそうに言った。


「まあ、これはキャンディですね。確かに、宝石みたいに綺麗です


 そう、シュバルツが宝石だと称したそれは宝石の様に美しい色合いのキャンディだったのだ。看板にも「キャンディ屋」と書かれていた。


「キャンディ?」


 モンスターのシュバルツには馴染みがないのか、訂正されてもピンと来ていない様だった。


「お菓子のことです。甘くておいしいですよ。少し買って行きましょうか」


「お菓子?わーい、うん。食べたい!」


「ふふ、じゃあ好きなものを選んで下さいね」


 シルマの提案にシュバルツは両手を挙げて喜んだ。うーん、やっぱり中身は幼児だな。俺が見ていたアニメの「影坊主」とは程遠いな。別にいいけど。


「クロケル様、どれにしますか」


 シルマが俺を呼ぶ。まあ、予算にも余裕があるしキャンディぐらいいいか。そう思ってキャンディを選ぼうとしたその時、俺は背筋に寒気と視線を感じて勢いよく振り返った。


 腹の底がぞわぞわとする感覚に囚われ、視線を感じた方を見たが、そこには行き交うヒトと森へと続く茂みしかなかった。


「どうかしましたか」


 シルマが挙動不審な俺に心配そうに声をかけて来た。


「いや、別に。なんでもない」


 気のせいか?うん、そうだよな。俺に何かの気配を察知する能力なんてある訳ないし。俺は自分にそう言い聞かせてキャンディ選びに意識を集中させた。



 ~ 一方、クロケルが見た茂みの奥では ~


「危ない。つい前のめりになってしまった。もう少しで見つかるところじゃった」


 茂みに身を隠した何者かは楽しそうに笑っていた。


「あれが例の小僧とその仲間か。中々面白そうじゃ。早くちょっかいをかけたいところじゃが、もう少し観察して見るとするかの」


 何者かは闇夜の深い茂みの奥で深紅の輝く瞳を光らせながら再び楽しそうに笑った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「いやぁ、何事もなく観光できてよかったねぇ」


クロケル「何事もあるわ!なんか不穏な雰囲気なんですけど。嫌な予感がするんですけど」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第54話『可愛いお婆さんは好きですか』多分、面白くて頼もしいヒトが出てくるよ」


クロケル「可愛い、お婆さん?え、イケおば登場フラグ?」


聖「あ、ちょっとワクワクした」


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