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第52話 3英雄の会議

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


何度も言いますがノープランは辛い!毎日ネタをひねり出してタイピング……泣きそうです。なんでプロットなしで書こうと思ったんだよ自分の馬鹿!阿保!


こんな作品でも読んで頂いている方、誠に感謝です。面白いと思って頂ける作品にできる様にできるだけ努力はします。


ノープランでも小説はかけるんだぞぅ!(迷走)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「し、死ぬかと思った……いや、俺生きてるか?生きてるよな」


『生きてる生きてる大丈夫だよ』


 満身創痍の俺に聖が適当に頷いた。ちょっと冷たすぎじゃね?もう少し労われよ。親友だろ。


 あれから俺は地獄の特訓になけなしの根性で耐え抜いた。


 岩を背負ったまま腕立て、そのままスクワットに懸垂をして、岩から解放されたと思いきや400メートルの校庭ランニングを30周。これらをマジで強要された。そして俺はやりきった。


 この世界が経験値でレベルアップできるシルテムならかなりの数値を稼げた自信はある。でも残念ながらここは素材がないとレベルアップできない世界。


 地獄の特訓をやりきった俺に残ったのはとてつもない疲労感とケイオスさんへの恐怖心だけだ。


 二面性があることはわかっていたがここまでとは想像もしていなかった。ドSとか腹黒とか言うレベルじゃねぇぞ。鬼だよ、悪魔だよ!


 命の危機がないギリギリのラインで指導して来るのもまた腹が立つ。おかげで心身共にボロボロのヘロヘロだ。


「も、もう二度と鍛錬なんて他人に頼まねぇ」


 疲労困憊で心が狭くなっている俺は息を切らせながらもハッキリと本心を口にした。


「なんだ。あれぐらいで白旗か?俺はお前と同じメニューを倍こなしているんだぞ」


「嘘でしょ。バケモンじゃん」


 筋肉お化けかな。驚きが先行しすぎて心の声が漏れる。


「だぁれがバケモンだよ。失礼な奴だな。もう1セットプログラム追加するか?」


「ごめんなさい。すみません。今のは本心じゃないです。言い過ぎました」


 恐ろしい申し出をされた俺は早口で謝罪した。アレをもう1セットとか冗談じゃない。今度こそ体がバラバラになるわ。


『弱っ、クロケルってばホントに事なかれ主義だよねぇ。いいじゃん、本心でぶつかっても』


「うるせぇ、そんなことできるわけねぇだろ。黙ってろ」


 呑気にヒトを小馬鹿にする聖に睨みを利かせて抗議すればケイオスさんが仲裁に入って来た。


「喧嘩すんなよ。まあ、確かに俺もやりすぎた自覚はある。お前は打てば響くからついな」


 申し訳なさそうに頭を掻くケイオスさんを見て思った。「つい」ってどう言う意味だよ。打てば響くってなんだよぉぉぉぉ!


『打てば響くって言うのは、ちょっと刺激するだけで反応とか効果があるって言うことわざで……』


「意味を聞いてんじゃねぇよ。それぐらい理解しとるわ!」


『あはは。君のそう言うとこなんじゃない。“打てば響く”別の言い方をするとリアクションが大きくて面白い的な』


 ケラケラと笑う聖の隣でケイオスさんが深々と頷いていた。俺は、そんなに面白い反応をしているのか。


 生きるために必死になっているだけだぞ。そんな人間を笑うのは良くない。実に良くないぞ。ああ、もう泣きたい。


「悪かったって。だからシャワールームも貸してやったし、回復魔法も施したし、こうして茶も出してやったんだ。許せ」


 疲労感からがっくりと肩を落とす俺の肩をケイオスさんがポンポンと叩く。そう言えばケイオスさん、もう本性隠さなくなりましたね。


「お茶を入れたのはシルマですけどね」


「あの、私は別に手間ではなかったですよ」


 そう、俺の鍛錬が終了して直ぐ、ケイオスさんは立てない俺を米俵抱きで主に運動部が使うらしいシャワールームにぶち込まれ、泥だらけの体を綺麗にした。あ、もちろん自分で洗ったぞ。


 シャワーを浴びて少しさっぱりした後は応接室へと促された。俺の鍛錬を見届けていたシルマ達も今は応接室で着席し、お茶を飲んで一息ついている。


『不機嫌なクロケルは面倒くさいから一旦放置するとして……僕、思ったんだけど』


 放置するなよ。あと面倒くさいってなんだ。死にかけたんだぞこっちは!怒りに震える俺に構わず、聖は言葉を続けた。くそ、お前毎回心を読んでくる癖に都合の悪い時は無視とかいい度胸してんじゃねぇかっ。


『フィニィのこととか、ネトワイエ教団のこととか色々あったし、ここらでシャルムに連絡した方が良いと思うんだよね』


「ああ、そう言えば何かあったら報告する様に言っていた様な……」


 聖の言うことには一理ある。そもそもフィニィの素性調査はシャルム国王からの依頼みたいなものだったし、状況が変わったこともあるし、ここいらで一旦連絡を入れておいた方が良いのかもしれない。


 俺はシャルム国王から預かった端末を取り出した。それを見たケイオスさんが目を丸くして言った。


「ん、その薔薇の紋章はグラキエス王国のものじゃねぇか。なんでそんなもん持ってんだ」


「連絡手段として持たされたんですよ。今ここで連絡させて頂いてもいいですか」



「ああ、構わない。だが、ちょっと待て。連絡するなら顔が見えてここの全員と会話ができた方がいいだろ。映像モードに切り替えろ」


「映像モードってなんですか」


 何を言われているかさっぱりわからない。首を傾げているともたもたとする俺にケイオスさんが苛立たし気に言った。


「もういい、その端末を貸せ」


「は、はい」


 乱暴に差し出された手の上に俺はそっと端末を乗せた。それを受け取ったケイオスさんは端末を素早くタップして何か操作をした。


 するとブォンと言う機械が立ち上がる独特の音がして、空中に光りのスクリーンが現れた。


「わっ、びっくりした」


 突然端末から飛び出て来たソレに俺は声を上げて驚いた。バクバクとする心臓を手で押さえながらも俺は端末から浮き上がるそれを確認する。


 大きさは小さな映画館のスクリーンぐらいで真ん中にはNO Dataの文字が浮かんでいる。これが映像モードなのか?


「このまま電話を繋ぐからな」


 ケイオスさんがまた端末を操作するとコール音が数回鳴り響き、応答があった。


『暫くぶりね、変わりはないかしら』


『みなさんこんにちは。お元気ですか』


 空中に浮かんだ画面に映し出されたのは相変わらず涼しい顔をしたシャルム国王と子犬感全開のクラージュの姿だった。


 ああ、映像モードってテレビ電話的なやつか。なるほど合点がいった。確かに、これなら対面式かつ大勢で話せるな。


 状況が飲み込めたところで俺は立ち上がってシャルム国王に深々と頭を下げた。


「突然の連絡、大変失礼いたします」


「送り出して頂いて直ぐご連絡になってしまったこと、誠にお詫び申し上げます」


 シルマも俺に続いて頭を下げた。バカ丁寧に挨拶をする俺とシルマを見てシャルム国王がクスリと笑う。


『そんなに畏まらなくてもいいわよ。頭を上げて楽にしなさい。アンタたちのことは気がかりだったし、連絡を貰えてホッとしたわ。ああ、座ってもらって構わないわ』


 俺とシルマは改めて席に座り、姿勢を正した。いくら親しくなったとは言え、やっぱり王族のヒトを前にすると緊張してしまう。


 何でだろう?オーラ的なやつかな。でも同じ王族でもクラージュには割とフランクに接することができるんだよなぁ……一応、お后様のハズなんだけど。


「ラピュセル!ラピュセルはいるか!」


 突然、先ほどまで大人しかったミハイルが羽をバタバタとさせて空中に浮かぶスクリーンに近づいた。大興奮だなおい。


『いるわよ、代わって上げる。ラピュセル、ご指名よ』


 シャルム国王の言葉の後に化粧鏡を持ったクラージュが現れ、それを画面に向かって見せた。一瞬だけ鏡が光り、ラピュセルさんが姿を現す。


『うふふ、ミハイル。元気にしているかしら』


 鏡の中でラピュセルさんが穏やかに手を振っていた。その姿を見たミハイルは嬉しそうな声を上げてより力強く羽ばたいた。


「ラピュセル!元気だったか。大事はないか?お前と離ればなれになって本当に悲しいぞ」


『うふふ。ミハイルってば変なことを言うのねぇ。お別れしてから1日も経ってないでしょ』


 必死に想いを伝えるミハイルを見てラピュセルさんが可愛らしくクスクスと笑って言った。


 ああ、そう言えばそうだな。ここまで起こったことの密度が濃すぎて1週間ぐらい滞在した気になっていたが、この地を踏んでから1日も過ぎていない。


 と言っても、もう空がオレンジ色になりつつあるが。それでもあと少しでやっと1日が終わるのだと思うと、変な気分だ。


「何だ?鏡の中に女?」


 ケイオスさんが眉間を寄せてラピュセルさんを凝視する。そうか、このヒトはラピュセルさんと初対面だから諸々の事情を知らないのか。


「鏡の中の彼女につきましては複雑な事情がありまして……話せば長くなるので今はミハイルの大切なヒトとしか言えません」


 どこから説明していいかわからない俺がそう返せばケイオスさんは顔をしかめたままふぅんと頷いた。


「あのフクロウの彼女ってことか?魔族で動物なのにいい身分だな」


「いや、彼女と言うのもまた微妙で……ってケイオスさん、ミハイルが魔族ってわかるんですか」


 確かに、ミハイルは魔族だ。そしてラピュセルさんが閉じ込められた鏡に憑く精霊でもある。フクロウは仮の姿で本来の姿は別にあるとは聞いているが、その真の姿はここにいる誰にも不明なはずだ。


 自己紹介の時もミハイルのことは名前伝えていないし、ミハイルがケイオスさんの前で力を使ったことはここまで一度もないはずだが、どうして魔族だと分かったんだ?


 それがどうしても不思議で、首を傾げていると、俺の頭の中を察したケイオスさんが面倒くさそうに言った。


「どこかの誰かみたいにアナライズ能力は持ち合わせていないが、相手の持つ魔力やオーラなら読めるからな。それで予想を付けただけだ」


 オーラを読んで相手の素性を予想するなんてすげぇ……しかも当ててるし。もうそれほぼアナライズと同等の能力じゃないですかヤダー。


『フィジカルが最強すぎて忘れがちだけど、ケイオスは魔法学校の校長に任命されるぐらいの魔術の素養もあるからね。相手のオーラを読んで相手の素性を知るなんて朝飯前だと思うよ』


 聖の言葉を聞いて改めて思う、マジカルもフィジカルも優秀とかもうそれは最強に等しいのでは?


 問題があるとしたら性格ぐらいだろう。あ、でも二次元だとケイオスさんみたいなキャラには人気でそう。強くてイケメンで武闘派って言う意外性もあって、敬語キャラかと思いきや実は腹黒で口悪いとか、人気出そう。主に女子人気が凄そう。


「まあ、そんなことはどうでもいいとして……おい!そこのフクロウ、邪魔だ。さっさと本題に入らせろ」


 いつまでも画面から離れようとしないミハイルに腹が立ったのかケイオスさんは苛立たし気にそう言った後に指先をちょんちょんと動かした。


「!?」


 同時に羽ばたいていたミハイルの体がグンと横に引っ張られた。本人も驚いた様で目を見開いて短く呻いたのがわかった。


 そのまま壁の方まで引っ張られたかと思うと白い光の鳥籠が現れてミハイルを閉じ込めたのだ。


 な、なんだ。なにが起こったんだ?突然の投獄シーンに俺はケイオスさんと文字通り籠の土鳥のミハイルを交互に見やる。


 ミハイルも状況が飲み込めていないのか、身を細くしてキョロキョロとした後、すぐさま丸いフォルムに戻ってケイオスさんを睨んだ。


「おい、お前!何しやがるんだっ」


「言っただろ、邪魔なんだよ。今はお前と彼女との再会を喜ぶ時間じゃねぇんだよ」


 え、これケイオスさんがやったのか。怖っ、さっきのって多分魔術だよな。他人を投獄する魔術とかあるのかよ。


『何言ってんの。君がさっき使った魔術も似たようなもんでしょ』


「あ、そっか。いや、まだ実感がないからさ」


 聖の指摘で気がつく。そう言えば俺の結界もある意味牢屋みたいなもんだよな。壊そうとしたら暴発するみたいだし、ある意味最強の牢屋かもしれない。全然使いこなせてないけど。


そんなことを思いながらのんびりと頷いた時、部屋中に響くほどの大きな舌打ちが聞こえ、部屋にいる全員が肩を揺らす。


「おい、脱線するな。余計な話は後だ。本題に!入るぞ!」


「は、はい。騒がしくて申し訳ございません」


 ケイオスさんに念を押す様に力強く詰め寄られ、その圧に負けた俺は後退りながらぎこちなく返答した。怖すぎて目が合わせられない。なんで突然こんなにイライラし始めたんだ。


『相変わらず言葉が美しくないわね。でも、クロケルたちの本性を見せているってことは短時間で良い関係が築けたと言うことかしら』


 画面の向こうでシャルム国王が興味深そうに微笑んでいた。そんな彼をジトリと見ながらケイオスさんも嫌味混じりで返す。


「お前も相変わらずなよなよした話し方をしているんだな。国王を語るならもう少しどっしり構えたらどうだ」


『あら、ご忠告ありがとう。でもこれがアタシの国王としての生き方だから、そのアドバイスは聞き兼ねるわ。ごめんなさい』


「ああそう。余計なお世話で悪かったな」


 バチバチっと画面越しに火花が散った様な気がした。おいおい、この2人一応聖と共に世界を救った仲間だよな。なんでこんなギスギスなんだよ。


『いやいや、苦楽を共にした=ズッ友は間違った認識だよ。僕たちは世界を守ると言う目的が同じだっただけ。利害の一致、言わばビジネスパートナー的な関係だったんだ』


「ええぇ……なにそれドライ過ぎないか。旅する中で信頼とか友情って深まるもんだろ普通。時にお前らみたいに特殊な事情抱えていた旅なら尚更そうじゃないかと思ったんだが」


 なんかシャルム国王と対面した時も似たような話を聞いた気がするが、大きな目的を共に成し遂げた相手をそんなにバッサリ斬り捨てなくてよくないか。


『一応、信頼はしてるから。でも友達じゃなから必要以上に慣れあわないよって話だよ』


「ああ、それは俺も同感だな。実力は認める。自分が困った時に頼れるのはかつての仲間だと思っているぜ」


『そうね。アタシが信頼を置く数少ない人間たちだと言うことは認めるわ』


 俺たちの話が聞こえていたケイオスさんとシャルム国王が頷いた。うーん、気は合っているんだろうな。ある意味、同じ人種だから問題なく(?)一緒に旅ができていたし世界も救えたんだろうなぁ。


 ああ、多分この先他の仲間に会ってもこのヒトたちはこんな感じな気がして来た。協調性がないことが協調性を生んでいると言う謎展開。理解不能である。


 寧ろ関係性がギスギスで良く旅ができたな。当時の旅の様子をちょっと見てみたくなってきたぞ。


「はっ!私、とんでもないことに気がついてしまいました」


 神子一行の関係性にドン引きを通り越して興味が湧いて来た俺の隣でシルマが唐突何か閃いた様な反応を示し、小刻みに震えながら言った。


「ど、どうしたんだ。突然」


 普段は穏やかな雰囲気を崩さないシルマがあまりにも真剣な表情で言うものだから、何か重要なことに気がついたのかと思い、少し緊張してシルマの言葉を待つ。


 シルマはこくりと慎重に頷いた。緊張感から思わず生唾を飲み込んでしまう。そして彼女はすっと息を吸い、俺を見ながら大真面目に言った。


「ケイオス様とシャルム国王様、お2人は世界を救った英雄、私たちは2大英雄の会議に立ち会っていると言うことになっていることに気がつきました!」


「は?」


 どんな重大発言をするのかと思いきや、俺たちが追っている案件とは全く的外れなことを興奮気味にさも大事なことの様に発言したため、俺は拍子抜けしてしまった。


 俺意外のみんなもポカンとしてシルマを見ている。空気としては「突然何言ってんのこの子」だったが、興奮しているシルマはそんな変な空気と視線には気付かずに饒舌に語り出した。


「これは歴史的瞬間ですよね!神子様とそのお仲間は世界を救って以降は表立って集ることはないとお聞きしました。それぞれがそれぞれの地で各々の役目を果たしているため、私たちの凡人がお会いできることだけでも奇跡……それなのにこうして英雄どうしが1つの空間で話し合うと言う場面に立ち会い、一緒に行動することができるなんて、これは人生最大の幸運です!そんなことに今更気がつくなんて……ああっ!私って本当に鈍いです」


 うん、長い。実に長くて早口。途中から何を言ってるのかわからなかった。

 でもこの反応は既視感がある。推しキャラやジャンルを語る時のオタク(自分も含む)と全く同じだ。


 すごく早口なのに活舌が良くて、活舌は良いのに言っていることが全く理解できないと言う現象。ああ、客観的に見るとこんな感じなんだな。なんかちょっと怖いわ。自分もこうなったことがあると思うと大反省だな。多分、直らないと思うけど。


 そう考えるとシルマって結構ミーハーなのかな。と言うか、シルマは知らないから仕方がないけど、ここに神子(聖)がいるから実際は3英雄何だけどな。


「あはは、シルマって面白いな。そこまで褒めてもらえるのは気分がいいぞ」


 ケイオスさんが嬉しそうに笑い、自分の暴走に気がついたシルマはハッとして口を塞ぎ、顔を真っ赤にして縮こまった。


「はぅ、すみません……」


 突然静になったシルマをみて小さく微笑んだ後、シャルム国王は凛と姿勢を正して言った。


『ふふ、シルマの新しい一面が見れらて良かったわ。まあ、そんなことよりも話を聞きましょうか。連絡をしてきたってことは何か進展があったんでしょ』


「ああ。中々ややこしいことになっているから簡単に説明するぞ」


 先ほどまで火花を散らしていた2人は嘘みたいに気持ちを沈めて真剣に話を始めた。これが大人の本音と建て前の世界。ビジネスパートナーと言うやつか。いや待て、それはちょっと寂し過ぎないか?


 神子一行のハイパードライな関係性に若干引きながら愛想笑いを浮かべている間にケイオスさんはこれまで起きたことを簡潔且つ正確に話した。


 シャルム国王は涼しい顔を保ちながらも時折小さく頷いたり、わずかに驚いたりしながら真剣に耳を傾けていた。


 隣で話を聞いていたクラージュとラピュセルさんは表情をくるくると変えて時には声を出して驚いていたので反応が対照的で面白いと思ったのは秘密である。


『へえ、あの時に空から降って来たぬいぐるみがあの子の実のお兄さんねぇ』


 そう言ってシャルム国王は大人しくソファーに座るアンフィニに目をやった。


「……あの時は失礼した。だが、今は妹を奪還するためにお前たちと手を組むことになったんだ。できれば、よろしく頼む」


 そう言ってアンフィニはソファーから飛び降りて画面に映るシャルム国王に向かって深々と礼をした。


『あら、ご丁寧にありがとう。そっちで話をつけているんだったらこちらから言うことは何もないわ。こちらこそ、よろしくね』


 シャルム国王は毅然として返した。うーん、相変わらず懐が深い。一度は自分を攻撃して来た相手にお咎めなしでよろしくできるなんてすごいな。そんなにあっさり割り切れるもんかね。


 アンフィニも何か批判を受けるのではと思っていたのか、その返しに少しだけ面食らっていた様だったが、すぐに申し訳なさそうに表情を曇らせてもう一度、今度は無言のまま深い礼をした。


『で、どうなの。君は聞いたことある?ネトワイエ教団』


 聖が話を振るとシャルム国王ゆっくりと首を左右に振った。


『いいえ。残念ながらないわね。アナタたちはどうかしら』


 シャルム国王が隣に立つクラージュとその手に持つ鏡の中にいるラピュセルさんに顔を向ける。


『私もないですね。騎士の任務で色々な国に行きますが、そんな教団は耳にしたことがないです』


 クラージュからはキッパリとした否定の言葉が返って来た。

 ここまで認知されていないと言うことは、やはり秘密裡に結成されて活動をしているんだろうな。


 掲げる思想が“世界を救った神子とその仲間の命を奪うこと”なわけだから、表立った行動ができなのは分かるけど、それにしてもあの時俺たちを取り取り囲んだ大勢の武装した部下いや、信者と言うべきか。


 目立たない様に活動しているのであれば、あれだけの人数をどうやって勧誘をしているんだ。それに多分、今日捕らえた奴ら以外にも仲間はもっといるよな。


『情報がまったくないのは困りものだねぇ』


「せめて、どれぐらいの規模とかが分かればいいんだけどな」


 ポツリと俺が言えばその場の全員が唸る。そして短い沈黙の中、ケイオスさんが開口一番にこりとして言った。


「やっぱり今から捕らえてた奴らをサクッと拷問するか。気絶しているだけの奴らならもう目が覚めている頃だろ」


「ダメ!無暗にそんなことしないで!例え敵でも大事に!」


 怖いことを満面の笑みで平然と言うケイオスさんを俺全力で止めた。そんな軽いノリで拷問とかやめてください。でも雰囲気で分かる。このヒトは本気で言っていると。


「ああ?お前、本当に甘ちゃんだな。敵に情けをかけると痛い目をみるぞ。それにあいつらもそれを覚悟で戦いに臨んでいるはずだ」


「な、情けとかではなくてですね」


 眉を吊り上げ、鋭い眼光で睨みつけて来るケイオスさんに気圧されて俺は青ざめながら目を逸らした。怖い、凄く怖いデス。


『クロケルの考えが甘いのは否定しないとして、確かに即拷問は美しくないわ。それはどうしても口を割らない時の最終手段に取っておきましょう』


「ふん、まあ俺も好きで他人を甚振りたいわけではないからな。拷問云々は状況を見て考えるさ」


 シャルム国王が優雅に言い、ケイオスさんがふてくされながら外方(そっぽ)を向いた。そうですか、俺の考えは甘いですか。それは悪うございました。


 流れる様に連続でディスられた気がするが、即拷問の話がお流れになった様で少しだけ安心した。そして同時にそんな状況は絶対に来ないで欲しいとも思う。ああ、捕虜になったみなさん、尋問された際はどうか大人しく吐いて下さい。


『んー、でも捕虜に話を聞き出せないとなると本当に八方塞がりですよ。どうするんですか』


 クラージュが首を傾げて言うと誰もその言葉に返答出来ずにまた沈黙がその場に流れた。数分誰も口を開けない中、画面の向こうからおずおずと遠慮がちな声がした。


『あのぉ……私は聞いたことがありますよ。ネトワイエ教団』


 その場の全員が弾かれるように反応し、驚きの視線が一点に集中する。

 皆の視線が集まったその先、そこには鏡の中で小さく手を上げるラピュセルさんの姿があった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「今後の方針も決まってよかったねぇ。次の国に行く前に色々準備ができたらいいと思うんだけど……」


クロケル「三点リーダーやめろ。その話の流れだと不安なんだよ」


聖「何を怖がることがありますか」


クロケル「ここまでの俺の巻き込まれ体質を考えてみろ。何となくわかるだろ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第53話『摩訶不思議、魔法国の観光』ちょっと小休止ができるかもよ」


クロケル「ただの観光で済めばいいんだが」




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