第49話 開幕!地獄のブートキャンプ
本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
思いつくまま文章を書くと言う難しさに涙が出そうです。あと、次回予告形式にしたことへの若干の後悔(汗)
もう予告と本編の帳尻合わせが大変。でも、予告を書くのは楽しいので大変ですが、この形式は続けたいと思っています。読んでいる方にも楽しんでいただたら幸いです。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「ちょっと待て!フィニィが得体の知れない男に連れて行かれたんだぞ!のんびり鍛錬なんてしている場合かっ」
混乱のせいか、先ほどまで黙り込んでいたアンフィニが突然、意識を覚醒させてケイオスさんの腕の中で不満を漏らし暴れ出す。
「ああ、暴れないで下さい。落ちますよ」
腕の中でもがくアンフィニを落とすまいとケイオスさんは抑え込もうとしたが、アンフィニは体を捩ってその腕から抜け出て、ポヨンと柔らかい音を立てて着地した。
そう言えばアンフィニの体は本物のぬいぐるみっぽいし、綿の柔らかさがあるのか。と言うか体がぬいぐるみなら痛覚とかどうなってるんだろう。
いや、今はそんなことはどうでもいいか。どうやらアンフィニはこれから俺の鍛錬が始まることにご立腹な様子だった。
アンフィニは不機嫌モードで着地した後につぶらな瞳をできるだけ吊り上げ、丸いぽよぽよとした手で俺たちをビシッと指さしながら睨みつけて言った。
「お前たち、俺に協力すると言ったじゃないか!そいつ鍛錬はいつでもできるだろう!早く連れ戻さないとフィニィが危ない」
「落ち着いてください。フィニィさんは自分の意志で彼について行きました。それに彼も彼女の力を必要としていたみたいですので、身の安全は保障されています」
怒りながらもフィニィの身を案じて焦るアンフィニにケイオスさんがため息交じりに落ち着かせる。
冷静な分析を返されてアンフィニは何か言い返そうとしたが、自分の頭に血が上っていることに自覚したのか言葉を飲み込んで悔しそうに俯いた。
「フィニィさんを助け出すにしても、ネトワイエ教団は私にとっても未知の存在。縛り上げた部下の実力は三下も良いところでしたが、あのライアーと言う人物の実力が未知数な今、戦力強化は最優先事項だと思います」
正論を突きつけられたアンフィニは暫く黙り込んだ後に顔を上げて不満を残しつつも返答した。
「わかった。戦力強化をすればフィニィをあの意味不明な教団から助け出してくれるんだな」
「ええ、お約束しましょう。みなさんもご協力頂けますよね」
ケイオスさんはアンフィニの言葉にしっかりと頷いた後、背後で2人のやり取りを見守っていた俺たちに笑顔で確認した。
得体の知れない敵に戦いを挑む、場合によってはアジトに行くハメになる可能性があるため、最弱である俺は非常に断りたい心情ではあるが、断れない雰囲気であることは何となく察している。
「わ、わかりました。協力します」
「約束ですものね」
俺がぎこちなく頷いたとなりでシルマも仕方なく頷いた。まあ、シルマの気が進んでいないのは自分が戦うリスクが上がる=己の力量がバレるからだろうけど。
なんて贅沢な悩みなんだろう。非常にうらやましい。経験値を自動で振り分けるアイテムとかないのかな。
『ゲームじゃあるまいし、そんな都合のいいアイテムある訳ないでしょ』
人の心を読んでおいて相変わらずの厳しいツッコミ。辛い、そして腹立つ。
転生先の世界観は限りなくゲームなのに仕組みが現実的すぎて嫌になる。ファンタジーの世界ならもう少し夢見させろや。
「ボクはクロケルがそうしたいならついて行くよ」
「好きしろ。だが、俺は手をださんからな」
シュバルツとミハイルも特に肯定することなく、アンフィニへの協力は決定事項となった。
なんか、アンフィニとは長い付き合いになりそうだな。ついでにネトワイエ教団とも妙な縁ができた気がする。ああ、早いとここの悪い縁を断ち切りたい。
「はい、では決まりですね。クロケルさん、暫く休憩したら鍛錬を始めましょう。休憩室を用意させて頂きますので、一旦はそこで休んでいてください」
特に反論がなかったので、ケイオスさんが話を締めた。
でも、とりあえずは体を休めることができそうだ。いや、俺は何にもしてないけど。毎回何にもしてないのにこんなに疲れるんだろう。緊張疲れってやつか?
『あはは。こんなことで疲れるなんてクロケルってば豆腐メンタルだね。君、前からそんなんだっけ?』
「笑ってんじゃねぇよ。生死が係ってたら誰でも生きることに慎重になるだろ」
ヒトを小馬鹿にして笑う聖を睨みつけて威嚇してやったが笑いが止まることはなかった。ストレス……非常にストレスだっ。
「あの、ケイオスさんはこれから暫くどうされるのですか」
聖への怒りに震えているとシルマが小さく手を上げてそう言った。
「私はこの不届き者たちを地下牢にぶち込んでから鍛錬の準備に取り掛かります。少し時間を頂くと思いますので、それまでゆっくりしていて下さいね」
ケイオスさんはにっこりと笑った後、アリスに預けていた上着を受け取ってそれを腕にかけた。
そして端末を取り出して誰かと連絡を取った。数分も経たない内に武装したヒトたちが集まって来て、先ほど縛り上げた敵を連行していった。ケイオスさん曰く、学園の警備隊なのだとか。
先ほどまでは逃げた生徒や教員の警護を任せていたが、事態が収束したので戻って来てもらったらしい。こんな警備のためとは言え、武装集団がいる学校は怖すぎるだろ。何があるんだよ。
そんなこんなで縛り上げた敵がこの場から全て消え去った後、ケイオスさんはカルミンとアリスに向き直る。
「あなたたちもお疲れ様です。あんな騒動もありましたし、中庭も破壊されていますので、本日は臨時休校にします。また襲撃があるかもしれないので、指示があるまであなたたちも寮から出てはいけませんよ」
先生らしく指示したケイオスさんを不服そうに見ながら、カルミンは口を尖らせた。
「ええー!私たち、意味が分からないまま巻き込まれたんですよ。あの敵と言い、クロケルさんたちと言い、めっちゃ気になるんですけど!」
ブーブー!と不満を露わにするカルミンをアリスが困った笑いを浮かべて肩を押さえながらながら宥める。
「カルミンちゃんどうどう……。先生の言うことも一理あるよ。危ないから、今回は大人しく寮に戻ろう?話はまた聞けばいいじゃない」
「そうですね、巻き込んでしまった以上、後日お話は聞かせて差し上げますので今は時引き下がって下さい。カルミンさん」
ケイオスさんの微妙に上から目線なお願いを聞いてカルミンは悔しそうに唸った後にふぅと仕方なさそうにため息をついて言った。
「もう、わかりました。ものすごぉく気になりますけど、引き下がります。戻るついでに他の先生にも今日が臨時休校になったって伝えてあげます。感謝してくださいねっ」
ビシッとケイオスさんに指を差した。年上のしかも学校の校長には失礼過ぎる行為だとは思うが、ケイオスは特に気にする様子もなく笑顔を返した。
「はい、ありがとうございます。カルミンさん。よろしくお願いしますね」
その落ち着いた態度が気に食わないのか、カルミンはフグみたいにぷくぅと頬を膨らませた後、フンッと鼻を鳴らして踵を返しツカツカと歩き出した。
「あああ!待ってよ、カルミンちゃんっ。先生、みなさん、私たちはこれで失礼します。またお会いと良いですね」
アリスは早口で別れの挨拶をして深々と頭を下げた後にそのままバタバタとカルミンを追いかけた。
若い2人(と言っても前の世界の年齢で言うなら俺とタメ)が去っり、辺りが突然静寂に包まれる。なんだろう、なんか気まずいぞ。
「はあ、嵐が去りましたね。では、そこの警備員に休憩室まで遅らせます。君、頼みましたよ」
「はっ、かしこまりました」
「うわっ、びっくりした」
いつの間にか俺たちの背後に武装した警備員1人が立っていた。重そうな頑丈で鎧をガチャリと鳴らし、深々とお辞儀をしていた。
グラキエス王国のメイドや執事もそうだっけど、従者って気配を消すスキルがないと務まらないのか?
そんなアホなことがあるかい!心の中でと1人ツッコミを入れながら項垂れていると警備員がキリッとした声で言った。
「それではご案内します」
警備員が俺たちに会釈して歩き出したので俺たちはそれに従った。何気なく後ろを振り返るとケイオスさんが穏やかに微笑んで手を振っていた。
暫く歩いて通されたのは革張りの長椅子と木製の机が設置されているだけのシンプル且つ清潔な部屋だった。微妙に感じる堅苦しい空気がまさに学校の応接室と言った印象を受ける。
「ケイオス校長は準備ができ次第参られるとのこと。どうぞごゆるりとお待ちください。お飲み物はそちらのコーヒーメーカーか冷蔵庫のものを好きに飲んでもいいと仰せつかりました。恐れ入りますが、ご自分で入れて頂きますようお願い申し上げます」
警備員があまりにも丁寧に言うので俺は思わず恐縮して頭を下げた。
「はい、わかりました」
「お気遣いありがとうございます。ありがたく頂きます」
シルマも深々と頭を下げて御礼を述べ、警備員は退出時にもう一度俺たちの方を向き一礼をして応接室を後にした。
「ふぅー」
ようやく肩の力が抜けた俺は無作法とわかっていながらも、長椅子にドサリと乱暴に腰かけた。先に座っていたシュバルツの体が跳ねるぐらいの勢いで座ったので聖に注意された。
『ちょっと、もう少しゆっくり座りなよ。実家じゃないんだから』
「わ、悪い。ちょっと脱力して……」
自分の行動がはしたないと言う自覚があった俺は恥ずかしさから体を小さくして誤った。そんな俺をフォローするかの様にシルマが苦笑する。
「クロケル様の気持ちもわかります。大勢の敵に囲まれた時は流石に危なかったですね。カルミンさんとアリスさんが機転を利かせてくれて助かりました」
「ああ、それはある。魔法学校の生徒だけあって優秀だったよな。将来有望だよ」
カルミンたちを本心で褒めながらもつい自分と比べてしまい俺は自嘲気味に言った。そして自然と大きなため息が出る。
「はあ~」
『何、そんなに大きなため息ついて。まだぐだぐだと考え事してるの?』
決して明るくはない俺の態度に反応して聖が鬱陶しそうに聞いて来た。悪かったな。ぐだぐだでよ。
俺は長椅子にちょこんと腰かけて無言のままのアンフィニをちらりと見て、一瞬発言に迷ったが心に留めて置くとまたモヤモヤしそうだったので、アンフィニには悪いと思いつつ、俺は心の内を話すことに決めた。
「気持ちを言葉にしたのにダメなことってあるんだなって思って」
その言葉にアンフィニがピクリと反応する。あっ、ごめんなさい。気分を害するつもりは一切なかったんです。
アンフィニの反応にビクついていると聖がすかさず俺の言葉に返答した。
『そりゃそうだよ。気持ちを伝えられたところで自分と考えや志が違っていたら和解なんてできないでしょ』
「自分の気持ちを言葉にしても分かり合えないってことか?」
予想していなかったあっさりとした冷たい言葉に俺の心がドキリとする。言葉にしないと気持ちは伝わらない。想いを口に出すこと大事、と現実でも二次元でも聞くがそれは違うのか?
『言葉にすること自体は無意味じゃないよ。相手に自分の考えが伝わるって言う意味では良いことだと思う。でも、お互いの目指すものが違う場合、分かり合うのも仲直りするのは無理な話でしょ』
「それはそうかもしれないけど、そんなハッキリ言わなくてもいいだろ」
俺は聖が喋る度にどんどん雰囲気が暗くなるアンフィニを横目で気にしながら聖を宥めたが、厳しい正論は止まる気配はない。
『大体、話し合いで解決したらイザコザとか擦れ違いは怒らないよ。交わらない価値観があるからこそ、時には決裂するんだ。それがヒトの世ってもんでしょ』
「聖!ストップ。もうやめてやれ!」
『あっ』
大声で俺が咎めてようやく聖は自分の言葉によってアンフィニがめった打ちにされていることに気がついた。ホント、お前は正論を言う前にもう少し周り見てから発言しろよマジで。
「俺は、フィニィとは分かり合えない……」
俺たちの会話を聞いていたアンフィニは放心状態で呟いた。
一連のやり取りを見ていたシルマ達も気まずそうに黙り込む。ほらぁ!変な空気になった。シュバルツも空気を読んで静かにするなんてよっぽどだぞ!
「の、飲み物を頂きましょう。私が用意しますね。みなさんのご希望をお伺いしても?」
「悪い。頼めるか、シルマ」
何とかこの空気を払拭しようとシルマが慌ただしく立ち上がり飲み物の準備を申し出た。俺もこの空気は持続するのは嫌だし、アンフィニに言葉かける言葉も見つからないのでその気遣いには感謝しかなかった。
シルマが飲み物を入れ終わり、それぞれにコップを並べた後は特に会話することもなく、ただ重苦しい空気の中で各々飲み物を飲んだり、窓から外を眺めたりして過ごした。
辛い。空気が重すぎて辛い。時計の秒針が進む音にすら緊張してしまう。早く来てくれ、ケイオスさん!俺が何度目かの祈りを捧げた時、応接室の扉は開いた。
「お待たせしました。クロケルさん、鍛錬を始めましょうかって何か空気が重いですね。どうかされたんですか」
ローブを脱いだ軽やかスタイルのケイオスさんがにこやかに応接室に入って来て、そして空気を察してキョトンと首を傾げていた。
「ケイオスさん、お待ちしておりました……」
重い空気のせいでさらなる疲労感がのしかかり、俺はヨレヨレになってケイオスさんを迎えた。
「な、何があったかはわかりませんが、そんなヨレヨレで大丈夫ですか?今から鍛錬の予定ですが」
若干引きぎみに確認されたが、かつて世界の危機を救った1人兼魔法学校の校長に魔術指導をしてもらえる機会なんてそうそうないだろう。
俺としては是非面倒を見てもらいたい。心からそう思っていたので、俺は自分の心を奮い立たせて頷いた。
「大丈夫です!ご指導よろしくお願いいたします!」
『あーあー。調子のいいこと言って。僕、知らないよ』
さっきから思ったけど、こいつの呆れた態度と発言はなんだ?ケイオスさんに指導をしてもらうのはそんなにいけないことなのか?
不思議に思い、ちらりと空中に浮かぶ聖に視線を移してみたが、特に反応はなかった。
「ふふ、それだけ元気なら問題ないですね。では、移動しましょう。ついて来て下さい。ああ、興味のある方は是非ご一緒に」
そう言って微笑んでからケイオスさんは歩き出した。俺もその後追い、聖はもちろんのこと、シルマやシュバルツ、珍しくミハイルもついて来た。結局全員来るんかい。
そんなこんなで俺たちは学校内にある訓練場にやって来た。主に魔術や武術の実技授業や自主練に使う場所を特別に開けてもらったらしい。
周りの安全を考慮してか、学校内とは言え大分離れた位置にあり、ここまではケイオスさんの瞬間移動の魔法で来た。
訓練場の広さは俺たちの世界で言う陸上競技場ぐらいだ。周りには武器や的、近くには深そうな森と身を隠すための壁やコンテナが並んでいる。なに、サバゲーでも始めんのか。
「では、クロケルさん以外に私の魔術訓練を受けたい方はいらっしゃいますか?」
ケイオスさんが辺りを見回す。しゅばっと元気よく手を上げたのはシュバルツだった。
「はい!ボクもやりたい!強くなりたい!」
「元気がいいですねぇ。よろしい、あなたにも指導させて頂きます。シルマさんはどうされますか」
「たっ、大変光栄ですが、私は辞退します。こ、怖いので」
十分過ぎる魔術能力とレベルカンストがバレたくないシルマはケイオスさんの鍛錬を丁重に辞退した。
こうして、俺とシュバルツがケイオスさんの指導を受けることになり、他の見学組は隅っこの方に移動した。
「では、まずはクロケルさんとシュバルツくんの魔術回路を確認しますね」
そう言ってケイオスさんが右手で俺の手を、左手でシュバルツの手をそれぞれ取って目を瞑り、意識を集中させた。
痛いとか、くすぐったいとか、特に何も感じることはなかったが、イケメンの同性に手を握られていると言う奇妙な絵面に変な恥ずかしさと緊張を覚えた。
「うん。お2人とも魔術回路は通っていますね。使い方を覚えればレベルに見合った魔術が使えますよ」
「ほ、本当ですか!?」
その言葉を聞いて俺の心に光が差す。よかった……俺にも魔術回路通ってた!ってことはそれなりに魔術の才能があるってことだな。
回路ナシの無能だったらどうしようかと思ってた。ありがとう俺の体、さすが魔法騎士だ。初めて転生した自分に感謝して、心の中で涙を流しまくった。
「ん、なんだ。あいつ、魔法騎士のくせに魔力が使えないのか」
『ああ、うん、ちょっと色々あってね』
見学組のミハイルと聖の会話が聞こえて来る。ああ、そう言えばミハイルは俺の事情を知らなかったな。
でもこれから知られるんだろうな。俺が高レア低レベルだってこと……。もう秘密が秘密でなくなっている気がする。と言うかなんで俺ばっかり事情が駄々洩れるわけ!?
シルマは割と隠し通せているのに何かズルい。毎回俺だけ恥をかいている気がする。解せない。
余計なことに意識を飛ばしているとケイオスさんがよしっと気合を入れてから俺たちの手を離し、距離を取った。
「お2人の魔術回路は現在、カッチカチの状態ですのでほぐすところから始めましょうか。まずは目を閉じて深呼吸。それから体の中に意識を集中させて魔力回路を感じて下さい」
俺とシュバルツは言われた通り目を閉じて深呼吸をする。イメージ、魔術回路のイメージ……できない。
なにさ、魔術回路って。確か血液の循環と同じみたいなこと言ってたけど、それすら感じたことねぇよ。どこの世界に「あ、今血が巡ってる」ってイメージできる奴がいるんだよ。全く何も感じねぇよ。
魔術回路とやらがイメージできずにツッコミを入れつつ少しイライラしながら隣に立つシュバルツを見る。そして俺は目を疑った。
シュバルツの体を淡く黒いオーラが包んでいるのだ。え、何事ですか。
「素晴らしい。シュバルツくん、その感覚を覚えておいて下さい。それが回路が開くと言う感覚ですよ」
「ええええっ」
これが魔術回路が開いた瞬間なのか。すげぇ、てかなんでシュバルツはさらっとできて俺は出できないの。悲しみ。
「うーん。クロケルさんは事情が事情だけにイメージしにくいのかもしれませんね」
ケイオスさんが困った表情で意味深げに言った。そう言えばこのヒトは俺が聖と同じ世界の人間だって知ってたんだった。
確かに、俺は魔術とは無縁の世界で生きて来た。なのでイメージしろと言われてもピンと来ないのが現状だ。理解が早くて非常に助かる。
「では、心苦しいですがあなたには厳しめの指導を行うとしましょう」
「えっ」
突然穏やかな口調でとんでもないことを言われた気がして思わず固まる。
「危ないですので見学組の方には防御壁を張っておきましょう」
「えっ」
ケイオスさんはくるりと後ろを向いてシルマ達が見守る場所に防御壁を張った。突然の不穏な空気に俺は戸惑うことしかできない。アホみたいに「え」っと繰り返してしまう。
シュバルツも空気が変わったことを察してせっかく開いた魔術回路を締めてオロオロとしている。
「よし、準備OK!んんっ」
すごくいい笑顔で満足そうに頷いた後、ケイオスさんは小さく咳払いをしてからにやりと口角を吊り上げた。
ひっ!この顔はあの顔だ。聖と俺と3人だけで話し合った時に見た彼の本性。
「よっしゃあ!久々に地獄のブートキャンプと行こうじゃねぇか!腕がなるぜっ」
やっぱりー!!本性ご降臨!何で!どういうこと!?
自分で「地獄」とつけている辺り、もう恐ろしい気配しかしない。あんまり聞きたくないが、ここは内容を聞くしかない。
「じ、地獄のブートキャンプってなんですかっ」
「あ?まあ、簡単に言うとだな、今から俺がお前に攻撃するから、それに対して必死で抵抗しろ」
とんでもないこと言い出したよこのヒト。恐ろしいことケロッとして言わないで!な、なんとか穏便に済まさねば。
「待って!待って!俺まだ魔術の使い方を理解するどころか魔術回路すら開いてないんですけど!!」
「だぁいじょうぶだって。こう言うのは追い込まれた方が実力を発揮できるって言うだろ。模擬戦の中で頑張って魔術回路開け。んで俺に魔術で攻撃して見せろ。殺さない程度に攻撃してやるから」
「嘘だろぉ~っ!!!」
どうやらケイオスさんは考えを改める気がないらしい。最弱な俺を相手にめちゃくちゃなことを言っている。大丈夫な訳がない。
今でも世界的な人気を誇るモンスターと旅をしてチャンピオンを目指す系のゲームも最初は心もとない技しか覚えてないんだぞ。しかもレベル5スタートだし!
俺、レベル1ぞ!?卵から孵化したも同然なんだよ。使える魔術があるかもわからない状態で何してくれてんの!?開幕スパルタとかホント勘弁してっ。
ノリノリな俺に聖が呆れていた意味が良く分かった。ってか、こういう結果が予想できたんなら事前に教えろよあの野郎!
「シュバルツくんも好きに魔術を使って見な。お前は中々筋がいい。俺を攻撃してもいいし、クロケルを守ってやってもいい。とにかく魔術の扱いに慣れろ」
「う、うん。わかった」
シュバルツは雰囲気の変わったケイオスさんに少しだけ怯えつつも頷いた。うわ、なんでお前もやる気なの。
げんなりとしながらふと視線を泳がせるとケイオスさんと目が合った。彼は真っ黒な満面の笑みえを浮かべながらバキボキと鳴らして言った。
「さあ、始めようか。俺の特別プログラム。地獄のブートキャンプを」
「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ」
訓練場に俺の悲痛な叫びが木霊する。
遠くの方で聖が笑い転げている気配がした。後で絶対シメると誓った。
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聖「次回予告。ついに始まった魔術の特訓。ケイオスはドSだぞ。彼の鬼プランについて行けるのか!?クロケルの根性に乞うご期待」
クロケル「キリッとしてるけどお前、面白がっているだろう」
聖「面白いに決まってるでしょ。こんな展開。次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第50話『発動、クロケルの魔法』クロケル、ついに覚醒か!?」
クロケル「ここまで地獄を見せられたんだ。絶対習得してやるっ」
聖「頑張って!応援してるからね」