第4話 トラブル発生!現れた救世主
この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。
少し長くなってしまいました……。読みづらくて申し訳ございません。少しでもお楽しみいただければ幸いです。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「レアリティ5なのに、レベル1」
てっきり異世界無双の流れだと思っていた俺のショックはデカい。衝撃が大きすぎて同じ言葉を何度も繰り返してしまう。
正直消滅したと言われた時と同等の衝撃と言っても過言ではない。
『別に珍しいことでもないでしょ。ソシャゲでレア引いてもレアリティに関係なく等しくレベルは1だし』
タブレットの姿をした聖は呑気なことを言い出した。
確かにソシャゲはレアリティに関係なくレベルは1だ。寧ろそこから育成するのが醍醐味だ。
俺も推しを育てるのは楽しい。楽しいがこの状況はそれとはちょっと違うぞ。
よく画面をみれば確かに俺のステータスがその雑魚さ加減を物語っていた。
レベルMAX値と今の俺の数値では天と地ほどの差がある。
体力・攻撃力・防御力のMAX値は数千万。だが、今の俺の数値は三桁。
スキルや魔術も充実しているが、ある1つ以外は真っ黒く塗りつぶされており、今は使えないと言うことがわかる。
『この世界、クレイドルはね。ヒトやモンスター、神族や魔族など色々な種族が混在する世界なんだ。君はヒト型の魔族だね』
「あ、マジだ」
聖に言われて自分のステータスを確認すると確かに『ヒト型魔族』の文字がある。魔族、なんていい響きだ。ダーク系ヒーローが好きな俺にはたまらない。
魔法騎士にふさわしい種族だと思う。レベル1だけど。
『この世界で生を受けた全ての生物にはレアリティが付与される。同じ種族でもポテンシャルや属性によってレアリティが違うことがあるよ』
「なるほど。じゃあ俺はかなりめずらしい種族と能力値と言うわけか」
『魔族で魔法を操れるからね。高いレアリティがつくのもわかる』
そっかー、俺はすごいのかー。レベル1だけど。落ち込めばいいのか喜べばいいのかわからない俺にかまわず、聖は話を進めて行く。
『種族同士は共存……とまでは行かないけど、基本的にはお互いの土地を侵すことなく暮らしている』
「種族同士の争いがないって事か?」
『うーん、時と場合によっては争うこともある、かな』
ひどく曖昧な返事をされて俺は首を傾げてしまう。
「なんだそれ。お前の世界、治安が悪いんか」
『いや、治安が悪いって言うか……今のところはこの世界を滅ぼそうとする悪意は見当たらない。そう言う意味では平和で安全な世界だよ。ただ、僕は各種族の自由を尊重している。だから、それなりに争いはあると思う』
「なんでだ。お前が世界の長なら、争いのない世界を創ることもできるんじゃないのか」
『それは無理だよ。ヒトで動物でも、それ以外の種族でも、生き物がこの世に存在する限り、争いはなくならない』
何気なく聞いただけなのに、聖は即座に否定的な返答をした。
タブレット越しだが、あまり聞いた事がない聖の冷たい声に俺は背筋が冷たくなった。
『争いのない世界を創ろうと思ったら、既存の生物を殲滅して、細胞から作り直して妬みや嫉みの感情を全て取っ払った生物を生成するぐらいしか方法はないよ』
「殲滅って、怖いこと言うなよ」
『でも本当のことだよ。でも、それは流石にやりすぎでしょ。だから、僕はこの世界のあり方を変えずに、全ての種族に自由を与えているんだ』
きっぱりと言う聖の言葉はどこまでも冷たく、容赦がない。断罪と言う言葉は本気だと言うことが分かる。
なんだかすごく寒い。寒すぎる。ここはツンドラか。
『世界の長として、無益な戦いや理不尽な状況下に置かれる人々は救済するけど、各種族が成長するための戦いは認めている。でも、極端な領土占領や種族の乱獲が起きないようにルールは定めている』
「ルールってなんだ」
ややこしい話だな。聖は争いは認めるが、必要最低限の平和は守りたいってことか?うむ、こいつの考えていることはよくわからん。
『それについては神殿に行けばいい』
「神殿?」
またワケの分からん言葉が出て来たな。ここに来てからまだ説明しか受けてねぇよ。どんだけ長いチュートリアルだよ。でも、わらないことが多すぎるから聞くしかないこの状況がもどかしい。
『僕はこの世界のどこかで世界全てを監視をしている。でも僕が動くのはこの世界の世界が滅びるレベルの危機が訪れた時だけ。ある程度の争いや事件はこの国の住人に任せている』
「お前は干渉しないってことか?」
俺が聞けば聖は拗ねた様な声色で返して来た。
『いくら世界の長でも僕は1人しかいないんだよ。世界は広いんだ。僕1人では全て守るのは無理。ある程度のことは国に住まうものたちに解決してもらわないと困るし、自立も世界の発展のためには大切なことだよ』
「お、おう。そうなのか、そうだよな」
確かに力あるものや聖みたいな神的存在に頼りすぎるのも良くないかもしれないが、そうやって突き放す態度が取れるお前も十分凄いぞ。
神子として戦う中で何を感じて、学んできたんだ。うすら寒いわ。
『種族同士の間でトラブルが起き、平和や平穏が乱れた場合は僕から神殿に依頼を出す。この世界に生きるものは種族に関係なく神殿赴き、依頼をこなしながらお金を稼ぐんだ。報酬は難易度によって変わるけど、簡単なものでも必要最低限な生活を金額に設定してるよ』
「つまり、お前が神殿に出した依頼に関わる戦いならルール違反にならないってことか」
『そう言うこと』
よしよし。大分理解ができて来たぞ。そしてレベル1以外にも新たな問題が発生したぞ。
「まさか、俺、レベル上げと生活費を同時に稼ぐ感じ?」
聖は流れる様に説明したがさらっと言ったよな。依頼をこなしながらお金を稼ぐって。そうだよな。生きていくためには金は必要だもんな。
『その通り。ここに生きる多くはそうして生計を立てているよ。理性のないモンスターとかは別だけど』
「デスヨネー」
戦う必要があるかもしれない世界でレベル1はちょっとヤバくね。もしも戦闘になったら俺の二度目の人生まさかの終了コースでは。
「じゃあ、難しい依頼の方が金は稼げそうだし、レベルアップは必須だよな。まずは同じ様なレベルのモンスターと戦ってレベルを上げればいいのか」
『あー、それじゃあレベルは上がらないんだなぁ』
大体のゲームは戦えば経験値を得ることができる。そう思っていたがあっさり否定された。なんだよ!またセオリー通りに行かないんかい!!
『考え方としては、前世で僕たちが嗜んでいたソシャゲに似てるかな。ここは戦っても経験値にならない世界線』
「うえぇぇ。マジかよ。素材集めてレベル上げするタイプのやつか」
ソシャゲに例えられると非常にわかりやすい。戦って経験値を積んでレベルアップは比較的やりやすい。ストーリー進行やクエストにイベントなど、レベルを上げる機会が多い。育成も比較的気軽だ。
しかし、経験値ではなく素材でレベルアップ系は俺としてはちょっと大分キツイ。
そう言うタイプのものは『限定レア来た!やったー!!』とガッツポーズを取ったのも束の間。『育成用の素材がねぇ!!この前推しに全部ぶっこんだ』と言う地獄を見る。
そこから周回が始まるが、大体のゲームは素材のドロップ率が渋い。スズメ涙どころではない。蟻の涙だ。(※彼個人の見解です)
しかもレアキャラともなれば素材もそれなりにレア。そしてアホみたいに素材を食う。レア故に素材ドロップ率もさらに下がり、イベントのボックスガチャを待つ方が効率が良い場合すらある。
レベル1のままではレアキャラと言えどもまったく役に立たない。イベント特攻があるからと言って戦闘に出そうものなら秒殺される。
レア=強いと言う方程式が成り立つのはきちんと育てているからこそ成り立つのだ。
限定レアキャラがピックアップされる度にレベルMAX状態でサポ欄にレアキャラを置いているプレイヤーを見ると、どうやって素材を貯めているんですか。あとなんでそんなにレアキャラを持っているんですか。教えてください。と携帯を握りしめて悶絶してしまう俺がいる。
……ん、レアキャラは素材もレアだからレベル上げに苦労する?
俺、レベル1だよな。でも、レアリティは5だよな。ってことは俺はレアキャラなんだよな。
ま、まさか……。ギギギと錆びた音が出るんじゃないかと思うほどぎこちない動きで俺はタブレットに視線を向けた。
『うん、大体は君の予想通りだよ。レアリティに応じて必要な素材も数も異なる。素材は僕が出す依頼を達成すれば貰える場合もあるし、モンスターを倒せば手に入るものもあるし、特定の場所に赴いて探す必要もある』
「うっそだぁ……」
現実逃避をしたい俺の口から乾いた言葉が漏れた。しかし聖はまだ俺の心を突き刺してくる。
『君が本来のレアリティの力を発揮したいなら、素材を集める必要があるけど、君はレアキャラだから苦労するかもね』
「なんだ、この運があるのかないのかわからない展開は」
何度目かのショックを受け、既に精神的に疲労困憊な俺は頭を抱える。そして浮かんだ1つの疑問を尋ねる。
「なあ、もし俺がこの世界で命を失った場合はどうなるんだ」
『どうなるもなにも、そのまま天に召されるよ』
「天に召さっ……二度目はないと言うことか!?」
あっさり返され思わす動揺してしまった。自分でもびっくりするぐらい大きな声が出た。
『僕が君をこの世界に転生させたのは別世界の人間を巻き込んで消滅させてしまったから。君に必要のない死を与えてしまった罪悪感と異世界の長として関係のない人間を巻き込んでしまって責任を果たしただけだ』
俺を救ったのは罪悪感もあるが責任を果たしただけ、聖はそう言い切った。
冷たい態度でしっかりと割り切っているその姿勢は聖はまさに異世界の長と言う印象を受けた。
『この世界の住人になった君にもう特別扱いはできない。だから、この世界で君が何かしらの死を迎えても君を蘇らせる権利は僕にはない。僕は世界を治めるものとして、全てのものに平等にあるべき存在になってしまったから』
きっぱりと言い切る聖に俺は言葉を失う。つまり、ここで命を失えば終わりと言う事か。ショックを受けていないと言えば嘘になるが、でもよく考えれば二度目がないのは普通のことだ。
人生はゲームではないコンティニューなんてできない。それは異世界に転生しても同じだ。
前向きに考えろ。俺、訳が分からんこの状況は前進するしかないぞ!
「それにしても、強キャラに転生しておいてそんな苦労が伴うとは……」
二度目がないことよりそっちの方がショックが大きい。膝から崩れ落ちて、地面と向い合せになりながら、色々な感情と戦っている俺に聖は呑気に言う。
『ここで生まれる者には種族に関係なくレアリティが付与される。通常ならある程度戦えるレベルになるまで親が育てる義務があるんだけど、君は存在としてはイレギュラーだからね。僕が強制召喚したわけだし』
「俺には育ててくれるヤツもいないから自力で頑張れとそう言いたいのか」
俺がこんなに戸惑っている上に結構悲惨な状況下にあると言うのに、基本的には呑気な姿勢を崩さない聖にイラつきを覚える。怒りで体が震えるとはこう言う状況を差すんだな。よくわかった。
『でも、和樹はキャラ育成好きだったでしょ。クエストも苦労するからこそキャラが愛おしいって言ってたじゃない。それに君のレアリティなら頑張れば異世界無双できるよ!』
「それはゲームの話だろ。ファンタジーだよ。現実でしかも自分の育成とか意味が解らん。あと、異世界無双したいわけでもない」
つい最近までの俺は普通の男子高校生。バイトで稼いだことはあれど、当然の様に親に養ってもらっていたが、現状ここでは自分の力で生きていく必要があるのか。
しかもレベルを上げながら生活費を稼がねばならんとは……正直、異世界転生って聞いてワクワクしてたけど……ああ、面倒くさいことになってきたなぁ。
『ほらほら、落ち込まないの。コレあげるから』
「あ?わっとと……って重っ」
突如何もないところから黒い剣と麻袋に入った何かが降って来たので、反射的に手を伸ばしたがどちらともそれなりに重量があり、受け取ったは良いが腕がもげるかと思った。
『初期装備だよ。とりあえず1,000,000ゴールドと、何の変哲もないフツーの剣。とりあえずこれがあれば暫くは心配ないと思う』
「ああ。そいつはどうも」
腕の痛みに耐えながらも内心ではちょっぴり嬉しい自分がいる。このまま送り出されたら絶望しかなかった。
でも素直に感謝するのも何となく悔しいからわざと素っ気なく礼を返してやった。
1,000,000ゴールドが100万円と同等だと知って震えたのは秘密だ。
『ゴールドは僕らの世界で言う円と同じ価値だよ。使い方は君の自由。宿代に使うも良し、ちょっといい装備を買うのも良し。せっかくあげたんだから、でも、よく考えて使って欲しいな』
「わかってるよ。俺は推し限定の重課金者だが、浪費家じゃない。ちゃんと考えて使うさ。そんなことより、ステータスで気になる事があるんだが」
『ん、どれどれ』
俺が空中に表示されたままの画面を覗き込みながら聞けば、タブレット姿の聖もふよよ~とゆっるゆるな効果音を立てながら俺の隣に寄って来た。
「ここ、名前が空白なのはどうしてだ」
『ああ、君は新しい命と人生を手に入れたからね。名前を決めてもらう必要があるんだ。その空白に名前を入力すれば登録完了。君は晴れてこの世界の正式な住人になる』
「和樹じゃだめなのか」
『別にいいけど、せっかくなら新しい名前で新しい人生を始める方が良くない?』
それは一理あるか。しかもこの見た目で千賀和樹ってのもミスマッチな気がするし、せっかく新しい人生を始められるのなら、名前とやらを考えてみるか。
しかし名前、名前か……。悩むな……俺はゲームではソシャゲ、コンシューマ共に本名はつけないタイプで、ゲームの発売前やアプリサービス開始前までにじっくり考えることが多い。
かっこいい響きや特別な意味を持たせたいから、神話の神様から拝借したり、花言葉や石言葉から調べて気に入った意味合いの花や宝石の名前をつけたりするから名付けに時間がかかるのだ。
『なるべく早くしてね』
「急かすな。名付けは大事だろ」
こっちは真剣なんだ。急かしてくる聖に若干苛立ちを覚えながらも頭をフル回転させて、浮かんだ単語を口にした。
「じゃあ。クロケルで」
『おお、君の推しの名前だね。悪魔の名前だっけ』
「いいだろ。ああそうだよ!強いしクールで天然な俺の推しだよ。悪いか」
レベルMAX、能力値MAX、好感度MAXの俺の推しだよ。見た目も似てるし。いいだろ。そのに触れるな!気まずいし、恥ずかしくなるから。
『ダメなんて言ってないでしょ。はい、登録完了。魔法騎士クロケル。君は異世界クレイドルの住人となりました』
ゆるっと、ぬるっと異世界の住人になった俺は唐突に心が落ち着いて来た。人間はキャパオーバーすると落ち着く生き物らしい。
「なあ、もう1つだけ聞いてもいいか」
『ん、なぁに』
黄色い点滅を繰り替えすタブレットに俺はもう大分、ずっと前から気になっていたことを聞く事を決めた。
「お前、なんでタブレットになってんの」
この世界の長で世界を監視してるんだったら、なんでタブレットの姿になって俺と会話してるんだ。
『それは、和樹……じゃないクロケルが心配だから。暫くはこの姿でナビゲートしてあげようと思って』
「……世界を治めるものとして、全てのものに平等にあるべき存在になってしまったから特別扱いできないんじゃなかったのか」
数分間に聖本人が言った事を繰り返して聞けば数秒間が空き、寂しそうな声色でぽつりと言った。
『僕の召喚に巻き込まれた君がこの世界で生きていけるか心配なんだ。だから、せめて君が1人で生きていけるレベルに成長するまで見守らせて欲しい』
「聖……」
そんなに切なげな声で言われてしまうとこちらも断れない。寧ろ俺まで胸が苦しくなってくる。
『でも、僕はあくまでもナビゲート。基本的な生活や戦いにおいては君自信が努力する必要がある。敵のアナライズぐらいはしてあげるけど』
「いいよ。十分だ。それに、転生先でもお前と親友でいられるなら嬉しいよ」
これは本心だ。異世界で知っているヤツが隣にいるのは心強い。それに俺は神子として頑張っている聖の隣にはいられなかったし。
「うん、僕もだよ。頑張ってこの世界で生きてね。クロケル」
ふわっと風が吹き抜け、俺は改めて視界に広がる世界を確認し、同時に自分の姿も再確認する。やはりこの状況が現実とは思えない。
一応、頬をつねってみた。痛かった。
そんなわけで俺は聖が治めるクレイドルの住人になったんだが、それなりに長い間異世界で過ごし、名前も生活にも慣れた。ただ、レベル1では生きづらいことこの上なかった。
クロケルとしての人生が始まってからレベル上げを頑張ってみたが、俺のレベルはまだレベル1のままだった。
俺が召喚された場所がゲームで言う「始まりの町」いわばチュートリアル的な場所と言うこともあり、俺の育成に必要な素材が一切手に入らないのだ。
かと言って低レベルのままでは容易に旅立つことは困難だ。素材を手に入れようともこんな雑魚が1人で旅に出たところで運命は決まっている。敵と戦闘になり即KOの即お陀仏だ。
レアリティは最高ランクでもレベルが1では雑魚と同じ。紙耐久な上に攻撃力もへっぽこだ。現状はその辺りで何も考えずに跳ねているスライムよりも低い攻撃力なので泣けて来る。否、ちょっぴり泣いた。すごく泣いた。
現状を嘆き、夢であれと何度も目覚めようと試みたが、俺が千賀和樹に戻ることはなかった。徐々にこの状況が現実だと言うこと受け入れざるを得なくなる。
同じレベルのスライムぐらいなら勝てるかな。と思い戦いに臨んだがダメだった。お互いに少しずつ体力を削り合う泥試合となり、最後の最後でスライムが持っていた『悪あがき』と言う攻撃をHP1で耐えるとか言うクソみたいなスキルのせいで、同じくHP1だった俺はそのスキルを目の当たりにした絶望感と体力の限界でその場から逃げた。
そう、スキル。この世界の生物には全てスキルと言うものが存在する。レアリティに関係なく、誕生してから最低1つは誰もがスキルを持っているのだ。
なお、レアリティが高ければ高いほどスキルの数は多いしスキルの質も良い。まあそれもレベルが上がるごとに手に入れる事ができるわけだから今の俺には全く関係のない話なのだがな!
幸いにして1つだけ解放されているスキル『隠形』のおかげで何度か命の危機に直面しても今日まで生き延びる事が出来た。
逃げて隠れてばかりは情けないと自分でも思うが仕方がない。何度も言うが俺はレベル1。俺は強くはなりたいが、死にたくないんだ!
だが、レベルが低いままだと簡単な依頼しかこなせない。それでは生活費が稼げない。聖からもらった1,000,000ゴールドも瞬く間に宿代となって消えた。今はほぼ野宿。ぶっちゃけ寒いし辛い。
結局を装備も買う余裕もなかったし、だから生きるために小さな依頼を積みか重ねていたのだが、今回の依頼先で最大級の運の悪さを発揮した。
依頼で薬草集めに踏み入れた山でここには生息していないはずの種族、ドラゴンに遭遇。しかもレアアイテムをドロップするヤツ。それだけでもう嫌な予感がする。レアドロップモンスターは大概手強いと決まっているのだから。
聖のアナライズで案の定、レベルが50と知って集めた薬草を放り出し、方向転換して全力疾走した結果、現在に至る。
『こんなに近場でレアキャラに遭遇なんて、本来ならラッキーなんだけどね』
「ああ、そうだな。ほんっとにそう思う」
そう、あのドラゴンは俺の育成に必要なアイテムをドロップする個体だ。本来なら幸運なのだが、戦闘能力が釣り合わない俺では逃げて隠れるぐらいしか対応する術がないのだ。
「ああ……。俺は一生こうして隠形して生きて行かねばならんのかっ」
『元気出してクロケル。生きていれば何でもできるよ。ファイトッ』
黄色く点滅させながら呑気にエールを送ってくるタブレットとなった親友を恨めしく思いながらも、こんなみじめな人生を一生続けていかねばならなのか。そう思って頭を抱えた時だった。
「あのぉ。よろしければ私のお話を聞いていただけませんか」
「どぅわああ!?」
突然背後から声をかけられた俺は自分でも情けないほど大きく裏返った声を上げ、きりもみ回転をしながら飛び退いた。そのせいで足がもつれ、その先にあった大木に顔面から激突した。目の前が光り、星が見えた。
「あわわわ。大丈夫ですか」
「な、なななっ」
クラクラする意識に抗い、俺は声の主に焦点を合わせる。そこには腰まである桃色で柔らかそうな髪の大人しそうで小柄な女の子があわあわ言いながら立っていた。
「え、えっと……どちら様で」
俺が素直な疑問を投げかければ、小柄な女の子は周りを気にしながらオドオドとして言った。
「わ、私はシルマと言います。一応、魔術師です」
「魔術師?」
よく見れば女は全身を白いローブで覆い、手には星がモチーフと思われる持ち主の身長よりも長い金色の杖を持っていた。魔術師……確かにそれっぽい姿ではある。
多分、成人はしていない。17か18歳ぐらいの女の子だ。
「あの、あなたのお名前は」
シルマと名乗った女の子は遠慮がちに俺に名を名乗る様に促す。
「ああ。すまん。俺はクロケル。魔法騎士と言うことになっている」
俺も一応自己紹介をする。シルマはぽやんとした表情で俺と俺の剣を見比べ、そしてにこりと笑った。
「魔法騎士様ですかぁ。かっこいいですね」
レベル1だけどな。内心でぼやいたが俺はある事に気がつく。
「てかお前、なんで俺が見えてるんだ」
おれは隠形のスキル発動中だ。気配は完全に消えてるはずだよな。
「ああ、それはですねぇ」
「ガァァァァァァァァァッァァッ」
シルマが答えようとしたその時、ドラゴンの咆哮が響き、同時にしっかりと根が張られている太い木々をバキバキといとも簡単になぎ倒し、大きな音を立て呻きながら茂みから姿を現す。さっき俺を追ってきた奴だ。
「やべぇ!見つかったっ」
早く逃げなければ。しかし、シルマを置いていくわけにも行かない。だが、一緒に逃げたところで俺に守り切れるのか。ダメだ!何も思いつかないっ。
青ざめる俺の隣で杖をキュッと握りしめ、シルマが言った。
「ドラゴンさん。ごめんなさい。邪魔です。水精霊の怒り」
シルマがドラゴンに対して謝罪の言葉を口にしながら詠唱と共に杖を振るったかと思えばドラゴンの真上に青色の魔法陣が現れ、そこから水が滝の様な勢いで溢れ出す。水しぶきが四方に飛び散るほどのもの凄い水圧だ。
「グォォォォォン……」
「うえぇぇぇ?」
俺の目の前に弱々しい呻き声を上げてドラゴンの巨体が地を揺らし、土煙を立てながら転がる。
自分の顔が引きつったのを自覚した。そして変な声が出た。
え、なに、何が起こったんだ。ドラゴンが一瞬で倒れた?
は!?シルマがやったのか?え、なにこれ、こわっ。
『わ、すごいよ。クロケル!あの子のステータス』
俺が状況を飲み込めない中、聖はもの凄くテンションを上げて言った。
『あの子、レアリティ3だけど、レベルが上限解放されている上にそれがカンストしてる』
「……なんですと!?」
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聖「次回予告!やっと回想が終わった和樹、じゃなくてクロケル。突然現れたふわふわでかわいいヒロイン系美少女に守られると言う大失態!それでいいのか主人公……。どうするどうなる魔法騎士(笑)次回、次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第5話『レアリティ3だがレベルはカンスト!最強ヒロイン、シルマ登場』みんなー、クロケルに力をあげてー」
クロケル「お前、腹黒とか言うレベルじゃねぇな。鬼か」
聖「僕はこの世界の長だよ。カミサマと呼んでもらってもいいよ」
クロケル「ぜってぇ呼んでやんねぇ」