第47話 突然の戦闘開始、足手まといは……俺だけ!?
この度もお読み頂き誠にありがとうございます。
もっと軽い感じのお話が書きたくて始めたこの物語。どうしてちょっとシリアス展開になるのでしょう?ノープランだからでしょうか(センスがないからと言う声が聞こえた気がして耳を塞ぐ)
色々と中途半端かもしれませんが、少しでも面白いと思って頂ける様に精進します!
本日もどうそよろしくお願いいたします。
なんと言う悲劇、本日は挨拶だけと言っていたのは嘘だった。自陣で敵に囲まれると言う最悪の状況に俺は頭を抱える。
これは……戦闘になるパターンだよな。待って、俺戦えないよ。飛びかかられたら終わりだよ。
「ほら、フィニィさん。立ちましょう」
周りを包囲され身動きが取れない俺たちを無視しライアーが座り込んだフィニィを支える様にして立ち上がらせた。
まだ心が不安定な状況なのか、フィニィは特に抵抗することもなく、呆けたままゆらりとその場に立っていた。
「おい!俺はお前たちなんて知らないぞ。いつからフィニィと手を組んでいたんだ」
胡散臭い男が妹に気やすく触れていることが気に食わないのか、アンフィニがケイオスさんに抱えられたまま噛みつく様に言う。
「え、お前ら認識ないの!?」
その言葉を聞いて俺は驚いた、ライアーの目的は世界を存続させた神子一行を消すこと。それはアンフィニたちの目的と一致している。てっきりライアーとアンフィニたちには何かしらの繋がりと言うか、協力関係にあると思っていたがどうやら違うらしい。
アンフィニにから鋭い視線を受けたライアーはケロリとし、丁寧で胡散臭い口調で答えた。
「ああ、これは失礼をいたしましたお兄様。私共、あなた方兄妹と直接お会いするのは今回が初めてでございます」
『初めて会う女の子の影に潜んでいるとか変態もいいとこだね。何のためにそんなことしたの』
聖が刺々しく聞けばライアーは素直に答えた。
「ご兄妹を見つけたのはたまたまです。何やら興味深いステータスをお持ちだったこと、そして私共に志が似ていると思いましたので暫くフィニィさんの影に潜んで様子を窺っておりました」
興味深いステータス、と聞いて俺の体がぞわりとする。その言い方だとまるで……
「あ、あんたもアナライズ能力があるのか」
俺の中に浮かんだ可能性を恐る恐る確認すると満面の笑みで当然のことだと言わんばかりに頷いた。
「はい。アナライズ能力もジャミング能力も持ち合わせておりますよ」
嘘だろ。ヤバいじゃん!それって俺たちのステータスが相手に丸わかりってことだよな。待って、それじゃあ俺が高レア低レベルのポンコツだと言うこともモロバレではっ。
このままでは標的にされる!一番弱いからと言う理由で真っ先に狙われる、殲滅される!!
恐ろしい未来を想像して心臓バクバク、顔面蒼白で頭を抱えていると頭上に浮かんでいた聖が俺の肩口まで下りて来て言った。
『大丈夫だよ。こっちも全員のステータスをジャミングしておいたから。相手にこちらの情報は一切渡っていない』
「そうですねぇ。なるべく有利に戦いたいので弱点を探ろうと思っていたのに残念です。まさかそちらにも私と同じ能力をお持ちの方がいらしたとは予想外です」
ライアーは肩をすくめ残念そうに首を振った。しかし、その行動には悔しさも焦りも見られない。そもそも自分の持つ能力をペラペラと敵に話している時点で相当心に余裕があるとしか思えない。
と、とりあえず自分のステータスが相手に見られていないのなら一安心だな。いつの間にどうやってジャミングしたかは不明だが、ありがとう。ナイスだ、聖。
「どうしてフィニィに付きまとっている。俺の妹をどうするつもりだ」
全力で聖に感謝している俺の隣でライアーに向かってアンフィニが更に敵をむき出しにして言った。
アンフィニは怒りで興奮状態になってケイオスさんの腕の中でもがいている。未知なる敵に突撃して何かがあってはいけないと思ったのか、ケイオスさんが動き回るアンフィニを必死で抑え込んでいる。
怒るアンフィニとは対照的にライアーは涼しい顔で答えた。
「はい。今日まで影に潜んでフィニィさんの実力を審査した結果、合格となりました。私はこの度はフィニィさんをスカウトに来たのですよ」
「今日まで審査って……まさかグラキエス王国で俺たちがフィニィと初めて会った時から影の中に?」
フィニィと初めて戦闘になった時もずっと影の中から様子を窺っていたってことか。驚きのあまり酸素を求める魚の様に口をパクパクして聞けば、ライアーはそんなおマヌケ顔の俺が面白いのか、はははっと声に出して笑ってから言った。
「君はクールな見た目で中々面白い反応をしますね。その通りですよ。あなたたちの姿と行動は影の中からしっかり拝見させて頂いておりました」
だから、私からすれば今の状況は初対面ではないですね。と少し茶目っ気を混ぜた様な言い方をした後に短くウィンクをして来た。
その場の行動に全員が困惑したり、嫌悪の表情を見せたり、ドン引きしたりする中、俺は正直ちょっとだけ、本当にちょっとだけキュンとした。
いや、キュンとか言うと気持ち悪いと思うヒトもいるかもしれないが、もう一度言わせてもらう。俺はイケおじが好きだ。どの作品でも間違いなく推しキャラだ。
物静かで淑やかな執事タイプ、素っ気なくて少し雰囲気が怖いけど冷静沈着で頼れるリーダータイプ、様々なイケおじは存在する。どれも非常に魅力的、魅力的なのだが……。
ライアーと言う敵、俺のタイプどストライクなキャラである。胡散臭いくて茶目っ気があって、でも溢れ出る強キャラ感。隠すつもりのない殺気も良い。
なお、本来イケおじは外面重視ではなく内面も重視されるとは思うが、今回の場合の「イケ」は外面のイケメンとさせてもらう。多分、あのヒトはゲスっぽいし。いや、こう言うキャラはゲスだからこそ魅力的なんだよな。
立場は敵でも味方でもこの魅力を感じるが、胡散臭い強キャラは敵の方が若干的魅的に感じるのは何故だろう。
『それは君の好みだろ。僕は敵キャラなら同じ年上でもナイスバディなお姉さんのほうがいいなぁ。気の強さがあれば尚のこと魅力的。武器は鞭とかがいいなぁ。衣装はヨーロッパ風のドレスとかがいい!優雅だけど強気って感じが好き』
「お前の趣味趣向に比べれば俺の好みは可愛いもんだろ」
聖のいきなりの性癖暴露に冷静にツッコんだ瞬間、また自分に視線が集中していることに気がつく。
周りを囲む敵に警戒しながら円になっている状態だけど、みんなが痛々しい首を緩く動かして視線を送ってくるのがわかる。
俺、また興奮を声に出していたのかっ。うう、ヤダ辛い。溢れる気持ちを吐き出してしまう悪い癖をどうにかしたい。でもきっと永遠に無理っ。オタクの俺の大バカ者―!!
ああ、味方どころか敵のライアーもちょっと引いている気がする。平静を装いつつもなんやこいつ。みたいな目で見ているのがわかる。
「く、クロケル様?なんのお話をされているので……?」
唯一ドン引きではなく、背中合わせの状態で心配そうに聞いて来るシルマに俺は顔を引きつらせながらもなんとか微笑んで答える。
「な、何でもないんだ。気にしないで貰えると嬉しい」
「は、はい。わかりました」
シルマはぎこちなく頷いた。ごめん、シルマ。多分説明しても分からないと思う。
『あはは。おもしろーい』
面白いわけあるかいボケェ。
敵味方問わず痛々しい視線を受けて精神的に滅多打ちにされている俺を聖がケラケラと笑っていたのでちょっと大分殺意が湧いた。
おかしくない。俺は(オタクとしては)おかしくないぞ。
君は好みのキャラを目の前にして心を荒ぶらせずにいられるか!?無理だろう!!知らない漫画の表紙に好みのビジュアルのキャラがいたら途中の巻からでも購入しちゃう経験、足ますよね!?
CMで一瞬でも好みのキャラが映ったら原作を知らなくてもアニメ見ちゃうのって普通だよな!?
とそこまで考えてまた思考がオタクモードになっていたことに気がつき、俺は雑念を払うために頭を思いっきり振って気を取り直し、半ば誤魔化す様にライアーに言葉をぶつける。
「あ、あんたはケイオスさんを襲撃するためにフィニィを利用したんじゃないのか!?」
俺にドン引いていたライアーがハッと我に返ったのが目に見えて分かった。余裕の微笑みを取り戻して言った。
「私がここに来たのは偶然です。フィニィさんの影に潜んでいたらたまたま魔法学校に辿りついただけです。まあ、忌むべき相手の拠点に潜り込めたのは運が良かったと思います」
それを受けた聖はさっきまでのお気楽モードから突然シリアスモードに戻ってライアーに更に問いかけた。
『どうしてグラキエス王国では大人しくしていたの。シャルムも君のターゲットの1人のはずでしょ』
「ああ、あの時は手練れが多そうでしたので。無暗に戦ってこちらの戦力を削きたくなかったのですよ。サポートとしてステータスへのジャミングと結界を通過できるステルス能力は付与させて頂きましたけど」
ライアーは平然と答えたが、ちょっと待て。「あの時は手練れが多い」ってことは今はそうじゃないってことだよな。アナライズで阻止してるのに見透かされてるじゃーん。超泣きたい。
「志を共にする優秀な人材がスカウトできて、かつての神子の仲間ともお会いできるとは、まさに一石二鳥と言えますね」
「勝手に我が校をスカウト会場にしないで頂けますか」
この状況がよほど嬉しいのかウキウキとしているライアーにケイオスさんが青筋を立てながら刺々しく言った。
「あなたは、誰」
色々とゴタゴタとする中、呆然として動かなかったフィニィが口を開いた。まだ足元がおぼつかないのか体を支え続けているライアーにもたれ掛かり、とても弱々しい様子だった。
「おや、お気づきですか。私はネトワイエ教団を取りまとめております、ライアーと申します。あなたをスカウトしに現れたのですよ」
「スカウト……」
フィニィが瞳を揺らしながらライアーを見つめる。驚くことにライアーは俺たちの目の前でスカウトを始めたのだ。
「フィニィやめろ。そいつの話を聞くな」
アンフィニが必死で呼びかけるが、フィニィには届いていない様でこちらに意識を向けることなくぼんやりとライアーを見つめていた。
フィニィが自分の話に興味を示したと理解したのか、ライアーは怪しく微笑んで無駄に良い声で続けた。
「あなたは大事なヒトを奪った神子一行に復讐がしたいのですよね。実は私たちも神子たちにはこの世からいなくなって欲しいのです。ですから、私たちの仲間になりませんか」
「神子たちに復讐…そう、私、神子とその仲間を消さないといけないの」
目的を思い出したフィニィの雰囲気がざわめき出す。瞳孔が開き、体が震え始める。見るからに不穏で危険な雰囲気に俺たちが息を飲む。
しかし、ライアーは表情1つ変えることなく、フィニィの肩を優しく抱きながらトドメとばかりに優しく呼びかけた。
「私たちの教団に入れば全力であなたをサポートしますよ。あなたの魔力を持続・増幅させるアンプルも支給させて頂きますよ」
それはまさに悪魔の囁きだった。しかし、フィニィの耳と心にはしっかりと刺さった様でフィニィを纏っていた黒い雰囲気が消える。
「本当?」
「はい。お約束します」
フィニィが淡々と聞いて、ライアーが笑顔でしっかりと頷いた。
アンプルと聞いて俺は胸にざわつきを覚えた。その存在はケイオスさんから少しだけ聞いたし、良い印象も持っていない。
人工魔術師は魔力を充填しないと魔術が使えない。そのため魔術を使い続けたい場合はアンプルを使う必要があると聞いた。ただし、元々魔力を持たない人間に無理矢理を注入、力の増幅を促進するため、本体がもたなのだ。
そんなものを進んで使おうとするなんて、やっぱりライアーはド外道である。顔と仕草はイケおじなのに、やっぱりヤバい奴だ。
「うん。あなたについて行く。私は、神子たちを殲滅する力が欲しいの」
「フィニィ!」
戸惑うことなく頷いたフィニィにアンフィニが焦って呼びかけたが、彼女は蔑んだような目をこちらに向けた後、何も言わずに目を逸らした。
「ふふ、交渉成立ですね。それでは我が同士たち、後は頼みましたよ」
「はい。お任せください、ライアー様」
ご都合主義で俺たちを取り囲んだまま一切攻撃することなく、一言も発することなく、ここまでじっとしていた数十人の甲冑を纏うライアーの部下のリーダーらしき人物が淡々として頷く。
「それではみなさん、私とフィニィさんはここで失礼します。もしも生きていたらまたお会いしましょう」
ライアーはこちらに小さく手を振り微笑んだ。あれは多分、もう俺たちに会うことはないと確信している態度だ。
「待てっ」
アンフィニが叫んで呼び止めようとするもライアーとフィニィは一瞬で姿を消した。
「よし、みんな。ライアー様直々のご命令だ。徹底的にやれ!」
リーダーが聞くだけで恐ろしい指示を声高に出すと同時に、周りを囲んでいた奴らが武器を構えてジリジリと距離を詰めて来る。
彼らの手には武器は当然武器が握られており、剣や魔法の杖、槍、弓、銃など多種多様だ。
それに比べてこちらの戦力はと言うと、世界を救った実績を持つ魔法学校校長で武器はステゴロのケイオスさん。低レアだがレベル500であらゆる魔術を得意とするが実力は発揮したくない消極的魔術師のシルマ。まあ、この辺は戦力と言える。
しかし、強キャラの外見と能力を完全にコピーしているものの、実戦経験が浅い怖がりモンスターのシュバルツ、魔法学校の学生であるカルミンとアリスは戦いの経験がないだろうし、ほぼ戦力外と言える。
ミハイルは魔族で能力値が高そうだが、多分戦闘に参加するつもりはなさそうな気配がする。自分に害が及べば応戦するだろうが、こちらのサポートをしてくれるとは思えない。
聖は戦う能力はあっても多分、長のルール上、助けることはできないだろうし。ダメだ、コレ詰んだ。
実質戦えるのはケイオスさんとシルマだけ。シュバルツも慣れてきたらいけるか……?いや、でも仮に戦力が勝っていても数で負けている。これではいずれジリ貧になる。ゲームにおいてもMPや必殺技ケージは無限ではない。貯めるのはそれなりの苦労が伴うものだ。
「ど、どうすれば」
絶対絶命の状況をどう切りぬけるか頭をフル回転させるがシルマの力で一度に殲滅ぐらいしか解決方法が見つからない。
少し期待を込めてちらりと背中合わせにシルマを見たが、彼女は実力を見せすぎるのは嫌だと言わんばかりに全力で首を振った。ダメかー、この状況でもダメかー。
「カルミンちゃん、しっかり狙ってね」
「任せて!アリスっ」
頭を抱える俺の隣でそんな会話が聞こえて来た。驚いてそちらを見ればアリスが肩から掛けていた時計デザインの鞄から小さな小瓶を数個ほど取り出してそれを勢いよく宙に放り投げた。
カルミンが元気よくそれに応えて手を掲げると、その手の中に猟銃が現れる。わぁ、凄い。武器が出現するとかアニメ見たい。でも猟銃って超★物騒。
などと考えているとカルミンはアリスが空中に投げた小瓶を全て打ち抜いた。割れた小瓶からピンク色の粉がサラサラと降り注ぐ。
敵も味方も呆然としてそれを見上げる。何かに気がついたケイオスさんが素早く防御壁を張った。
嘘だろ。あの瓶結構小さかったぞ。縦に5センチぐらいしかなかったよな。なんて性格なスナイプ……。えっ、この子、学生だよな。
カルミンの銃の技術に驚いていると、降り注いだ粉を被った敵がバタバタと倒れていて更に驚いた。
「えっ、なんで」
戸惑う俺に更に追い打ちをかける様にアリスが毅然として言った。
「行きますよ。どうか、深い眠りにつきなさい。夢があなたを闇へと誘うことでしょう。悪夢症候群」
アリスの詠唱と共に倒れていた敵たちが一斉に苦しみ出した。首を押さえてもがくもの、頭を抱えて震えるもの、反応は様々だったが苦痛を覚えているのは確かだと思う。
「な、何が起こったんだ」
てっきり戦力外だと思っていたアリスとカルミンの突然の行動に開いた口が塞がらない。
「私、魔法薬学と魔術には自信があるんです!」
「私は魔術はあんまりですけど、銃の扱いなら誰にも負けません!」
胸を張って誇らしげにする2人を見ながら俺は地味にショックを受けていた。嘘だろ、戦えるのかよ。
『さっすが魔法学校の生徒。実力は折り紙付きだね』
聖のはしゃぐ様な誉め言葉を聞いて俺は徐々に現状を理解し始める。
大人数に囲まれると言うピンチを切り抜けたのはまだ学生の女子2人だった。カルミンとアリスは十分な戦力になりうる存在だったのだ。
えっ、まさか、ここで戦えないの、俺だけ?
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聖「次回予告。ちょっぴりピンチに見舞われるも、アリスちゃんとカルミンちゃんのおかげで光が見えて来た。流石、魔法学校の生徒でケイオスの教え子でもあるよなぁ、格が違う。さて!ここから反撃だよ」
クロケル「ああああ、俺はここでも最弱確定か!あんなに細身な女子生徒にも劣るのか。このガタイで」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第48話『アリスの魔術効果』まさにヒトは見た目じゃなくて中身だね」
クロケル「満足そうに頷いてるんじゃねぇよ。全然うまいこと言えてないからな」