第46話 謎の教団の襲撃
本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
あああっ!ノープランのせいで風呂敷を広げ過ぎている様な気がする。これ畳めるのかな!?
テンポが悪いかもしれませんが、どうかお付き合いください。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
緊迫した空気からの変な声……これは明らかに新たな敵もしくは勢力が出て来るフラグだ。フィニィのことが解決してないのに新しい敵が出てくるのヤメて!
敵のレベルが高かったり、増えたりするのはこっちのレベルが上がってからがセオリーだろ。俺はまだレベル1なんだよ。
しかも現状戦闘センスもゼロでこの世界にも慣れてないからこの状況で新勢力とかホントに勘弁してください。お願いだから俺にレベル上げをさせて!!
惨めさと悔しさから溢れそうになる涙をグッと堪えていると、瓦礫上に座り込むフィニィの影からぬるりと何かが抜け出した。
それは真っ黒でヒトの形をしていた。変に弾力がありそうで気持ち悪い。そう思っているとソレの黒さが徐々に薄れて行き、全ての黒が消えたと思ったらそこには茶色いスーツに臙脂色のネクタイをした初老の男性が優雅に佇んでいた。
片眼鏡で清潔に整えられたオールバックのロマングレーの髪、それと同じ色の口ひげ、顔に刻まれた皺が彼が生きて来た年代を表現されていて、すごく渋みがある。
例えるなら英国紳士と言ったところか。と言うか……。
「すっげぇダンディ……イケおじヤバい、かっこいい」
俺の口から押えられなかった感情が駄々洩れる。自分のことながら目を輝かせていると言う自覚はある。
紳士な見た目に加えて声がたまらん。年配独特の渋めの低音ボイスだが、低すぎず、少し高めで柔らかさがある声が好み過ぎる。いや、重低音も凄くいいんだけど!でもそれだと胡散臭さが半減すると言うか、格好良すぎると言うか……。
何が言いたいかと言うと、こういうキャラは敵でも味方でもストライクなのだと言うことだ。
『この状況でもそう思うなんて、君も大概呑気だねぇ』
聖の呆れる様な言葉が心に刺さったが、こればっかりは仕方がない。目の前に好みのキャラが出て来て溢れるパッションを押さえることのできるオタクがどこに居ようか。
上品なのにどこか胡散臭い、スーツのおじさまはアカン。イケおじ好きの俺の癖に刺さりすぎる。ガチャ禁してる時に不意打ちでこのキャラが実装されたら来るまで引いちゃう。
『ええー、絶対美少女の方がガチャのモチベーション上がるでしょ。性能も大事だけど、推しの絵師様ならなお嬉しいよね★』
「それはお前の価値観だろ。俺はイケおじがいいの。ダンディズムに魅力を感じるんだよ、悪いか!ってか心を読んでまで人の好みを否定するなっての」
「お2人が何の話をされているか皆目見当もつきませんが、今は雑談をしている場合ではないですよ。お分かりですか」
互いの好みをぶつけ合う俺たちにケイオスさんが注意をする。敬語で嫌味がたっぷり感じられる声で、イラッとしていると言うことが理解できた。
おっと。興奮しすぎて声のボリューム落とすの忘れてた。オタク全開の発言をみんなに聞かれた。恥ずかしい……。
俺の味方側にいる全員がポカンとしてこっちを見ている。あの何に対しても興味がないミハイルですら俺を凝視している。
もしかしてみなさん引いていらっしゃる……?ガチャではなく俺に対して引いていらっしゃる?俺、そんなに気持ち悪かったか?
『そりゃ、敵っぽい相手にかっこいい!とか言ってメロメロになってたら誰でも引くよ』
「うぐっ、べ、別にメロメロになっていたわけじゃない。ちょっといいなーって思っただけだ」
『似たようなもんでしょ』
「ううぅっ」
聖の容赦がない言葉に胸を切り裂かれ、打ちひしがれているとケイオスさんはやれやれとため息をついた後、男性が佇む方へ一歩前へと踏み出した。
「まあ、クロケルさんの態度は一旦流すとして……あなたはどちら様でしょう」
ケイオスさんは極めて冷静に対応している様に見えたが、言葉尻や纏うオーラからは警戒と苛立ちが感じられ、握られている拳からはいつでも戦えるぞと言う意志が伝わって来る。
「これは失礼を。私はネトワイエ教団のリーダーを務めております、ライアーと申します。本日は挨拶に参っただけですので。そんなに警戒なさらずとも結構ですよ」
男性がにやりと微笑んだ瞬間、その不気味さからその場が緊張に包まれる。またシリアスモードに突入する気配を察知する。だめだ、コメディとシリアス展開が行き来しすぎて風邪ひきそう。
「ネトワイエ教団?聞いたことがありませんね」
ケイオスさんが冷静に、そして毅然と言えば丁寧な口調で返答がある。
「私たちは表立って活動している組織ではございませんので。認知されていなくて当然です」
胡散臭い笑顔に負けじとケイオスさんが真っ黒な笑顔で重ねて問いかける。
「我が校の霧の結界を超えて来るとは……相当な実力者とお見受けしますが」
「いえいえ!私など魔法学校の校長であるあなた様に比べれば小物に過ぎません。結界の突破につきましては私に優秀なステルス機能があったから可能だったとお答えしておきます」
ライアーと名乗ったイケおじ……じゃなくて男は、切れ長の目を大きく見開いて口元を押さえ、わざとらしく反応した後に恭しく礼をして答えた。
うむむ、言動も仕草も全部胡散臭い。そしてさりげなく自分の能力をひけらかしている。きっとこのヒト性格悪いんだろうな。
だがそこが良い!推せる!と思いかけた感情をグッと押し込めて俺は聖に体を寄せて聞いた。
「聖、アナライズ結果は?もう済んでるんだろ」
敵を知るには聖のアナライズ一番手っ取り早いと思ったのだが、返って来たのは申し訳なさそうな言葉だった。
『それが……フィニィたちの時と一緒だよ。あいつのステータスがジャミングされてる。多分、両方ともあいつが意図的にそうしているんだと思う』
「お前がフィニィとアンフィニをアナライズできなかったのはあいつの仕業ってことか」
『あの2人に繋がりがあるなら、そうだと思う。素性や弱点を知られない様にするためにアナライズ対策のスキルを身に着けるヒトは少なくないから』
聖からしっかりとした肯定の言葉が返って来る。
アナライズってチートスキルだとは思っていたけど、それに対抗できる能力が存在するのもすげぇよ。チート能力のマウント合戦かよ。
「アナライズスキルもジャミングスキルもレアスキルですから。あのライアーと言う方はレアリティもレベルも相当なものだと思います」
俺たちの会話を聞いていたシルマが神妙な面持ちで言った。
「シルマはどっちのスキルも持っていないのか」
気になったので聞いてみればシルマは苦笑いで答えた。
「私はレベルはそれなりですが低レアですから。習得できるスキルも限られているんです。類似スキルは持っていますが、レアと比較すると機能性は落ちます」
「そうか……やっぱりレアって価値があるんだな」
存在としては高レアなのにゼロスキルな自分が空しくて遠い目でぼやくと聖が俺を励ます様に言った。
『そうでもないよ。種族とかスキルにも相性があるか。このスキルを持っていれば無双状態!とはならないんだよ。どんなにレアなスキルを持っていても、こんな風に別のスキルによって対策されてしまうこともある』
君の好きなゲームでもそう言うのあったでしょ。と言われて俺はピンと来た。確かに、ゲームにおいてもそう言うシステムは存在する。
俗に言うデバブと言うやつだ。強化したのに解除された時は舌打ちものだった。防御したのに剥がすなや!何度思ったことか……。
成程、そう考えると実にわかりやすい。高レア高レベルでも必ずしも無双できるわけじゃないのか。
ゲーム的に考えると相性とか三竦みは重要だもんな。相性が悪い相手にはどんなにレベルが高くても手こずるものだ。
まあ、俺は育成は好きだが攻撃力とスピードにステータスを全振りするゴリ押しタイプなんだけどな!あと推しキャラ贔屓で育成する自覚はある。
などと思いながら、俺はふと思った。聖ってこの世界の長なんだよな。よく考えたらそんじょそこらの奴に能力が劣る訳がないだろ。
この世界の長=神様ってことだろチートなんじゃないのか。最初にできないことはほぼないって言ってたの覚えてるぞ。
どうせ心を読んでるんだろ。どうなんだよ、答えろ。と念じながら聖を見る。
『あは。バレた?そりゃ僕が本気を出せばできないことはないけど、ほら、長は個人に過度な肩入れはできないって言ったでしょ。だから、君をサポートできるギリギリのラインで能力を使ってるの』
そうだった。長が特定の人物の手助けをするのは世界のルールに反するんだった。神様級のチートがいるのにチートできないって辛い。
あれ、でも前長はアンフィニたちの親代わりだったんだよな、それはルール違反にはならないのか?
『ルール違反をした長がどうなるかはわからないんだよねぇ。ペナルティの有無すら僕も知らない。でも、ダメって言われてるんだから違反しないに越したことはないでしょ』
頭をひねる俺に聖は補足したつもりなのだろうが、やっぱり腑に落ちない。
「ダメって誰が言ったんだ?」
『えっと……世界?』
「なんだそりゃ。何で疑問系なんだよ」
疑問は深まるばかりだ。この世界に転生してから本当にわからないことが多い。長の存在意義と言い、人工魔術師と言い、この世界自体が信用できなくなってきた。たまにあるよな。世界そのものが悪だったみたいな展開。
そうなったら大変且つ、ややこしそうだから俺の思い違いであってくれ。この考えが変なフラグになっていませんように!
「あなたたち、話が進まないので一旦雑談をやめてください」
「す、すみません」
『ごめぇん。クロケルが質問して来るからつい』
敵を前にしているにも関わらず話し込む俺と聖にケイオスさんが丁寧な口調で厳しい口調で注意を促した。
微笑んでいるが口の端がピクピクと痙攣しているので相当怒っていらっしゃる。心情を察した俺は素早く謝った後に自らの手で口を塞いだ。
聖は謝罪の言葉を口にしていたが、うるさくしたことへの反省の色は全く見られなかった。無償に腹が立った。
ケイオスさんはこの状況が大分頭に来ているのか苛立たし気にため息をついた後、改めてライアーに言った。
「ライアーさんと言いましたか。ステータスをジャミングしていると言うことはやましいことがあると判断して構いませんね。フィニィさんとの関係も気になるところですが、我が校に侵入した目的を教えて頂けますか」
「ふふ、目的はフィニィさんと同じですよ」
質問を受けたライアーは余裕の態度でクスリと笑ってそう言った。不気味な微笑みと共に紡がれたその言葉に全員が眉をひそめる。
「フィニィと同じ……神子一行への復讐ってことか」
俺が辿り着いた考えを口にすればライアーは満面の笑みを浮かべ楽しそうに頷いた。
「その通りでございます」
簡単で丁寧に返答をしたライアーにケイオスさんが毅然として言い返す。
「お言葉ですが、フィニィに恨まれる覚えはあっても、あなたが属するネトワイエ教団とやらに恨まれる覚えがないのですが」
その言葉にライアーは緩く首を振り、そしてやはり自覚がないのかとでも言いたげに呆れた様子で言った。
「そちらに覚えがなくとも、私共にはございます」
「参考までにお伺いしても?」
ケイオスさんがそう問いかけた瞬間、現れてから胡散臭く微笑んでいたライアーが真顔になり、ギラリと目を光らせて言った。
「あなた方が世界を救ったからですよ」
「!?」
ライアーがこちらを見据えただけなのに、空気が重くなるのを感じた。上から重力がのしかかっている気がして体が動かない。手足は震えているし、変な冷や汗も出て来た。これが殺気と言うものなのかもしれない。
気配に敏感なシュバルツは殺気をモロに感じてしまい真っ青になって震えているし、すっかり巻き込まれてしまったカルミンとアリスも身を寄せ合って不安げな表情をしていた。
シルマも杖をギュッと握りしめてこの重く恐ろしい空気に何とか耐えていた。シルマはレベルが高いが怖がりだからな。相手の殺気には弱いところがあるのだ。
言い得ぬ恐怖と不安に押しつぶされそうになりながら、殺気をもろともせずに振る舞うケイオスさんとミハイル、聖の姿が目に入った。
「私たちが成し遂げたことが気に食わない、と言うことは、あなたは世界の崩壊を望んでいたと言うことですか」
ライアーに負けない冷たく鋭い眼光でケイオスさんが問う。するとライアーに微笑みが戻り、そして肯定の言葉が返って来た。
「はい。こんなゴミの様な世界は滅んで新たな世界が生まれることが、私の望みでした。ネトワイエ教団はそんな思想を持った者の集まりです」
『世界が滅んだら自分も滅びるけど、それでもいいの?』
正論をぶつける聖にライアーはにこやかなまま頷いた。
「それで世界が変わるのなら、喜んでその結末を受け入れましょう」
俺は始終穏やかなライアーに恐怖を感じた。新しい世界を望むのに、その世界で生きていなくもいいってどいう言うことだよ。矛盾してないか?
『自分の望みを潰されたから復讐ってそれ、逆恨みもいいところだよね。超迷惑なんだけど』
聖が呆れた様子で反論する。
「ふふ。その通りですね。ですが、ヒトが抱く恨みなどそんなものですよ。さあ、お話はこれぐらいにして……。皆さん、もういいですよ」
突然語られた意味不明な言葉にその場の全員が困惑していると、ライアーは突如話を切り上げ、パンパンと手を鳴らした。
すると地面からずるりと黒い影が次々現れた。地面から抜け出ると同時に影は甲冑を着たヒトへと姿を変えた。
式神的な何かかと思ったが、生気を感じる。多分、ちゃんと生きているヒトだ。でも数が多い!!確認できるだけでも何十体はいる。ってか囲まれた!
「みなさん!一か所に固まって下さい。背中を守る形を取りましょう」
この状況は流石にヤバいと思ったのかケイオスさんから鋭い指示が飛ぶ。それに反応し全員が背を預け合う形で円形に集まった。
聖とミハイルは空中で俺たちの頭上を警戒してくれている。
「あなたもですよ」
泣き崩れたまま動かないフィニィを茫然と見つめたままもアンフィニにケイオスさんが手を伸ばして呼びかける。
その声でハッと意識を引き戻したアンフィニは、迷う様にフィニィとケイオスさんを交互に見たあと、苦しそうに眉間に皺を寄せてケイオスさんの手を取った。
『今日は挨拶だけなんじゃなかったの』
聖が嫌味たっぷりに聞けばライアーは微笑んで悪びれることなく言った。
「私は、と申し上げましたが部下が手を出さないとはいっておりません。どうしてもあなた方にご挨拶がしたいそうなので」
俺は心の中で思った。ドSだ。生粋の悪役だ。
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聖「次回予告。ここに来て新勢力が登場!レベルを上げるために旅を始めたクロケルだったが、大いなる戦いと陰謀に巻き込まれ始めたのであった。果たして、ネトワイエ教団とは一体何なのか!」
クロケル「やめて!新勢力とか本当にやめて。育成の片手間に謎の組織を片付けるとか、某大手の世界的人気ゲームじゃないんだから。普通はそんなこと無理だからな。」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第47話『突然の戦闘開始、足手まといは……俺だけ!?』うーん、いっそレベル上げをいったん保留にするとか」
クロケル「保留にできるかボケェ。その間に命が消し飛んだらどうするつもりだ。って言うか次回タイトル!絶体に俺ヤバい状況じゃん」