第45話 衝突!兄と妹の正義
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
今回もタイトルと内容が微妙に合っていない気がしなくもないですが、どうか気にせずお読みください。
そう言えば今日はこどもの日ですね。晩御飯はちょっと良いものを作ろうかなー。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
ケイオスさんの戦法はまさかのステゴロだった。え、このヒト魔法学校の校長だよね。魔術師じゃないの。なんで格闘家。
あと魔法格闘家って何だよ。そんな職業二次元界隈でも聞いたことねぇわ。いや、でも俺も魔法騎士だからな……。魔術と格闘が融合しててもおかしくはないのか?
ああああ!よくわからなくなってきた。俺の常識はこの世界ではまったく通用しない。故にツッコミ要素が多すぎて疲れる。
「どうしたんです、クロケルさん。私が武闘派なのがそんなに意外ですか?」
ケイオスさんがキョトンとして聞いて来る。ハッキリ言わせてもらおう。
「はい、もう開いた口が塞がりません」
予想外過ぎるわ。魔法学校の校長って立場と柔和な見た目のせいでギャップがえげつない。ローブの下がやけにシンプルだと思ってたけど、動きやすさを重視するためだったんだな、納得。
……いや納得できるか!この世界最高峰の魔法学校の校長がステゴロって!こう言う場合は魔術のエキスパートで人並外れた魔術で相手を圧倒するパターンじゃないの!?
クールなキメ顔で「例えマナが読めたとしても私の魔術を防ぐなんてできませんよ」(モノマネ)って言う展開では!?なんで人並外れた物理で圧倒してるんだ。わけわからんわ!すごいけど!!
「えっと……魔法格闘家について説明頂いても?」
とりあえず困惑と戸惑いを1つずつ解消したい。吹き飛ばされたフィニィが起き上がって来る様子はないし、今の内に疑問に思っていることはなるべく聞いておこう。
「説明、と言われましても……そのままの意味ですよ。魔法騎士が剣技を得意としながらも魔術を使う様に、魔法格闘家も体術を得意としながらも魔法を使うのです」
ああー、そう言えば二次元の世界でも剣や拳から炎出したり衝撃波出したりする技あるもんな。シンプル物理の攻撃って確かにRPGではあんまり見ないかもしれない
魔法格闘家とか言う緩い名称のせいで違和感を覚えたが、要はそれと同じか。よく考えればシンプル物理の方が稀かもしれない。いや、あのえげつない攻撃力は全然シンプルじゃないし。ゴリラじゃん。
目の前に起きていること、二次元からの既視感、自分の常識、様々な思いが頭と心をグルグルと校則で駆け巡り、内心でマシンガンツッコミをしている俺に聖が補足する様に言った。
『まあ。彼は一応魔術のエキスパートではあるよ。多彩な魔術を操る才能、人並み外れた身体能力、そして神子の仲間として世界を救った実績が認められて魔法学校の校長になったんだから』
「一応、魔法学校の校長ですからね。ある程度の魔術は使えます。ですが、私にはこの方が合っている様で。物理の方が直に攻撃が当たっていると言う感覚がなんとも爽快なのですよ」
ケイオスさんは拳をぎゅっと握って聖の言葉に笑顔で頷いた。つまり、ステゴロの方が自分には合っていると言いたいんだな。そして敵を直に攻撃したいとかドSか。
「しかし、せっかく魔術が使えるので力を併用しようと思って魔法格闘家と言う戦い方を選びました。因みに、さきほど攻撃した時も魔術を使いましたよ。お分かり頂けましたか」
「え、魔法使ったんですか。いつ!?」
知らん、全く気がつかなかった……俺が見た限りではケイオスさんはあり得ない速さで距離を詰めて攻撃を当てるまで一切魔術は使っていない様に見えたぞ!?
目を剥く俺にケイオスさんは自慢げにふふんと鼻を鳴らしながら胸を張って言った。
「彼女を蹴る直前ですね。身体強化の魔法を使いました」
「えっ、あんな一瞬で魔術って発動できるものなんですか!?」
「まあ、私レベルになると瞬時に魔術を使うのは朝飯前ですね」
わあ、すっごい自信すっごいドヤ顔。ちょっとイラッとする。
でも身体強化か……要は自分にバフをかけたと言うことだな。そう思えばあの一連の動きにも納得がいく。あのスピードもあの蹴り技の威力も魔法による補整があったからからこそ成し得たのか。
いやいや、バフ付きでもあの威力と動きはすごいし、魔術を使う速さも半端ないわ。だって強化はあくまで強化。基礎能力が高ければ高いほどバフの効果も上がるのだ。
そう思うと、やっぱりこのヒトは二面性があろうと自信家であろうと世界を救った人物の1人なのだと改めて思う。
「先生の魔術と知識は一級品だけど、やっぱり体術にかけてはこの国1番の実力だと思う!」
「細い身体で勇ましく戦う様には毎回惚れ惚れしちゃうよね!」
カルミンとアリスはケイオスさんが格闘タイプだと知っていた様で、ケイオスさんを褒め称えながら顔を見合わせて微笑み合っていた。
さすがケイオスさんの教え子。あんなに小さな女の子(あくまで見た目だけだけど)が大の大人しかも教育者にぶっ飛ばされたと言うのにツッコミも驚きもなしとは肝が据わりすぎている。
「驚きました……ケイオスさんは体術がお得意なのですね。あんなに華奢な体であんなに強力な蹴りを繰り出せるなんて、凄いです」
「凄い、一撃で吹き飛ばした……ボクも頑張ったらアレできるかなぁ」
「はっ、中々やるじゃないか。いかにも人間らしい原始的な戦い方だな」
シルマが予想外のケイオスさんの実力に驚き、シュバルツが圧倒的な力に憧れに近い感情を抱き、ミハイルが褒めている様な小馬鹿にする様な言葉を口にする。
そしてケイオスさんが一瞬だけ本性が出て乱雑な言葉遣いになったと言うのに、それについて誰1人追及しない。ケイオスさんが武闘派だと言う事実に気を取られているのか。そんなアホな。あんなにドスの効いたガラ悪さ印象に残らないわけがないだろ。
「うう、いったぁい……」
ガラガラっと瓦礫が崩れる音がしてその中からフィニィがゆっくりと立ち上がった。すっかり気を抜いていた俺たちの視線がそちらへと集中する。
フィニィの体は土埃に塗れていたが、ケイオスさんの蹴りをまともに受けて、煉瓦の壁が崩れる勢いで激突したと言うのにそれほどダメージを負っている様には見えなかった。
「うーん、ちょっと手を抜きすぎましたかねぇ」
ケイオスさんがひどく残念そうに肩をすくめる。なんでそんなに落ち着いてるんですか!ほぼノーダメージですよ!?
「ひどいなぁ、服が汚れちゃった」
フィニィはむくれて服についた土埃を手で掃う。そして俺たちのを見て不気味なぐらい穏やかに微笑んで言った。
「うふふ、おもしろぉい。魔法学校の先生が武闘派だなんて予想外。ビックリしたけど、私を蹴った瞬間に魔術を使ってくれたおかげでギリギリ見切れたよ」
「いやー、自分に魔術を施す強化魔法なら通用するかと思いましたが、ダメでしたか。残念です」
ケイオスさんは狂気の言葉を向けられても余裕で微笑んでいた。手を抜いたのは恐らくフィニィを捕獲するためだろうけど、状況を見る限り手を抜いたらフィニィには勝てない気がして来た。
「そんなのんびり構えてないで!早くあの子を何とかしないと学校が破壊されてしまいますよ!」
こんな状況でも表情一つ動かさず、のんびり緩々な姿勢を崩さないケイオスさんに訴えると、うるさいなと言いたげに「ふぅ」と小さなため息が返って来た。
何、この反応。ため息つきたいのはこっちなんだけど。ため息どころか頭も抱えたいぐらいなんですけど!?
「私の学校が破壊されるのは困りますねぇ。では今度は強化ナシで戦いましょう」
ケイオスさんは落ち着いた様子で力強く拳を握り、もう一度ファイティングポーズをとる。そしてカルミンに抱かれたままフィニィを見つめるアンフィニに刺々しい口調で言った。
「今度は強化ナシ、本気の物理攻撃で行きますよ。私は強化なしでも岩ていどなら割れますからね。妹さんが怪我をしても責めないで下さい」
それを聞いたアンフィニの体がピクリと反応する。やはりフィニィが傷つく姿を見たくないのか、口を噤んで下を向いてしまった。
アンフィニの葛藤もわかるが、今さらっと凄いこと言わなかったかこのヒト。岩ていどなら割れるって何。どれぐらいの大きさの岩のこと言ってるんだ。いや、そもそも普通のヒトは拳で岩割れないし。
どんな威力だよ、岩が割れる拳で殴られたらヒトの骨なんて爆散するだろ。怖い怖い!
「け、ケイオスさん!ある程度は手を抜いてくださいよ。俺たちの目的は彼女の捕獲なんですから」
のんびりモードから一転、やる気いや、殺るき満々になったケイオスさんの腕にしがみつく形で目的を確認する。
「はいはい。わかっています。もしもの時の確認ですよ。私はそのぬいぐるみに確認しているだけです。後からいちゃもんをつけられるのはごめんですからね。で、どうなんですアンフィニさん。これからの戦いについてご了承頂けますか」
俺の言葉を適当に受け流し、ケイオスさは改めてアンフィニを見据えて確認した。アンフィニはゆっくりと顔を上げて、そして震える声で言った。
「……わかった。全力で妹と戦うことについては異論はない。あとから文句も言わないと約束する。でも、その前にもう一度フィニィと話をさせて欲しい」
切なげで真剣な視線を向けられ、ケイオスさんは小さく唸った後、少し間を開けてから肩をすくめて言った。
「いいですよ。できれば彼女を鎮めて頂けると助かりますが、刺激し過ぎるのはやめて下さいよ」
「ありがとう。すまない、降ろしてくれないか」
アンフィニはケイオスさんに御礼を述べてた後、自分を抱きしめているカルミンに自分を地面に降ろす様に言った。
「え、でも……」
カルミンは本当にアンフィニを放していいのかと迷い、困惑した表情でケイオスさんを見る。
「構いませんよ。カルミンさん、降ろしてさしあげなさい」
「は、はいっ」
ケイオスさんが許可を出したため、カルミンは抱きしめていたアンフィニをそっと地面に降ろした。
「悪いな。少し時間をくれ」
こちらを振り向かずに短くそう言ってアンフィニはポテポテとファンシーな足音を立てながら少し離れた場所で佇むフィニィの元へ向かった。
念のためなのかフィニィとは1メートルほど距離を取り、そして彼女を見上げて語りかけた。
「フィニィ、思い直してくれないか」
「嫌よ。私は目的を達成するまで諦めない」
アンフィニの懇願をフィニィは冷たくバッサリと切り捨てた。一瞬言葉を詰まらせて悲しそうな表情を見せたアンフィニだったが、直ぐに前のめりにさせてさっき以上に力強く言った。
「自分の体と人生を犠牲にする復讐なんて意味がない!俺はお前を救いたい。どうしてわかってくれないんだ!!」
その言葉からは兄が妹を大切に想うが故の厳しい言葉なのだと俺は感じた。現実を突きつけてでも妹を止めたいと思う気持ちは痛いほど伝わって来る。
だが正直なところ、その言葉は逆効果だと思うそ。復讐に重きを置く人間に否定的な言葉をかけるのは非常に良くない。寧ろ煽りにしかならない。
俺の(二次元内の)経験上、こういう場合は相手の目的や思想を否定すればするほど逆効果で擦れ違いが起こる。
これはやばい、と思いフィニィの様子を窺えば案の定、怒りに顔を歪め、ギリッと歯を鳴らしながら鬼の形相でアンフィニを睨みつけていた。
「私の救いは復讐が果たされること!神子に関わる全ての人間の死が私の救いよ!それが分からないなんてやっぱりあんたはお兄様じゃないわ」
「お前の兄だから止めてるんだ!俺は自分の人生を失った。だから!妹であるお前だけは何にも囚われずに生きて欲しい。辛い思いをして欲しくないんだ」
妹の幸せを望む兄と、家族とも言える長様を失って憎しみに燃える妹の想いがぶつかり合う。
「私を大切に想うなら私を応援してよ!私の行動が正しいって言って!どんな時でも私の味方をしてよ!」
一歩も譲らない想いのぶつかり合いの末、フィニィは半泣きになりながらヒステリックに叫び、頭を抱えてその場に崩れ落ちた。再び瓦礫の山に座り込んだせいで土埃がフィニィの服を汚す。
「フィニィ……」
血を吐く様な叫びと想いをぶつけられたアンフィニは、瓦礫の上で泣き崩れるフィニィを見ながら茫然と立ち尽くしていた。
「大人しくなった。と判断していいのでしょうか」
ケイオスさんが現状を冷静に分析した。確かにフィニィは瓦礫の上に座り込んだままピクリとも動かなくなった。あれだけ遠慮なくふりまかれていた殺気も、心なしか消えている気がする。
『今は大人しい、と思った方が良いね。彼女、精神が安定していないんでしょ。なら、今の内に確保した方がいいと思うよ』
「そうですね。みなさん、手伝って頂けますか。ああ、警戒だけは怠らずに。彼女を捕獲しましょう」
聖の言葉にケイオスさんが頷き、フィニィの捕獲を試みようと俺たちに声をかけたその時、パチパチと乾いた音が辺りに響く。
「拍手……?」
それは間違いなく拍手の音だった。辺りを見回してみたが誰もいない。その場に緊張が走り、それぞれが警戒しながら視界を巡らせ、音の出所を探る。
何でこの状況で拍手なのか意味が分からん。気持ち悪い。俺が嫌悪に耐えきれず、眉間に皺を寄せたその時だった。
「いやぁ~愛憎が入り混じる素晴らしい兄妹ゲンカですねぇ……実に美しい私、こう言うのは大好物ですよ」
どこからかねっとりとして、背筋がぞわぞわする不気味な初老の男性の声が響き渡った。
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聖「次回予告。譲れない正義を胸にぶつかり合う兄妹。互いの想いは届くのか。そして、突如響いた謎の声の正体とは……」
クロケル「どんどん面倒事に引きずり込まれている……俺の人生は蟻地獄か?」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第46『謎の教団の襲撃』僕って結構恨まれてるんだんぁ」
クロケル「お前の嘆きもわからんでもないが……なあ、俺のレベル上げどうなってんだ。そっち方面に話が全く進まないんだが」
聖「旅をしながら少しづつアイテムを集めるスタイルだから進んでないわけではないと思うけど」
クロケル「俺は気がついている……面倒事の処理がメインで強化アイテム集めがついでみたいな扱いになっていることに(血涙)」