第32話 永久の別れ、生まれた憎しみ
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
お話を書いていて思いました。自分はコメディ向いてないなと。かといってシリアスと言うわけでもない?
何と言う中途半端!!ああ、文才が欲しい。書くのが楽しい!好き!ってだけでは小説は形にできませんね。このサイトに投稿してみてよーく学びました。
ですが、私の作品を楽しい、おもしろいと言う方が少しでもいらっしゃるのであればとても幸いです。
より良い作品づくりのために頑張ります!今後ともお付き合い頂けましたら幸いです。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「……そうですね。お話を聞く限り、私たちはあなた方家族の幸せを壊してしまったようですね」
『……』
アンフィニに憎しみと責めがこもった鋭い言葉と視線を浴びせられ、ケイオスさんはそれをすんなり認めて受け入れた。
聖も黙ったままその場に浮いている。しかし、アンフィニたちの幸せを奪った自覚はあれど、2人は決して謝罪の言葉を口にすることはなかった。
それは恐らく、自分たりの正義を貫いて行動したからこそとれる態度なのだと思った。アンフィニたちに謝罪をすると言うことは世界を存続させた自分たちの行動を否定することに同じになる。
世界の崩壊と世界の存続と言う思想が対立し、ぶつかり合って勝ったのが聖たちなのだ。例え苦しみ、悲しむ者がいたとしても、世界は存続し、救われた者も多くいた。2人、いや神子一行は「間違ったこと」はしていない。
それは紛れもない事実であり、とても悲しい現実でのあると俺は思った。
アンフィニもそのことを理解しているのか、必要以上の敵意を向けることも糾弾することもなかった。
だだ、理解はしているけど心が納得していないからこそ厳しい視線を仇の1人であるケイオスさんに向けてしまうんだろう。
二次元作品で味方の心情も敵の心情も知ることが多かったせいか、こういうことに対しては無駄に察しが良い自分がいることに驚く。
望む未来は違っても掲げているものはどちらも正義、と言う教え(?)はアニメやゲームでよくあるし、そう言う想いのぶつかり合いはアツイと思うし毎回泣く。
すぅ、はぁとアンフィニは自分の心に巣くう黒い感情を沈める様に短い呼吸を繰り返す。
「お前たちに長様が倒された後、俺たち兄妹はまた居場所を失った。精神面で脆いところがあるフィニィは大好きな長様を失ったことにより、毎日泣いて叫んで、自分の周りの物を全て破壊した。俺の声すらも届かない状態だった」
『それで、散々暴れた後に怒りの矛先が神子とその仲間に向いたんだね』
聖の言葉にアンフィニが更に声を低くし、震わせながら答えた。
「ああ。フィニィは長様の命を奪ったお前たちを消せば、自分を支配する悲しみや憎しみを消すことができると本気で思っているんだ」
憎しみに囚われた人間ってみんなそうなるよな。心の隙間を埋めたいのか、苛立ちを鎮めたいのか、必ずと言っていいほど仇に執着する傾向がある。
負の感情に支配され狂った者が復讐を果たそうとしても幸福になるケースは少ない。大概は達成前に自壊することが多い。
アンフィニがこんなにも必死に言葉を投げかけて来るのは多分、フィニがその最悪の末路へと進んでいるからなのだろう。
俺が複雑な思いを抱え始めている間にも、必死の語りは続いて行く。
「改めて言わせてもらう。俺もお前たちが憎い。だが、復讐を果たしたところで得られるものなんてない。自分の精神をすり減らすだけだと言うことは俺でもわかる」
悔しさと悲しさが入り混じる叫びに全員が顔をしかめる。本当は自分も苦しいだろうに、大切な家族を奪った神子一行が憎いだろうに。
それでも必死で現実と向き合おうと懸命に語るアンフィニの姿をその場の全員が複雑な心境を抱きながら無言で話に耳を傾け続ける。
「憎しみに心を支配され、無理矢理魔力を使って心と体を蝕まれ続けるフィニィを見るのは嫌なんだ!お願いだ。どうか、妹を救って欲しい。俺もできる限り協力をするから」
慎重に力強く、決意と誠意を感じられる言葉にその場が静まり返る。
度重なる不応で運命の歯車が狂ってしまったこと、フィニィがどうして神子一行に復讐をしたいのか、そしてアンフィニがフィニィを大切に想っていることは理解できた。
理解はできたが、信用してもいいのかと言う気持ちもある。初めて会った時、アンフィニが俺たちに攻撃を仕掛けて来た。それはこの身で体験した紛れもない事実だ。
あの攻撃に躊躇は一切なかったし、間違いなく命を奪う気満々だった。今までの話やフニィへの想いが嘘ではないにしても、俺たちに協力したいと言う発言は罠の可能がある。
ほら、真実と嘘を交えて話せば嘘がバレにくいって言うし。
しかし、壮絶な過去をあれだけ真剣に話してくれたアンフィニに信じられないと告げるのはあまりに酷だ。無碍に扱ってしまうことに戸惑いがある。
どう反応していいかわからず、ふとシルマを見れば彼女も信じたいけれど、すんなりと受け入れるにはリスクがあると考えているのか、複雑な表情をして黙っていた。
シュバルツは話が難しくなって退屈したのかベンチに座ったまま小石を蹴って遊んでいた。
「ごめんな、もう少し付き合ってくれ」
「うん。難しい話は分からないけど、クロケルのためなら頑張って聞く」
頭を撫でればこくりと頷いて健気な言葉を返して来た。うう、推しの容姿でそんなことを言われるとすごく複雑だ。
嬉しいと思う反面、シュバルツが模している「影坊主」はこんなキャラではないので若干解釈違いだと思ってしまう自分がいる。
ミハイルに至っては大あくびをしてひたすら毛繕いをしていた。話に参加する気ゼロである。お前、何のためについてきたの……ラピュセルさんのためか。
今回の件のまとめ役であるケイオスさんは、アンフィニの腹の内を探っているのか、慎重に言葉を選んでいる様で口元に人差し指を当てて考え込んでいた。
『君、本気?一度攻撃を仕掛けられた相手を信用しろって?』
誰よりも先にどストレートな疑いの言葉を口にする。相変わらず鋼の心臓である。そして場の緊張とケイオスさんの慎重な言葉選びもブチ壊しの台無しである。
「最初から信用されようとは思っていない。俺が話したことを信用するのも、俺に協力しないのも自由だ。判断はお前たちに任せる。だから悪いが早く返事をくれないか。そろそろフィニィが俺の帰りが遅いと気がつきそうだ」
アンフィニが辺りを気にしながらそわそわとし始めた。どうやらあまり悩んでいる時間はない様だ。
「アンフィニさん、お伺いしても」
「なんだ」
疑念が支配する空間でケイオスさんが落ち着いた穏やかな質問にアンフィニが怪訝な顔をしてそちらを見やる。
ケイオスさんはアンフィニをしっかり見つめ返してある質問をした。
「あなたはどうして仇である私と、一度戦ったクロケルさんたちに協力を求めようと思ったのですか」
その言葉を聞いてハッとする。そう言えばそうだ。アンフィニの過去が壮絶過ぎて認識が薄れつつあったが、元々は俺たちは対立するもの同士だ。
そもそも俺たちがここにやって来たのも暗殺を遂行しようとするフィニィを止めるためだし、アンフィニも自身の口から憎しみはあるとハッキリ言っている。そんな相手にどうして頼ろうと思ったのか。
改めてその場の視線を集めたアンフィニは俯き、暗い表情で悔しそうに言った。
「俺だって憎い相手に頭を下げたくない。だが今のアンフィニは実験と憎しみの影響でそれなりの魔力を有している。中途半端な実力の魔術師では止めることはできないと思う」
そこまで言うとアンフィニは顔を上げ、横並びに座る俺たちと宙に浮くにブレット、ベンチの背もたれに気だるそうに止まるフクロウにそれぞれ見てから口を開いた。
「神子の元仲間である魔法学校の校長、グラキエス王国の国王を襲撃時、その場に居合わせていたお前たちからは強い魔力を感じた。これだけ実力者が揃っているのなら、暴走するフィニィを止めることができるんじゃないかと判断した」
ん?俺たちから感じた強い魔力ってなんだ。聖は自分の魔力気配を消していると聞いたことがあるし、シュバルツは力をつけたと言ってもまだまだ発展途上だろ。居合わせただけで感じる強大な魔力の持ち主ってまさか……。
ぐるんと勢いよくシルマの方を向くと彼女は一瞬俺と目が合った後に、勢いよく明後日の方向を向いた。うん、この反応はアンフィニが言う「強い魔力の持ち主」が自分だって自覚はあるな。
だって震えながら小声で「もっと魔力を抑制しないと」とか「魔力を押さえる魔術ってあったかな」とか言ってるし。
恐らくドギマギしているであろうシルマをジト目で見ているとアンフィニが肩をすくめてため息交じりに続けた。
「それに、俺には頼れる知り合いなんていない。だったら仇とは言っても、戦闘能力が高くて長様や人工魔術師のことを含め、事情を理解できる人間に話をして協力してもらった方が賢いだろ」
頼れる人がいないから、例え敵であっても協力を求める。それはアンフィニがそれほど焦っていると言うことだ。フィニィは思ったよりも危険な状態にあるのかもしれない。
アンフィニが俺たちを頼る理由は理解できた。我ながら性格の悪い見方になるかもしれないが、フィニィとの戦いで俺たちが大怪我しようと、最悪の場合命を落とそうと心は痛まないと言う考えもあるのだろう。
俺たちが敗北しても結果的に敵討ちは成立するし、俺たちがフィニィを止めることができれば最善の結果となる。俺たちが勝利しても敗北してもアンフィニにとっては損な結果にはならないのだ。
必死で訴えている裏で中々強かな考えを持っているな。と思うと同時に相手の黒い思惑を瞬時に読み取る自分が悲しくなってくる。
だって、二次元の世界では裏切りは必須なんだぜ。声優、見た目雰囲気、言動、見抜けるヒントは多々あれど、推しが裏切り者で対立からの最終的には死亡と言う展開は色んな意味で泣ける。
自分の推しじゃなくても主人公が信頼している相手が裏切り者と言う展開では第三者目線で「やっぱりかぁ」と思いながらも、精神滅多打ちで絶望する主人公を見て「主人公ぉぉぉぉっ」とテレビの前で叫んでいたし、ゲームの場合はアホみたいにコントローラーを握りしめていた。
オタクの性なのだろうか。こう言うゲーム的な状況では裏を読むクセがついている。
アンフィニみたいな敵ポジで壮絶な過去を持つキャラが仲間入りする展開は疑うべきこと、色んなフラグが乱立している気がしてならない。
最終的に裏切りフラグはもちろん、アンフィニに死亡フラグか兄妹決別フラグが立っている気がする。何にせよ、アンフィニに協力してもこちらにリスクはあれどプラス要素は見当たらない。
『僕も君の考えに賛成だよ。協力するにはこちらのリスクが大きすぎる』
相変わらず遠慮も許可もなしに俺の心を読んだ聖が俺が心に抱える考えに賛成した。やっぱりそうだよなぁ。と思うと同時に、決断しきれない自分がいる。
アンフィニたちの過去は本当に気の毒だと思うし、妹を想い必死に訴える兄の気持ちは無碍できない。寧ろ過去のしがらみから解放してやりたいと言う想いも少なからずある。
保守的な気持ちと善意の気持ちが俺の中でせめぎ合う。もっと俺が冷酷な人間なら簡単に割り切れるんだろうけど、所詮俺は平和な世界で生きて来たお人好し。困っている相手を切り捨てるなんてできない。
シルマも勝手に返事はできないと黙り込んだまま動かない。時折、チラチラと様子を窺う様に俺の方を見てくるが、悪いな。俺も決めあぐねているんだよ。
躊躇と戸惑いが支配する中で、ケイオスさんが唐突にパンッと両手を合わせ、場の空気にそぐわない明るい声で言った。
「いいじゃないですか。ここは彼のことを信用してみましょう」
あまりにもあっさりと紡がれた言葉にその場にいた全員が固まり、言葉を失ってケイオスさんを凝視する。
数秒間を開けて、俺はやっと言葉を発することができた。
「え、えええっ。そんなゆるゆるでいいんですか!?協力しちゃう感じ?」
『嘘でしょ!?君、いつからそんなお人好しになったのさ』
動揺してオロオロとする俺と、ケイオスさんの言動を予想していなかった聖が詰め寄ると、ケイオスさんはケロッとして言った
「いやあ、フィニィさんについてはこちらも行き詰っていましたし、例えこれが罠でもフィニィさんに辿り着くならそれもアリかなぁと思いまして」
満面の笑みを浮かべて人差し指を立てている姿が微妙に腹立つ。自ら罠にハマって行くスタイルの方でしたか。良いですよね、強い人は!何があっても対処できますもんね。
テンパりまくりで不満が残る俺たちにはお構いなしでケイオスさんはアンフィニに向き直った。
「と言うことで、私たちはあなたに協力します。ただし、あなたを完全に信用はしておりませんので悪しからず。戦闘になった際はこちらも全力で行かせて頂きますので。こちらの目的はフィニィさんの拘束ですのでそのことのご了承ください」
ケイオスさんが張りついた笑顔でアンフィニに向かって手を差し出した。
「ああ、戦闘になった際の覚悟はしている。フィニィの命を奪わないと約束してくれるなら、俺も余計な手は出さないと約束しよう」
アンフィニもゆっくりと手を差し出す。
「はい。妹さんの命は保証しますよ。なるべくね」
ケイオスさんの白くしなやかな手と、ぬいぐるみの丸くモフッとした手がしっかり繋がれた。
「では、契約成立と言うことで。今からあなたは私たちの味方です」
「ああ。わかった。よろしく頼むぞ」
何、何なのこのカオスな光景は。敵との協力が成立したと言うシリアス且つ重要な場面なのにとてつもなくシュールなんだが。
「シルマ、あの子、仲間になったの?」
シュバルツが急展開について行けず、キョトンとしてシルマの服の裾を引っ張って聞くとシルマは困り顔で笑いながらあやふやに答えた。
「そうですね。とりあえずは仲間になったみたいです」
「そっか、仲良くなれるといいなあ」
ああ、純粋なシュバルツの言葉が心を癒してゆく。素直なところは可愛いとは思うが、これから生きていには危機管理能力も大事だぞ。
……あとで注意しておくか。
「それでは、新たな仲間も加わったところで作戦会議を再開しましょう。アンフィニさん、お時間はまだよろしいですか」
「一旦フィニィのところへ戻りたいところだが……」
ケイオスさんとアンフィニが頭を突き合わせて色々と確認を始める。なんと言う切り替えの早さ。展開について行けない俺たちは瞬きをするしかできなかった。
『うーわー。何考えてんのあいつ。信じられない』
聖が呆れた様子で毒を吐いてケイオスさんの方を見つめていた。
こうして、よくわからない内に敵だったはずのアンフィニが即席パーティに加わったのだった。
「はあ、アホらし」
シリアスモードから一変し、ゆるゆるモードに突入した俺たちを呆れて見ながらミハイルが大きくため息をついた。
ため息をつきたいのはこっちだよ。急展開過ぎて心がプチパニックだわ。頭回らねぇわ!そんな不満が溢れて思わず震えていると、中庭に繋がっている渡り廊下から声がした。
「あ、校長センセーだ。こんにちは」
「こんにちはー」
それは可愛らしい、少女らしき2人の声だった。
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聖「次回予告。アンフィニと協力関係になったクロケルたち。この選択が吉と出るか、凶と出るか。今後の展開と声の主が気になるところだね」
クロケル「はあ、レベル1のまま大いなる戦いに巻き込まれる気配がする……」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第43話『契約の成立、兄妹の決別』アンフィニの選択が運命を変えるみたいだね」
クロケル「え、まってそのタイトル……俺の発言したフラグ回収してない?」
聖「どうだろうねぇ」
クロケル「気になるんですけどぉー!?」