第40話 運命を狂わされた双子
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
ギャグってタ関連ワードつけているのにもうギャグの欠片も見当たらない……ギャグ風味にしておこう。うん、そうしよう。ギャグだと思って見た方をガッカリさせてしまう。
今後、登場人物が増える予定なのですが扱いきれるか不安になって来ました……。頑張ってくれ、私の少ない脳みそとタイピングが遅い腕!
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「秘め事?願い?どう言うことだ」
突然訳が分からない言葉を並べれられ、俺の口から疑問の言葉が漏れる。
アンフィニは気まずそうに視線を逸らし、そして感情を抑える様に震える声で言った。
「それを理解してもらうには俺たちの過去を知ってもらう必要がある」
「過去……」
俺の脳裏にさっきまで目を通していた資料の内容がフラッシュバックする。
アンフィニたち兄妹の過去はある程度知っている。と言うか知らされた。
人工魔術師の研究所のデータを元にケイオスさんと推測も交えて話し合ったばかりだ。研究員たちによって幼い体を道具同然に扱われていた過去。
データを見ただけでも研究員たちに嫌悪を覚えたし、敵として警戒していたアンフィニたちに同情してしまった。今思い出しただけでも心が重くなる。
それはみんな同じだったようで、その場の空気が鉛の様にずっしりとしたのを感じたのか、アンフィニがあっさりとした口調で言った。
「因みに、事前の偵察でそこの校長が人工魔術師の研究をしていることも、お前たちが俺たちの過去について話していたことも全て知っているし、今更過去を知られ様が同情されようが何とも思わない。気にするな」
さらっと紡がれた予想外の言葉に驚いた。沈んでいた空気が動揺の色へと変化するのが分かった。どうやらみんなもアンフィニの言葉に驚いているらしい。
事前の偵察っていつのことだ。俺たちが人工魔術師について話している時には既に潜入していてこちらの行動を観察してたってことか。全然気がつかなかった。
ミハイルさんは結界に揺らぎがあったって言っていたが、あれは人工魔術師の話を始めて暫く経ってからの発言だったし、それまでは上手く気配を消していたと言ことが考えられる。
俺意外の面々はそれなりに魔力感知能力が高いはずだから、それを欺いていたのは純粋にすごいと思う。
「お前たちの持つ情報と被っているところもあると思うが、どうか聞いて欲しい」
動揺する俺たちに構うことなく、アンフィニは話を進めて頭を下げた。もう何度目かと思うほどの必死の「お願い」だった。
短時間でこんなにも頭を下げると言うことは、余程話を聞いて欲しいのだろう。内容もとても重要で急を要するものの様な気がして来た。
「はい。お願いします。あなたたちに何があったのかを教えて頂きますか。こちらとしては、なるべく詳細にお話して頂きたいですね」
色々と思うことがあるのか、ケイオスさんがお得の圧が含まれた微笑み浮かべて言えば、アンフィニはゆっくりと頷いてから淡々と話を始めた。
「俺たち兄妹は物心ついた時からスラムにいた。両親の顔は一度も見たことがない。多分、捨てられたんだろう」
両親に捨てられた。どうしてそんなことを簡単に言えるんだ。体はぬいぐるみだから表情が動かないのは分かるけど、家族に捨てられたと言う事実に対する口調から悲しみが1ミリも伝わってこない。
まるで「どうでもいい過去」だと言わんばかりにアンフィニがさらりと言ったので、俺もシルマも戸惑いを覚えてしまう。
「ご両親を一度も見たことはないのに、なぜフィニィさんと双子の兄妹であると言うことがわかったのですか」
心に影を落とし始めた俺たちとは対照的にケイオスさんは一切の同情を見せることなく、あくまでも義務的に質問をした。
話を進めることを優先しての判断だろうが、その冷静さに驚きとほんの少しの薄情さを感じたが、ヒトの上に立つ者としては恐らく正しい行動なのだろうと思いつつ、アンフィニの言葉を待つ。
「なんとなく、としか言えない。ずっと一緒にいたからな。証明するものがなくても血の繋がりがあると言う妙な確信はあった。書面上で確認が取れたのは研究施設に入ってからだ」
どんな質問にでも答える気はある様で、アンフィニは嫌な顔1つせずに答えた。ケイオスさんは質問を重ねる。
「では、あなたたちはどう言う経緯で研究施設に連れて行かれたのですか」
「きちんとした年数は覚えていないが、雨が降っていたのは覚えている。それまでは苦しいながらも何とか生きて来たが、あの時は食べる物も雨を凌げる場所も、暖を取る物すら持って行なかった。虫の息で倒れていた俺たちを研究員がたまたま拾ったんだよ」
「たまたまですか?」
淡々と言葉を紡ぐアンフィニにシルマが辛そうな表情で首を傾げて聞けば肯定の言葉が返って来た。
「ああ。本当にたまたま目についたんだと思う。未知の研究の実験体だから適当に見繕われたんだろう。でもまあ、待遇は悪くはなかった。治療はしてくれたし、風呂や食事の提供はあったしな」
その事実は意外だった研究レポートを見る限りでは毎日色々な実験を受け、体を疲弊させていた様に感じたからだ。
てっきり実験をしない時でも奴隷の様な扱いを受けていたと思ったが、必要最低限の生活はさせてもらえていたのか。いや、それでも辛い実験を強いられた事実は変わらないと思うが。
そんなことを思い唸っているとアンフィニは視線を下に落とし、辛そうに震えた口調で続けた。
「ただ、毎日の実験は苦痛だった。魔力を注がれる時や薬を打たれる時は痛いし、打った後に魔力が体中の血管を動きまわる感覚も熱くて痛くて、毎回涙が出た。頭も痛くなるし、目も回るし、何度か吐いたこともある」
「……」
その場にいた全員が口を紡ぎ、眉間に皺を寄せて俯いた。悲しそうにする表情、忌々しそうな表情をする者、震えて耳を塞ぐ者。反応は様々だったが、みんな嫌悪感を露わにしていた。
表情が確認できない聖はお怒りモード全開なのか、タブレットの向こう側からとてつもない暗黒オーラが伝わって来て寒気を感じた。
俺だっていい気分じゃない。当時のアンフィニたちは5歳。幼い体にそんなことをして研究者たちに罪悪感はなかったのか。必要最低限の生活を与えるだけでは全く釣り合っていないことにひどく憤りを覚える。
「兄妹で実験を受けることが多かったんだが、フィニィも苦しそうだったし、意識を失うことも多々あったが、あいつは魔力適正が高かったのか俺よりも体調を崩す回数は少なかった。そこは、俺にとって唯一の救いだった」
救いと言った時のアンフィニの声色はひどく優しかった。妹のことを大切に想っていることが伝わって来る。
「そんな生活を繰り返してして数年、俺は実験中に命を落とした。これは知っているな」
「はい。あくまで資料を確認しただけですが、あなたが亡くなったと事実なのですね」
淡々としたアンフィニの言葉にケイオスさんも冷静に確認する。
自分の死の事実すらも義務的に話の一部分として流したアンフィニに何とも言えない複雑な思いがした。
「ああ。俺の体は注入された魔力に耐えきれず崩壊した。だが、奇跡的魂はなんとか残ったんだ」
『え、じゃあ君の魂がぬいぐるみに入ったのは偶然の出来事だったってこと?』
聖が心底驚いた様子で食い入る様に聞けばアンフィニは自嘲気味に鼻で笑いながら答えた。
「ああ、変な感覚だったよ。体はないのに意識はあるんだ。俺の体が消滅したと慌てる研究員たちの姿や声、ガラスの仕切りの向こうで絶望的な表情を浮かべた音に喉が裂けてしまうのではないかと心配になるほど泣き叫んでいたフィニィの姿も鮮明に覚えているよ」
体はないのに魂はあるか……なんだか俺と状況が似ているな。俺は魂もバラバラになって、消滅した時の記憶もない。
「千賀和樹」の記憶を保持してここに存在できるのも、世界の長たる聖が特別に助けてくれたからだ。決して奇跡などではない。いや、選ばれし神子(世界の長)と別世界で親友だったことはある意味気奇跡かもしれないが……。
でも、アンフィニはどういうわけか魂をこの世界に留めたと言うのか。そんなことがあり得るんだな。
まさか、前長が助けたとか。聖も長として世界を監視しているって言ってたし、アンフィニたちを不遇に思った前長が助けたとか。
どう言うわけかこの兄妹と前長は家族だったみたいだし、可能性はあるよな。そう思って視線を送れば小声で即刻否定された。
『いや、それはないんじゃないかな』
「即答かい」
ちょっとぐらい考えてくれても可能性を考えてくれてもいいじゃねぇかよ。むくれる俺に聖はさらにグサグサと指す様に否定の言葉で俺を攻撃する。
『前にも言ったでしょ。僕が君を助けたのは特例中の特例。長は世界の住人に対して平等でなければならないって。それは前長も同じ。共通のルールだ』
「で、でもお前が俺にしたみたいに特例の可能性もあるだろ」
『だからないって。魂をこの世に留めるなんてやっちゃダメなの。君の場合は僕の異世界召喚に巻き込まれて消滅した別次元の存在だから成り立ったんだよ。別次元の人間を巻き込んでしまった償いを長として果たすと言う名目で魂を存続させたんだから』
聖の言っていることが分からなくなってきたぞ。要約すると消滅した時の俺は別次元の人間だったから、この世界のルールが適用されなかったってことになるのか?
でも個人のために長の力を使ったんならルール違反なことには変わりないんじゃ……と言うか長がルールを破った場合はどうなるんだ。
俺が頭をひねっている間にも聖のチクチク攻撃は続く。
『それに、これも言ったと思うけど長は1人しかいない。申し訳ないけれど、世界の全てを同時に監視することなんてできないんだ。広い世界のどこかで起こっている悪行をピンポイントで見つけて助けたなんて考えられない』
「だから可能性の話だって。わかったからチクチク言うのやめろ」
こそこそ長々と話す俺たちをケイオスさんが横目で見ていた様な気がするが、俺と目は合うと何事もなかったかの様にスッと視線を逸らしてアンフィニにさらに質問をする。
「それで、魂だけになったあなたはその後はどうなったのですか」
「魂だけになった時、自分の存在がひどく不安定だと言うことは感覚で分かった。このままでは魂の俺も消滅してしまう、そう確信したんだ」
『そうだね。魂だけではこの世に存在することは出来ない。留め置く器がなければ魂もいずれはマナの一部として世界に吸収され、自然消滅するのはこの世界の理だ』
アンフィニの言葉を肯定し聖が頷く。
そしてここに来て新たな世界の理とやらを知った。さらっと言葉の中に組み込まれたマナと言う言葉。
異世界冒険系のゲームを好んで遊んでいたため個人的には馴染みのある言葉だ。本来はメラネシア語で力と言う意味で使用されているが、オタク界隈でもそれに近い扱いで認知されている。
俺の認知では「世界に溢れている人知を超えた特殊な力」「強化に必要なリソース」と言った感じなのだが、この世界のマナもそうなのだろうか。
『そう、大体合ってるよ。マナはこの世界を龍脈のごとく流れる力。世界の源とも言える。この世界で死し魂はマナとなり、世界を巡ると言われているよ』
俺の心の疑問に聖が即座に答えた。毎回心を読まれるのは腹が立つが、読まれているが故に疑問が速攻で解消されるのは便利だなと思ってしまう自分がちょっと悔しい。
そんな風に俺と聖がまたコソコソと話していると、先ほどから不快オーラ全開で話を聞いていたミハイルが言った。
「魂が消えそうなら、そのまま消えればよかっただろ。どうせ体はないんだし、仮に助かったとして、また馬鹿らしい実験を受ける日々が続くだけだ。消えた方が楽になれるとおもわなかったのか」
おおう。中々厳しいことを言うな。このフクロウ……でもそれはちょっと俺も思った。自ら死を選ぶのは良くないと思うが、アンフィニの置かれた状況を考えると逃げたくなる気持ち、苦しい日々からの解放を望む気持ちはわからなくもない。
でもアンフィニはぬいぐるみの中に入り込んででもこの世に留まることを選んだ。それはどうしてなんだと俺も思う。
疑問の言葉と視線を向けられる中、アンフィニは自分の丸く愛らしい両手を見ながら切なげに言った。
「最初はこんな苦しい実験で体を好き勝手されるぐらいならこのまま消えた方がいいと思ったさ。でも妹が……フィニィが俺の名前を呼んで泣き叫ぶ声が聞こえて、あいつを残して死ねないと思った」
「つまりあなたがその姿になったのは妹さんのためと言うことですね」
ケイオスさんが確認するとアンフィニは頷いた。
「何とか魂の器を見つけようと朦朧とした意識で辺りを見回した時、フィニィ大切に抱きかかえているぬいぐるみが目に入ったんだ」
「それでぬいぐるみの中に入ったんですね」
今度はシルマが涙を堪えて震える声で確認する。アンフィニはまた頷いた。
「ああ。特別な魔法を使ったわけではないよ。ぬいぐるみに向かって夢中で突っ込んで行ったら入れたんだ。上手くいってよかったと思う」
「魂の存続、魔法を使わずに魂の転移に成功……にわかには信じがたいですが目の前の光景を見る限り信じざるを得ませんね」
ケイオスさんが顎に手を当て納得しがたい様子で唸っていた。
自らの辛く暗い過去を語ったせいで精神的に疲労を感じたのか、アンフィニは小さく息をついていから言った。
「そうしてなんとか自分の命を繋ぎ留めることはできたんだが、新たな問題が生まれた」
「新たな問題?」
疑問を投げかける俺、そして同じ疑問を持っているみんなも神妙な面持ちでアンフィニを見つめる。
張り詰めた空気の中、アンフィニは今までで一番苦しそうで、辛そうで、そしてどこか怒りの籠った口調で言った。
「俺の一件からフィニィの精神に異常が現れ始めたんだ」
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聖「次回予告。人工魔術師の研究に深く関わった兄妹の過去を知ったクロケルたち。でも、悲しい過去はまだ語られることが多いみたいだね」
クロケル「敵だと思っていたが、こうして話を聞くと蔑ろにできないよな」
聖「次回!レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第41話『差し伸べられた手』僕が神子として旅をしていた時にこんなことが起きていたなんて……」
クロケル「誰かを救うって難しいな。自分のために強くなろうとした自分が恥ずかしい」
聖「そうだね。あ、クロケルも誰かのために強くなりなよ。今からでも遅くないと思うよ」
クロケル「そんな軽いノリで志を掲げたくねぇよ」