第39話 ぬいぐるみの秘め事
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
もの凄く長くなってしまったので何とか分割してこの文字数にまとめました。切った分は次回に上手く入れ込めたらいいな、と思います。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
何も解決しないまま始まったドキドキの学校案内。因みにこのドキドキは「夢にまで見た魔法学校だー。楽しみだなぁ」ではなく「いつ敵に襲われるんだ。怖い、頼むから来ないで下さい。お願いします」と言う感情から来る動悸である。
しかし、辺りを警戒し、そわそわドキドキしているのは俺だけらしく、シルマは魔術師として憧れ続けてきた魔法学校に入ることができたことが嬉しいらしく、表情をキラキラさせて辺りを見回している。
シュバルツはモンスターであるため、人間の文化全てが目新しい様でシルマと同じくワクワクオーラ全開で目に映るもの全てを物珍しそうに見つめて歩いていた。
ミハイルはただ大人しくシルマの肩に止まっている。そう、ミハイルは比較的シルマに心を許している。多分、雰囲気がラピュセルさんに似ているから刺々しい態度を取りづらいんだろうな。
この短期間で大分ミハイルのことも理解できる様になってきた。二次元作品でもひねくれキャラは根は良い奴ってパターンが多いし。
まあ、俺たちがいた世界では「ひねくれだけど良い奴」とか「表向きの性格悪いけど実はいいヒト」とか言う展開は普通にありえないがな。大概性悪は性悪のまま人生を生きて行くよな。
「こちらは授業専用の棟です。主に座学を中心に様々な分野の授業を受けることが可能なのですよ」
ごちゃごちゃと考えことをしている間にも学校案内は絶賛続行中である。ケイオスさんの無駄にいい声のせいでどんなに考え事をしていても言葉が耳に入って来る。声の力って凄いなー(棒)
「広い教室ですね。簡易な劇場みたいです」
教室を覗き込んだシルマはキラッキラとした表情で感動を滲ませながら言った。
現在は授業中らしく、ミハイルさんは空いている教室の扉を開いて中に入れてくれた。どの教室も若干の広さの違いはあるけれど造りは同じらしい。
教室はシルマが表現した通り、劇場近い造りだった。正面には教壇があり、その背後に壁一面のホワイトボード、そしてリモコン操作でスクリーンも下りて来る仕組みになっていた。
緩い円状の造りになっているのか、教壇をぐるっと囲む様に木製の横長に繋がっている机と、長椅子が段になって並んでいる。1000人ぐらいは余裕で座れるんじゃないかと思う。
天井には小さなシャンデリアがいくつも並び、教室とは思えないおしゃれさを醸し出していた。
「ご存じかもしれませんが、我が魔法学校は年齢や種族に関係なく入学ができます。年齢によって学年を分けてはおりますが、共通の授業の場合は同じ教室で受ける場合もあります」
「共通授業?違う学年同士で同じ授業を受けられると言うことですか」
首を傾げた俺にケイオスさんがにこやかに微笑んで更に説明を重ねる。
「はい。授業は選択式です。年度の始めに学生が学びたいと思う分野を中心に講義を選び、自ら時間割を作成し、卒業までに必要な単位を取得してもらいます」
「なるほど、そう言うことですか」
要するに俺たちの世界で言う大学みたいなものか。大学とか、専門学校とか、好きな分野を中心に勉強できるのはいいよな。勉強へのモチベージョンも上がる。
その後も学校の幼等部から高等部までは制服が指定されているけど大学部は自由、など、規則や仕組みなどを教えてもらいつつ、俺たちは広いが学校内を見て回った。
実験や魔法薬学の授業で使う研究棟、その近くにはいくつか温室が並んでいて、貴重な植物や生物が保管・保護されているらしい。
また、戦闘術や箒を乗りこなすための訓練に使う運動エリアだと言うところには野球場かとツッコミたくなる規模の円状の体育館と、陸上競技場かな。と首を傾げてしまうほどの広さの運動場があった。
その他にも、様々な種族の味覚と文化に合わせた食事ができる食堂棟に、高級ホテルの様なクラッシックなデザインの建物と自然が溢れた学生寮などを案内された。
図書館も緑の煉瓦で作られたおしゃれな外観で、2階建て。蔵書数は貴重書を含め数千を超えるらしい。紙媒体もあるが電子媒体の所蔵もある他、学習部屋もあった。
ケイオスさん曰く、生徒数が多いためか用途ごとに棟が分けられているらしい。敷地面先が広いので、移動する際は箒を使って飛んで移動したり、上級魔法が使える人は瞬間移動をしているとか。
しっかしスケールが大きいなぁ。学生生活を送るには十分すぎる施設がぎゅっと詰まっていて驚く。何でもこの学校にはクラスと言うものが存在しないので生徒は決まった場所に留まらず、各々好きな場所で好きに時間を過ごすらしい。
これだけの環境を提供してもらえるのなら、具体的な金額は知らないが、入学日と年間の授業料がかかると言うのにも頷ける。
某テーマパークの様に広い学園内を徒歩で時間の許す限り見て回り、一段落ついたので俺たちはケイオスさんの提案で中庭にあるベンチで休憩することにした。
中庭からは少し距離がある、学園の中央にそびえる金色の鐘が自動で動き、その涼やかな音を学園中に響かせる。
休憩ついでにと学園備え付けの自販機でケイオスさんが飲み物をおごってくれた。腹黒だけど良い人だと思った。
鐘の音って何か物悲しさを感じるよな、あと不気味さ。その場の状況とか雰囲気もあるんだろうけど。俺だけちょっとビクッってなったから恥ずかしい。
「それにしても、来ないですねぇ」
缶の口をつけ、飲み物を一口飲んでからケイオスさんは気だるそうに言った。飲み物のチョイスがミルクセーキだったのでちょっとかわいいと思ってしまった。甘党なのかな。
「何がですか」
脈絡のない言葉に俺がその意味を聞き返すと、気だるい雰囲気のままケイオスさんから返答があった。
「刺客ですよ。フィニィ、といいましたか。なるべく姿が見える様に学園中を歩き回ったと言うのに、何も仕掛けてこないのはつまらないと思いまして」
つまらないってなんやねん。
俺は無意味に関西弁でツッコんでしまった。いや、ホントにつまらないって何、どう言うこと。何事もなければそれでいいじゃん!?
「つまらなくはないです。そこは安心しましょう?そして対策を考えましょう!」
「あ、そうですね。囮作戦も不発っぽいですし、今考えましょう」
にこやかに、そして驚くほど軽い返しをするケイオスさんの言葉で呆気に取られているとシルマが幸せそうにミルクセーキを飲んだ後、眩しい笑顔で言った。
「そうですね、甘いものを摂取したら頭の回転が良くなるって言いますし」
「クロケル!これ美味しい。ミルクなのに甘い!」
甘い飲み物を楽しみつつ、のんびり笑顔のケイオスさんとシルマ。俺の隣でミルクセーキに今日イチ感動するシュバルツ。
ミハイルは甘いものは苦手だと断った後、シルマの肩から離れてベンチの背もたれに止まった。
俺は小さく息を吸い、そして頭を抱えた。
何だこのマイペーズ空間はっ!緊張感まるでゼロ……。俺か、俺が神経質なだけなのかっ!?でもこっちも命がかかってるんで。必死なんですよぉ。
マイペースな連中にストレスを感じ、せっかくおごってもらった缶を握りつぶしそうな勢い震えているとクイクイと服の裾を引っ張られた。
「クロケル。あれ、ぬいぐるみ」
シュバルツが指を差した先を見ればツギハギで眼帯をしたクマのぬいぐるみが自立した状態で木に隠れる様にしながら顔を覗かせていた。
俺はそれをじっと見つめて、起動中のパソコンの様に暫く思考をグルグルと巡らせ、そして目に映った光景がやっと脳に伝達し、叫んだ。
「なんかいるゥーーーーーーー!」
中庭に響き渡るほどの音量で絶叫してしまったせいでその場にいた全員を驚かせてしまった。
『ちょっ、クロケル。うるさい』
聖に注意されて我に返り、辺りを見回せばこの場のみならず遠くに歩いていた人たちの視線まで浴びる状況に陥っていた。
「す、すみません……」
注目の的となり、超絶恥ずかしくなった俺は小さな声で謝ってその場で座った。
少しだけ心を落ち着けて改めてぬいぐるみがいた方を注視すると、それはポテポテとファンシーな足音を立てながらこちらへ近づいて来た。
それにより、シルマたちもその存在に気付いて目を見開く。
「まあ。あのぬいぐるみは」
『フィニィって子が持ってたものと同じだね』
「へえ、あれがお兄様か」
そんな会話が繰り広げられている間にもぬいぐるみは弾む様な足取りでファンシーに距離を詰めて来て、そして俺たちの前で止まった。
暫くの沈黙。ぬいぐるみと見つめ合うと言う珍妙な時間が数分続いたあと、ぬいぐるみが突然口が開いた。
「驚かせてすまない。突然で悪いが、どうか話を聞いて欲しい」
シャベッタァァァァァ!!とまた絶叫しそうになったが慌てて口を塞ぐ。何故ならぬいぐるみが独りでに喋って動いていると言うのに誰も動揺していないからだ。
そう言えばここにも喋るAIと喋るフクロウがいたんだった。異世界ではこう言う系は普通だったんだ。落ち着け俺、常識に囚われるな。
『何で君、こんなところにいるの。まさか、偵察しにきたとか?』
「そうだな。俺はフィニィに偵察を頼まれてこの学校を動き回っている」
聖が厳しい口調で聞けばぬいぐるみは戸惑いを一切見せることなくあっさり認めた。意外な態度にその場にいた全員に驚きと警戒の色が浮かぶ。
「随分とあっさり認めるのですね」
ケイオスさんが警戒をしながらも落ち着いて聞けばぬいぐるみは平然として言った。
「俺は戦に来たわけではないからな。お前たちと話をしに来たんだ。フィニィには偵察をして来ると言ってあるがな。一応、あいつとの魔力通信も切ってあるから話の内容は聞かれていないはずだ」
話ってどういうことだ。つまりこいつに戦う意志はないと言うことか?でも、コレ、信用していいのか。罠の可能性もあるよな。
確かに、今のところ敵意は感じないが警戒はした方がいい。同じことを思ったのか俺たちはそれぞれ自然に目配せをする。そして頷き合い、そしてケイオスさんが代表で口を開く。
「お仲間に嘘までついて私たちと話し合いにやってきたと言うことでしょうか」
「ああ。俺が自発的に動いている」
ぬいぐるみはしっかりと頷いた。あまりにも堂々とした態度のためか、嘘を言っている様には見えない。
『とりあえずは信用してもいいんじゃないかな。魔力通信を切ってあるのは本当。この子は今、何ひとつ魔力は使ってないね』
張り詰めた空気の中、ぬいぐるみをアナライズした聖がそう言ったので、少しだけ空気が緩む。
「場所を移動しましょうか?こんなところで話しているとお仲間に気づかれるかもしれませんし。結界の中でお話した方が良いのではないでしょうか」
周りを気にしながらケイオスさんが小声で提案するもぬいぐるみはゆるゆると首を横に振ってそれを断った。
「いや、俺の気配があいつの意識から消える方が危険だ。俺はフィニィに信用されているから、余程帰りが遅くならない限りは俺を探しには来ないと思う。だが、手短に話す」
そう告げられたケイオスさんは仕方がないと唸った後に頷いた。
「わかりました。では、このままお話をお聞かせ願いますか」
「ああ」
ぬいぐるみは単調に頷き、そして少し間を開けた後、再び口を開く。
「俺はアンフィニ。正真正銘、フィニィの双子の兄だ」
「それは、実の兄妹って認識で間違いないのか」
「ああ。血のつながった家族だ」
俺が聞けばアンフィニはしっかりと頷く。実の兄が妹に嘘をついてまでの俺たちに話したいことってなんだ。
『それを聞いたらますます疑問が深まったんだけど。君の妹は家族同然だった前長の命をうばった神子とその仲間に復讐しようとしてるんだよ。君も志は同じなんじゃないの』
相手の様子を窺うことなく、聖がズバリと聞く。それは俺も気になったところだ。一度俺たちを襲って来たのは事実だし。
上から無表情の巨大ぬいぐるみが落下して来た時の恐怖の光景は今、この瞬間も鮮明に思い出せる。あれは俺たちを本気で潰しにかかっていた。
聖に質問を投げかけられたアンフィニは顔を伏せて黙り込んでしまった。その態度にみんなの疑念が深まり、再び警戒心が強くなるのを空気で感じた。俺も思わず身構えてしまう。
「確かに、長様の命を奪った神子と仲間は憎い。それは認める」
たっぷりと間を開けた後、アンフィニは俯いた状態でポツリと言った。やっぱりか、とその場の誰もが攻撃に備えて構えたが、彼の言葉は静かに続いた。
「でも、俺はそれ以上に憎しみに囚われて壊れて行く妹を見たくないんだ。だから、お前たちと話に来た」
顔を上げて強気な口調で言うその姿からは決意が感じられた。見た目はゴシックでほぼ無表情のはずなのに、目の前のぬいぐるみからは熱く燃え上がる生命の意志を感じる。
一生懸命とはこう言うことかと思うほどの勢いに圧倒された俺たちは、警戒心を解き、今度こそ真剣にアンフィニと向き合うことにした。
「今から話すのは、長様がお亡くなりになり、妹が神子たちに復讐を決意したその時から、俺がずっと持ち続けていた秘め事。俺の決意で、俺の願いだ」
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聖「次回予告。アンフィニから語られる双子の過去。アンフィニの秘めた想いとは、そして何故アンフィニはぬいぐるみになったのか。その謎が明かされる!」
クロケル「少しでも話が言い様に進むと思いたい……戦闘も避けたいし」
聖「次回!レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第40話『運命を狂わされた双子』運命の歯車はどこで狂ってしまったんだろうね」
クロケル「こう言うのって悲しいよな」
聖「うん。だからこそ、僕たちが頑張らないと!」
クロケル「うっ、そ、そうだな。なるべく、俺の力が及ぶ範囲で頑張るな」
聖「歯切れ悪いなぁ」
クロケル「うるせぇっ」




