第3話 異世界転生!大当たりの魔法騎士
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
2話の次回予告を変更し、このお話(3話)の最後に持って来ました。回想編(と言うなの設定説明)を長くしたくなかったのですが、致し方なく……。
次回からお話が動きます。ああ、早く女の子出したい(切実)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
聖に問答無用で鷲掴みにされた挙句、異世界転生ガチャと言う奇怪な言葉と共に突然現れた謎の亀裂に放り込まれた俺がその先で目にしたのは、緑が溢れる広大な大地だった。
抜ける様な青空、浮かぶ白い雲、地面を埋め尽くす緑。頬を撫でる風が温かく、心地が言い。風が吹けば木々がこすれてさわさわと音をならし、心が穏やかになってゆくのを感じる。
ふと足元を見ればキツネなのかウサギなのかわからないモフモフした生き物が、耳と鼻をピクピクと動かしながら駆け回っている。
牧場にも似た光景だが、見慣れぬ動物や植物がどこか非現実さを感じる目の前の世界はまさにオープンワールド。二次元好きの俺の心を掻き立てる風景だった。
このわけのわからない状況に不覚にも心を躍らせていると、何かが俺の視界を遮った。
『ようこそ。僕が治める世界、クレイドルへ』
「うわ、なんだっ」
突然視界に飛び込んできた10インチほどの大きさの銀色のタブレットに俺は驚いた俺はその場で仰け反る。
何とか体制を立て直し、喋るたびにピコピコと黄色く点滅する奇妙なそれを凝視する。
『あはは。和樹ってばビビりだなぁ。声をかけただけなのに』
「この声……お前、聖か」
姿は見えないが、タブレットから聞こえる声は確かに聖のものだ。さっきまで会話をしていたんだから聞き間違うはずがない。
「なんでお前タブレットになってんだよ。あと、お前が治める世界ってどう言うことだ」
『僕はね、神子としてこの世界に召喚されたんだけど、時空と世界の均衡を守るためにここに残るしか選択肢が残されていなかったんだ。だから、今の僕はこの世界を治める長』
「はあ!?この世界の長ぁ!?」
再開したとたん2つほど疑問が増えた俺が聞けば、とんでもないことを平然として言いやがったことに俺は軽いめまいを覚えた。
ちょっと、いや大分よくわからん。聖の言葉に何ひとつ理解ができん。納得もできん。と言うか圧倒的に言葉が足りない!
「待て待て。ちゃんと説明しろ。自分が理解できていることが他人にも理解できていると思うなよ」
『でも事実なんだけどな』
銀のタブレットからふてくされた声が聞こえるが、文句を言いたいのは俺の方だから。俺の何て今この瞬間まで何に1つ把握できていないんだぞ。
「大体、異世界召喚されたら普通は役目を終えて元の世界に帰るのが普通じゃないのか」
一度命を失って転生とかならともかく、異世界召喚後の出会いと別れは物語における一種のロマンだろ。
召喚先で仲間を集めて、旅をして、時にぶつかり合いそして己の役割を果たして、最後には涙の別れ。
元の世界で別れた仲間のことを想いながら異世界での自分の成長を感じ取り、元の生活に戻って行く……。
まさに王道の展開。最近では現実世界と異世界を自由に移動できる展開もあるが、俺は王道が好きだ。
『それはあくまでファンタジー。二次元の世界の常識だよ。それにセオリー通りなら、君も僕と一緒に異世界召喚されるべきだしね』
「あー。それは俺もちょっと思った。大体は巻き込まれ召喚された場合、ご都合主義で実は俺にも隠された力が。みたいな展開になるはずだもんな」
まあ、所詮モブでしかなかった俺は見事に消滅したわけだが。現実は厳しい。厳密に言うとモブには厳しい。
「お前は、元の世界に帰れなくてもいいと思っているのか。この世界の長になることに納得はしているんだな」
自分がモブであることとそれによって消滅してしまったことは受け入れがたいが、それ以上に強制召喚された挙句に大役を担うハメになっている聖に念のため確認をする。
自己犠牲の精神で無理やり世界の長なんていう壮大な役目を果たそうとしているなら、元の世界に戻るように説得してやる。
『うん。それについては、ちゃんと自分で考えた結果だから問題ないよ。ありがとう』
「でも、お前が帰らないと両親が心配するだろう」
聖は家族仲はよかったはずだ。俺も幼馴染故に何度も世話になっているが、両親ともに気さくで優しい人たちだ。
『あー、そうだね。ここに残る選択を迫られた時には両親のことを考えたよ。でもね、異世界で色んな経験積んじゃうと、例え自分の世界に帰れても元の生活には戻れないよ。それは実感した』
今の聖はタブレットの姿をしているため、表情は読み取れないが聞こえる声色は悲しみが籠っている様に思う。
神子となり世界を救ったと言うは聞こえはいいが、特別な存在だったからと言ってうらやましいかと問われると一概にそうとは思えない。
俺はゲームぐらいでしか『主人公』になったことがないが、大体の主人公は作中に置いて結構辛い経験をしている。
しかも設定年齢の多くは俺たちと同じ十代。人生経験も浅く、精神的に未熟な年齢だとは思う。
精神的にも肉体的にも子供な存在が世界の危機に直面して、場合によっては自分の手で他者を殺めなければならないこともある。
ゲームの世界ならそれは容易いが、現実にそれをやれと言われてできる年齢ではない。生粋のサイコパスなら別かもしれんが。
戦って心身ともに傷ついて、辛い思いを重ねたのなら人生観も変わるだろう。
もしかして聖もそうなのか。だから、再会した時にどこか悟りを開いた雰囲気だったのか?
こう言う場合、なんと声をかけていいか俺にはわからない。聖がどんな経験を積み、何を見て何を感じて来たのかわからない俺が何を言っても他人事だし、キレイ事になりそうだ。
『それにこの世界に留まることを決めた時点で、元の世界からは僕の存在は消えるんだ。だから、今頃両親の中では僕はいなかったものになっている』
一言も言葉を発さない俺に気を遣ったのか、聖はわざと明るい声で簡単に言ったが、実の両親に忘れ去られるなんてそれはとても悲しいことだ。容易に受け入れられる事ではない。
そしてタブレットの姿をした聖はさらに落ち込んだ声色で俺にとんでもない事を伝えて来た。
『……すごく言いにくいけど、君も僕と似た様な状況なんだ。何度も言うけど、君は時空の狭間で消滅した。様々な時空が入り乱れる場所での消滅せいで君の時間軸に影響が出てしまったみたいで、君と言う存在は僕と同じく最初からいないものになった』
「つまり、俺の両親からは俺の存在が消えてなくなっているってことか」
『うん。そうなるね』
「そうか」
聖に肯定され、心の奥がひやっとする。両親の記憶から俺の存在が消えている。ショックを受けたことには変わりはないが、現実味がないからかどこか他人事に様に思えてしまい、意外と冷静な自分がいることに驚く。
よくわからない感覚についぼんやりとしていると聖が明るく言った。
『でも、この世界の長に慣れたことでほぼチートになれたから、君の魂を再構築できた上に異世界転生させることができたんだ。だから、結果的には良い選択をしたと思ってる』
「そう、それだよ。てめぇよくも人のこと鷲掴みやがったな!」
思い出した。こいつ、突然俺のことを乱暴に掴んだ挙句に謎の亀裂に問答無用で放り込みやがったんだった。
呑気に浮遊するタブレットに掴みかかる。ん、掴みかかる……?
唐突に体に違和感を覚え、手を見て足を見る。
「体が、ある」
時空の狭間では魂だけの存在とやらで体がなかったはず。そう説明も受けた。でも、今はある。
ただ、目に映ったのはゴツゴツガサガサとした見慣れた手や、使い古したスニーカー(俺の学校は靴については動きやすいものなら指定はなかった)ではなかった。
多少がっしりとはしているが、色白でしなやかな手。そして何か履くのが難しそうな構造の黒いブーツだった。しかも何か竜みたいな装飾が施されているし。
体を触って確認したが、意識を失う前までは制服を着ていたはずだったのに今は違う。足首までの黒いロングコートの下にはシンプルな白いシャツ、そして黒いズボンと全身ほぼ黒ずくめになっていた。
何これ地味すぎじゃね?ゴシック通り過ぎてただの地味な格好じゃんよ。服のデザインで誤魔化されてる感じが半端ない。
あと心なしか目線が高くなっている様な気がする。いや、絶対高くなっている。
『そうだよ!君は転生したことによって、新たな体を手に入れた。確定なしのガチャなのに大当たり!やったね』
するりと俺の手から抜けだしたタブレットは、くるくると回転しながら楽しそうに言った。シリアスモード終了の気配を察知した。
「なあ、そのガチャって何なんだよ。何が当たりなんだ」
『あ、そうだね。その説明をするよ。まずは君の今の姿を確認してね。はいドーン』
自前の効果音を発しながらタブレットの画面がパッと切り替わる。俺の背後の景色が映っていることから恐らくインカメにしたのだと思われる。
「え、何、写真撮るの?」
この状況で?とドン引きしていると聖がすぐさまそれを否定した。
『違うよ。君の姿を見てもらいたいの。ほらぁ、ちゃんと見て』
その画面のまま俺にぐいぐいと詰め寄って来たので、ウザさを感じながらも渋々タブレットを覗き込む。
「えっ、はっ?んん!?」
タブレットに映り込んだ己を見て動揺して思わず感嘆詞だけになってしまったが、これは仕方がない。仕方がないよな。
だって、タブレットに映ってるの俺じゃないもん。とんでもないイケメンが映り込んでる。全体的にキラキラしてて眩しい。
『驚いた?この世界での君だよ』
表情は見えないが声色からドヤァと言う効果音が感じられる。嘘だろ。これ、俺なの?
くせ毛気味で肩までの漆黒の髪には紫のメッシュが入っている。切れ長の瞳の色はルビーを思わせる赤色で、輝く美しさだった。外見年齢は20代前後といったところか?
あともの凄く色白だ。だけど、決して中性的と言うわけではなく、しっかりと男性とわかる骨格だ。なんかすげぇ強キャラって感じがする。
この容姿だとこの全身黒ずくめスタイルも凄くスタイリッシュに見えて来る。外見の影響は大きいんだなと思い、空しくなる。
あと、個人的にはこう言う見た目のキャラは女子人気が高そうだと言う印象。クールで孤独な一匹狼。
当初は主人公と敵対もしくはライバル関係で、物語中盤から終盤直前辺りに仲間になるタイプ。もしくは主人公側の初期メンバーだとしても、秘密を保持しており常に別行動をとるヤツ。
『さっき次元の狭間で僕が作ったのは異世界の入口。そこを通れば転生できるんだけど、何に転生するかまでは保証できなくてね』
タブレットの俺を映すタブレットの画面が消えて再びピコピコと点滅しながら聖が呑気な声で言った。そして俺はその言葉に納得する。
「ああ、なるほど。それで確定なしの異世界転生ガチャって言ったのか」
『そうだよ。下手したらそこの小動物型モンスターになってた可能性もあるんだから』
そこ、と言いながらタブレットが画面を明後日の方向を向けたので俺もそれに習うと、モルモットに似た毛深いネズミの様な生き物がのそのそと歩く姿が見えた。
そう言う未来もあったのかと思うとちょっとだけゾッとした。ヒト型で強キャラ感がある姿になっていて良かったと心の底から思った。
「確かに、大当たりかもな」
『でしょー。ほらほら、コレが今の君のステータスだよ。確認してね』
「おわ。なんか出た」
ピコンと音がして空中に画面が現れた。そこには異世界文字っぽいものが並んでいる。あの時魔法陣に書かれていたものと同じ文字だ。
「確認って、異世界の文字なんて読めるわけ……」
と文句を言いかけ俺は言葉を止めた。読める。めっちゃ読めるんですけど。
『今の君はもう異世界の住人だからね。読めて当然だよ』
それなら話は早いと俺は空中に浮かぶ画面を見つめる。
「えーと、職業が魔法騎士でレアリティが5!?」
レアリティが5ってヤバくねぇか。出現率何パーだよ。ピックアップ中でも中々拝めねぇよ。心躍りまくりだわ。
俺、レアキャラに転生したのか。しかも魔法騎士って明らかに強そうな称号だ。これはあれか、よくある平凡だった奴が転生先で無双する的な展開か!?
やべぇ、俺マジで主人公みたいだ。
『あの、和樹。喜んでいるところ悪いんだけど、ちゃんと画面みて』
「え、よく見る?」
はしゃぐ俺の心を読んだ聖が申し訳なさそうに言ったので何かあるのかと画面を注視し、そして固まった。
「れべる、1」
『うん。レベル1』
有頂天状態から一転、俺はバカでかい鉄のハンマーで頭を殴られた様な衝撃を受け、その場に崩れ落ちた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聖「次回予告!クロケルの現実逃避的な昔語りはもう少し続いて行く。ドラゴンに追いかけられて隠れているんじゃないの?こんなに長い回想だと見つかるのでは?そんな疑問が飛び交うけど問題なし!!こう言う場合は何故か敵は襲って来ないのはお約束!」
クロケル(和樹)「あー。セーブポイント的なやつか」
聖「そうそう。だから、もう少し昔語りしててもいいよ。次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第3話 トラブル発生!現れた救世主』皆、クロケルの事、応援してあげてね」
クロケル(和樹)「おい、トラブルって言っちまってるじゃねぇか。ピンチ確定だろ!」
聖「最近ではセーブ画面で脅かしに来るホラーゲームもあるらしいよ。それに、セーブポイントがあるって事はボス戦が近いってことだし、ピンチと言えばピンチじゃない?」
クロケル(和樹)「呑気なこと言ってんなぁぁぁぁぁっ」