第37話 フィニィの秘密
この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。
危ない。ノープランで書いているせいで設定盛り込みすぎてまとめきれないところでした(汗)
毎度のことながらまとまりがないのは大きな反省点。早く修正したいですが、続きを書くのが精一杯で修正が追いつかない(泣)読みにくて申し訳ないです。
このままだとその内矛盾とか発生しそう(小声)そうならない様に十分気を付けて書きます。頑張るぞぅ!
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「アンフィニって本当に存在していたのか」
「驚きです。まさかお兄さんに方も実験体にされていたなんて」
動揺で声が震えてしまったがそれはシルマも聖も同じだった。
研究記録に添付されている写真の中のアンフィニはもちろんぬいぐるみではなく、無造作な薄紫の髪型で寡黙で利口そうな少年の姿をしていた。
フィニィ本人が双子だと言っていたが、こうして写真を見比べてみれば確かに、性別や髪型は違えど、そっくりな見た目をしていた。
それぞれのプロフィールと研究記録を読み進めていくと様々な事実と悪魔の様な実験の全貌が明るみになる。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
実験体番号5642194 フィニィ 年齢 推定5歳
魔力適合率 80パーセント
スラム街の路上にて回収。物分かりも良く、大人しい。研究員の言うことは素直に聞くが、路上で共に過ごしていた兄(実験体番号5648490)と一緒に行動させないと精神的に不安定になる。
実験の都合でどうしても兄妹を離さねばならない際は、入所の際に持っていたクマのぬいぐるみを持たせておくと精神が安定するので、スムーズに実験を進めるためにも必ず持たせること。
魔力は持たないが素質はあり。両親もしくは親類に魔術師もしくは魔力を持つ者が居たと思われる。
度重なる実験の末、魔力は体に馴染むも兄(実験体番号5648490)の死亡により錯乱。その後、安定剤を注入したところ落ち着きを取り戻す。
しかし、兄のことを思い出すと錯乱してしまうため、実験体番号5648490については決して触れてはならない。
錯乱した際は安定剤を注入する他、上記のクマのぬいぐるみを持たせておけば大人しくなる模様。
今までの実験体の中で最も優秀で人工魔術師の成功体と言える。精神的に不安定なことが最大の難点。
実験体番号5648490 アンフィニ 年齢 推定5歳
魔力適合率 10パーセント
スラム街の路上にて回収。基本的には大人しいがこちらを警戒している様子。基本的には反抗することはないが、妹(実験体番号5642194)を乱暴に扱うと攻撃的になるため行動には要注意。
実験体番号5642194の双子の兄と思われるが、妹(実験体番号5642194)と比較すると素質はなし。ヒトに近い遺伝子を持つと思われる。
研究と実験を進め、最も適合値の良いものは闇の魔力と判明。
どう魔力を注入するも幼児の体では耐えきれなかったのか、闇の魔法に取り込まれて体が跡形もなく消滅。明確な確認は取れていないが死亡扱いとする。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
おおよそ人間に対して書かれていると思えない記録に腹の底から嫌悪の感情が溢れ出す。これを残した研究機関は命をなんだと思っているのか。ひどく憤りを覚える。
「やはり、身寄りのない子たちだった様ですね。こう言った言い方は良くないとは思いますが、家族がいない人間はマッドサイエンティストの格好の的ですからね。連れ去っても足がつかないですし、捜索願もでませんから」
「そうだとしても、奪って良い命も奪われていい命もこの世には存在しません。こんなの、ひどすぎます」
シルマが悲しそうで怒る様な感情を持つのにも頷ける。
実験体となったのはフィニィたちだけではない。この百科事典並みに分厚いリストには老若男女問わず、似たような実験やもっと過酷な実験を強いられているヒトの実験記録がまとめられていたのだ。
思った以上に深刻な過去に何か不安にも似た気持ちが悪い感覚に囚われて俺は覆わず口元を押さえる。
この状況をよくわかっていないシュバルツだったが、嫌な空気はしっかりと感じ取っているらしく、山積みのリストを見ながら体を震わせていた。
聞き耳を立てていたミハイルも眉間に皺を寄せたまま視線を逸らし、ケイオスさんも視線を落としたまま黙ってしまった。
重苦しくどんよりとした沈黙の中、最初に口を開いたのは聖だった。
『アンフィニが消滅したのなら、あのぬいぐるみの中の魂は一体何なんだろう』
聖の冷静な分析に俺もいつまでもモヤモヤとしていては話が進まないと思い、何とか気を取り直して考える。
「そうだな。死亡扱いってことは、アンフィニはこの世にいないことは確定なのか?」
「えっと……ぬいぐるみの中の魂と言うのは」
頭を悩ませる俺の隣でシルマが首を傾げる。そうだった。この話はさっきケイオスさんとの話し合いで出た話題だった。応接間で待っていたシルマたちには初耳のはずだ。
「ああ、実は……」
俺は聖がフィニィをアナライズした際にぬいぐるみに何かの魂が入り込んでいることがわかったと伝える。
「まあ、そうなんですね。では、ぬいぐるみの中にある魂は本当にお兄様のものなのでしょうか」
『そこまではわからない。でもぬいぐるみを大切にしていたし、愛おしそうに話しかけていただろう。なんらか意思の疎通はしていると思うんだよね』
シルマの疑問に聖が返すが、今度は俺の中に疑問が生まれる。
「んん?でもアンフィニは実験中に消滅したんだよな。この場合、研究員知らぬ間にぬいぐるみに魂が移動したって解釈になるのか?」
「そうですね……考えられるとすれば、なんらかの事情で研究員が気づかぬ場所で特例が起こったのか、それとも実験を重ねる中で別の何かが入り込んだのか、と言うことぐらいでしょうか」
「別の何か?」
言葉の意味が解らず、どう言う意味かと聞き返せばケイオスさんは頷いてから説明を始めた。
「はい。実験中は多くの命が失われていた様ですし、お兄様とやらに限らず無念が形となってこの世に残ってしまうこともあるでしょう」
「それは、他の霊がぬいぐるみに憑依しているかもしれないと言うことですか」
「記録によればフィニィと言う少女はクマのぬいぐるみを肌身離さず持っていた様ですし。実験中に入り込んでしまった可能性は十分にあります」
あっさりとした肯定に俺は震えた。
ケイオスさんの考察ではフィニィは兄ではない何かを大切に抱いていると言うことになる。それは怖い、怖すぎる。
ぬいぐるみの中身が仮に兄とするなら妹の為に戦うのも行動を共にするのもわかる。言われてみればフィニィを守る様な戦い方をしていた印象もあるし。
でも、もしも中身がケイオスさんの言う様に別の何かだとしたら、ソレは何のためにフィニィと一緒にいるんだ。こう言うのって大概は大きな代償が伴うパターンだよな。
対立する相手にこんなことを思うのはアレかもしれないが、なんか色々と心配になって来たぞ。
これは今度こそホラー展開か!?ラピュセルさんの時はちょっとホラーだったが、霊的なものとはちょっと違ったし、身の危険を感じる様な場面は(ミハイルに襲われそうになった時を除き)ほぼなかった。
ダメです。無理です。オカルト系は苦手です。書籍とかゲームとかは大丈夫なんですが、映像作品はアウトです。ジャパニーズホラー怖い。霊と生きた人間の思惑が絶妙に絡み合っているところが本当に無理。ヤバい通り越してアウトである。
「そう言えばお前、フィニィをアナライズしたんだよな。人工魔術師だったこと以外に何かわからなかったのか。レベルとか、レアリティとかそう言うの」
『レベルは見えたよ80だった。ただ、どの種族かってことやレアリティは見えなかったな。ぬいぐるみと同じく、ジャミングされてるみたい。まあ、人工魔術師って言う不安定な存在だからレアリティ判定がない可能性も考えられるけど』
でも断言ができない、と聖は言った。うむむ。フィニィのことが理解できたと思ったが何1つ解決していないぞ。寧ろ謎が深まりまくりである。
「つまり、フィニィを捕獲しないことには何も解決しないってことか」
打つ手なしの現状に思わず項垂れてしまう。何か体が重い。考えることが多すぎてこの先不安でしかない。
「ええ、残念ながら。しかし、ご安心ください。何度も言いますが、わが校では人工魔術師の研究を行っております。なので、多少の攻略はできるのではないかと」
落ち込みモードな俺にケイオスさんは神妙な面持ちから一変、胸に手を当てて自慢げにそう言った。
「攻略ってことは……フィニィに勝つ術があると言うことですか」
本当に?変なフラグじゃないよな。
これなら勝てます!って言うセリフはほぼ100パーセント負けフラグだぞ。そんなオタク的思考を巡らせながら不安を募らせているとケイオスさんは肩をすくめて微笑んだ。
「完全勝利はお約束できませんが、こうして人工魔術師の背景を知ることで戦いのヒントが得られるかもしれません。情報が欲しいのでしょう?辛い話が続くかと思いますがどうかお付き合い下さいね。」
微笑みながらも覚悟をしろと圧をかけて確認して来るケイオスさんに俺たちは身を固くして頷いた。
ヒトの感情に極端に敏感なシュバルツは半泣きになって可哀そうなぐらい小刻みに震えていた。
「よろしい、では話を続けましょう」
そう言いながらケイオスさんは別の山から資料を抜き取る。資料同士が引っかかり、バサバサと音を立てて資料が特に気に留めていない様だ。雑だなオイ。
外面は穏やかで猫を被っていても行動とか態度に本性が現れるって本当だな俺も気を付けよう……。シルマもビックリしてるし。
「人工魔術師と純粋な魔術師では当然、純粋な方が優れています。人工の技術には限界がありますからね。これについては仕方がありません。元々のステータスが違うのですから」
冷めた言い方をするケイオスさんに俺は身を乗り出して意見した。
「でもフィニィは確かに強かったです。見せかけの強さではなかったとは思いますが」
俺はともかく、シャルム国王の一撃すらも舞う様に躱したフィニィの動きは今思い出してもかなりのポテンシャルを秘めていると思う。
「強いのは当たり前です。人工的に能力を無理矢理造り上げ、限界まで引き上げているのですから。瞬発的な強さは純粋な魔術師よりも強いかもしれません」
「うへぇぇぇ」
人工魔術師ってそんなにややこしい存在なのか。純粋な魔術師には劣るけど瞬発的な強さはあるって矛盾してないか。頭がこんがらがって来たぞ。
「後は個人の実力でしょう。戦闘は経験と訓練がものを言いますから。前長と暮らしていた際にそれなりにトレーニングをしていたのかもしれませんね」
「トレーニングって……あんなに幼い子供がですか」
確かに動きは卓越していたが子供には不釣り合いな言葉に素直に納得ができない。ちょっと無理がないか。そんな疑問を抱く俺を見たミハイルさんが先ほどの実験体リストをトントンと人差し指で叩いて言った。
「よく資料を確認してみてください。私の推察は合っていた様ですよ」
「推察?あっ」
ケイオスさんが指し示すその場所には日付が記されており、今から遡って数十年は前のものだったのだ。
あの時は某作品を思い出して笑いそうになったが、ケイオスさんが言っていた通り、フィニィは見た目は子供、中身は大人に近かった。
「で、でも……見た目と年齢が一致しないなんてそんなことあるんですか」
「フィニィと言う少女の種族が不明な今、考えられる可能性は2つですね。1つは妖精族神族、魔族などの寿命が長く、老化が遅い種族だと言うこと」
俺の質問にケイオスさんは指で数を示しながらゆっくりと紡がれる説明に俺たちは黙って耳を傾ける。
「もう1つはその少女が人工魔術師であると言うことが関係していると思われます」
「ヒトの成長と人工魔術師がどう関係してくるのですか」
首を傾げるシルマにケイオスさんが気まずそうな笑顔で説明する。
「遺伝子を無理矢理操作されていますからね。色々と弊害出てしまうんです。私たちの研究で分かっていることは人工魔術師の実験体となった者は老化が遅くなるか、加速するかの2通りの末路を辿ると言うことです」
『じゃあ、あの子は老化が遅くなった可能性があるってことか』
「ええ。状況的にそちらの可能性の方が高いかと思われます」
ケイオスさんは冷静に頷いた。
「ヒトの一生を左右する実験が今も残っているなんて、ひどいです」
あくまでも冷静に分析しながら話を進めるケイオスさんと聖を前にシルマが声を震わせて言う。
人工魔術師の話になってから気持ちを沈めてばかりのシルマ。彼女をひたすら宥め続けていたシュバルツもかける言葉が分からなくなり、オロオロとしてしまう始末だ。
俺も胸を痛めているシルマにどう声をかけていいかわからない。人工魔術師と言う存在の背景は俺も酷いと思う。
でも、どんなに悲惨な状況を悲しみ、憐れんでも恵まれた環境で育って来た俺が慰めの言葉を口にしても全部偽善になってしまう気がして中々言葉が出て来ない。
話が進む度に重くなってゆく空気の中、ケイオスさんが比較的明るい声で言った。
「そんなに悲観することはないですよ。そんな世の中だからこそ、わが校は人工魔術師の研究をしているのです」
「「えっ」」
その場にいた誰もがその言葉を予想していなかったのか、全員の驚きの視線がケイオスさんに集中する。
俺とシルマの声が重なり、シュバルツがきょとんとし、明後日の方向を向いていたミハイルもこちらを向かずにはいられなかった様だ。
『何、どう言うこと』
訝しげに聞く聖の言葉と俺たちの疑問の視線を受けたケイオスさんは小さく息を吸いもう一度、そして今度は分かりやすく言葉を紡いだ。
「私は人工魔術師を救うために研究を始めました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聖「次回予告。ケイオスの奴が突拍子のないことを言い出した!さすがの僕もびっくりだよ」
クロケル「話が壮大になって来たなぁ。これ、俺たちで抱えきれるのか」
聖「次回!レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第38話『暗殺者を誘い出せ!危険な学校案内』」
クロケル「ああー、これはまた俺はレベルアップできないパターンだな」
聖「もう!自分のことしか考えてないんだから。思いやりの心って大事なんだよ」
クロケル「お前、前回は俺に“自分のことよりもまず人助けするとかお人好し”とか言ってディスって来たくせに言ってること真逆じゃねぇか」
聖「あれ、そうだっけ。ごめーん」
クロケル「よーし、表に出ろ。いくら俺でもタブレットになら勝てるだろ多分」