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第36話 人工魔術師の真実

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


本日も投稿する事が出来ました!嬉しいです。この調子で頑張ります!


しかし、ちょっとシリアス展開になってきました(汗)ギャグ中心で書こうとしていたのに何故……。


一応「ギャグ」と言うキーワードは付けておくつもりですがいいのかなぁー(困惑)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 人工魔術師について話すのであれば君のお仲間たちにも話した方が良いよなと言ってケイオスさんは立ち上がり、シルマたちが待つ応接間に行こうと提案したので、仲間と情報を共有したいと考えていた俺と聖はそれに従うことにした。


 そして、辿り着いた応接間では木製で赤いクッションが縫い付けられた長椅子にシルマとシュバルツが隣り合わせになってお茶を飲んでいた。


 その隣には簡易な止まり木があり、それにはミハイルがブスッとして退屈そうに止まっていた。ペットフードらしきものが用意されていたが口はつけていない様だ。


 扉が開いたことにより、その場の視線が俺たちに集まる。ギョッと言う顔をされた気配を感じたが、今の俺の現状を見ればそうなるわな。



「みなさん、お待たせしました。お話が終わりましたよ。クロケルくん、荷物運びを手伝ってくれてありがとう。その辺りの机に置いて貰えるかな」


 爽やかで優しい口調の指示の元、俺はドサリと他に持った大量かつ重量のあるそれを適当な机の上に置いた。


「はあああ、重かった」


 思わず情けない声を出しながらその場にへたりこむとシルマが慌てて言った。


「す、すごい資料の数ですね。お疲れ様です、クロケル様。あ、ここ私の隣にどうぞ。シュバルツくん、ちょっとでけ詰めてもらえますか」


「うん」


 シルマの言葉に素直に頷いたシュバルツは素早く端っこに寄った。シルマの自然な気遣いに感謝しつつ、俺はシルマの隣に着席する。


 俺が座れば窮屈になるかと一瞬思ったが、三人掛けの大き目の椅子だったので、ガタイが良い俺が座っても余裕の広さだった。


 ここに来る際に校長室からこの応接室まで前が見えないほど積み上がった資料を運ばされた。超重かった。腕が引きちぎれるかと思ったし、まだ腕が震えている。台車ぐらい貸してくれよ。


 なお、ケイオスさん軽量でキャスター付きのホワイトボードを鼻歌交じりに押してここまで歩いて来た。ずるいと思った。


「先ほどクロケルさんとお話をして決めたのですが、今から人工魔術師について、ご説明したいと思います。少々お時間を頂くことになりますが、ご了承下さい」


 ケイオスさんが恭しく頭を下げる。そう、俺が運ばされたこの資料は人工魔術師についてのものらしい。ケイオスさん曰く、これでもほんの1部とのことだ。


「貴重な研究内容を私たちの様な一般人に話す、なんて大丈夫なのですか」


 シルマが遠慮がちに、心配をこめて言ったがケイオスさんは柔和な笑みを浮かべて言った。


「お気遣いなく。私が今から話すのは人工魔術師の基本的な情報です。研究内容を全て話す訳ではないですので。ああ、でも質問があれば遠慮なくどうぞ。答えられる範囲で対応しますので」


 そしてケイオスさんは元の丁寧で優しい口調に戻っていた。聖曰く、猫被りモードらしい。俺と聖の前以外では本性は隠す方針の様だ。


 ギャップがヤバい。俺はケイオスさんの内面を知っているため、あの爽やかな笑顔のしたから「面倒くせぇ質問はしてくんなよ」と言う感情が駄々洩れているのがわかる。


「まずは人工魔術師と言う存在についてはご存じでしょうか」


 俺、シルマ、シュバルツ、そして宙に浮く聖にそれぞれ視線を送りながらケイオスさんはそう確認してきた。


「聖とシャレム国王から少しだけ話は聞いています。魔力量が少なかったり、全く魔力を持っていない人間の遺伝子を操作して意図的に魔力を生成するって。それ以外はよくわかっていません」


 正直に答える俺に続いて悲しげな表情でシルマも言う。


「私も同じです。知っていることは少ないですが、人工魔術師の生成は禁忌であり、決して許されることではないと聞きました。しかし、研究機関は多く、摘発するのも一苦労だと」


「ボクは、よくわからない」


 シュバルツは眉間に皺を寄せ、首を傾げてうむむと唸っていた。それぞれの反応を見てケイオスさんがふむ、と呟いた後、にっこりと笑って言った。


「なら、おさらい程度に最初からご説明しますね」


 多分色々面倒くさいんだな。親切を装って自分が話しやすい状況に持って行こうとしてるなと感じたが、俺は気付かないフリをすることにした。


 ケイオスさんは積み上がっている資料をいくつかパラパラとめくり、その内の1冊を俺たちに見せてくれた。


「我が国ヴェレームトは1番最初に人工魔術師の研究を始めたと言われています。そのきっかけはとても単純。魔力の有無による格差をなくすためです」


「格差?」


 不穏な言葉に思わず顔をしかめて首を傾げればケイオスさんは気まずそうに表情を曇らせる。


「ヴェレームトは魔法国と称されるぐらい魔法に優れている国です。魔力を持たないヒトの方が少ない。それ故、魔力がない人や魔力値が極端に低い人は差別を受けることもあるのですよ」


「魔法の国であるが故に生まれてしまう差別ですね。なんだか悲しいです……魔法はみんなの生活を助け、豊かにするものなのに」


「シルマ、苦しい?大丈夫?」


 シルマが悲しみで瞳を揺らす。自らの膝をギュッと握りしめ、俯いてしまったシルマをシュバルツが心配そうに見つめる。シルマはシュバルツを心配させまいと顔を真っ白にしながら静かに微笑んでいた。


「それじゃあ、人工魔術師の研究は元々は善意から始まったものなんですね」


 禁忌と言われているぐらいだから真っ黒な背景があると思っていたが、至極全うな理由だったことに驚いて確認するとケイオスさんは頷いた。


「はい。格差をなくしたいと言う純粋な想いから始まった研究です。この国以外でも同研究機関が存在するのは似た境遇のヒトを救いたいと言う研究員の想いからです。その事実についてはこの国出身である私が保証します」


「ヒトを助けるための研究が何故、禁忌と言われる様になったのですか」


 シルマが悲しみの色を浮かべたまま顔を上げ、ケイオスさんにそう投げかければ一呼吸置いてから返答があった。


「……。それは、研究を進めるにつれて弊害が出て来たからですよ」


「弊害と言うは」


 空気が重くなったことを感じ取り、緊張で体を固くしながら聞くとケイオスさんはゆっくりと口を開いた。


「研究者たちは非常に優秀でした。なので、理論上は人工魔術師を生み出すことは可能になったのです。しかし、理論と実践は違う。長年の研究の末、有志でヒトを募り、人体実験までこぎつけたのですが……実験は全て失敗に終わっています」


「失敗、というのはまさか」


 すごく嫌な予感がする。研究、人体実験、失敗。特別な知識がない俺でもこれらの言葉を聞くだけでなんとなく予想はつく。


 外れていて欲しいと強く願いながら恐る恐るその先の言葉を待てば、ケイオスさんは悲痛な表情を浮かべて目を伏せ、言った。


「人体実験はほぼ全て失敗。実験体のほとんどが注入された魔力に体がなじまず死亡。魔力に適合しても精神的に異常をきたしてしまうことが多く、真に成功だと言える結果は1度も残すことはできなかったのです」


 予想通りの結果にその場に重たい沈黙が流れる。シルマも、シュバルツも、聖も、ミハイルも誰も口を開かぬまま下を向いていた。


 息の吸い方が分からない。吐き方もわからない。それに何か気持ち悪い。ああ、これが嫌悪と言う感情か。生まれ出た感情に戸惑い、震える俺たちをそれぞれ見ながらケイオスさんは続けた。


「人工魔術師の基本的な情報はこれぐらいですね。魔法と言う未知の力に手を出してしまった者たちの哀れな末路。格差社会が生んだ悲劇とも言えるでしょう。死者を多く出してしまった研究……それ故に禁忌となったんだす」


「格差が生んだ悲劇、ですか」


 悲しすぎる背景に思わず呟いてしまった俺を見て、ケイオスさんは穏やかな口調で少し訂正をした。


「今は昔ほど目立った格差はないですよ。現長のご尽力のおかげでしょう」


 ケイオスさんはチラリと聖を見てそれからまた俺たちに視線を戻して続けた。


「しかし、一度定着した認識や価値観をそう簡単に修正したり、覆すことはできません。こればっかりはヒトの心の問題ですから。世界の情勢が変わろうとヒトが変わらなければ本当の意味の改善には繋がらないのです」


「それは……今も格差が残ってしまっていると言うことですよね」


 遠回しにな表現をされたのでこちらは分かりやすい表現で聞き返した。ケイオスさんはゆっくりと頷く。


「はい。残念ながら。禁忌とされている人工魔術師の研究が今現在も続いているのも、需要があるからでしょう」


「はっ、弱者を見下し、優越感に浸り、ないものねだりをした挙句に禁忌に手を出すなんて、ヒトは本当に醜い生き物だな。笑えて来る」


 時たま毛繕いをしながら大人しく話を聞いていたミハイルが吐き捨てる様に言った。ミハイルは神族であるから、ヒトとは価値観は違うのだろう。ここまでの話を聞いてそう言う評価になっても仕方がない。


「おやおや、中々手厳しいですね。何も言い返せないのが辛いところです」


 ミハイルの辛辣な言葉を聞いたケイオスさんは困り顔で肩をすくめた。一件怒っている様には見えないが俺はケイオスさんの左の眉が一瞬だけヒクッと動いたのを見逃さなかった。多分、心の奥ではイラッと来ているに違いない。


 しかし、ミハイルの言うことも間違いではないと思う。下を見て優越感に浸るヒトは自分に劣等感を持っているからだ。自分に自信がないから自分に劣る者を探してそのヒトを嘲笑い、自分は優秀な方だと安心したいのだ。


 俺は短い人生だったし、そんな気持ちになったことはないが、あのまま大人になっていたらどこかでそう言う感情を持っていたのかもしれない。


 しかし、異世界でもそう言う考えがあると思うと夢が壊れるな。いや、俺が勝手に夢を見ていただけだが。


 さらに考えてみれば、ヒトは自分たちとは「違う」ことに恐怖し、嫌悪する傾向が強い。今回の場合であれば魔力があることが「普通」である世界で魔力のない「違う」存在が劣っている存在と認知されて苦しめられる。それを本気で正義だと思ってやっているからタチが悪い。


『ヒトなんてそんなもんだよ。二次元の世界でもよくあるでしょ。鬼とか神様とか、そう言う特殊な存在が自分たちとは「違う」からって畏怖して差別して、攻撃する展開。そう言うヒトの醜さはどこの世界も変わらないんだよ』


 俺の心を読んだ聖が俺の耳元で淡々と言った。まるでヒトと言う存在を嫌悪する言い方だったが、お前も元々はヒトだろ。そんな今にも吐きそうな言い方するなよ。なんか気まずいから。


 色んな方面から精神的な打撃を受けて気分がブルーどころかダークブルーな俺


「では人工魔術師だと思われるあの女の子は、自ら望んでそうなったと言うことでしょうか」


 シルマと同じことを思っていた。あの子も魔力を持っていないことを悩み、危ない実験に志願したと言うのか。ヒトはあんなに幼い子にさえ差別をするのか。それは流石に酷すぎる。


 俺とシルマの不安と憤りが混じった視線を受けたケイオスさんは首を横に振る。


「それは一概には言えません。研究が始まった当初は自らの意志で志願して来たヒトの意志の元で実験をしていたと思われますが、近年ではより精巧な人工魔術師を生み出すために身よりのない人々を実験台にする研究機関もあると聞きました」


「そんな、なんてひどい。同じ命ある存在がモノみたいに扱われているってことですか」


 思っていたよりもひどい事実にシルマが声を掠らせて胸を押さえ、再びその場で俯く。シルマは優しいから、ヒトの倍は傷ついてしまうのだろう。


 俺だってさっきから全然いい気がしない。むしろ人工魔術師の話題全体に嫌悪しか感じない。


 その空気を察してか、ケイオスさんはとても言いづらそうに続けた。


「長が代替わりしてからはあまり聞きませんが、そう言う時代もあった……とだけ答えておきます。事前にお伺いした年齢から察するに、その少女はその時代の被害者の可能性が高いですね」


 年齢と釣り合わない高い戦闘能力、どこか狂気を帯びた喋り方、フィニィが人工魔術師だと言うことが現実味を帯びて来る。


「そう言えば、その少女の名前を聞いていませんでしたね。摘発された研究機関から発見された資料の中に実験体リストがあります。もしかしたらその子の名前が記載されているかもしれません。教えて頂けますか」


 重い空気が続く中、ケイオスさんが山積みの資料の中から分厚い冊子を10冊ほど取り出してそれを俺たちの目の前にある机に置いた。背表紙にあるラベルは掠れた文字で「実検体リスト」と記されてあり、これだけの人数が実験体になったのかと思うとちょっと気持ち悪くなった。


「えっと、フィニィと名乗っていました」


「フィニィさん、ですね。よし、ここにあるリストに中から手分けして探しましょう」


「「はい」」


 俺とシルマは同時に頷いた。シュバルツは文字には不慣れで、ミハイルは文字は読めるがフクロウの体ではページをめくることができないので見守り隊となった。


 聖もページをめくることは出来ないが、アナライズは無機質なものでも有効らしく、バーコードの読み取りの様に資料に光を当てて内容を読み込んでいた。なにそれ、めっちゃ便利じゃん。一瞬で済むし、うらやましい。


 懸命にリストに目を走らせること数十分。シルマが一瞬だけ息を飲み、そして叫んだ。


「あった!ありました!」


 その場にいた全員が反応し、シルマの元へ集まる。白く小さな膝の上に置かれた資料を覗き込み、シルマの指が指し示す先に視線が集中する。


「これは……」


 俺は思わず目を見開く。驚かずにはいられない。

 そこにはフィニィと言う文字と写真と簡易なプロフィール、それに研究記録が記載されていた他、その隣には彼女が兄と呼んでいたぬいぐるみ、アンフィニの情報も記録されていたのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!少しずつ明るみになってゆくフィニィの真実。資料を読んで明かされたのはフィニィに隠された悲しい過去だった」


クロケル「これは、なんと言うか辛いな。もう自分のレベルの話は一旦置いておいた方が良さそうだ」


聖「次回!レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第37話『フィニィの秘密』自分のことよりもまず人助けって……そんなお人好しじゃいつまでたっても最弱だよ」


クロケル「お前、俺を応援したいの、貶したいの、どっちだ」


聖「もちろん、応援だよ」


クロケル「信用できねぇ~」





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