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第26話 シュバルツの変化

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

うむむ、やっぱり1日おきの投稿になりつつある。でも久々にお昼に投稿できたのはとても嬉しいです。


久々に活動報告も書いてみました。報告と言うか日記みたいになりましたので、無視して頂いてかまいません。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。


 シャルム国王が鏡の移動を決めてから間もなくして、エクレールさんとプロクスさんが非常に手際よく準備を整えてなんの問題もなく鏡をバチェルさんの部屋へと移動した。


 バチェルさんの部屋は俺たちが使わせてもらっている宿泊棟の最上階にあった。最初にシャレム国王がここは元々はバチェルさん用の住居だったと言っていたことを思いだした。


 部屋の中はとても綺麗だった。定期的に掃除をしていると言うこともあるが、整理整頓されていて、ベッドや机、大きめのクローゼット以外ほとんど物がない。


 カラーリングも白と黒のモノトーンで統一され実にシンプルだった。ベッドもキングサイズではあるがデザインは普通だ。白いシーツと黒い羽毛布団と同色の枕だけで特に何の装飾もない。


 壁紙も真っ白で無地。ピカピカのフローリングの床。質が良さそうな黒のカーペットが敷いてある場所もある。全体炊きにシックで大人っぽいし、気品は伺えるが、なんと言うか、地味だ。タワマンに住んでいそうなミニマリスト系金持ちの部屋って感じだ。


 俺の金持ちのイメージが偏っているだけなのかもしれないが、とても王族の部屋には見えない。

 城内や自分たちが宿泊に使わせてもらっているロココ調の部屋とは大きく異なる部屋に少しだけ違和感を覚えた。


 それともこれがバチェルさんの趣味なのだろうか。


 そんなことを思いながら鏡を運び終えたことを見届けた後、部屋に戻ろうとした俺たちはシャルム国王に呼び止められた。そして何故かバチェルさんの部屋で真夜中のティータイムをすることになった。


 どうしてこうなった。もう色々疲れたから寝かせてくださいお願いします。と言うか国王様、夜更かしはお肌に悪いのではなかったのですか。なんで優雅に紅茶を飲んでるんですか。何ですかこのティーセットは。肌はどうした!お肌は!


『疲れたって、君は何もしてないでしょ。心の中でオタクツコッミしてただけじゃない』


「それが疲れの原因なんだよ。規格外なことが多すぎてツッコミが追いつかないんだよ」


 また勝手にヒトの心を読みやがった聖に小声でツッコミを入れつつ、俺たちは促されるまま着席した。


 因みに、先ほどまでおねむだったシュバルツはちょこっと寝たら眠気が解消されたのか、すっかり起きて生ハムサンドをもひもひと食べている。


 残念ながらラピュセルさんは外の物を鏡にの中に取り込むことはできないらしい。ミハイルは人間からの施しは受けないとお茶も食べ物も口にすることはなかった。ただ、2人共なにも食べなくても特に問題はないとのことだった。


 シャルム国王は夜9時以降は飲み物以外は口にしないと決めているらしいので、この軽食は実質俺たちのために出されている様なものだった。


「ここが、バチェル様のお部屋ですか。素敵なお部屋ですねぇ」


 ラピュセルさんは鏡の中から目を輝かせてぐるりと部屋を見渡し、とても嬉しそうにしていた。


「おじい様は几帳面で綺麗好きなところもあったからね。素敵なのは当り前よ」


 シャルム国王は毎回、誉め言葉は素直に受け取り否定しない。自分と一族に誇りを持っている気がしてとても清々しい。否定をしないと言うことは自身があると言うこと。常に自分に自信を持てる性格は本当にうらやましい。


『確かに素敵だけど、結構シンプルな部屋だね。さっきの物置の様子を見た感じだともっと自室にもこだわりがあると思ったよ』


 聖が俺の疑問を口にすればシャルム国王は長い足を優雅に組み、紅茶をすすってから言った。


「おじい様は神経質だったの。自慢のコレクションを部屋に置いて傷がついたり、壊れたりしたら大変でしょ。だから部屋には基本的に好きなものは置かないの」


 ああー、それは共感できるわ。俺もフィギュアとかは傷や埃、日光の色あせが怖くて箱から出せないタイプだから。


 フィギュアどころかキャラものの下敷き、QUOカードなどは一度も使わずにファイルに入れるし、コラボ文房具も使わない。汚れたりイラストが欠けたら嫌だからな。


 食品とコラボしようものならキャラが描いてあるパッケージは袋であろうが牛乳パックであろうが必ず洗って保存するし、カメラにも収める。

 

小包の飴とか中々袋を開けられない。だってキャラが破けるじゃん!でも食べずに廃棄なんてそれこそもったいないからものすごく葛藤した後に食べるけどさ。


 だからコレクションを大切にしたいから近くには置かない、飾らないと言うバチェルさんの気持ちはもの凄くわかる。


『僕もわかるよ。窓際の本棚に置いてた漫画が日焼けした時は己を呪ったもん』


 同じくオタクの聖も深く頷いていた。やっぱりへきがある奴らの思考はジャンル問わず全部同じなんだな。

 気に入った相手を束縛することに関しては全く共感できないが、コレクションを大事にすると言うことに関してはかなり共感できるぞ。バチェルさん。


 バチェルさんに対して勝手に親近感を持って感慨に浸っている俺を横目にシャルム国王は涼やかな視線を送る。


「まあ、とにかく。この部屋は自由に使ってもいいから。それと、使用人たちの話し相手になってもらう代わりにアナタの事情は全て館の人間には話させてもらうけれど、問題はないわね」


「はあ!?何言ってるんだよ」


 シャルム国王の提案にミハイルが猛抗議をする。、まあ、気持ちはわからないでもない。自分の守るべき相手の決して恵まれているとは言い難い過去を第三者に話すと言われて二つ返事OKする奴などいないだろう。


 しかし、シャルム国王はそれを優雅に一蹴する。


「これからアタシの城の敷地内でアタシの部下たちと関わるのだから、隠し事はなし

でありたいの。おじい様がしたことも城内のきっちり公表するつもりだし、立場的にはイーブンじゃないかしら」


 ラピュセルさんのことを話すうえでバチェルさんがしでかしたことは欠かせない。だが、それは王族として、いや、人間として最低の部類に入る行動だ。


 しかし、それを包み隠さず城内のものに公表するとシャルム国王は言い切った。それはまさにラピュセルさんと対等であろうとする態度の現れと言えるだろう。その潔さに押され、返す言葉が見つからないのかミハイルが悔しそうに唸る。


「はい。私は問題ないですよ。いかようにして頂いても構いません」


 話の中心にある当人は、のほほんとしかしそれでいながらしっかりと前を見据えてシャルム国王の申し出を受け入れたので、ミハイルは気まずそうに視線を逸らした。


「アタシの部下には他人の過去を嘲笑ったり、偏見を持ったりする人間はいないから、そこは安心していいわ。はやくここに馴染めるといいわね」


「はい。ありがとうございます」


 微笑むシャルム国王にラピュセルさんは深々と頭を下げた。

 気遣いが半端ないシャルム国王に尊敬を覚えながらも。これで話はまとまった。やっと寝れる!と喜んでいるとシャルム国王がポツリと言った。


「それと、あなたにこの部屋を使わせる条件がもう1つあるの」


 あまりにも真剣な表情で紡がれた言葉に、部屋が水を打ったかのように静まり返り、緊張が走る。


 何か重大な条件でもあるのだろうか。まさか、宿代を払えとかか?いや、シャルム国王に限ってそれはないだろう。


 俺が悶々としながら視線を泳がせれば、ラピュセルさんが不安そうに眉を下げている。ミハイルも攻撃態勢を取っている。


 様々な思いが籠る視線がシャルム国王に集中した。緊張感がMAXに達したその時、その糸は突如として緩む。


「おじい様のお話を聞かせて頂戴」


「……!はいっ」


 笑顔で紡がれたその一言にラピュセルさんの表情はパッと笑顔になり、とろける笑顔で朗らかに返事をした。


 やっぱり、シャルム国王の懐はえげつないほど深かった。


 しかし、ここからが地獄だった。最初はバチェルさんとどういう出会いをして、どう言う印象で、どう過ごして来たかを詳細に話してくれたラピュセルさんだったが、次第に話の内容が変わって行く。


 バチェルさんがいかに素敵だったか。どういう言葉をくれて、どう愛情を表現してくれたかと言ったものに変わって行く。俗に言う恋バナだ。

 

 話を聞く度にきゃあきゃあと騒ぐ女子たち、その様子を和やかに見守るシャルム国王、静かに控えて空になる前にお茶や軽食を補充するエクレールさんとプロクスさん。


 ミハイルのことが興味深いのか、やたらと彼にウザ絡みを続ける聖。それからウザそうに逃げ回るミハイル。そして必死で軽食を食べ続けるクロケルの姿をみて俺は心の底から思った。

 

 なんだ、この和やか且つカオスな空間は。俺、いなくてもいいよね。もう帰りたい。部屋で寝させて。お願いします。


 涙を流す俺にかまうことなく、その後も女子組は恋バナ的な話に華を咲かせ、何故か俺もそれに付き合い、カオス空間で長い夜を過ごすハメになったのだった。


 そして時刻は深夜1時頃。女子会から解放された俺は部屋に戻り、ようやくベッドに入ることができた。はあ、やっと解放された。


 隣で聖とシュバルツがコソコソ話していた様な気がするが、それを気に留めることもできず、俺は泥様に眠ってしまった。


「ねぇ、アキラ。クロケルってひょっとしたら戦えないの」


『戦えないことはないと思うけど、やられちゃう可能性があるんだよ』


「そっか……クロケルが怪我しちゃったら嫌だな」


『怪我で済めばいいけどねぇ』


「あのね、アキラ。お願いがあるの」


『ん、何だい?』




「クロケル。ねぇ、起きて!」


 翌朝、俺は自分の体を強く揺すられ重い瞼を開く。覚醒しきっていない意識のなか、寝起きの気だるさに抗いながら体を起こした。

 ……この声は多分、シュバルツだ。中々開かない目を頑張って開けて窓の方に視線をやれば眩い日の光が降り注ぐ。


「ん、もう朝なのか。起こしてくれてありがとう。シュバルツ」


「うん。さっきメイドさんが来てね、朝ご飯の準備ができたからお城へ来てくださいって」


 元気に話すジュバルツの姿を見て、俺は妙な違和感を覚えた。こいつ、こんなに流暢に話せていたか?自信がなさげでオドオドして、甘えん坊で子供っぽいイメージがあったと思うが。


「シュバルツ……?お前、何か変わったな。どうしたんだ突然」


 戸惑いながら聞けばシュバルツの顔が待ってましたと言わんばかりに輝き、窓から差し込む朝日よりも眩しい笑顔で嬉しそうに言った。


「うん!ボク、頑張ったんだ」


「頑張った?」


 首を傾げると聖がヒュンと俺の隣へと飛んできて嬉々として言った。


『そうだよ!シュバルツは君のためにとっても頑張ったんだ。健気過ぎて涙が出たよ。ここまで思ってもらえているんだから、もうこの子を養子にするしかないよ』


 え、何言ってんのこいつ。養子って何、その前に頑張ったって何を。

 色々と混乱する俺が1つずつ疑問を回収しようと口を開いた時、部屋の扉がノックされた。


「シルマです。もうお聞きかもしれませんが、朝食の用意ができたとのことですので、迎えに来ました」


「あ、シルマだ」


 扉の向こうの声に嬉しそうに反応したシュバルツは扉まで走り、開けようとしたので俺はその肩を掴んで止めた。


「ストップ!シュバルツ。まだ髪の毛とか服とかヨレヨレだから、準備をさせてくれ。シルマ、直ぐに準備するから待っていてくれ」


「はい。ここでお待ちしております」


 まったりとした返答があり、俺は即座に洗面所へ飛び込んで顔を洗い、髪の毛を整え、寝間着(城供えつけの物を使わせてもらった)から普段の装備に着替える。


 バタバタとする俺の様子をシュバルツは目を瞬かせながら不思議そうに首を傾げていた。

 完璧に身支度を整えて俺は扉を開けた。


「悪い、シルマ。待たせたな」


 爆速で準備をしたが、数分ほど待たせてしまったので俺は頭を下げる。しかし、シルマは一切気にする様子はなく、にこっと笑って言った。


「いいえ。全然待ってませんよ。寧ろ急がせてしまって申し訳ございません」


「シルマ、おはよう」


 シュバルツがシルマに覆い被さぶさるように抱き着いて挨拶をした。突然の行動に驚いていて目を見開いていたシルマだが、直ぐに笑顔になってシュバルツの背中をポンポンと叩く。


「シュバルツくん、おはようございます。挨拶ができて偉いですね」


「うん。いっぱい勉強したから」

 

 褒められたことが嬉しかったのか、シュバルツは元気に頷いた。


 ほほう。あいつ俺から離れることは少なかったが、シルマにも心を許し始めたみたいだ。うんうん。シルマ、優しいもんな。でも、喋り方はしっかりして来ても甘えてしまうあたり精神的にはまだ幼いままだな。


 って違う!何抱きついてんのお前。お前の見た目で女性に抱き着いちゃだめだろ。うっかりシュバルツの心の成長に喜びかけたが、シルマから離れないその首根っこを掴んで引き離す。


「こら!離れろシュバルツ。その見た目で女性に抱きつくな。場合によっては犯罪だから!」


「うわっ」


 シュバルツの体重は意外に軽く、レベル1で非力な俺でも簡単に持ち上がった。ガワは中高生でも質量は元の姿のままなのかもしれない。


 突然引きはがされたシュバルツが悲しそうな視線で俺を見つめる。


「どうして抱き着いたらだめなの?この体のヒト、女の子に抱きついてたよ」


「この体って……ああ、影坊主のことか」


 擬態モンスター「カゲボウズ」であるシュバルツのコピー元は俺たちの世界の人気アニメ『青春奇譚妖怪学園』のキャラである。名前も性質も一致しているので丁度いいと思って擬態させたのはつい最近のこと。


 確かあのアニメには恋愛要素があったな。確か主人公(女)のことが好きだったっけ。クールで感情表現が下手だからこそ、一生懸命に気持ちを伝えるシーンは男の俺でもきゅんとなったなぁ。


 クライマックス目前で非常に感動的盛り上がるシーンだったため、感極まって壊れるんじゃないかってぐらい壁を殴って親に殴られた記憶がある。


「あれはあの2人の間に色々あってああなったの。普通の男女は突然ハグしないの!挨拶ハグの場合は一瞬にしておきなさい」


「ええー、人間の行動って難しい」


 俺に起こられたことが悲しいのか、シュバルツは明らかに泣きそうな表情になった。やめろ、子犬の様に悲しむな。良心が痛む。


 でもなんで今更「妖怪学園」の話を引き合いに出したんだ?「影坊主」に擬態させる時にアニメを全話見せて学習させたが、その時のことを覚えていたのか?


『ううん。多分、昨日の晩に丁度見たシーンだったから余計に影響されたんじゃないかな』


「うわ、びっくりした。背後を取るな。そして心を読むな」


 俺の肩口からひょっこりと現れた聖がけろりとして言ったが、その言葉が引っかかった。


「……おい、昨日見たって何の事だ」


『ふふ。シュバルツに頼まれてねぇ。妖怪学園を一気見したの。クロケルは爆睡していたから気がつかなかったみたいだけど』


「はあ?なんで今更そんなこと……」


 俺が寝ている間に何をしてたんだ。シュバルツが頑張ったって言っていたことと何か関係があるのか?そう言えばそれを聞いてなかったな。


 改めて聞こうとしたが、俺が口を開く前にシルマの鈴の様な笑い声にそれを阻まれる。


「うふふ。朝から仲良しさんですね。でも、そろそろ1階に向かいましょう。エクレールさんがお待ちですよ」


 異性に抱き着かれたと言うのにどうして平然と笑って流せるんだシルマ……。シュバルツが子供っぽいから異性としてカウントしていないのか。それともいざと言う時でも返り討ちにできる自信があるのか。


 いずれにしてももう少し危機感を持って欲しい。推しヒロインをぎゅっとしたような存在のためか、シルマには変に過保護になってしまう。


「ああ、そうだな。行こうか」


 このままぐだぐだしているとエクレールさんどころかシャルム国王まで待たせてしまうことになる。


 それでは各方面に失礼過ぎるので気になることはあるけど後で聞こう。そうしよう。

 こうして俺たちはエクレールさんが待つ1階へと急いだ。


 今日こそ、変なトラブルが起きず、無事旅立てます様に!



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聖「次回予告。ごたごたも全て解決、そして新たなる旅立ち……のはずだったんだけど、どうやら一悶着あるみたい。クロケルの不幸体質には笑っちゃうよね」


クロケル「笑い事じゃねぇ。毎度毎度なんで心労が貯まるんだよ」


聖「神様からの試練だよ。乗り越えたら強くなれるかもっ」


クロケル「ほほう。この世界の神はお前だったな。つまりこれはお前からの試練か」


聖「次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第23話 『デスゲーム、開幕!?』クロケル、気合いだ!えいえいおー」


クロケル「話逸らしてんじゃねぇぞ、コラァ……あと、デスゲームってなんだよ!あああ!もう、異世界なんて大嫌いだああああっ」




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