第22話 フラグを立ててしまったので幽霊に立ち向かいます
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
異世界ものってカタカナ表記の名前にしたいなって思うのですが、難しいですよね。名前に意味を持たせてやりたいと思うので語学の知識フル回転ですよ。
ああ、もう少し知識が欲しい。浅い知識では限界があるぅぅぅ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
シャルム国王に幽霊調査を申し出された後、普通に食事は進んでいった。俺とシルマは満腹感に関係なく食が細くなってしまったが、クラージュとシュバルツは皿が空になるまで爆食いをしていた。
フルーツぐらいなら喉を通りそうだと思ったのでひたすら葡萄を食べていると、エクレールさんとプロクスさんが「デザートです」と各テーブルの前に皿を手際よく並べて行った。
デザートは一口サイズのオレンジのパウンドケーキとバニラアイスだった。正直、これからのことを考えると憂鬱でこのおしゃれなデザートを食べる気にはなれなかったが、もったいないので食べた。
「あ、うまい」
思わず口から感想が漏れる。個人的に果物の皮で作られているスイーツって苦みがあるからあまり得意ではないのだが、これは苦味が少なくて食べやすい。
「このオレンジは城内の畑で採れたものなんですよ」
「まあ、自家栽培をなさっているのですか」
シルマが目を丸くして驚けばシャルム国王が自慢げに言う。
「クラージュの趣味でね。騎士の仕事がない時はほとんど掛り切りで畑いじりをしてるわよね」
「え、じゃあ、このオレンジはクラージュが作ったものなのか」
俺もシルマと同時に驚きの視線をクラージュに向ければ、気恥ずかしそうな反応が帰ってきた。
「実家でも畑をやってましたからね。より新鮮なものを旦那様に食べて頂きたくて簡易な畑を用意してもらったんです」
すげぇ。国王の妻で王国騎士で家庭菜園もやってんのかよ。クラージュ、恐ろしい子。
「おいしい野菜や果物が食べられるのは有難いけれど、アタシとの時間ももう少し大切にして欲しいわ」
「うう、土いじりってつい夢中になってしまうんですよね。でも!私が家庭菜園をするのは旦那様の為ですので。私が丹精込めて作ったものが旦那様の血肉になると思うと、幸せです」
え、怖い怖い。今さらっと怖いこと言わなかったか。え、クラージュってひょっとしてヤンデレ入ってるの?こんな子犬みたいな見た目で?
「そう、なら良いけど。でも、もう少しアタシとの時間も大切にしてね」
うわ、あんな重めな言葉をすんなり受け入れてるよ。そんでシャルム国王も大分想いが重いな。あと、この夫婦は隙あらばいちゃつくよな。爆発すればいいのに。
デザートまでしっかり腹に収め、食後に各自好きな飲み物を頂きながらしばらく落ち着いた後、シャルム国王がゆっくりと立ち上がった。
「さ、休憩はこれぐらいにして客室棟の地下に向かいましょう。エクレール、プロクス。車の用意をお願い」
「はい」
「御意にございます」
エクレールさんとプロクスさんが丁寧に礼をしてすぐさま動き始めた。クラージュもいつの間にかシャルム国王のローブと剣を持って隣に控えていた。
「あ、あの。今まで放置していたならもうそのままでいいのでは」
「いいの。いつかは解明しなきゃいけないことだし、アタシのやる気と時間がある内に片づけておきたいの。アタシの城で起きていることなんでから何をしようとアタシの自由でしょう?」
面倒事に巻き込まれたくない一心で提案したがバッサリと切られた。悲しい。シャルム国王の言うことは正しいが、なんで俺たちがいるときに限ってやる気出しちゃうかな。
「俺たち、明日旅立つ予定なので早く休みたいのですが」
「あら、急ぐ旅ではないのでしょう?今日だけと言わずに好きなだけ泊って行っていいわよ」
苦し紛れの言い分けも器が大きい国王の前では無意味だった。寛大な心で好きなだけ泊れと言われてしまった。ダメだ、もう逃げ場がない。
「クロケルさん、個人的な意見になりますが自分が寝泊まりする宿に霊がいると言われてしまうと安心して眠れません。ちょっと怖いですけど、倒した方が精神的に安心できるのではないかと思います」
シルマが俺に肩を寄せる様に近づき、小声で提案した。嘘だろ、お前も幽霊討伐賛成派なの?さっきまで顔真っ青だったじゃん。なんで突然肝が据わったの。
「シルマ、お前怖くないの。だって実害がないんだよ。2~3年放置して大丈夫だったんだから、放っておいてもよくない?触らぬ神に祟りなしって言うし」
「今までが無事でも今日も保証があるとは限りません。寝ている時に地下から出て来て命を奪われるかもしれません。殺られる可能性があるのなら、こちらから言った方が生存率は上がります。私は死にたくないので!」
小さくガッツポーズをしながらフンフンと荒めの鼻息で気合いを入れているシルマを見ながら俺は思った。
幽霊よりのそんな思考のお前の方が怖いよ。殺られる前に殺るってそれ、手練れじゃないとできないからね。雑魚が強者の不意を突いたところでそんなにダメージ与えられないから。
『大丈夫だよ。この世界の幽霊は僕たちの世界の霊と違って攻撃は通るから。祓う力を持っていなくても、それなりの戦闘能力があれば十分に対処できるよ』
「それなりの戦闘力がない俺はどうすればいいんだよ」
宿泊棟の地下にいる霊とやらのレベルとレアリティがいかほどなのかはわからないが、レベルも最低ならば生前に武道の心得もなく、運動神経も平凡な俺では役に立てるはずもない。
『ゲームではあんなに強いのにね』
「現実とゲームは違うんだよ。ゲームは安全な場所でゆっくり育成ができるし、リセットもできるしな」
確かに、俺はゲームの世界ではやり込み型なのでキャラレベルもパラメーターもMAX値だが、今は状況が違う。二次元に限りなく近い世界に転生したが、間違いなく現実。リセットはできない。
ああ、自分が育てたキャラのレベルとパラメータを引きついだ状態で転生できればよかったのにっ。
この場にいる人間はシルマ以外、俺のレアリティとレベルのことを知らない。レアリティは見た目で判断されることも多いし、別に知られてところでどうと言うことはないが、レベルを知られるのはダメだ。恥じすぎる。
「陛下、お車の準備が整いましてにございます」
どうしようもないことをモヤモヤと考えている内に、エクレールさんとプロクスさんが憎らしくなるほど迅速に宿泊棟に向かう車の準備を整えて部屋に入って来た。
コソコソと話す俺と聖に目もくれず、シャルム国王はクラージュから受け取ったローブと剣を素早く身に纏い、足早に部屋の扉を目指す。
うわ、こっちがちゃんと返事をしてないのに行く気満々ですよ。
はあ、行くしかないのかぁ。まあ、地下に霊がいるって言うのは気が気じゃないが……。行きたくないなぁ。これじゃ野宿の方がマシだ。
「何をしているの。時間は有限よ。急いで頂戴」
ふとシャルム国王の方を見れば俺と聖、そして俺にべったりなシュバルツ以外は部屋の外へ出ていていた。
「い、今行きますっ」
俺待ちですか。すみません。わがまま言ってないで行きます。俺は心と腹を決めてみんなが待つ方へと早歩きで向かった。
シャルム国王とクラージュはプロクスさんが、俺たちはエクレールさんが運転する車で客室棟へと辿り着いた。
最初に見た時は豪華だと思ったこの場所も今やお化け屋敷にしか見えない。日が落ちて来て辺りが暗く、心情的に不気味さが引き立っていると言うのも十分あるのだろうが。
玄関から入り、俺たちは早速地下へと向かった。地下と言うぐらいだから狭くて薄暗く、不気味なイメージがあったが、実際は違った。
地下へとつながる木製の階段は横幅がとんでもなく広く、4人ずつ横並びで収まるほどだ。先頭をエクレールさんとプロクスさん。次にシャルム国王、俺たち客人組、最後尾にクラージュと言った順番で階段を下る。
階段も純金の手すりも含めしっかりと手入れが行き届いており、埃1つ、手垢1つ付いていない。それ故、純金手すりに素手で触ることなど恐れ多くてできなかった。シルマも心情を同じくし、手すりを使わずにそろりと階段を下りていた。
きちんと明かりは通っているし、ご丁寧に踏み心地抜群の赤地の絨毯が敷かれていた。ふかふかすぎて歩を進めた瞬間、足首をひねりそうになったが何とか耐えた。
暖房が通っているのか、エリア内は温かく、底冷えすら感じない。いい意味で思ってたのと違う。
「地下なのに随分綺麗な場所ですね」
特に会話もなかったので何となく、前を歩くシャルム国王に話しかけてみた。
「あら、どうして?人が使う場所はどこであろうと綺麗な状態にするのが常識でしょ」
誉め言葉として言ったはずが、不思議そうな反応を返されてしまい言葉に詰まる。すみません。自分は見えなければ汚くてもいいやって思うタイプです。
「えっと……どうして客室棟の地下に物置があるんですか」
シャルム国王と自分の格と意識の違いを見せつけられ、心がザリッとなりながらも俺が質問する。実は少し気になっていたのだ。
地下に温泉があるとかならまだ納得できるが物置と言うことは恐らく城に関係する荷物を置いているってことだよな。それって防犯的にどうなんだ。
盗みを働くような輩を国王は招き入れないし、宿泊させないとは思うが、だとしても変だよな。城の関係者以外が立ち入る可能性がある建物に物置があるなんて。
「この宿泊棟、昔はおじい様のお部屋だったのよ。お亡くなりになった際、取り壊すのももったいないってことで、リノベーションをして宿泊棟として使える様にしたの」
えっ。この建物、個人の部屋だったの?だとしたら部屋多すぎだろ。リノベしたにしても豪華すぎるぞ。贅沢過ぎる二世帯住宅だな。金持ちってスケールでけぇ。
「おじい様、結構コレクター気質でね。色々な国から年代に関係なく色々な品を集めていたのよ。地下はおじい様のコレクションルームね」
「コレクションルーム、ですか。では貴重なものもあるかもしれませんね」
『うん、曰くつきのものとかもありそう。幽霊騒ぎの原因ってそのコレクションのどれかだったりして』
シルマが言い、それに同意する様に聖が不穏な事を言った。
やめろよ。俺も一瞬思ったんだよ。こういう場合、大体曰く付きの品が関わって来て恐怖に巻き込まれる展開だなって想像したよ!
「さあ、それはどうかしら。亡くなられた際にコレクションには触れるなって遺言があったから、処分もできずに地下に放置しているから。一応、掃除はしてもらっていたけど、ここ2~3年の幽霊の仕業ではいれなくなっちゃったから掃除もできていないのよね。埃とか大丈夫かしら」
シャルム国王がうんざりとしながらため息をつく。気になるのは幽霊よりも埃ですか。そうですか。
内心でツッコみつかれて幽霊とご対面前から疲れてきたその時、先頭を行く2人の足が止まる。
「こちらが物置です」
エクレールさんが掌で示すそこには、木製の大きな両開きの扉があった。見たところ、変な感じはしないが、ここに幽霊がいるかもしれないと思うと背筋が凍った。
「物音は、しませんね」
シルマが扉に耳を澄ませつつ言う。確かに、今のところは物音ひとつしない。中に何かがいるという気配も感じない。
「扉、どうやって開けるんですが。鍵が弾かれてしまうんですよね」
確か食事の時にそう言う話を聞いたのでそう聞けば、シャルム国王は口元に手を当てながら美しい視線と涼やかな視線で扉を見つめた後、腰に携えた剣の柄を持ち、毅然として言った。
「みんな、ちょっと下がっていて頂戴」
突然の言葉に固まる俺たちをエクレールさんとプロクスさん、そしてクラージュが囲むようにしながら後ろに下がる様に誘導する。
シャルム国王は柄に手を置いたまま腰を屈め、鋭い眼光で扉を見据える。え、まさかっ。この展開は千里眼スキルが未開放な俺にだってわかる。
「はあっ」
鋭い気合いが響き、蒼い一閃が扉に放たれる。そして剣が鞘に収まると同時にバキッと鈍い音がして扉が斜めに切れた。
「開かなければ壊せばいいのよ。コレクションには手を出すなと言われているけれど、扉を壊すなと言う遺言は受けていないもの」
思った通りの展開だった。そして思った以上にシャルム国王はしたたかでパワープレイヤーだった。
ものの見事に真っ二つになった扉からはひんやりとした風が漏れて来る。
うう、この感じはいるな。それも確実に。寒いし、背中と腹の奥がぞわぞわする。帰りたい。
どんよりモードな俺を他所にシャルム国王は余裕たっぷりに言った。
「さあ、共に協力して幽霊に立ち向かおうじゃない」
「はい!旦那様の御身は私が守ります」
「私たちも微力ながらお手伝いいたします」
「お任せください」
国王に応えるクラージュ、エクレールさん、プロクスさん。もう、忠誠心がすごい。尊敬する。
「わ、私も頑張ります!」
『うーん。盛り上がって来たねぇ』
気合いを入れるシルマに呑気に実況する聖は意味が分からん。
ああっ、なんだ。この謎の団結感は!
頼む!俺を巻き込まないでくれ。俺の不運フラグはどこで立ったんだぁぁぁぁっ。
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聖「次回予告。ついに幽霊がいるかもしれない地下にやって来たクロケルたち。みんなが団結する中、1人うじうじなクロケルはまさに小物。主人公ポジをシャルムに取られてるよ」
クロケル「うるせぇわ、ボケェ。なんでこんなにトラブル続きなんだよ。レベルが上がる気配もないし!神様、俺が何をしたと言うのですかぁぁぁぁ」
聖「呼んだ?」
クロケル「呼んでねぇよ。そう言えばお前が神だったわ。だったらもう人生終わりだわ」
聖「人生前向きに生きるしかないよ。次回!レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第23話 『グラマラスのほほん幽霊と気性の荒い使い魔』これは、新たなハーレムの予感!?」
クロケル「どうしてお前はそっち方向に話を持って行きたいんだ」