第19話 イケおばとイケおじは二次元の宝です(※個人の見解です)
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
まずはお詫びを2つほど。まずは1つ。また1日置きの投稿となってしまい申し訳ございません。仕事のマニュアル作りに追われておりました。仕事は持ち帰らない質なのですが、これは持ち帰れらんと間に合わん!と思い……。しっかりして下さい、上司ぃ(泣)
そしてもう1つ。18話で予告したタイトルと変更してしまって申し訳ございません。毎回ノープランでの執筆ですので今後もこう言うことがあるかもしれません……。なるべくそうならない様にしたいとは思っております。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「なあ、なんでお前はシャルム国王に会うことをあんなに嫌がってたんだ」
真っすぐ背筋を伸ばして美しい姿勢で前を歩くシャルム国王の少し後ろを歩きながら小声で聖に聞けば不満そうな小声で返してきた。
『だって、自分の過去を知ってる人間に再開するのって嫌でしょ。大して仲良くもないのに』
「仲良くないってお前……一応苦楽を共にした仲間だろ」
『仲間だけど、仲良しとは違うよ。感謝も尊敬もあるけど、仲良しじゃない』
呆れて言えばツンとした態度が返って来た。うーん、そう言うものなのか。俺は一度縁が出来たら基本的には長い付き合いでもいいかなって思うタイプなんだが。
四六時中べったりじゃなくても、年1で連絡取る、もしくは遊ぶくらいの仲でも抵抗はないんだがな。価値観って人によって違うんだな。
そう言えば聖は俺意外とはあまりつるんでいた記憶がないな。なるほど、こいつは必要最低限の友人だけ持っていたいタイプだったか。
改めて垣間見えた親友の一面に内心で納得をしていると聖はツンツンとした態度のまま続けて言った。
『それに案の定、余計なこと話すハメになったし。あんまり過去のことは話したくなかったんだよ』
「それについては悪かった。気軽に聞いて良いもんじゃなかったな」
他人の過去をちょっと興味があるだけで詮索するのは良くないと実感した。まだ気になることも多いが、本人が切り出してくるまでもう聞かないでおこう。すごく重いし精神衛生上良くない。
そんなことを考えながら無言のまま(国王様も話を振ってくれないし)気が遠くなるほど長い廊下を歩き続けること数十分。観音開きの茶色く重厚な扉の前に辿り着き、シャルム国王が自らそれを開ける。
「待たせたわね。話は終わったわよ」
「お待ちしておりました。旦那様。メイド長より客室棟の宿泊準備が完了したとの連絡を頂いております」
クラージュが笑顔でシャルム国王を迎え入れる。もう準備が済んだのか。さっき泊ることが決まったばっかりなのに。仕事が早すぎるだろ。
「あ、あの。クロケル様。宿泊準備とはどういうことなのでしょうか。私、さっきクラージュさんにそう言われたのですが理解が追いつかなくて」
真っ白で高級そうなソファーに座りながらシルマはオドオドしながら聞いて来た。うん、まあやっぱりそうなるよな。ツレを待っている最中に「今日はお城に泊りますよ」って言われたら俺も戸惑う。
食べ物を追加してもらえたのか、大皿に盛られた大量のミニタルトと先ほどはなかったはずのサンドウィッチをシュバルツは小動物の様に小さな一口でもひもひと懸命に食べていた。俺は美少年萌えではなかったはずだか、正直かわいいと思ってしまうのは推しの姿を模しているからだろうか。
シュバルツが擬態している『影坊主』は見た目はクールな男子高校生。それが小動物食いをしているとなると見た目と行動のギャップにエモさを感じるのも必然だよな。うん、俺はモトモだ。マトモだよな?
「うん。国王様のご厚意で、今日は城の敷地内に泊らせてもらうことになったんだ」
挙動不審になっているシルマに簡潔に事情を話せは彼女は大きな目を更に大きくして口を両手で押さえながら驚いていた。
「まあ。お城に泊れるんですか。それは大変光栄ですが緊張もしてきました……。粗相のないようにしないと」
「気にしなくていいわよ。アタシへの反逆以外なら何をしてもOKよ。特に今から案内する客室棟は自由につかってもらって構わないから。そんなに緊張しなくても良いのよ」
喜びながらも緊張し、粗相があってはならぬと震えるシルマにシャルム国王は懐の深さを見せつける様にな返答に俺は震えた。
すげぇ。何、王族とか金持ちって心に余裕があるのか。俺なんて友達に漫画とかCD貸すだけでもそわそわするぞ。ちゃんと返してくれるかなとか、折り目つけられたら嫌だなとか考えるタイプなんだよ俺はっ!
シャルム国王と自分の器の違いを勝手に比較して自己嫌悪に陥っているとノックの音が響く。
「あら、来たわね。入っていいわよ」
シャルム国王が返答した数秒後、複数人のメイドや執事が特別室へと足早に、それでいて物音ひとつ立てずに入って来た。この城の奴らはみんな物音を立てねぇのか。なんか怖いわ。
『この世界でメイドや執事はアサシンの役目を兼任している場合もあるからね。確かに怖いかも』
聖が俺の耳元に近づき小声で言う。こいつ、また人の心読みやがったな。それやめろっつーの。
でも、この人たちがアサシンつまり暗殺者の役割も担っている可能性があるのか。メイドや執事がアサシンだなんて二次元でありがちな設定だなと思いながらも、ちょっとだけ恐怖が増した。
「国王様、お部屋の用意が完了いたしましたのでお迎えに上がりました」
40代ぐらいのメイドがきっちりとした動きでシャルム国王に頭を下げる。身長はヒールを履いているシャルム国王とほぼ変わらない様に思う。恐らく170cmは超えていそうだ。女性にしては背が高い印象を受ける。
「ありがとう。っと、その前にお客様にアナタのことを紹介をしておかないと。クロケル、シルマ、シュバルツ。こちらはメイド長のエクレールよ。あなたたちのお世話係を任せるつもりだから」
「エクレールと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
エクレールさんは俺たちにも深々と丁寧に頭を下げたので俺もシルマもそれにつられる形で頭を下げる。
『クロケル、凄いよこの人。レアリティは3でレベルは上限値である70ピッタリだ。属性はヒト型でアサシンだね。身体能力が高いし、魔術の素養もあるみたい。これはイケてるおば様だよ!』
下げる頭がない聖は興奮気味に言った。俺にしか聞こえない小声だったがテンション上がりすぎだろ。そう言えばこいつ、イケおじ(イケてるおじ様)とかイケおば(イケてるおば様)キャラが好きだったな。
まあ、俺も好きだが。ただ俺としてはもう少し年齢が上の方がたぎるな。おばあ様、おじい様レベルが個人的にドストライクである。
だって、ご老体にそぐわない戦闘能力って良くないですか。頼りがいがあるだけじゃなくて、豪胆でパワフルとかもう最高ですよね。なめてかかった若者がフルボッコにされる展開は爽快だと思います。
そう言うキャラは「ジ」から始まる有名アニメ会社に多い気がする。ガキの頃、戦うイケおばキャラを見て感動したのを覚えている。
そのアニメを思い出して内心はオタク丸出しで興奮しながら、自分自身の考えに頷いていると、聖の言葉を受けてシャルム国王が自慢げに言った。
「あら、AIさんはアナライズがお得意なのね。そうよ、エクレールはこの城に長く仕えている自慢のメイドでアサシン。家事は万能だし、戦闘能力は保証するわ」
聖のことをわざとらしくAIと呼んだシャルム国王に俺は苦笑いしかできなかった。聖も国王に対してつっけんどんだが、シャルム国王も十分刺々しいな。多分、トゲが落ちるのはクラージュ限定なんだろうな。
そう言うのってなんかいいよね。と思いながらクラージュの方を見れば、にっこりと笑顔が返って来た。
「私も戦い方や家事など、エクレールさんから学ぶことは多いです。頼れる先輩ですよ」
「いいえ、私などまだまだ未熟者でございますので」
エクレールさんは冷静にそう言いながら会釈をした。未熟者……長くお城に仕えて、家事も仕事も国王に認められるレベルなのに未熟者。
謙遜しすぎだろ。もし本気でそう思ってるんだったらレベル1でヘッポコな俺はなんだ。ゴミか。自分で言って泣けて来る。
「そう言うわけで、エクレールはメイドとしてもボディーガードとしても頼りになる存在だから。この城にいる間は彼女に頼るといいわ。あとで執事長も紹介するわね」
ほほう、執事長。これはイケおじも登場する予感ですな。ちょっと楽しみかもしれない。可能であればロマンスグレーで髭で眼鏡がいいな。
「エクレールさんはお忙しい方ですので、みなさんのお世話は私がすると申し出たのですが……」
俺の他人からすれば意味の分からない希望的妄想思考に気がつくはずもなく、凛とした口調で話を進めるシャルム国王の傍でクラージュが申し訳なさそうに眉を下げる。そんな彼女の態度を見てシャルム国王はふん、不満げに鼻を鳴らした後に言う。
「アナタはアタシ専属の騎士で、愛しい妻よ。仕事ならともかく、私生活でアタシ以外のヤツの面倒を見させるのは妬けるもの。もう、こんなこと言わせないでちょうだい」
恥ずかしげもなくのろけたと思った矢先、やっぱり恥ずかしいことを言った自覚があったのか、シャルム国王は顔を真っ赤にして背けた。
対するクラージュは星の如く表情を光らせ、そして頬を桜色に染めながら言った。
「私も旦那様といる時間は貴重ですので。お城にいる間は叶うことなら旦那様のお世話をしたいです」
「だめだ。痒い。体が痒い」
『うん、僕も。砂漠ができそうなぐらい砂が吐けそうだよ』
前世で恋愛系の作品に触れたこともあったし、特別リア充に殺意や羨望を覚えたこともなかったが、目の前でこう何度も桃色でハートな雰囲気を醸し出されるとダメだ。
イラッと言うかウェッと言うかとにかくそう言う気分になる。この光景を前に顔を真っ赤にしているシルマと首を傾げているシュバルツは本当に純粋なんだなと思う。
「ん、んんっ。さあ、エクレール。この子たちを客室棟に案内してあげなさい」
視線を受けていることに気がついたシャルム国王が照れ隠しの咳払いをしてエクレールに指示を出す。
「はい。かしこまりました」
何1つ動揺することなくエクレールさんは動き出した。そしてあまりに静かすぎて存在を忘れていたが、黙って控えていた他のメイドや執事たちも無反応。直立不動で立っている。え、この光景まさか日常なの?マジで?うわぁ……。
「それでは、宿泊棟へご案内させて頂きます。陛下からは1人1部屋でのご用意とお伺いしておりますが、よろしいでしょうか」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
エクレールの問いかけにシルマが緊張で背筋をピンと伸ばしてからほぼ直角に礼をする。
俺も1人部屋で特に問題はないと思っていた。と言うか恋人同士でもない男女が同じ部屋泊るのはいかがなものかと思うので、部屋を個別に用意してもらえると言うならとてもありがたい。
『据え膳喰わぬは漢の恥っていうのに。情けないなぁ、クロケルは』
聖が小声でとんでもないことを言って来たので俺は空中に浮かぶタブレットに自分でも信じられないほど素早い動きで手を伸ばし、そいつを抑え込んだ。
タブレットである聖にこんなことをしても直接ダメージを与えることはできないので無意味だが、
「据え膳じゃねぇし。バカなこと言ってんじゃねぇよ。割るぞ」
『わー。こわぁい』
それほど危機感を感じていないのか、聖は棒読みでそう言いながら俺の手柄からいとも簡単に逃げた。くそ、逃げられた。
「クロケル、ボク、クロケルと離れるの、嫌だな」
シュバルツが俺の服の裾をクイクイと引っ張りながら懇願する様な視線を向けて来た。う、うーん。1人でゆっくりしたいと言う気持ちも山々だが、確かにシュバルツを1人にさせるのは不安だ。
一応性別は男なわけで精神的に幼いと言えども見ためも中高生だし。シルマと同じ部屋にさせるわけにはいかないよなぁ。
「あの、国王様。シュバルツと俺は同じ部屋にしてもらっていいですか。あいつ、まだ世間知らずな上に色々と不安が消えないみたいで」
「私は構わないわ。聞こえたわね、その通りにして」
シュバルツの素性を知っているシャルム国王に聞いて見れば申し出を快諾した後に、大人しく控えていたメイドたちにそう言いった。
命を受け、壁際で控えていたエクレール以外のメイドと執事がテキパキと動き出す。
「それでは改めて、ご案内させて頂きます。こちらへ」
エクレールに促され、俺たちは客室棟へと向かうことになった。俺たちが部屋を出て行こうとした時、シャルム国王に呼び止められる。
「食事ぐらいは一緒に取りましょう。時間になったらメイドか執事が呼びに行くからそのつもりでいてね」
「は、はい」
「ありがとうございます」
俺とシルマはそれぞれ返事をし、国王の傍で笑顔で手を振るクラージュに手を振り返しながら部屋を後にした。
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聖「次回予告!お城に泊ることになったのはいいけど、苦労人のクロケルがお城で豪遊できると思う?
人生そんなに甘くないよね。どんなトラブルが待ち受けているのかな」
クロケル「トラブルがあるの前提かよ。あと誰が苦労人だよ。変なキャラ付けすんな」
聖「お人好しは得てして苦労人なんだよ」
クロケル「うるせぇよバーカ」
聖「次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第20話 『宿泊先でホラーの予感』こうご期待!」
クロケル「ホラー!?なんだよホラーって」
聖「霊的なあれやそれじゃない」
クロケル「嫌だぁ!俺はゆっくりしたいんだぁぁぁぁぁっ」