第186話 唐突に英雄集結モードになるな
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
部署異動って嫌ですねぇ。やることが違うと会社内で転職してるみたいなものですから(大きな語弊)
全く違う仕事を一から学び直し、システムも再履修。さらに前の部署からのヘルプの電話。ふざけているのかな?
うう、小説を書く時間が減って行く……。もし、このお話を楽しみにして下さる方がいるのであれば、気長にお待ちいただけますと幸いです。最終話は全く考えついていないので多分、話は続きますので……
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
俺がレベルが低いにもかかわらず、(シルマの提案と助けはあるものの)命をかけてこの世界で旅をすると決めた本来の目的だったはずのレベル上げがまた遠のいてしまったことに軽く、いや大分ショックを受けてうな垂れていると、宙を浮かぶ聖がケロッとした口調で俺を覗き込んできた。
『ん、どうした?まさか自分のレベル上げが遠のいたことがショックとか?我慢しなよ、今はそれどころじゃないんだかさ』
レアリティに対してレベルがクソ雑魚と言う俺の秘密を知らない面子もいるからか、聖は周りに聞こえない程度の小声で小言をぶつけて来た。
それに対しちょっとだけイラッとしつつ、一応自分の抱える思いを述べる。理解して欲しいとかではなく、ただ単純に自分勝手な考えではないことだけは分かって欲しだけなのである。
「別にそこまでショックを受けているわけじゃないし、世界のため自分ができることがあれば全力で取り組みたいとが思っている。思ってはいるが……」
俺はそこまで言って言葉を止めた。実のとこと、ちょっぴり面倒くせぇなぁ、ヤダなぁ、怖いなぁと思わなくもないからだ。いや、確実に思っている。我ながら情けないわ……最低な奴ですまぬ。
「ライアーの保護、処罰はなしの件についてはアタシも相違ないわ。何かあった際ににも協力を惜しむつもりはない。でも、それはあくまで一時凌ぎでしかないわ」
今後もこの複雑な案件に関わらなければならないと言うしんどさと、とことんヘタレな自分にげんなりしているとシャルム国王が難しい表情のまま厳しい口調でそう言った。
国王が何を問題視しているか見当もつかなかった俺は間抜けに首を傾げて聞き返す。
「一時凌ぎ、と言いますと?」
察しが悪い俺を見た国王は一瞬だけキュッと眉間に皺を寄せて“何だ、わからねぇのかよ”みたいな
反応を示したが、浅くため息をついた後にわかりやすく言葉にしてくれた。
「ライアーの人生はこれからも続くのよ。いつまでも彼をあの部屋に閉じ込めているわけにもいかないでしょう?いつかはこの国を出て行ってもらうつもり?それとも一生この国で面倒をみるつもりなのかしら」
その辺りのことはどう考えているの、と問われたアストライオスさんが腕組みをしながら深く唸る。国王の分かりやすい言葉によって俺もようやくその懸念を理解する。
そうだよな。ライアーの命は取らないにしろ、何の処罰も与えないにしろ、結局のところ“今後”と言うものが大きく関わって来る。現状、ライアーの未来はこちら側が預かっている様なものだからな。
話を聞けたとしても、或いは碌に話しができないまま平行線な状態が続いたとしても、ただ放置すると言うのは将来的に見ても現実的ではないことが俺にだって理解できる。
「うーん、そこなのじゃ。事情はどうあれ、世界を滅ぼそうと暗躍していた人物を何の処罰もなしに我が国民として迎え入れる、と言うのはこの国を背負う者としては容認できん」
アストライオスさんはエクラの様子をチラチラと伺いながらも国のトップに立つ者としての考えを毅然と述べた。
この言葉については国も大きく関わってくることなので、フィニィのためにすっかりライアー擁護派になっているエクラも流石に反発することが出来ない様で、複雑な表情を浮かべて悔しそうに唇を噛んでいた。
「うーん、確か、敵の今後ってあんまり考える様なことじゃないもんねぇ。ペセルちゃん、今こう言うシュチエーションでの検索かけてみたけど、あんまり例がないねぇ」
ペセルさんも両手の人差し指をこめかみに当ててうーんと唸っていた。彼女だけではない。アストライオスさんの発言を聞いてその場の全員がその難解さに頭を抱えて唸っていた。
そう言われてみると俺も敵の今後何て想像もつかない。2次元の世界でだってあまりかかれないことだ。敵は大体主人公側に倒されて散るか、命が助かったとしても姿をくらませてもう会えなくなってしまうかだ。
そして何となくだが特にライアーに関しては圧倒的後者な展開になる可能性がある。
『敵が仲間になるパターンもあるけどね』
相変わらずさらっと俺の心を読んだ聖を咎めることはせず、俺は返答してやる。
「ラスボスポジが仲間になるケースは稀だろ。それに敵ポジが仲間になるのは大体物語の中盤から終盤にかけて。しかもその間死亡フラグビンビンだし。作品にもよるかもだが。それにライアーに関しては仲間になるフラグは全くないし」
それに仮に仲間になる可能性があるとしても“今後の扱い”に困ることには変わりない。と言うかそんな簡単に敵を迎え入れられるのかと問われると……無理かもしれない。
他の仲間たちはどうかわからないが、俺はちょっと信用できないと言う想いが強い。いや、信用できないと言うよりかは“怖い”かな。だってナイフダーツされてるし。ライアーが穏やかそうに見えて気が短いのは知ってるし。
仮に仲間になって、この国で暮らすことになったとしても、俺たちのパーティに加わることになったとしても、何か寝首をかかれそうで不安しかない。
「今後の対処、と言えばあやつが作り上げた組織……ネトワイエ教団、じゃったかのう。その
みんなが頭を悩ませていることとは別の視点からシェロンさんが意見を述べる。それを聞いたケイオスさんが今気がついたと言う表情で深く頷いた。
「ああ~、そっか。そうだな、そっちの問題もあった」
「と言うよりこっちの監視下にあるライアーよりも現状どうなっているか分からないネトワイエ教団の方に重きを置いて考えた方がいいかもねぇ」
ペセルさんが人差し指を頬に当て、コテンと首を傾げながらそう言った。
「そうじゃのう。ネトワイエ教団がどの程度の組織かは把握しきれておらぬが、数が多そうな下っ端はともかく、幹部クラスあたりはライアーやフィニィが長く戻らない時点で捕獲されていると考えるものも良そうじゃしな」
シェロンさんが難しい表情で唸ると、アストライオスさんもそれを深刻に受けてもている、と思いきや大層面倒くさそうに唸って頷いた。
「まあ、幹部に関してはトップが捕まったと判断した時点で動くじゃろうよ。と言うか、動く。それなりの戦いになる未来は約束されておるぞ」
これから戦いが控えていると断言したアストライオスさんに一瞬疑問を覚えたが直ぐに理解し、唐突な疲労と不安に襲われた。ああ、そうか。このヒト、未来視ができるからある程度の未来は把握できるんだった。
こんなに嫌そうな雰囲気を醸し出していると言うことは、今後相当ややこしい展開に発展するんだろうなぁ、だとしたら嫌だなぁ。アストライオスさんが視ている未来では俺、無事なのか?それだけでも知りたいんですけど。
『幹部って何人ぐらいいるんだろうね
行き先が不安になって未来の自分の安否確認をしようと試みた矢先、聖がすかさず会話に割って入って来た。
「幹部かぁ……確かに予想がつかないねぇ。あ、でも多分、1人はあのコでしょ。ペセルちゃんの国をハッキングした子」
邪魔するなよ、俺の人生に関わることを聞くチャンスだったのにっ!と唇を噛んでいる間にペセルさんが聖の言葉に乗っかった。ああ、もうこれ話の流れ変わっちゃったよ。
ただでさえ何も進んでいない状況であるため、進み始めた話を自分の未来が知りたいがためだけにもう一度戻す、なんて言う図々しさは生憎持ち合わせていない。ここは我慢するしかない。くそっ、危険があるとわかっているのに詳細を知ることが出来ないのは辛い。
「そういうのはここにるフィニィが詳しいんじゃないの。元と組織の中にいたのだから」
シャルム国王が冷静にそう言ってまだ悲しみから脱却できずにエクラから渡されたハンカチを握りしめて鼻を啜っているフィニィに視線を移し、そして一切表情を変えずに淡々と声をかけた。
「辛いところ申し訳ないわね、フィニィ。でも、こっちも世界を守るために手段は選んでいられないの。だから質問させてもらうわ。現状、あなたはどの程度私たちに協力する気があるのかしら。幹部の数ぐらいは教えてもらえないの?」
「そ、それは……」
悲しみで心が弱っているせいか、冷たい口調の質問を浴びせられただけでビクッと肩を震わせて口ごもり、視線を泳がせた後に俯くフィニィの背中をすかざずエクラがさする。
アンフィニも心配そうに弱々しく動揺するフィニィを見上げ、そして冷たい視線のまま佇むシャルム国を睨みつけて言った。
「フィニィはまだ心の整理がついていないんだ!あまりプレッシャーをかけるなっ」
「あら、ごめんなさい。プレッシャーをかけたつもりはないのだけれど。でも欲しい情報を持っているかもしれない人物が目の前いるのだもの。はっきりしてもらわないと困るわ。それに、アタシは情報を提供する気があるのかと聞いただけ。強要はしていないわ」
「ッ!」
涼しい表情でしれっと言葉を返したシャルム国王にぐうの音も出ないアンフィニが悔しそうに言い淀んだ。
「まあ、シャルムの意見は正しいな。俺たちは重要な手がかりを抱えているんだから。それに頼らないと言う選択肢はありえないわなぁ」
「そうじゃのう。家族と別れて精神的に参ってしまうのは分かるが、フィニィに我らが自由を与えてやっている意味を思い返して欲しいのぅ」
毅然と情報提供を求めるシャルム国王に賛成する形でケイオスさんとシェロンさんがフィニィに若干プレッシャーをかける様な言い方をした。なんでかな、2人とも口調は穏やかなのに雰囲気が怖い。
「2人共、そんな言い方は良くないよっ。情報を聞き出したいなら、もっと優しく笑顔で相手に寄り添わないと!ね、フィニィちゃん。ゆっくりでいいから知っている情報を話して欲しいなっ」
ペセルさんは緩やかにプレッシャーをかけている2人を宥め、フィニィに気遣う様に語り掛けてはいるが、お判りいただけただろうか。このお方、決して“無理して話すな”とは口にしていないのである。
眩しいアイドルスマイルを浮かべながら話をする方向に持っていこうとしているのである。さらっと容赦がないところに若干恐怖を感じた。
アストライオスさんからも容赦の発言が来るのでは、と自分が責められているわけでもないのに警戒したが、エクラの反発が怖いのか彼女の表情をチラチラと伺いながらも何か言いたそうにしていた。
でも、今まで出た発言には激しく首を縦に振っていたので賛成は賛成なのだろう。孫に嫌われるのが怖くて言い出せないだけだと仮定した。
って言うかさっきまで自分勝手にぐだぐだしていたみんなが急に色々割り切り始めたんですけど。コクリコさんを失った悲しみから立ち直れていないフィニィに対してかなり厳しい態度と言える。
あくまで冷静に、いや冷酷な態度を見せて同情などはぜず、義務的に情報を聞き出そうとする姿はまさに苦労を積む重ねて生きて来た者たちの姿だ。何か突然玄人っぽさがにじみ出てきて戸惑いしか覚えない。
唐突に英雄モードを出すのヤメて欲しい。正直“英雄”って雰囲気はめっちゃカッコいいし頼り甲斐はがあるのは喜ばしいことだが、普段がいい加減で緩い面々が多いからか温度差で風邪ひく。
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聖「次回予告!ついに真面目な流れになりつつある展開に!このままの空気をキープして少しでも話を進めることはできるのか。そして、ツッコミばかりで影が薄くなりつつあるクロケルの出る幕はあるのか!」
クロケル「何を力強く言ってくれてんだてめぇは。俺は別に出る幕なんてなくてもいいんだよ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第187話『二次元系ギャルは何故か正しさとカリスマ性がある』もう、相変わらず後ろ向きなんだから。せっかく異世界転生して二次元の主人公っぽく生きられるチャンスをみすみす逃すとか勿体ないと思わないの?」
クロケル「それは異世界転生してそれなりの能力がある奴が送ることが出来る勝ち組人生なんだよ。天性のモブ属性で覚醒する片鱗も希望もない俺とは無縁の生き方なの!」
聖「そうなれるように努力すればいいのに」
クロケル「常にしようとしてるよ!?レベルを上げるための素材とか集めたいってずーっと思ってるよ!?元々はそのために旅をしてたはずだし。それを俺が恐らく持っている“面倒事に巻き込まれる”って言う運命とやらが妨げているんだろうがっ!」
聖「あ~、そうだっけ。でも、運命ならしょうがないじゃん。頑張って立ち向かうか抗うかしなよ」
クロケル「お前いっつも軽く言ってくれるよな、レベル1で死と隣り合わせで異世界で生きる恐怖を知らないだろ」
聖「いやいや、僕も神子時代は異世界に戸惑いながら生きていたよ?」
クロケル「え、そうなのか?」
聖「まあ、君と違うところがあるとするなら僕は才能バリバリの“主人公属性”だったってところかなっ」
クロケル「くっ、嫌味かよ!一瞬でも同情しかけた自分が悔しい」