第183話 何十回目の作戦会議
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
先だって職場の新人君(中途)に「水無月さんってぇ趣味とかあるんですかぁ」ってナメた口調で聞かれたので食い気味で「筋トレ」って答えたらちょっと引いてた。
私、小柄で筋肉がつきにくい体なのでガリに見えるらしく……。まさか体感バリバリで筋肉がガッチガチに固いとは想像がついていなかった様子。ざまぁ(性格が悪い)
本当の趣味はアニメ鑑賞とか10年ぐらい推してる声優さんのお声を聴きまくることなんですけどね!そんなん言えるわけないので★
まあ、筋トレも強ち嘘ではないですが。スクワット、腕立て、腹筋を100回3セットやる程度なので趣味と言うには甘すぎる。と言うか本当にトレーニングしておられる方に怒られる……。
何が言いたいのかと言うと……新人に舐められてなるものか!
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
そんなわけで、俺たちは多少気が進まない感はあるものの、ライアーを一時的に1人にしておくことにした。
俺たちが部屋を後にする際もライアーは放心状態で「後からまた話を聞きに来るから変な気を起こすなよ」とアストライオスさんが一応、声をかけたものの聞こえているのかいないのか、全くの無反応だった。
そしてシャルム国王が提案に従い、俺たちはまた客間に集って今後を見据えた会議を行うことになった。
因みに客間に入ってすぐに台所へと吸い込まれるようにして消えたエクラが再び姿を現して持ってきてくれたおやつは小ぶりのチョコチップが入っているパウンドケーキと輪切りのレモンが浮かぶ紅茶だ。
「こう言うコトもあろうかとパウンドケーキを冷蔵庫で寝かせて置いて良かったっ★」
満面の笑みを浮かべるエクラに言いたい。どう言う需要を見込んで用意していたんだ。お前に未来視の力はないだろ。って言うかいつ作ったんだ。
強靭な精神力を持っているのか、あの重苦しい空気をその身に受けたばかりだと言うのに、即座に気持ちを切り替えてお茶と菓子を用意して鼻歌交じりに並べるエクラには感服する。正直、この前向きさに救われている部分もあると思う。
俺もこれぐらい精神にゆとりがあればなぁ……アレかな、ギャル精神を持てばワンチャン精神にゆとりが出ます?
『何をトチ狂った思考を持ってんの。無理無理。精神のゆとりを持つのにに騎士とかギャルとか関係ないから。個々の持つ根本的な性格に問題があるだけだから』
「うるせぇわ、そんなことわかってるよ。わかった上での現実逃避だっての」
相も変わらず隙さえれば俺の心を平然と読んで現実的で辛辣なツッコミを入れて来る親友を俺は恨めしく睨みつけた。
根本的に精神的なゆとりがなくて悪かったな!生憎俺は前世では平凡な17年ぐらいしか生きてないモブだったからあんな重い親子劇を見せられて直ぐに気持ちを切り替える何てできねぇんだよ!
『年齢だけで言えばエクラちゃんもと君は同い年なんじゃない?』
まだ俺の心を読みやがるか、こいつは。ライアーとコクリコさんのことで精神的に疲れていると言うのに更に負荷をかけて来るとか何なの。
お前の趣味は俺の精神を抉りとることか。やめろ、悪趣味だから。と言うか親友のする行為じゃねぇから。アレ、俺と聖って親友……だよな?
「確かに同い年かもしれないが、生きて来た環境と言うか生きている世界が違うだろ。価値観が違えば考え方とか生き方とかも変わるから適応力が違うんだよ……多分」
幼馴染で長年つるんできた来た聖との関係に不安と不満を覚えながらも俺は小声で抗議した。そうだよ。生きる場所や送って来た人生でそのヒトの人格形成は異なる。
何度も言うが俺は平凡なスペックと人生を与えられただけのその他大勢のモブ。実は隠された才能が!とか言うことも一切ないモブ。時空の狭間にそう判断されて一回消滅したんだから保証はされている。情けない保証だけど。
「ちょっと、アンタたち。そのしょっちゅうコソコソ漫才をするのはやめなさい。今は会議の時間よ。関係のない戯れはヤメて」
「うっ、ハイ……毎回スミマセン。どうか俺たちのことは無視して会議を始めてクダサイ」
また怒られたよ。この展開も何度目だ……ってか漫才ってこの世界にもあるの?と言う疑問は置いておこう。ちょっと気になるけど。
毎回聖が絶妙なタイミングで心を読んで茶々を入れて来るからつい反発しちまうんだよなぁ。もしかしてこいつ、わざとやってんのか。だとしたら毎回それに引っ掛かって怒られている俺ってバカじゃんよ。後で真偽を問い詰めてやる。
「はい、おバカさんたちが静かになったところで、会議開始。クロケルたちに限らず話が脱線しがちな傾向にあるから、各々その辺を自覚して臨むように」
聖に生まれた新たな疑惑をとイラつきを頑張って押し込めたところで、シャルム国王が事前に注意を促す形で会議が始まった。
「ん~、でも今後のことを見据えてって言われてもなぁ。あのライアーってヒトの扱いはこの国を治めているアストちんの判断でいいんじゃないの?」
行き先が見えない中々に難しい議題のため、直ぐには意見が出ない中、ペセルさんが最初に意見を述べた。
それを受けて孫が作ったパウンドケーキを幸せそうに食べていたアストライオスさんの動きが止まる。途中まで食べていたソレをそっとテーブルに置いてジトリとペセルさんを見やった。
「簡単に言ってくれるのぅ、ペセルよ。面倒事をワシに全て押し付けるつもりか」
「うわ、何でそんなひねくれた捉え方しちゃうかな。ペセルちゃんはただ今、ライアーはこの国の保護下にあるから、責任者であるアストちんに権限があるんじゃないかって言いたかっただけなのにぃ」
口では“こわ~い!”と言っているペセルさんだが、なんだろう……全然怖がっている様に見えない。
「ペセルの言うことには一理あるわね。この案件における全ての判断をしろ、とは言わないけれど……アストライオスはライアーの身柄をどうするつもりか決めているの?」
シャルム国王の冷静な問いかけにアストライオスさんは“全く以てめんどうくさいのぅ”と唇を尖らせた後に一応思案してから答える。
「そうさなぁ……せっかくワシらが守り抜いた世界を消滅させようなどと考える危険人を活かしておく義理はないし、始末するのが妥当だとは思うのじゃが……」
始末、物騒な言葉を平然と口にしたアストライオスさんだったが、その単語を聞いてフィニィがビクッと肩を震わせ、それに反応したエクラが彼女の体を支えて自分を睨みつけたことで深くため息をついた後、何かに妥協した表情を浮かべてやれやれと言葉を付け加える。
「とは言え、この処遇については先ほどの娘との対話で心境の変化があれば話は変わるがな」
「ほぉ、ではライアーから話を聞き出すことが出来た後は即刻処分、と言う様なことは現状ではするつもりはないと。ははは、お前も甘く……いや、丸くなったものよのぅ」
渋々と発言をしたアストライオスさんを見てシェロンさんが興味深そうに、そして面白そうにケラケラと笑って言った。すっごいニマニマしている辺り、一国の主で世界を救った仲間でもある人物が、孫に睨まれて意見を曲げる姿はシェロンさんにとって相当滑稽に映るらしい。
「腹の立つ表情でワシを見るでないわ。ワシとて価値観や考えが変わることもある。それに、あくまでも保護を続けることについては“ライアーの意識に変化があった場合”に限るぞ」
面白がるシェロンさんの反応が気に食わなかったのか、アストライオスさんは恨めしそうに反発したがそれに被せる形でエクラが声を荒げる。
「ちょっと!おじいちゃん、敵に情けをかけろとは言わないけど、あのヒトの家族のフィニィちゃんがここにいる前でそう言う物騒なことを言うのはヤメて。もっと周りに気を遣った発言をしてくれないと困るよ。一応、この国の長なんだからいい加減、気遣いを覚えて」
「ううう、すまない。発言には気をつける……」
愛する孫からの辛辣な意見にアストライオスさんは小さくなって謝罪した。ああ、なんて不憫なんだ……アストライオスさん。
「って言うか、似たようなこと前にも言ったよね!何で学ばないかなぁ、意識が低いんじゃない?そんなんで国のトップに立つのヤメてよ」
畳みかける様に叱責され、アストライオスさんはもう一言も発せずに筋肉質な老体を小さくして落ち込むばかりだった。
エクラ、注意をするにしてもちょっと厳し過ぎじゃね?と俺は内心でアストライオスさんをちょっぴり不憫に思っていたのだが、周りのと言うか神子一行の反応は違った。
「あっはははは!ダメだ、面白い。あのアストライオスがっ、孫の尻に惹かれてるっ、あははははっ」
一番最初に噴き出したのはケイオスさんだった。しかも足をバタつかせて大口を開けて涙を浮かべての大爆笑。見ているこっちが引くレベルの大ウケお笑いフィーバー状態だ。
「ふっ、これ。アストライオスも真剣なのじゃぞ、そんな風に笑っては気の毒、と言いたいところじゃがこれは……耐えきれぬのぅ。くふふふっ」
そんなケイオスさんに注意を促すシェロンさんだが彼女のヒトのことは言える状態ではない。彼ほどではないが、肩を振るえて笑いを堪えているが堪えきれずに笑いが漏れまくっている。
『僕もヤバいかもっ、くくっ』
聖、お前は一応神子一行とは無関係の設定なんだから笑ったらヤバいぞ、耐えろ。と言うか笑ってやるなよ。
「みんな、そんな風に笑っちゃダメだよぉ。アストちんは真面目なんだから、バカにするのはよくないと思う」
ペセルさんはとても良心的で孫に精神をめった打ちにされてしょんぼりなアストライオスさんを笑う面々に真面目に注意をしていた。でもずっと気になっていたんだがその“アストちん”って呼び方なんとかならないですかね?何か締まらないんですけど。
「ああ、ダメだわ……言った傍から話が脱線し始めているじゃない……」
ゆるっとなり始めた空気にシャルム国王が座った状態で目頭を押さえて、げんなりとうな垂れた。その気持ち、凄く分かります。これは完全に話が脱線コースだな、と思いながら俺はパウンドケーキを口に運んだ。
因みに、凄く今更にはなるがパウンドケーキの味はやっぱり絶品だった。しっとりしとたショコラ生地に歯ごたえのあるチョコチップが良い感じにアクセントになっていて美味しいし食べていて楽しい。
先だって食べたクリームモリモリの激甘ケーキと違って凄く食べやすい。適度に甘すぎないところがいいよな。
「はい、フィニィちゃんも食べなよ。甘いものを食べたら元気がでるカモ」
そう言ってエクラは切り分けたパウンドケーキをコクリコさんと別れたばかりの悲しみから涙を浮かべたまま意気消沈しているフィニィに差し出した。
フィニィはそれをおずおずと受け取り、そしてありがとう、と小さく呟いた。エクラはどういたしましてと笑顔を返した。
前回の様に爆盛りにしていない辺り、ちゃんと空気を読んでいるんだなぁと思う。いや、空気読めるんだったら前回も読んでくれよ!?あの量はかなり苦しかったし、十分お腹いっぱいですって空気も出してたよね!?なんで読まなかったってか気が付かなかったんです?
どうも俺はツッコミ気質らしい。そんなことを思いながらも敢えて口には出さず、黙ってパウンドケーキを口に含み、やっぱり進まない会議にうんざりとし始めたのであった。
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聖「次回予告!いや~言った端から見事に話が脱線するんだもん。君たちって本当に面白いよねぇ。さあ、クロケルたちはまともな意見をだして答えを見出すことが出来るのか……見ものだね」
クロケル「面白いことあるか。後、何が見ものだよ。さらっと傍観者に戻ろうとするな」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第184 話『協調性がない奴らが集まるとやっぱり話が脱線する』戻ろうとするなってか傍観者であることが僕の役目だし」
クロケル「お前、ホントにそう言うとこキッパリ割り切るよなぁ……ってか疑問なんだが、お前が神子一行としてあのメンツと旅をしていた時もこんな感じでぐだぐだだったのか?」
聖「え?んー、どうだろ?あの時はほとんどのメンバーが若くて反発し合うことも多かったし、もっと協調性もなかったからなぁ……ぐだぐだって言うより、ギスギス?」
クロケル「よくそんなんで世界を救ったなぁオイ」
聖「協調性がなくても信頼があればいいんだよ!」
クロケル「協調性と信頼ってイコールなのでは」
聖「わかんなーい。何とかなってるしイコールじゃないんじゃない?」
クロケル「ほんっと適当な奴……」