第181話 長なら早よこのイザコザを止めんかい
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
2月なのに寒くないですか。私のお部屋、底冷えがすっごいんですけど……手がかじかんでゲームをしている時も手元が狂う。音ゲーで得意楽曲のエクストラモードのコンボ初めて落としてショックぅ。
みなさんも寒さで体調を崩さぬ様、十分にお気をつけくださいね……。でも職場では空調直下だから暑いんだよなぁ。そして夏は寒い。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
『う、う~ん。そっかぁ。神子たちに強い念を抱いて残留思念になったコクリコが成仏してくれたことに気を取られて本来の目的を失念していたよ~。あははは』
俺からはっりとした言葉をぶつけられ、ようやく現状を理解した聖が渇いた笑いを交えて気まずそうに言った。一番重要なことに気づけなかった自分に動揺しているのか空中をふよふよと無意味に行ったり来たりしている。
聖に呆れているとコクリコさんが姿を消してから、息もできないほど暫く放心状態だったライアーが、ふらついてからベッドに倒れ込む様な形で座り込み、力なく項垂れて呆けたまま言葉を震わせて呟いた。
「私のして来たことは、間違っていたの言うのか。コクリコのために必死に生きて来たのに、彼女の望みではなかったと……っ、私は、私はこれからどうすればっ」
自らの両手を眺め、そして乱れた感情を抑え込むかの様に顔を手に押し付け、自分の思想とは正反対の願いを残して消えた娘の現状を嘆いた。
その姿を見ていると、つい最近までは得体のしれないサイコな強敵だと思っていたライアーに対して同情とも憐れみとも取れる複雑な感情を抱いてしまう。
ロマンスグレーで英国紳士的な上品でミステリアスな雰囲気も今はすっかり失われて、こう言う言い方は本当は良くないかもしれないがただの老人にしか見えない。それぐらい老け込み、意気消沈しているのだ。
それにコクリコさんと再会したあたりから口調が敬語ではなくなっている。今のライアーを見ていると余程精神的な余裕がなくなっているんだと改めて思う。
「コクリコすまない……お前が消えるまで返事を返すことが出来ずに、自分の行動を否定されたことがショックで、変に意地を張って本当にすまないっ」
ライアーはまともに話すことが出来なかったのが余程心残りだったのかか、コクリコさんに謝罪の言葉を述べていたが、時すでに遅しだ。
コクリコさんはもうこの世にはいない。残留思念としての存在も叶わなくなってしまったので言葉は届かない。そんな残酷な現実にまた場の空気が息苦しいほどに重くなるのを感じた。
「……近しいヒトへの想いってさ、失って後悔をしないと向き合えないないんだな。なんか、ちょっと悲しいし、身につまされるかもしれない」
失って初めて事の重大さやそのモノの価値に気が付くとよく言われるが、実際に目の当たりにして本当にそうだと思った。俺の両親は健在だが面と向かって日頃の感謝の気持ちを直接伝えたことはあまりない。
別に仲が悪いわけではないし、それなりに他愛のない会話はするが、じゃあ腹を割って話せるか。素直にありがとうと伝えることができるのかと言われると……無理かな。
恥ずかしいと言うか、変にむず痒くて多分、言えない。元未成年だし、お酒は飲むことが出来ないヤツがこういう表現をするのはおかしいかもしれないが、シラフでは無理。誕生日とか、父の日・母の日とか特別な日ならギリ行けるかもだが。
「はい、そうですね……でも、自分と近しいからこそ甘えてしまって我がままになってしまうのかもしれません」
ライアーの立場を自分に置き換えてモヤモヤしていると隣でライアーを切なげに見つめて佇んでいたシルマが静かにポツリと俺の言葉に同意した。
「甘え、か……うん。確かに無意識に甘えてるのかもなぁ。特に親なんて家族なんだから感謝なんていつでも言えるって思っちゃうよなぁ……」
シルマの言葉にどうしかけた時、ふと両親の顔が頭を過り、同時に心の隅に留めていたある記憶が呼び起された。
そうだ、俺も実質一度命を失っているんだと。聖の異世界召喚に巻き込まれ、何の適性もないモブな俺は異物として時空の狭間で肉体も魂も粉々になって消滅、と言う自分で振り返ってみても中々えげつない消え方をしている。俺、なんか悪いことでもしたのか?
長になった聖が俺の魂だけを集めて、転生ガチャとかふざけてアレで新たな肉体を与えてくれたおかげで前の記憶を継承した状態で生きてはいるが。
時空の狭間とか言う曖昧な世界での状滅だったため、時空間で歪みが生じたとかなんとかで、元々生きていた世界では存在が消えているから両親の記憶はおろか世界かれ俺と言う存在は消えてなくなってしまっているんだったな。
この世界に来て最初に聖に告げられた事実。ドタバタが多すぎてあまり気に留めることはなかったが、俺も結構ハードで複雑な事情を抱えているよなぁ。モブに与えられた運命にしては本当に濃くてハードだと思う。
今思えば朝「いってきます」って言ったきりだったもんな。こうして思い出してみるとちょっとつらい……かも。
「クロケル様?どうかされましたか」
「あ、いや。なんでもない。ちょっとぼんやりしてた」
急に静かになって気持ちを明らかに気持ちを沈めている俺を不思議に思ったのかシルマが眉を下げて心配そうに除き込んできたので俺はモヤモヤを振り払うため頭を全力で左右に振ってから答えた。
どうにもならない過去を考えるのはやめよう。ただでさえこの場が重苦しい雰囲気に飲み込まれているんだ。余計な記憶で自分の気持ちを更に沈めてどうする。自ら精神をこそげ落としに行くのはやめよう。それこそ鬱になってしまう。
「部外者とは言え、あれほど切なく辛い場面を目の当たりにしたのだ。クロケル殿が精神的に参ってしまうのも仕方がない。気分と空気を変えると言う意味でも一旦、この部屋から出た方がいいのではないだろうか」
俺の精神がいつもより沈んでいることをシュティレも察してか、俺を気遣う様な提案をしてくれた。ちょっとノスタルジックになっていた俺にはその優しさが染みるぜ……。しかも提案の仕方もさりげないし、スマート。女性なのに紳士的とか惚れてまうやろ!
「なんだ、結局進展しないまま退散なのかよ。何回繰り返すんだこの行動」
何度目かの一旦切り上げと言う状況になりそうな空気を読み取ったケイオスさんがいい加減にしてくれと言う態度全開で気だるそうに言った。
「まあまあ、ケイくん。そんな悪態つかないの。確かに同じことの繰り返しにはなっちゃってるけど、状況を見るのも大事だよ。今の状況で敵さんを説得できると思う?無理じゃないかなぁ」
ペセルさんが苦笑いを浮かべてもどかしい状況にイライラしているケイオスさんをやんわりと宥め、気まずそうにライアーを見つめる。
その視線に誘導される形で俺たちもライアーの方を見ると完全に方放心状態で、俺たちの存在すら忘れてしまっているようだ。自分が置かれている状態も多分、判断できなくなっている。こんな状態では話し合いはもちろん、和解なんて夢のまた夢た。
「今はそっとしておいた方がいいんじゃないかなぁってペセルちゃんは思うな」
ペセルさんが改めて自分の考えを簡潔に口にして、その場の誰もが微妙な表情を浮かべて、困惑した。賛成の意思を示して首をぎこちなく縦に振る者もいれば、肯定しきれずに首を傾げる者もいた。因みに、俺は後者である。
そんな非常に微妙な空気の中、聖がのほほ~んと口を開いた。
『うん、ペセルの言う通りだよ。彼、戦意もすっかり消失しているみたいだし、暫く放置しても余計な行動は起こさないでしょ。魔力を抑える拘束術も継続して施していればノープログレムじゃない?のんびりいこうよ』
正直、俺の考えもケイオスさんに近く、何回話し合って何回一時退散するんだと言う気持ちがある。全然話は進んでないし、説得もできていないし、何なら説得どころか心の傷を抉った様な気もするし。今までの行動って全部無意味なのでは……とさえ思ってしまう。
でも今のライアーの状態を見ていると心に近づくのは非常に困難だと言うのも事実。
そしてそれはそれとして、当初は世界の命運が懸かっているからこの状況を長続きさせてはいけないと言っていた聖も色々諦めたのか、はたまた面倒くさくなってきたのか、のんびり行こうぜ!的な呑気なことを言い始めたことに対して一言だけ言いたい。
なにのんびりしとんねん、長なら早よこのイザコザを止めんかい。
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聖「次回予告!せっかく急がなくてもいいよって言ってあげた僕の優しさにイラつきを覚えるなんてひどいよクロケル!まずは小休憩、1つずつ問題を解決していくのも戦略においては大事なことなんだから。これだから戦闘初心者はダメなんだよ」
クロケル「なにを“わかってないなぁ、こいつ”みたいに言ってくれてるんだよ。何回も言ってるだろ!話が、全然!まっっったく進んでないの。世界の命運が懸かっている状況で余裕をかまし過ぎると痛い目を見るパターンだろ。コレ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第182話『時には潔さも大切です』そんなこと言われてもねぇ……やれるだけのことは全力でやってるわけだしぃ」
クロケル「実質チート的な立ち位置のくせに……」
聖「だって、世界の理には逆らえないもん。十分な能力はあるのにそれが使えない者のもどかしさも知って欲しいよ」
クロケル「ああ、なるほど。お前にも必要以上に干渉できないことへのもどかしさとか罪悪感があるってことだな。そう言う風には考えたことはなかったかもなぁ」
聖「も~トップって色々辛いんだよ!頼るばっかりじゃなくてちゃんとこっちの事情も考えて欲しいなぁ。拗ねちゃうぞ」
クロケル「何度も言うけど、そう言う軽い言い方をするから苦労している風に見えないんだよ。自ら印象を悪くしているみたいなモンだろ」
聖「それはそうかもしれないけど~でも、無暗に突き放したり、これは無理だよぅってヘタレる長が治める世界で生きるなんてなんて嫌でしょ?だからある程度余裕を見せてるんだよ」
クロケル「お前……そこまで考えてたのか」
聖「そこまで考えてたの!その意外そうな表情やめて」
クロケル「お前も苦労してるんだな。悪い悪い」
聖「謝り方が雑ゥ!」