第180話 シリアス展開の後にグダるのはいい加減やめようぜ
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
ねぇ、どうして働かなきゃ生活できないの……どうしてお金がないと何も買えないの……?と嘆いてしまうぐらい忙しかった水無月です。
仕事、シンドイ、超ヤメタイ……まあ、推し作品のためなら社畜にもなりますが(どっちやねん)
ああ、でもこれから仕事に就く方に一言うなら……できることを増やしすぎるとどんどん仕事を押し付けられるぞ★ですかね!適度に仕事をこなさないとえらい目に遭うぜマジで。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「前長、コクリコの魂の反応消失。本当にどこにも存在が見られません。本当に消滅したと思われます」
何と言葉を発すればいいのか、そもそも今は言葉を口にしない方が賢明か、そんな空気がこの場を支配し、誰もが口を開けない中、アムールが淡々と事実を告げた。
その発言がこの重苦しい空気を断ち切って次の話へと移行するためのきっかけを作ってくれたのか、それともAIとしてアナライズで分かった事実を告げたのかは分からない。分からないがアムールが発言したことによって場の空気が変わり、時間が動き出す。
『そうだな……。僕も今、世界の奥までコクリコの魂の存在を確認して見たが、彼女を察知することはできなかった。彼女の言葉に嘘はない。本当にこの世界から去ったみたいだな』
聖が“長モード”を保ちながらアムールの分析を淡々と肯定した。2人の優秀なAIの分析がコクリコさんの魂の消失を確認したのであれば、それは間違いなく事実なのだろう。
「それは、もう残留思念すら残っていないと言うこと……ですか」
一瞬、目の前のタブレットに対していつもの調子でため口を聞きそうになったが、まだ聖が“長モード”であったことを思い出し、寸前でため口を回避して何とか神様に対する態度を保って敬語へと持って行く。
危ない危ない。ライトな態度で接したらまた誰かにツッコまれるところだった。聖が余計な隠し事なんて持っているせいでものすっごいやりにくい。そしてやっぱりこいつに敬語を使うのが超~癪なんスけど。
そんな俺のモヤモヤを察してか……もしかして心を読んだのかもしれないが、聖は俺が悔しそうに敬語を使う姿が滑稽なのか、ちょっぴり気分が良くなったのかドヤって言った。
『ああ、その通りだ。本人が告げていた様にコクリコにもう未練はない。この世に留まる理由は本当になくなったのだろう』
何、何アピール?このシリアスな余韻が漂っている場面でもしかして喧嘩売ってんの?長モードを保ちながらここぞとばかりの上から目線発言、非常にムカつく。
でも今は売られた喧嘩を買っている場合ではない。そんな個人的でしょうもない感情に流されている場合ではないんだ。我慢だ、耐えろ、俺の精神……今、気にすべきはライアーだ。
心を鎮めて現状を見るに彼が愛娘を失うのはこれが二度目。一度目は知らぬところで聖たち神子一行との戦いに敗れ命を失い、二度目の魂の消失はつい数秒前の出来事。
それも再会の喜びと感謝、そして自分に囚われないで欲しいとライアーにとっては無慈悲とも取れる願いを残し、納得と了承を得ることはなかったが、想いを伝えて満足そうに消えて言った。
彼女の二度目のライアーの最期は父親であるライアーにはどう映ったのだろうか。未練なく思いを形にできた彼女とは異なり、ライアーは色々な思いで心と精神が複雑に乱れて碌に言葉を形にすることが出来なかったもんな……。
多分きっと、未練が消えたコクリコさんとは異なり、ライアーは後悔と言う感情に押しつぶされているだろう。
それを哀れに思いつつ、せっかくの世界の命運がかかる説得の場で、また事態がこんがらがるきっかけを作ってしまったのではないかと言う不安に苛まれた。
『……コクリコの魂が消滅してしまったのであれば、僕の役目も終わったな。ここに留まる理由もなくなった故、このまま帰らせてもらう』
「えっ、マジか」
長としての演技をすることに疲れて来たのか、このないも解決していない微妙な空気の中、聖は長としての自分はこの場からいなくんりますよアピールをしたので思わずため口交じりで仰天の声を上げてしまった。
『本来、長は特定の民に肩入れはできないし、干渉も許されぬ。今回は僕にアクセスした来たタブレットとはとある縁があったことと、状況を察するに世界の命運もかかっていたので特例として能力を使ったのだ』
とある縁って言ってもそのタブレットが本人の癖によ。と言うツッコミは飲み込んで、俺はこのまま不必要に引き留めても話が滞るだけだと判断して、威厳たっぷりに言い放った聖に言葉を返す。もちろん、敬語で。
「そうですか。複雑な事情をお持ちの中、俺たちのために尽力して下さってありがとうございます。協力要請をしたタブレットくんにはよく言って聞かせますので。どうか安心して長の仕事に戻って下さい」
どんな立場だろうと、どんなに威厳を保とうと、俺にとって聖は聖。こいつの演技に付き合うのもいい加減疲れて来たのでつい、それが態度に出てしまい投げやり且つ早口と言う世界の長に対する態度としては最悪なものになってしまったが、俺的には気にしない。だって聖だし。
などと余裕をかましていると、長に対して2度目の横柄な態度を取った俺をシルマとシュティレがまた真っ青になって小声で窘めてくる。
「クロケル様っ、先ほどから長様に対して辛辣過ぎですよ?どうされたのですか」
「そうだ。この状況に不満があるのかもしれぬが、協力をして下さった長様に対して八つ当たりをするのは良くないぞ」
そう言ってから2人は(長が聖だと分かっているので)一向に非礼を詫びようとしない俺の代りに私たちの“仲間が何度失礼をして申し訳ございません”と必死で頭を下げた。
え、自分で謝らずに女性2人に頭を下げさせるって事情を知らない奴からみたら相当なクズじゃね?そんな思考が秒速で頭を駆け巡り、周りの反応が気になってチラッと視線を泳がせると、事情を知っている神子一行の面々からは特に反応はなかった。
寧ろ、用事は済んだのだからはよ“長ごっこ”を終わらせろと言わんばかりにほぼ全員がイライラオーラを出していた。ペセルさんとシェロンさんは大らかなので長の演技を続ける聖をずっと面白そうに見ていた気もがするが。
自分の評価が下がっていないと安心したのもつかの間、事情を知らないエクラ、フィニィ、アンフィニ、そしてミハイルからはとても微妙な視線を向けられていた。
うわ!絶体クズだと思われてるよ、辛い!何とか釈明しないとクズ男設定が付与されてしまう!
クソみたいな設定がつくかもしれないとんでもない状況に何とか誤解を解こうと俺があわあわとしていると長モードの聖が柔らかい口調で毅然と口を開いた。
『よい、長である僕を恐れずに強気な発言をするなど、中々に度胸があって面白いではないか。心配するな、僕は先ほどの態度は無礼とは思わぬ。故に少女たち、詫びは必要ない頭を上げよ』
聖の怒っていないと言う言葉を受けて俺の為に深々と頭を下げていたシルマとシュティレが顔を見合わせてから安堵の表情を浮かべて頭を上げた。
シルマたちが目を合わせたタイミングで俺も聖と目がったのだが、何か得意げにウィンクされた。キモイ、まさかさっきのは助け船のつもりか?
『では、僕は本当にこれで失礼する。今後は僕に頼ることの内容に努めよ。自らが生きる世界を自分で守ることも各々の役目だ。忘れるなよ』
そんな感じで恰好つけて聖は数秒間、こちらの目が眩むほど白く発光し、そしてそれが治まったと思うと呑気な“タブレットモード”にテンションを戻して何事もなかったかの様に言った。
『あ、長様とのお話しは終わった?僕はスリープモードに入ってから詳しい事情は聞けてないけど、上手くいったの?』
ああ、そう言う設定なのな。まあ、何も知らないと言う体にしていけば余計なことを言わずに済むからだとは思うが……ほんっとにややこしい設定にしたなオイ。
「上手くいった、と言って良いのでしょうか。ライアーさんとコクリコさんが再会して対話ができたと言う面では良かったしれませんが……私からはなんとも。神子一行さまに強い念を抱いていたコクリコさんの未練がなくなったのは収穫かもしれません」
心の中でツッコミを入れていたせいで返答を怠った俺の代りにシルマがバツの悪そうな表情を浮かべて申し訳なさそうに、そして曖昧に答えた。
恐らくせっかく長に連絡を取ってくれたのに根本的な解決に至っていないため、聖へ罪悪感を抱いているのだろう。シルマ、お前ってマジで良い奴だよなぁ。でも大丈夫だぞ、そいつ全部知ってるから。
『親子が再会できたならそれでおっけーでしょ。しかも、前長の未練がなくなったとかすごいよ!収穫アリアリじゃん!いや~特例措置で長に連絡してよかった!長にも感謝しないとね!僕もあとから御礼の連絡を入れておくよ』
上機嫌に言う聖をその場の誰もが微妙な表情で見つめていることに当の本人は気が付いていない。いや、気づけよ。この微妙な空気を感じ取れ、鈍感か!
神子一行の面々に至ってはは全員がどこまでも呑気で状況を把握していない聖に頭痛を覚えて頭を抱えていた。
「なあ、聖。機嫌がいいところに水を差す様で悪いが、これだけは言わせてくれ」
『ん、何。改まって』
俺はキョトンとするばかりで微妙な空気を一向に感じ取ろうとしない聖にみんなの気持ちと現状を伝えてやることにした。
「俺たちの目的は世界を消滅させようとするライアーを止めることだよな」
『うん』
「で、お前はライアーが唯一、話を聞き入れそうなコクリコさんの残留思念を具現化させて対話と言う名の説得をさせようと心がけた、と。で、コクリコさんは自分の気持ちを伝えたことで未練がなくなって完全消滅した。まあ、成仏したってことだな」
『うん』
聖のメンツを保ってやろうと本人が現状を察してくれる様になるべく穏やか且つ、丁寧に言葉を表現したつもりだが、けろっとした表情とそれがどうしたと言いたげな短い相槌しか返ってこない。
残念ながら全く状況を察してしてくれないので、この場を代表してみんなが恐らく思っているであろうことを聖に告げた。
「コクリコさんに説得されてもライアー結局首を縦には振らなかった。世界の命運についてなんっにも解決してねぇんだ。しかも、頼みの綱とも言えるコクリコさんはこの世から完全に姿を消した。もう愛娘からの説得は叶わない。説得と言う面からすれば完全に詰み。どうすんだ」
『あ』
あ、じゃねよ!今気づいたんかい!俺は本当に現実を把握していなかった親友に心の中で渾身のツッコミを入れたのだった。
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聖「次回予告!いやぁ、親子愛を見せつけられたせいで根本的なことを忘れてたよ。ライアーの説得をしないとなにも始まらないよね、寧ろ終わるかも。でも、もう打つ手がない状態。これからどうなっていくんだろう。いっそ運命とやらに身を任せるのもいいカモね!」
クロケル「いや、世界の命運が懸かってるんだぞ、忘れるな。お前この世界の長だろ。何諦めてんだよ。と言うか1回この世界を守り抜いているんだから根性みせろよ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第181話『長なら早よこのイザコザを止めんかい』根性って何さ、僕だってちゃんと考えてるし、長として悩みもそれなりにあるんだよ」
クロケル「悩みねぇ……」
聖「何に、その態度、その言い方っ。僕は世界の理をしっかり守ってできる範囲で世界の為に行動してるのにぃ!毎回文句言われる意味がわかんなーい!」
クロケル「知らねぇよ。お前の人間性の問題だろ」
聖「むー、腑に落ちないなぁ」
クロケル「なるほどな……メタ発言になるなら触れないでおくぜ……」