第17話 異世界の神子の過去
本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
うう、昨日は忙しすぎて投稿できませんでした。気がついたらベットってやばくない?でも、もう少しで色々落ち着きそうです。良かった……。
あ、今日初めて気がついたのですが、ブクマと評価をして下さった方、誠にありがとうございます。星5評価、光栄です。ご期待にお応えできる様に頑張りますので、可能な限りお付き合い頂ければなと思います。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
『コノタンマツハ、ゲンザイ、アナタトオハナジデキルジョウキョウデハ、ゴザイマセン』
名指しをされた聖は何故か片言でAIのフリをした。機械音を混ぜていたためかものすごくリアルだった。
いや、確かに口数は少なかったけどお前割と国王の前で普通に話してたよな。絶対的にもう遅い。完全にバレてると思うぞ。
「聖、往生際が悪いぞ」
俺がそう言えば聖は渋々と喋り方を戻した。
『……わかったよ。そのかわり、あなたと話をしなければならないと言うのなら、その場にいていいのはクロケルだけ。その他の人たちには悪いけどご退場頂きたい』
シャルム国王は小さく息を吐いた後、腕組みをして言った。
「相変わらず我がままねぇ……でも、まあいいわ。その条件、飲みましょう」
お、おお?なんだ。これはついに聖の様子がおかしい真相がわかるのか。聖には悪いがちょっと期待してしまう。
「ってことで、この我がままAIクロケル意外はこの部屋から退出頂いてもいいかしら」
涼しい顔でシャルム国王が言えばクラージュが顔をしかめて言った。
「し、しかし、国王様を1人にするわけには……」
それは騎士らしい最もな意見だった。そりゃいくら助けてもらったとは言え、どこの馬の骨かわからんやつと密室に居させたくないよな。
「この子たちは危険人物ではないからいいでしょ。他の2人には別の客室で待ってもらって。ああ、お茶とお菓子はまだ残っているし持って行っていいから。アナタもそこで待機してなさい」
「うう……」
クラージュが何か言いたげに唸る。その態度を見たシャルム国王が強い口調で言った。
「わかったね。これは王の命令よ」
「は、はい。わかりました。王の仰せのままに。お2人とも、私について来て下さい」
納得のいかない表情でクラージュは頭を下げ、シルマとシュバルツを別の部屋へと促した。
「え、えっと。また後で、クロケル様」
「ボク、シルマと待ってる」
状況がわからないシルマたちはとりあえず大人しく指示に従い、俺に軽く手を振った後にクラージュに連れられて特別室を後にした。
そしてシャルム国王は扉を開け、左右を見渡して誰もいないことを確認し、念のためよと言って扉に魔術的な何かを施した。青い鎖の様なものが扉をがっちりと閉めつける。
「え、何をなさっているので」
突然の行動に顔を引きつらせて聞いてみればシャルム国王は平然と言った。
「そいつが誰にも話を聞かれたくないみたいだから。今アタシが施した魔術は結界の一種。この鎖で閉ざされた部屋はアタシの意志のみでしか開かない。しかも、防音効果も高いから、会話を盗聴されることもないの」
「うわー……」
さらりと言ったがそれはかなり高難易度な魔術だよな。そう言えばこの国を囲む氷壁と城を覆う氷もこの人の魔術でできているんだっけか。武術の他に魔術も使えるとかすげぇ。
ってかなんで俺が知り合う奴はみんなチートっぽいんだ。この世界は俺意外はみなチートなんか!!
「さ、これでここにいるのは完全にアタシとアンタとクロケルだけよ。これで話す気になった?」
『……』
聖は無言だった。そんなにこの状況を知られたくないのだろうか。少々悪あがきが過ぎる気がする。
「はあ……。あのね、アンタがあのアキラってことはもうわかっているのよ。時間の無駄だから、もうだんまりはやめなさい」
シャルム国王が呆れ気味に静かに浮かぶ聖に視線を向ければ聖は素っ気ない態度で返した。
『話すって今更だよ。君と話すことなんてないでしょ』
「おまっ!国王に対してその態度はないだろ」
あまりに不敬すぎる態度と言葉遣いに一瞬慌ててが、そもそも聖ってこの世界の長だよな。ってことは、国王よりも偉いのか。ならこの態度は不敬に当たらないのか?
いや、でもシャルム国王はそのことを知らない可能性もあるし、聖が不敬を働きすぎて俺がとばっちりを食らうのはごめんだぞ!
色々と考えて慌てる俺とは対照的にシャルム国王は機嫌を悪くした様子もなく、涼しい顔をして言った。
「あら、つれないのね。かつて旅を共にして世界を救ったって言うのに」
「は!?かつて旅を共にしたぁ!?」
声を荒げてその勢いで空中を見上げれば聖はそれをあっさりと認めた。
『うん。国王様、いやシャルムはかつて神子だった僕に力を貸してくれていた内の1人。いわばパーティメンバーだ。当時は国王じゃなかったけどね』
「マジかよ」
『マジマジ。改めて紹介すると、シャルム・セレーニタ。ヒト型の魔法使い。ちょっとだけ妖精の血も入ってる。そんなわけでレアリティは5。今のレベルは……おお、上限解放済みで200かぁ。強くなったね』
ヒトと妖精の混血……なるほど。だからこの国王は人並み外れた美貌なのか。まあ、本人の努力もあるだろうけど。
「当たり前でしょ。どれだけ時が過ぎようともアタシは自分磨きを忘れない。これからもっと強くなって見せるわ」
シャルム国王はふん。と鼻を鳴らしながら強気の口調で言った。
何となく顔見知りっぽい感じはしたが、まさかのパーティメンバー。しかも一緒に世界を救ってるし。顔見知りどころのレベルじゃねぇ。
そんで案の定レアリティ5で高レベルかよ。だと思ったわ。でもシルマの方がレベル的には上なんだよな。改めて思う、シルマ怖い。
そう思いながら何となくシャルム国王の方を見れば彼は懐かしそうな表情を浮かべて頷いた。
「懐かしいわねぇ。異世界から来て右も左もわからず、ただがむしゃらに走り抜けていたアンタが今やこの世界の長だもの。笑えるわ」
そしてクラージュが国王用にと残していった残してティーポットで紅茶のお代わりを注いでゆく。途中、アナタもいる?と優雅に聞かれたので頷けば恐れ多くも国王様直々にお茶が注がれて「ひえっ」と声が出てしまった。
『僕もだよ。まさか君が国王になって結婚までしているなんて把握してなかったよ。随分と性格も変わったみたいだし』
言葉の後半はもの凄く嫌味が込められている様に思えたが、シャルム国王はさらりとそれを流して答える。
「変わったと言うか、変えられたと言うか。クラージュの存在は大きいかもね」
『君ののろけなんてどうでもいいよ。で、話って何さ』
シャルム国王の流れる様なのろけを聖は刺々しく流して聞けばシャルム国王は平然として答えた。
「いえ、別に。喋るAIとやらがアンタだって確かめたかっただけよ。なんで世界の長であるアンタがその子と行動を共にしているかは気になるところだけど、まあいいわ。事情は聞かないであげる」
特別興味もないし。とシャルム国王は優雅に紅茶をすすった。追及されなくて良かった。と同時に割と大きな問題を興味がないと言うだけで流せるのも凄いと思った。
「あ、あの。神子としてのこいつの話をきいても良いですか」
『ちょっ!何言ってんの!』
唐突だとは思ったが、2人の過去が気になった俺は思い切って聞いてみた。俺が消滅した後、神子として召喚された聖がどの様にして過ごしていたか気になっていたのだ。
本人に聞いてもいいのだが、どこまでが本当かわからないし、はぐらかされてもムカつくので、第三者の話が聞けるのは神子だったころの聖を知る絶好のチャンスだ。
焦っている聖には悪いがこの機会は逃したくない。許せ、聖。
「いいわよ。アタシの知る範囲のことなら何でも話してあげるわ。と言っても、アタシがアキラと出会った時はもう随分この世界に慣れていたみたいだけど。それでもいいかしら」
涼やかに快諾され、俺は頷いた。
シャルム国王は過去に思いを馳せる様に大きなガラス窓を見てしとやかに話を始めた。
「アキラがここに呼ばれたのはこの世界、クレイドルを滅ぼさんとするとある人物を阻止するためよ。当時の治安はどの地方もそれはひどいものだったわ」
「そのとある人物はどうして世界を滅ぼそうと思っていたんですか」
世界を滅ぼす者が現れると言うのは冒険ものではセオリーだ。王道の展開で、理由も様々で大概は身勝手で理不尽な理由が多いが、中には悲しい過去から悪に堕ちる場合もある。
そのため、俺としては滅ぼす者=悪とは判断できないのだ。
「彼女がそう決めたから。っていうか、その人物って言うのは前長なんだけど」
「え、世界の長が世界を滅ぼそうとしたんですか。どうしてそんなことに?」
世界の破滅を目論んだのはまさかの世界の長。あまりないパターンで俺は心底驚いた。長は国を守るものだと思い込んでいた。しかも前長はまさかの女性。
俺が質問を重ねれば、シャルム国王が俺の隣に浮かぶ聖を見る。
「それはアキラの方が詳しいんじゃないかしら」
呼びかけられた聖は小さく唸った後に渋々と語り出した。
『はあ、別に話しちゃいけないことじゃないから言うけど……この世界の長は裁定者の役割も担っていてね。世界の存続を決める権利があるんだ』
「ってことは、その権利とやらは現長であるお前にもあるってことか」
『うん。あるよ。長として世界の様子を見守りつつも、この世界を存続させるかの判断は常に考えている。今のところ、存続させるって言う考えは変わってないけどね』
一応確認すると聖はさらっと肯定したが、すごい重要な役目を担ってるじゃねぇか。俺は前世も今も、のんびりでヘラヘラとして、ちょっと腹黒な聖しか知らないため、そんなこと想像もできなかった。神に近い存在になってしまった親友がなんだかとても遠く感じて寂しさを覚えた。
『前長は長として役目をこなしてゆく中でこの世界は滅びるべきだと判断したんだろうね』
「それでなんでお前が神子として異世界召喚されたんだ」
そう、気になることはそこだ。この世界の長が判断したことにどうして神子が召喚される必要があるんだ。しかもなんで別の次元で生きる聖が選ばれたのながイマイチよくわからない。
『世界の破滅って言う大きな判決を下すのに、長と言えども決定権を与えられることはできないみたい。だから世界そのものが別の時空から神子の適性がある存在を探し当て、召喚し、まっさらな目線で世界見せ、その存続を判断させるんだ』
「それでお前はあの時召喚されて、その目的を知らされ、この世界を守る旅に出たってことか」
『うん。僕が召喚された時には既に世界の綻びが出始めていて、理性のないモンスターは暴れるし、魔力も身体能力も高い魔族や獣人が自分たちよりも力は劣るヒト族を襲って土地を支配したり、食い殺すなんてこともあった』
その話は何とも信じがたいものだった、この世界に転生してからそんな光景は一度として見たことがない。
特定の場所にモンスターはいるが、その土地に入り込まなければ襲われることはない。違う種族同士が共に暮らしていることもあるし、仕事で共闘することもあると聞く。
種族同士の土地争いや支配なんて俺は見たことも聞いたこともない。聖が神子だったころはそんなにこの世界は荒れてたのか。
茫然としている間にも聖の説明じみた昔話は続いて行く。
『僕は旅をしながら各地で起こる争いを鎮圧して行き、同時にこの世界の存続させるか否かも見極めていた。結構大変だったよ』
聖の声からはタブレットを介しても疲労感や当時感じていたであろう辛さが伝わり、何とも言えない気持ちになった。
「でも、この世界が滅びていないってことは、お前は世界の存続を決めたんだよな」
『うん。僕はこの世界全てを旅して、色んな人と出会い、心身ともに助けられた。もちろん理不尽な状況はたくさん目にしたし、僕自身もひどい仕打ちを受けたよ。悲しいことも山ほどあった。それでも、僕はこの世界に生きる優しい人々に未来を託したいと判断した。だから、長と対立することになった』
「対立したらどうなるんだ」
世界の長に逆らう。それは神に逆らうのと同等だろう。嫌な予感がして恐る恐る聞いてみると聖は淡々と続けた。
『異世界の神子と長の意見が一致していれば世界は破滅。そうなった場合、召喚された神子は長の力で下の世界に帰してもらえるから命の保証はされている。でも、対立した場合はどちらかが消滅するまで戦って勝った方の意志が世界に採用される。勝った方は次の長になることが運命づけられている』
とんでもなく重い話に背筋が凍る。そして同時に悟る。この世界が存続し、聖が長になっていると言うことは、戦いに勝ったと言うこと。
すなわち、相手を消滅させて運命を勝ち取ったと言うこと。その事実が俺の心に重くのしかかる。
別に聖は理不尽にヒトの命を奪ったわけではない。自分の正義の元、戦って勝ちとった「今」なのだ。責めるつもりはないし、その権利は俺にはない。
でも、聖はそれを俺に知られたくなかったのかもしれない。逆の立場で考えると俺もそうだから。未来を勝ち取るために誰かを犠牲にしました。なんて親友に言えるかよ。
ガラにもなく後ろ向きな気持ちになる。興味本位で聞くんじゃなかったな。
「はあ、ちょっとしんどくなってきたわね。お茶のお代わりはいかが」
重くなり始めた空気を察したシャルム国王が話を切るか。ティーポットを片手にお茶を進めて来る。
「はい。お願いします」
今は少しでも落ち着きたい。俺はありがたく頂くことにした。
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聖「暗い!重い!こんな空気ダメ!ゼッタイ!」
クロケル「薬物乱用防止みたいに言うなよ。お前の過去が想像以上に重すぎるのが悪いんだろ」
聖「だって事実だもん。知ろうとする方も悪いよ」
シャルム「アンタたち、過去話はまだ少し続くのよ。喧嘩しないの。醜いわねぇ」
クロケル「まだ続くの!?もうしんどいんですけど。俺、ハッピーエンドなのにバット風味のある話はあんまり好きじゃないんだよぉ」
シャルム「なにを言ってるのかしらこの子」
聖「ここまで聞いたんだから最後まで聞く覚悟を決めてね。次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第18話『楽しいお泊り会開幕!?』お楽しみにぃ」
クロケル「次回のタイトルがゆるっゆるだぞ、おい!」