第174話 お互いを想い合うと擦れ違う展開はもう勘弁してください
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
先だって友人とコスパ抜群の某食べ放題のお店でランチをしたのですが、ある程度食べ進め、途中スイーツを挟んでもう一回おかずを取りに行こうとしたら「嘘やろ……」と呟かれてしまいました。
「甘いもの食べたらリセットされるよね?」って言うと「そんなわけあるか、胃袋ブラックホール。それで痩せてるとか当てつけなんか」と結構な勢いで罵られました。悲しみ。
甘いしょっぱいスパイラスって存在しますよね?ね?友人が小食なだけですよね?
毎度のことながら本編とは無関係な前置きなのでした。そんな感じでまあ……
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「……私が辛いと分かっているのに話すと言うことは、どうしても伝えたい言葉なんだね」
今まで言葉を紡げなかったライアーがようやく反応を示す。娘からの不安を煽る言葉に一瞬だけビクリと肩を震わせたものの、直ぐに表情と気力を引き締めて切なそうな表情でコクリコさんの言葉を受け止めてそう言った。
「うん、私の想いとか考えを今からちゃんと話すから。だから、何を思っても暫く聞いていて欲しい」
「ああ、わかったとも。愛する娘からの久々の言葉だ。できる限り、受け止めようじゃないか」
娘のことに関してはどうしても不安を抱てしまうのか、ライアーは少し間を開けて迷いを見せたものの、最終的には覚悟を決めて頷いた。やっぱり実の娘が相手だと話を聞くことに前向きになるんだな。ここまでは聖の選択は正しかったと言える。
後はコクリコさんが話そうとしている内容が重要になって来る。念押しされている“ライアーに取って辛いこと”とは一体何なのだろうか。
愛娘の死以外でライアーの精神に負荷がかかる様な不幸があると言うのか。いや、よく考えたら亡くなった娘から“辛いこと”とやらが話されるんだよな。それを考えると血縁関係のない俺でも不安を覚えるし、ちょっと怖い。
コクリコさんもライアーから了承してもらったものの、余程言いにくいことなのか中々言葉を紡げない様で、視線を四方に泳がせては深呼吸を繰り返し、自らも覚悟を決めようと試みている。
なんだろう、この緊張感……今からコクリコさんは何を話そうとしているのだろうか。ライアーにと辛いことであると宣告されてしまっている以上、良い話ではないと言うことだけは保障されている。
っていらんわ、そんな保証。話に全く応じないライアーの心に隙を作る……じゃない、寄り添うためにコクリコさんを具現化させたんだよな。
事態を好転させる最終手段としてにわざわざ長としての力を使ってコクリコさんを呼んだんだよな。既に不穏で不安な空気になっとるぞ、どぉすんだよ聖サンよぉ。
「あ、あの。クロケル様?先ほどから百面相をしておりますが、何か気になることでもあるのでしょうか。それともご気分が優れませんか?」
「えっ、俺ってば変な顔してた?」
シルマに心配そうに声をかけられて俺は自分の顔をムニムニと触って確かめた。百面相ってなんぞや。無意志に感情を表に出していたと言うのかっ。
「変な顔、と言うよりかは思っていることが全部顔に出てたな、不安になったり、イラついたり、気持ちが沈んだりが丸わかりで面白かったぞ」
ケイオスさんにケラケラと笑いながら改めて指摘され、俺は改めて自分が感情をモロに出してしまう無意識素直なタイプであることを呪った。
そして、すっかり嫌~な空気になった今の状況に耐えきれなくなってチラッと宙に浮かぶタブレットに視線を送ってみたが、長モードになっているせいなのか俺に反応を示すことはなく、ただただ無言を貫いていた。
外見がタブレットであるため、表情を読み取れないことが悔しい。聖は今、何を考えてそこに浮かんでいるのだろうか。この状況を良しと捕らえているのか、それともあの不穏な発言にヤバいと焦っているのだろうか。
もしヤバいと思っているのであれば対処法を考えているのか?色々なことが頭の中で渦巻いて行く。
ああ、ダメだ。嫌なことを考えすぎて胃が冷たい。アッ、今キュッてなった。
面倒事に巻き込まれる度に胃が弱り、精神が擦り減っていく気がする。状況に慣れたそう言うのは強くなる気がするが、そうどうやらそうではないらしい。
ある程度の話の重さや状況の変動には慣れた気がしないでもないが、限度と言うものがある。こう言うのに慣れるか慣れないかは性格によるんだな!よ~く分かった。
「今の私がお父さんに伝えたいことはね……私のために生きないでって言いたいの」
迷い続け紡ぐ言葉に迷っていたコクリコさんが決意と勇気を持ってついに発した言葉に、ライアーだけなくその場の全員が少なからず衝撃を受け、固まった。かく言う俺もその言葉の意味が分からない。
「ごめんなさい、唐突すぎて理解が追いつかないのだけれど“私のために生きないで”の真意を教えてもらえないかしら」
凍る空気の中、シャルム国王が冷静に説明を求める。コクリコさんは“アンタらに言っている訳ではない”と言いたげにこちらを睨んできたものの、俺たちと同じく言葉の意味が分からずに呆けるライアーに言葉を向ける形で口を開いた。
「私、残留思念としてこの世界に残ってしまった時からずっとお父さんのことを見て来たの。私の命が散ってしまった後、悲しんでくれたこと、私の意思を継いで世界を破滅させるために色々動いてくれて秘密裏に大きな教団を創り上げたこと……全部知ってるよ」
コクリコさんは先ほどの言葉の意味を分かりやすくするためか、ゆっくりと丁寧に前置きを話してゆく。しかし、言葉を紡げば紡ぐほど彼女の表情は陰りを見せて行く。何だ、どんな後ろめたい事情を抱えているんだ。
「そうか、お前はお父さんのことをずっと見守ってくれていたんだね、嬉しいよ」
コクリコさんの態度は自らの宣言通り、今から言いづらいことを言おうとして躊躇っている様にしか見えなかったが、残留思念となって現れた娘に戸惑いの反応しか示すことができなかったライアーはそれに気が付く様子もなく、初めて嬉しそうにな表情を浮かべ微笑んだ。
が、その反応を受けたコクリコさんが複雑な表情になる。再会を喜び、表情を輝かせる父親の姿を見て喉の奥をクッと鳴らし、唇を噛みしめてから勢いをつけて言った。
「ごめん、お父さん。私のためを思って今まで一生懸命に行動を起こしてくれたのは分かる。ちゃんとと見てたもの。でも、もう私の意思を継がないで欲しいって思っているの。私のことは考えないで、自分のことを1番に思って生きて」
「やめて、欲しい?」
勇気と決意を持ってコクリコさんから告げられた言葉はライアーにとっては予想外で、そして大きなショックを与えたのだろう。嬉しさに満ち溢れた表情から一変、顔面蒼白になってコクリコさんを見つめ、ショックと動揺で掠れた声を絞り出す。
その反応を見たコクリコさんはやはり辛そうに唇を噛み、一度は瞳を固くつぶって視線を逸らしたが、直ぐに気持ちを持ち直してライアーに向き直って切なげに、懸命に続けた。
「……だって、お父さんの人生だもん。私の願いや言葉のためだけに動いて欲しくないよ」
「私の人生はお前のためにある。お前が何を望んでも、私はそれを叶えるために動き、一生を終えたいと願っているよ」
“私の意思を継がずに自分のために生きて欲しい”と言う願い。それはつい先だってまでアンフィニがコクリコさんの命を聖たち神子一行に奪われ復讐の化身となっていたフィニィに願っていた“復讐をやめて自分のためだけに人生を送って欲しい”と言うものに似ている。
自分の本懐を成し遂げるよりも家族の幸せを優先したいと言う願い。それはお互いを信愛し大切に思う家族が持つ切ない願いでだ。
親子が互いの心に圧し掛かる悲しみに耐えながら想いを伝えあう状況に俺は胸が締め付けられる思いに囚われたが、同時に嫌な予感も胸を過る。ライアーとコクリコさんの想いはお互いを大切に思っていること以外は考えが対立している。
方やコクリコさんは“自分のことはもういいから復讐や悲しみに囚われずにライアーに自由になって欲しい”方やライアーは“自分のことはいいから娘の意思を継ぎたい。娘のいない世界は意味がないから世界の破壊は丁度いい”と言う考えを互いに持っている。
この共通するところはあれど、肝心な部分ですれ違ってしまっている互いの願い。互いがお互いを大切に思いやるからこそ絶対に譲れないであろう意思。
辛く切ない状況ではあるものの、ここまで様々な事情がこんがらがり、何の進展もなかったせいでどうしても思ってしまうのだ。
……これ、また擦れ違いが起こるんじゃね?我ながら薄情な部分があるなぁと自虐し、再度親子の再会をお膳立てた聖を見上げる。
やはり反応はない。親子が擦れるが擦れ違う寸前の怪しい雲行きにも関わらず、動揺を見せていないと言うことは状況は予測済みなのか。と言うことは対策も考えているんだな。
流石、神子として見分を深めて色々な戦いを経験し長になっただけはあるな!と尊敬しかけた時、誰にも聞こえない様に漏れた聖の呟きを拾ってしまった。
「やっば、どうしよう……何ですれ違うかな」
前言撤回。俺はこいつを尊敬なんてしない。一生しない。してたまるか。
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聖「次回予告!お互いを思いやるあまりすれ違ってしまうと言うややこしい展開、再び!うむむ、前長の残留思念に上手いことライアーを説得してもらおうと思ったのにどうしてこうなるかなぁ~。果たしてクロケルたちはこの事態を好転させることはできるのか……心配だよ」
クロケル「ややこしい状況を作るだけ作っておいて後のことは俺たちに丸投げかオイ。と言うか、状況がフィニィたちと似てるんだからこう言う展開になるある程度予想はつくだろ。なんですんなり物事が運ぶと思ったんだ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第175話『復讐心を捨てる、それはとても困難で勇気がいる決断』だって!せっかく僕が介入したんだよ?自分で言うのもアレだけど最強の長が能力を開放したんだよ?滞りなく話が進まないと恰好悪いじゃん」
クロケル「お前、そんなに自己顕示欲強い奴だったけ」
聖「いや、偉そうにした割にあんまり助けになってないことが単純に恥ずかしいだけかな」
クロケル「あ~、まあそう言われれば確かに恰好はいてないかもなぁ」
聖「わ!ひどっ、そこは“そんなことないよ、ありがとう”って言うところでしょ!?」
クロケル「ソンナコトナイヨ、アリガトウ」
聖「棒読みとかヒドッ」
クロケル「いつものお前から俺への仕打ちに比べれば、これぐらいの扱いはかわいいモンだろ」