第173話 父と娘の切なき再会
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
朝起きたら久々に雪が積もっていて驚きでした。車が出せねぇ!ってなって上司に連絡したら「特別休暇にしとくから休んでいいよ★」って言われてよかったぁ~と思いつつも許可をくれた上司は恐らく出勤されるハズ……。
どんな仕事でもトップって大変だ……給料少なくても平社員でいいとすら思ってしまう自分がいる。みなさんも本日は寒さと雪には十分お気を付けくださいませ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
ここに来て前長についての新たな情報が更新された。ライアーのコクリコ、それが前長の名前……。俺が生きていた世界ではフランス語でヒナゲシの花ことだ。オタクは海外の言葉と言うかカタカナにかぶれることが多いから自分の知識に間違いはないはず。
そんな俺のオタク事情はどうでもよくてだな……第一印象通り儚げで綺麗な名前だと思う。色々な意味で目の前に現れた前長に興味を惹かれていると、長モードの聖が無表情かつ無言で佇む前長、コクリコさん……(と呼んでいいのか?)に声をかける。
『久しいな、と言っていいものか。この様な落ち着いた環境で話をするのは新鮮だな』
敵対し、世界を守るためとは言え最終的に命を奪った相手に対し世間話を切り出す聖の精神構造が凄い。それとも自分がやってしまったことがあまりに重い行為であるため、変に取り繕う方がおかしいと開き直っているのか……。
どちらにせよ、状況を打開するためとは言え前長の残留思念を呼び出した瞬間から空気が嫌~に気まずくなってピリ着いたのを感じた。これはまた色々と拗れるかグダる予兆では、と不安になりつつ俺は事の成り行きを見守る。
「……わざわざ私を具現化するなんて、あなたもモノ好きね」
しばし無言だったコクリコさんが表情を変えぬまま淡々として、そして少し呆れた様子で聖の言葉に反応を示した。って言うか残留思念と意志の疎通ってできるんだな。
『ふふ、君こそ既に抵抗する力を失っている身でよくそこまで強気になれるな。僕の機嫌を損ねるとせっかく具現化したのに消されるとは思わないのか?』
聖は素っ気ないコクリコさんに対してとても高圧的な言葉と態度を示す。長としての威厳を保つための演技なのかもしれないが、やり過ぎと言うか怖い。
もし本当に発言通りのことを実行しようとしているのだとしたら尚のこと怖いし、人間性……聖の場合は神性か?とにかく性格を疑う。あえて言おう、さっきの発言が表現はどうあれ本心だとするならば、クソ最低な奴であると。
「別に。命は既に失われているし、世界を滅ぼして自分も消えようと思っていたもの。今更消滅が怖いなんて思わないわ。寧ろ、こうして具現化されて不快なぐらいよ」
聖からの圧に臆することなくコクリコさんは刺々しく、そして強気にツンとして視線をそらす。そして彼女がたまたま顔を向けたその先にいたのは、ライアー……コクリコさんの父親だった。
その姿を目にした瞬間ここまで不快感を露わにしていた彼女の雰囲気が気まずさを交えつつも柔らかなものへと変化し、その口から優しい声色と言葉が紡がれる。
「……本当に暫くぶりだね、お父さん。会いたかったよ、こんな形で再会するのは残念だけど」
コクリコさんは自分の姿を瞳に映し、呆けて固まったたままのライアーに気まずそうに微笑んだ。そして同じく呆然と自分を見つめて硬直するフィニィとアンフィニにも優しく柔らかな微笑みを向ける。
「フィニィもアンフィニも久しぶりね。変わりはないかしら……なぁんて、親みたいなこと私が言えた義理ではないのだろうけど。私の大きな隠しゴトはもうバレちゃったみたいだし」
彼女は世界を滅ぼすことが最終目的であることはフィニィたちに伝えていたが、モンスターを操って無差別にこの世界の住人を襲わせ、世界の崩壊を早めようとしていたことは伝えていなかった。そのことに罪悪感を覚えているのだろうか、やはり気まずそうに言葉を濁す。
「ん、あれ。なんでフィニィたちがコクリコ……さんの隠し事を知ったってわかるんだ」
先ほど聖がコクリコさんの隠された真実を語った時、彼女はまだこの場に具現化していなかった。と言うか具現化の話すら出ていなかった。
久々に再開した家族の話の途中に部外者が余計な介入してまた話が逸れてしまうのも良くないと思い、なるべく余計なことはは口にしないでおこうと思っていたのだが、この場にいなかった存在がどうして状況を把握しているのかが気になってしまい、つい口から疑問の言葉が漏れた。
俺の質問を受けたコクリコさんは興味がなさそうに俺の方へ視線を向けた。その瞳からは「お前は誰だ、大切なヒトとの話の輪に入って来るな」と言う感情がヒシヒシと伝わり、とてつもないプレッシャーを感じた俺の口から自然と「スミマセン」とカタコトな謝罪の言葉が漏れた。
うう、プレッシャーをかけられただけで委縮するとか俺ってば情けない。
「別に謝る必要はないでしょ、変なコね。まあ、その質問にわかりやすく答えるとするなら、残留思念は目視でいないだけで常にその場にあると言う表現になるわ。特に私はお父様やアンフィニたちに強い未練があるから、想いに姿をかえても傍にいる。だから、良くも悪くも現状の把握ができてしまうの」
あ、答えてはくれるんだ。ちょっと鼻で笑われたけど。馬鹿にされた気はするけど!怖いんだか優しいんだかわからんな。
もしかしたら俺たちを嫌悪しているから怖いだけで根は真面目なヒトなのかもしれない、と改めてコクリコさんの人間性を前向きに認識した。
「なるほど、姿は見えずとも意思としてその場の状況は把握できると言うことなのですね」
シルマが興味深そうに頷くと、コクリコさんは冷たい態度のまま淡々と頷いて肯定した。
「ええ、本当に最悪のタイミングで具現化してくれたわね。もしかして、わざとなのかしら」
『それはちょっと言いがかりだね、僕はそこまで性格は悪くない、偶然だろう』
疑わし気にジトリとこちらを睨みつけて来るコクリコさんにケロリとわざとらしい口調で返した聖の態度を見て俺は察した。
多分、わざとだ。絶対気まずい状況を作ってコクリコさんにある程度罪悪感を持たせて精神的な逃げ場がない状況を作ったと思われる。
いや、本人に確認してないからこれはあくまで俺の推測の域だが。この推測が合っているとするなら、本当にいい性格をしている。ぶっちゃけ親友としてちょっと引く。
コクリコさんも俺と似たような推測に至ったのか、のらりくらりな聖に納得がいかないと言う視線を送りつつ、言い返すのも疲れると思ったのか悔しそうにしながらも諦めて深いため息をついた。
「はあ、もういいわ。あんたの相手なんてしてたら精神が擦り減るだけよ。えっと、お父さん。何か反応してもらえると嬉しいんだけど」
ツンケンしていたコクリコが聖を無視し、再度ライアーを見つめて遠慮がちに声をかけた。俺たちも視線を彼へ送れば、現在進行形で思考停止中の様子だったが、愛娘に声をかけられたことで、思考が完全に止まっていたライアーに意識が戻った。
「お前は本当に、“コクリコ”なのかそのタブレットが私の心に隙を作るために作り上げたまやかしではないのだな」
やはり目の前の光景を素直に受け入れることはできない様だった。だが、その姿は目に焼き付けておきたいのか、ベッドから降りてふらふらとコクリコさんに歩み寄る。
娘の姿をしている存在に疑いの目を向けたくないと言う葛藤もあるのか、疑いとも確認とも取れる曖昧な表現で目の前に佇む愛娘に迷う様に言葉をかけた。
「完全に本人って言っちゃうと語弊があるかも。私の体はもうこの世界に存在しないし、コクリコが残した想いの切れ端、って表現が正しいかも」
下手な肯定で父親に期待を持たせてはならないと思ったのか、コクリコさんは切なげにはにかんで生前とは異なる存在であることを強調するような返答をした。
本人が残した想いの切れ端……表現としてはよくわからんが“本人でありながら本人ではない”と解釈していいのであればツバキやミハイルに近い存在と言う認識でいいのだろうか。
俺が前に生きていた世界ではまず経験しない現象に複雑さと違和感を覚えながらも、今度こそ余計な口出しをせずに親子の会話を見守る。
ここまでライアーには説得らしい説得が出来ていない。こういう言い方をするのは良くないかもしれないが、血がつながらなくとも彼が家族と認めるフィニィの話すらまともに聞こうとしなかったライアーの心に隙を作る最終手段だ。どうか上手く行って欲しいと願ってしまう。
この気持ちは仲間たちも同じ様で固唾を飲んでコクリコさんとライアーに慎重で真剣な視線を送っていた。
これまで聞いた話から察するに、ライアーとコクリコさんは彼女が長の任に就くため家を出てから気の遠くなる時間、再会できていないと思われる。
すっかり忘れかけていたがライアーもコクリコさんも魔族。ヒト族よりも寿命が長い分、愛する家族と会えない期間は長く、辛くて寂しいものだと察することが出来る。
本当に久しぶりの再会で伝えたい言葉と想いがありすぎて何から話せばいいのか分からないのだろうか。愛娘から言葉を求められたてもライアーは何も言えない様子だった。その表情には目の前に現れた“コクリコさん”と言う存在への嬉しさと少しの疑いの色が窺える。
いつものロマンスグレーが似合う落ち着いた英国紳士の様なダンディさは見る影もなくなり、ただ口を酸素を求める魚の様にパクパクとしながら自分を眺めるライアーに見兼ねて、コクリコさんから口を開いた。
「あのね、お父さん。私、お父さんに伝えたいことがあるの。ちょっと辛い言葉になるかもしれないけど……聞いてね」
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聖「次回予告!待って待って、辛い言葉って何!?ここはスムーズに話が進む展開じゃないの。何を言おうとしてるんだよコクリコっ!!」
クロケル「まあそう慌てるなよ、ややこしい展開なんて今更だろ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第174話『お互いを想い合うと擦れ違う展開はもう勘弁してください』なんでそんなに落ち着いてるの。いっつも動揺しまくりのメンタル豆腐なのに」
クロケル「誰がメンタル豆腐か!その通りではあるかもしれんが、さらっとでするなっての!なんと言うか今までの経験から察するに絶対に一筋縄ではいかない気がしてただけだ。心の準備が多少あったから動揺もしない」
聖「むー、つまらないなぁ。慌てふためく君は結構面白いから退屈凌ぎになるのに」
クロケル「慌てる俺を見て退屈を凌いでいたのは衝撃の事実だが、この状況下のどこに退屈要素があるか知りたいな、俺は」
聖「やだなぁ、現状には退屈してないよ。真剣に世界を救おうと思ってるよ?だからコクリコの残留思念を具現化したのに何か雲行きが怪しいからアレッ?ってなってるだけ」
クロケル「お前、言うコトが全部ちぐはぐだぞ」
聖「それだけ僕も動揺しているんだよ」
クロケル「ホントかぁ?」