第172話 長の力、とくと見よ
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
うーん、何度も言いますがどうしてもシリアス寄りな展開になってしまう……かと言ってこの流れで唐突なギャグ展開や茶化しはおかしいしなぁと毎回悩んでおります。
もしかして私はギャグやコメディを形にする才能が皆無なのか……?(気づき)いや、それを言ってしまうとシリアス感も中途半端な様な……。
よし、細かいことは気にせずに書き進めて行こう、そうしよう!本日もどうぞよろしくお願いいたします。
確かに、聖の発言は言葉だけを聞くと単純明快なものだった。だが、その行動の意味を考えると全くと言っていいほど理解が追いつかない。
それは敵も味方も同じらしく、皆驚きからポカンと目を見開き、口を開けて固まって聖に注目した。数秒の沈黙の後、何とか思考が戻った俺はこの場を代表して聖に最大級の疑問を投げかけた。
「いやいや、簡単に言ってるがありえないだろ。そんなこと本当にできるのか?」
『できるよ、長は万能なんだから』
戸惑う俺たち向かって聖は朝飯前だと言わんばかりに頷いた。嘘だろ、どんだけチートなんだお前は!と思いながらも、それは世界の理とやらに関わる危険な力の使い方であると言うことはモブである俺にも理解でき、ここまで聖が力を使うことをためらっていた理由もわかる。
そんなことをして聖自身は大丈夫なのだろうか、毅然とした態度を崩さない親友にと少しだけ不安を怯えている俺を見て聖は真面目な雰囲気から一変、いつも通りちゃらけた態度で調子良く続けた。
『何、その顔は。せっかく力になってあげるって言ってるんだよ、もっと喜びなよ。滅多に見ることが出来ない長の力を目の当たりにすることが出来るんだよ。有難く思って欲しいな。その目で長の力をとくと見るがいいよ』
それはとてつもなく偉そうな口調だったが、それ以上に威厳と神気を感じて悔しいが思わず圧倒されてしまった。
タブレットから突如として溢れた神秘的なオーラに、俺はつい最近まで同じ立場でしょうもない話を言い合って笑っていた親友が神と言う非現実で遠い存在になってしまったことを改めて実感する。
「……そこのタブレットが何を言っているのか私にはさっぱり理解ができないのですが、ふざけているのですか。亡くなった人間の魂をこの世に引き戻すなど、神にだってできるわけがないでしょう」
聖から紡がれたありえない言葉に理解が追いつかず、暫く呆けていたライアーだったが、直ぐに思考を取り戻して聖をうらめしそうに睨みつけた。
『話聞いてた?僕が長に頼もうとしているのは残留思念を具現化。蘇生とか魂をこの世に引き戻すとかとはちょっと違う。君の言う様に、死者の魂を呼び戻すなんてできるわけないし、できたとしても禁忌だから流石にやらない』
いや、あんさん一回魂がバラバラに砕け散った俺を元の形に戻しましたやん。あれは蘇生とちゃいますのん。と言うツッコミは置いておいて、確かに聖の言葉には疑問しか持てない。
「その残留思念云々の意味がさっぱりなんだが」
俺の認識が正しければ残留思念ってスピリチュアルなやつだよな。ヒトが強く何かを思った時にその場所に残留すると言われている感情だっけか。とにかく“残された強い思い”と言う考えで間違っていないよな?
『蘇生は一度現世から離れた魂そのものを戻すもの。残留思念の具現化はそのままの意味かな。彼女の強い念が残っているはずだから、それを一時的に可視化する』
「残留思念と言うものは通常は見えなものなのか?」
複雑なことをスラスラと話してゆく聖にシュティレが冷静に疑問を投げかけると、そう言う質問が来ると予想していたのか、すぐさま答えが返って来た。
『うーん、個人に寄るんじゃないかなぁ。分類で言えば幽霊みたいなものだから、シャーマンだったり、ものすごく霊感が強くてスピリチュアル能力に長けているヒトなら見えるんだろうけど……念は強くても存在としては尊いからね。姿は見えても訴え……声は聞こえないんじゃないかな』
「そうなのですか……この世に未練を持って留まったのに姿を認識してもらえてもらえても、声が届かないのは悲しいですね……」
淡々と事実を告げた聖の言葉を聞いたシルマが悲しそうに項垂れた。確かに、よく考えてみればどの世界においても幽霊と言う存在は儚く悲しくて、孤独だ。
ホラーの世界では生者を取り殺したり、呪い殺したりして道連れにする描写をよく見るが、そう言う孤独が起因になっているのかもしれない。だって強い念を残してこの世に想いとして留まっているのに誰にも声が届かないなんて辛いもんな。
逆恨みと言えばそれでお終いだが、死者の想いが生者への恨みへと変化して憎んで苦しめる様になってしまう気持ちも分からなくはない……その恨みが自分に向けられる可能性があるかもしれないので大分ゾッとするが。
「アキラが言う様に前長は生前から世界の頂点として尽力を尽くすなかで相当孤独を覚えていたみたいだし、強い念が残ってしまうのは当然だとは思し、前長の魂の具現化が可能だとすれば本人に話を聞けるわけだから、このヒトの説得も楽になるかもしれないけれど……」
聖の提案を否定するつもりはないらしく、部分的に肯定の意思を示しながらも何か引っかかることがあるのか、シャルム国王は珍しく言い淀んだ。
「まあ、その残留思念とやらが前長そのものだとするなら、俺たちに協力してくれるとは到底思えないな」
シャルム国王が発言するよりも前にケイオスさんが言葉の続きを述べた。
「うん、ペセルちゃん的にも協力どころか攻撃とかされないか心配かも」
ペセルさんも2人の言葉に頷いて苦笑いで小首をかしげて言う。ペセルさんって基本は肯定的な性格だと思っていたけど、敵には割とハッキリ警戒心を露わにするんだな。戦いにおいてはシビアな一面を持っているのかもしれない。
聖のやろうとしていることに警戒心を持っているのは誰もが同じ様で、聖の申し出に対して渋い表情を浮かべているヒトの方が多かった。と言うか、困惑していないのは俺だけっぽい。
うわ、俺なんて方法があるなら何でもいいじゃんみたいな軽い考えしか持ってなかったんですけど。みんな目先のことに囚われないでその後の展開もきちんと考えてるとか慎重すぎだろ。真面目か!それとも俺が呑気なだけなのか……?
相も変わらず戦闘面においての自分の甘さに自分で不安を覚えていると、この場に流れる不安を払拭する様な呑気な口調で聖は言った。
『大丈夫大丈夫。さっきも言ったけど、残留思念は想いは強くとも魔術的な面ではそんなに力はないんだ。今から具現化する彼女には全盛期の様な能力はないよ。と言うか、魔力すら持っていない。だってただの“想いの塊”だからね』
だからみんなが心配する様なことは何も起こらないからノープロブレム!と何故か胸を張ってドヤる聖だったが、一度覚えてしまった心配をそう簡単に払拭できるわけもなく、仲間同士で困惑の視線を躱し合う。
そして今俺たちが身を置き、今から異例の行為を行おうとしている国の代表者であるアストライオスさんがそれはもう深いため息をついて言った。
「まあ、未来が開ける可能性があるのであれば仕方ない。この国のトップとして、そこのタブレットの提案を受け入れよう。ただし、面倒事は起こすさんでくれよ」
聖関連の未来は世界からの大きな力が働いてお得意の未来視が叶わないのでアストライオスさんは、見るからに渋々と、本当に仕方ないと言った様子で聖の提案を許可を出した。あくまでも平和的に終わらせると言う条件付きで。
『うん、任せて。それじゃ、今から長にアクセスしまーす』
慎重になっているアストライオスさんに軽々と返事をして、聖は一旦静かになった。恐らく長にアクセスするフリをしているのだろう。長本人のクセにいちいち芸が細かい。
世界のトップにアクセスしていると言う体のせいか、聖はじれったいぐらいにたっぷりと間を開けている。
この間、聖の裏事情を知らない面々は長と対面することへ緊張感を高めているが、事情を知る俺と神子一行はこのしょうもない演技に若干苛立ちを覚えていた。特にシャルム国王は腕組みをしながらトントンと指で腕を叩き、ケイオスさんは大あくびをしている。
俺もこの無駄な時間をどうしてくれようと思い始めた時、ついにタブレットから反応があった。
『情報を受信した。僕に力を貸して欲しいと望むのはそなたたちか』
「わ、本当に長様とアクセス出来ちゃいましたよ」
「ああ、タブレット越しなのに凄い神気を感じるな」
シルマとシュティレが緊張気味にボソボソと会話をする。エクラもフィニィもアンフィニも、そしてライアーですら突然放出された聖の長オーラに気圧されていた。
みなさん、緊張なされていますがさっきまで会話していたタブレットが偉そうに喋っているだけなんですよ?
ぶっちゃけたところ、声はいつもの聖と変わらない気がするが正体を知っている俺ですらプレッシャー感じるほど威厳があり、凛としていることに加え長と言う存在への緊張感からか、タブレットの聖の正体に気が付いた者は今のところ1人もいない。
よく聞いたら声で分かりそうなモノなのにな。まあ、あのお気楽タブレットの正体が世界の長だなんて夢にも思わないし、仮に伝えたとしても信じがたい事実だろうなァ。
『話はアクセスして来たタブレットから全て聞き、理解している。そして世界の危機が大きく関わっていると判断した。故に、そなたたちに力を貸そうではないか』
すっかり長モードになった聖は威厳を存分に出して俺たちに協力すると申し出た。協力するも何も、提案したのが長本人なんだが。と言うツッコミはあえてしない。
「……ありがとうございます」
とりあえずここは空気を読んで聖の演技プランに合わせて恭しく頭を下げる。長の力を貸してもらうのは事実だし、改めて感謝ぐらいはしてやらんこともない。
『よい。民を守るのも長の役目であるからな。それでは、さっそくここに前長の残留思念を具現化させて見せよう。長の力、その目に焼き付けるがいい』
聖が威厳たっぷりに力強く言い放つ。ここに急に展開に巻きが入ったな、と言う俺の心のツッコミと同時にタブレットが銀色に輝き、目を開けていられない程の眩しい光を放つ。誰もが光りに目をくらませ、そしてそれが晴れた時、その場の全員が目に映る光景に息を飲んだ。
目の前に本当にヒトの姿が現れたのだ。雪の様に透明で真っ白な肌に深い夜闇を思わせる肩までの漆黒の髪が良く映えている。
サラサラとしたボブヘアが風に揺れていることから、多少透けてはいるものの、目の前にいる女性は映像や幻ではなく本当に存在しているのだと言うことを実感する。
押せば簡単に倒れて怪我をしてしまうのではないかと心配になるぐらいの細身で華奢な体つきからは今にも消え入りそうな儚さを感じる。
こんな小柄で弱々しい雰囲気を持つ人物が広く大きな世界の長の任を背負っていたのかと思うと、改めて同情と言うか、表現し難い複雑な思いが生まれて来る。
「コクリコ……」
聖の力によって何の脈絡もなく、いとも簡単に現れた前長と思われる人物に誰もが少なからず動揺したり驚いて言葉を失う中、ライアーが通常ならばありえない奇跡的な光景に戸惑い、声と瞳を震わせて小さな声で前長の名前を口にした。
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聖「次回予告!はぁ~、やっぱりチート能力を開放すると疲れるよ……主に精神的に。ここまでやったんだからライアーの心も動いてくれるといいんだけど。ってか動け」
クロケル「お前の不満は一旦置いておいて……やっぱり長の力を使うのはそんなにしんどいことなのか?」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第173話『父と娘の切なき再会』ん~力を使ったことより長としての威厳を出すのがしんどいね。真面目モード?賢者モード?になるの超嫌い」
クロケル「お前、前回崇め奉られたいみたいなこと言ってなかったか?」
聖「崇め奉られるのに威厳はいらないでしょ。僕はありのままの姿で奉られたいの!」
クロケル「我がままやっちゃなぁ~。おい、こんな奴が世界の長で本当にいいのか?」
聖「むぅ!不満なら君が長になるかい?結構大変な任だし、いつでも譲るよ。志が同じでお互いに了承していればいつだって座を交代できるんだから」
クロケル「いや、それは全力で遠慮する」
聖「だよね!まあ、クロケルが長になって世界を背負うなんて重すぎるもん。無理無理」
クロケル「お前、さっき俺が我がままって言ったことに対して内心でブチギレてるな」