第171話 チートな奴ほど能力の解放を出し渋る
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
最近、暫く離れていたお菓子作りに再び手を出し始めまして、ただでさえ時間がないと言うのにすっかりハマってしまいました。
特に低糖質なお菓子のレシピを考案するのが好きです。頑張って考案したレシピが成功するのって快感ですよねぇ。
などとまた本編と関係のない前書きをしてしまったことに反省をしつつ……。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「人肌脱ぐって、そんなことしていいのか?」
長の役目は世界を守ることが本来では世界を審判すること。余程のことがない限り介入してはいけないのが世界の理とやらじゃなかったのか。
それとも、ライアーに世界を滅ぼす様なラスボス感がないことと、世界の命運が懸かったと思える戦闘をここまで一度として経験イマイチ実感はないが、もしかしてこの現状は“余程のこと”なのだろうか。そう思って一肌脱ごうとすることに渋っている聖に来てみれば気だるげなため息と共に返事があった。
『実行していいかどうかで言えばグレーかもね。いや、正直なところほぼ黒かも。これは僕にとって未知の選択肢だし、状況がどう転ぶかは分からないけど……介入のし過ぎになるなら世界の力が働いて抑止されるでしょ』
「お前、何が起こるかもわからない状況でよくもまぁそんなあっけらかんとした態度ができるな。心配とか不安と言う概念がないのか」
渋っている割には思いのほかあっさりとしている聖に心配と少しの呆れを感じながらも、事情を知らない面々に余計な会話を拾われない様に小声で言えば、やはりそこまで深刻に捉えていない軽い口調で返答があった。
『不安はまあ……ちょっとはあるけど……でも世界の命運が懸かっているかもしれないこの状況を放置するのも良くないでしょ、だから何かあったらその時はその時かなぁって』
「そんなに軽く捕らえていいもんなのか」
『うーん、わかんない』
「わかんないってお前なぁ……」
何が起こるか分からない状況でも呑気な姿勢を崩さない聖のせいでこちらの不安まで払拭されてしまう。
聖が何をしようとしているかは分からないが、状況が進む可能性があるのなら、何もしないないよりは行動に移した方がいいけども。何かあった時の対処とか考えているのかね、こいつ。
「え、何々、何がどうなってるの?」
一肌脱ぐと宣言した後にもだもだし始めた俺たちを不思議に思ったエクラがキョトンとして状況説明を求めて来た。うん、聖の事情を一から話すわけにもいかないので、適当に誤魔化そう。
「いや、この状況で一肌脱ぐとか何を大それたことを言っているんだって文句を言っただけだ」
「あー、その気持ちはわからなくもないなぁ。ねぇ、アキラくん。一肌脱ぐって具体的には何をしてくれるの?詳しい情報が知りたいな」
エクラが疑問を重ねて聖に向かって小首をかしげる。それを受けた聖は余程大事なことを言おうとしているのか、一度一呼吸置いた。妙な緊張感がその場を包み込む。
敵も味方も息をのみ、じれったさを感じながら聖の言葉を待っていると緊張感を保ったままゆっくりと真剣な口調がタブレットから流れた。
『今から僕が今長である“アキラ”にコンタクトを取る。そして力を貸してもらうよ』
実際は聖自身が今から長としての力を使うのだろうが、事情を知らない面々にそれがバレてはいけないため、あえてその様な表現をしたのだろう。
「まあ、アキラさんはこの世界の長であるアキラ様とコンタクトが取れるのですか?」
何も知らないシルマが目を丸くして驚く。いや、彼女だけではない。この場にいる聖の事情を知らない連中全員が“そんなことができるのか”驚きと“本当にそれは可能なのか”疑問の表情を浮かべる。
『できる。さっきも話題に上がった通り、僕は世界で類を見ない優秀なAIだからね。任せて欲しい』
シルマの疑問と集まる視線を受けて聖はキッパリと宣言した。自身を持つのも仕方がない。だって本人なのだから。
「この状況で何故、世界の長とコンタクトを取る必要がある。ライアーとフィニィの和解が目的のはずだろう。ここに来て第三者……しかもこいつが一番嫌う相手を介入させてどうするんだよ」
今まで会話に入ってこようとしなかったミハイルが眉間に皺を寄せて最もな意見を述べる。
『いや、和解も何も結局のところライアーにその気がないせいで話が進んでないでしょ。だからね、長にあることを頼むんだ』
「あること?」
出し渋りまくりの意味深な聖の発言にじれったさを覚え始め、俺は眉間に皺を寄せて聞き返す。同じ場面でCMを跨ぐの番組かお前は。スッと言えよ、スッと。
聖がこれからやろうとしていることに予想がつかないのはこいつの事情を知るかつての仲間たちも同じ様で、何を始めるつもりなのかと言う面持ちで俺と同じくじれったそうに聖を見つめていた。
「アストライオス、お前は未来視ができるからこいつの考えていることもわかるだろ。このもったいぶりもいい加減じれったいし、これからの展開を教えろよ」
言葉を溜めるだけためて一肌脱ぐとやらの詳細を中々述べない聖の痺れを切らしたケイオスさんが未来視と言う先を見る力を持つアストライオスさんにここから先のネタバレを求めた。
そうか、こう言うじれったい場面では先を視ることはできるヒトにあらかじめ聞くと言う手もあるのか、全く気が回らなかったがその手があったか。まあ、アストライオスさんが視えたことを素直に教えてくれるかどうかは別だが。
これまでもあんまり未来視の結果は教えてくれなかったこともあり、期待半分でアストライオスさんを見つめて返答を待っていると数秒後に渋い表情と共に非常に微妙な反応が返って来た。
「それがのぅ……こやつ関連、いや長関連と言った方が正しいか。世界の機密に関わることはワシの未来視は通用せんのじゃ。見ようと思っても映像の先にモヤがかかった感じになって見えん」
「力を使っても未来が視えないってこと?それって、前にクロケルさんたちの未来が白って言ってたのと同じ状況?」
自分の力が通用しないことが気に食わないのか悔しそうにため息をついて肩を落とすアストライオスさんにエクラがキョトンとして聞く。
「ああ、そう言えばそんな話があったなぁ」
俺は出会った当初、自分たちの未来は“白”で先が見えないと言われたことを思い出した。確か未来が決まっていないから視えないんだっけか。
未来に繋がる道は枝分かれしていて最終的に1つの結果に繋がるが、俺たちの場合は選択肢が多くて繋がる未来が多岐にわたっている、とか言う話だったな。
行動次第では良い未来にも悪い未来にもなると理解していたがそれでいのだろうか。話が複雑で難しくて実のところその辺は未だに理解していないのだが。
今回のモヤうんぬんもエクラが言う様にそれに近いのか?そう思いながら悔しそうなアストライオスさんを見ると緩やかに首を左右に振った反応が返って来た。
「いや、この場合は視られない様に何かが邪魔をしていると言う方が正しい。わかりやすく言うのであれば、そこに居るライアーが自らのステータスにジャミングをかけていたのと同じ原理じゃな」
「つまり、大きな力が第三者から情報を見られない様にしていると言うことですね」
俺が頑張って理解したことを確認するとアストライオスさんはよく理解したとでも言いたげに瞳を閉じてしっかりと頷いた。
「左様。この場合の大きな力とは世界そのものと言えるじゃろうな」
「ああ、それはいくら神の血族であるアストライオスでも逆らえねぇなぁ」
珍しく理解が早い俺に機嫌よく、満足そうにしていたアストライオスさんだったが、態度が一変。自分を小馬鹿にする様にヘラヘラと笑うケイオスさんに憤りを覚えて射殺す勢いで睨みつける。
「おい若造、喧嘩を売っているのであれば買うぞ」
「お~いいねぇ、じいさん。どっちの筋肉が優れているか競うか?」
アストライオスさんは笑顔をキープしつつ顔に青筋を立ててケイオスさんに詰め寄り、ケイオスさんは笑顔なのに全く朗らかさを感じないスンとしたオーラを醸してアストライオスさんに対抗した。
「また始まったよ……仲間同士のしょうもない争いから話が脱線する展開……」
もう何度も体験してきたお約束とも言える展開にまた話が滞る気配を感じ、頭痛と眩暈を覚えているとシャルム国王が剣呑な雰囲気を振り払う様にパンパンと両手を叩いて拍手を響かせた。
「はいはい、筋肉馬鹿同士で小競り合いを始めないで。で、タブレットのアキラ、ずいぶんともったいぶっているようだけれどあなたがやろうとしていることをそろそろ教えてもらえないかしら」
ここまで溜めるのだからそれは素敵な考えなのでしょうね、と少し嫌味混じりな微笑みと言葉を付け加え、シャルム国王は聖を見やった。
話の筋が元に戻ったことで張り付い笑みを浮かべて睨み合っていたアストライオスさんとケイオスさんが仕方ないと同時にため息をついて一旦争うことをやめる。
そして改めてこの場の注目を集めることとなった聖はタブレットの体でふよふよっと辺りを見回してから気を取り直すためか小さく咳払いをし、重要で真面目な発言をするためかいつもの様な腹の底が読めないのらりくらりとした口調ではなく、ひどく真剣に言い放った。
『言葉にしてしまえば凄く単純になってしまうけれど……現在の長には前長の残留思念の具現化を頼もうと思っているんだ』
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聖「次回予告!ねぇねぇどう?僕のナイスアイディア!凄いでしょ。ビックリでしょ!不可能だと思われていることを可能にする!これぞ長の力であり実力なのさっ、褒めていいよ?尊敬してもいいんだよ~」
クロケル「ドヤるな、鬱陶しい。ってか結構シリアスな場面だと思うぞ。長として尊敬して欲しいならもう少し威厳を保て。そんな風にはしゃがれると尊敬度が下がる」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第171話『長の力、とくと見よ』え~ちょっとは崇め奉って欲しいんだけど」
クロケル「お前は本当に自分の身分を隠す気があるのか?」
聖「いや、別に感謝されたいとかそんなんじゃないんだけど、神的な立場になったんだからちょっとぐらいは黄色い声を上げてもらいたいと言う欲?」
クロケル「トップに立つ者としてあるまじき欲だな……」
聖「ちゃんと仕事はしてるし、あるまじき欲を持っていても押し付けてないからセーフ」
クロケル「欲を持つこと自体がアウトじゃないのか……?」