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第16話 薔薇のトゲが落ちる時

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


昨日は体調不良で投稿できず(泣)もしかして待っている方がいらっしゃったら大変失礼しました。

仕事も学業も無理はいけませんね。適度に力を抜かないと。


でもそれができない日本人(自分を含む)多さよ(遠い目)

私の作品がどなたかの貴重なお暇つぶしになりますように……


あと、15話をちょこっとだけ加筆しました。クラージュの年齢について触れてあります。もし興味がある方は改めて読んでやって下さい。


少し長めですが、本日もどうぞよろしくお願いいたします。


「そうねぇ。何から話せばいいのかしら。アタシがクラージュと出会ったのはアタシの結婚相手を決めるトーナメントだったのだけど」


「ちょーっとまって下さい。なんですか。結婚相手を決めるトーナメントって」


 馴れ初めを話すと言われてから数秒で俺は話の腰を折ってしまったが、そりゃ折るだろう。だって結婚とトーナメントってまず結びつかない言葉だぞ。


 トーナメントって普通にあれだよな。試合形式のやつ。なんで結婚相手を決めるだけなのに試合する必要があるんだよ。


「ああ、そこから説明がいるのね。面倒だわ」


 ふう、とシャルム国王が左手と白い頬に当ててため息をつく。いや、面倒くさがられても。結婚青手を試合で決めるなんて聞いたことねぇよ。


 それともこの世界では普通なことなのか。ここへ来てからやたら大人しく、口数の少ない聖に視線を向ければ渋々と言った様に言葉を話した。


『普通ではないかな。とても珍しい決め方だと思うよ。と言うか僕も初耳』


 そっかー、聖も初耳かー。なら結婚トーナメントとやらはこの国独特の文化なのか。苦笑いで納得しているとシャルム国王は聖をチラリと流し見た後、続けて言った。


「珍しがられても仕方がないわ。だって、アタシが決めた結婚形式ですもの」


「なんでまたそんな形式を取ろうと思ったんですか」


 素直に疑問をぶつけてみればシャルム国王はため息交じりに言った。


「王族に大切なことはね、国民のために国政を見てしっかりと働くほかにもう1つ、跡継ぎを作って血筋を絶やさないと言う役目もあるの」


「役目、ですか」


「そう、役目よ。とても大切なね」


 シャルム国王は真っすぐ俺を見て淀みなく言った。


 結婚が「役目」だなんて、何か悲しい価値観だな。俺はリアルに恋愛したことはないし、結婚とかを考える年齢ではなかったが、基本は相思相愛の関係にある者同士がするものだと思っていたけど、身分によっては血筋を守るための手段でしかないのか。


 自由に恋愛や結婚ができるって凄く恵まれているんだな。こういうことは自分とは違う立場と違う人間に合って初めてわかるんだな。


「アタシ、お母さまを幼い時に亡くしてね。しかもその時、前国王……のお父様ね。前国王と妃の間にはアタシしか子供がいなかったの。お父様はお母様を心から愛していて、側室は取らなかったし再婚はしなかった。だから、国王の子供はアタシただ1人だったの」


「前国王にご兄弟はいらっしゃらなかったのですか」


 シルマが聞けばシャルム国王はすぐさま首を縦に振ってあっさりと認めた。


「いたわよ。4人ほど」


「え……では、王位継承の優先権はご兄弟の方にあるのでは」


 シルマが困惑する。俺も同じ疑問を持っていた。こう言うのは生まれた順で王位継承に順位がつけられるものじゃないのか?


 前国王に兄弟がいるのであれば20代とまだ若いシャルム国王が王位を継承しているのはあり得ない。ま、まさか政治的策略!?


 自分が王位を継ぐために継承権をある人間を暗殺したとか言う、よくある展開か?勝手に想像して顔を青くしていると、それを察したのかシャルム国王は呆れた口調で続けた。


「変な勘違いはしないで頂戴。王族であるセレーニタ家は遥か先祖の時代から実力主義なの。王族の血さえ持っていれば年齢や性別に関係なく誰でも王位継承権を持っていて、国王を決める時は王座をかけて決闘をする決まりなのよ」


「国王を決闘で決めるのか」


 暗殺の事実はないとはっきり否定され、安心をしたが、暗殺と同じぐらいなことをシャルム国王は当然のことの様に言った。王位を決闘で奪い合うなんてヤベェ王族だな。


『ね、血の気が多いよね。トゲが多すぎる薔薇だよねぇ』


 俺の心の声を読んだ聖が同意した。だから、心の声を読むな。そして同意するな。不敬がバレたらどうすんだっ。


「あら、血の気が多いだなんて失礼なAIね。生まれた順位に関係なく王になるチャンスが与えられるのよ。武力と知力を磨くだけで王になれるかもしれないなんて向上心があがるじゃない」


「ソウデスネー」


『失礼しましたぁ』


「親族同士の戦いと言うことになるんですね。ちょっとだけ、悲しいです」


 シャルム国王に涼やかに睨まれ、聖は謝罪をしながら俺の背後に身を隠す。複雑な王族の背景の話について行けなくなりそうな俺が片言で納得する隣でシルマは泣きそうになりながら俯いた。


「悲しいもなにも、決まりだものl。仕方がないわ。で、お父様も早くに亡くなって、伯父様たちとの決闘に勝利したアタシは若くして王位を継承することになった。同時に跡継ぎ問題が発生してね……アタシも王家の血を絶やしたくなかったし、結婚をすること自体には抵抗はなかったけど、理想の相手が見つからなくて」


「理想の相手ですか」


 なるほど。そこは妥協はしていなかったか。結婚相手も決して妥協しない姿勢は流石としか言いようがない。恐らく、自分の価値を高く置いているからこそできることだろう。そう言う面は王としては素晴らしい素質だと俺は思う。


「当時のアタシの理想はこの国を共に背負って行ける強い人物。知力と武力を持ち合わせている人。お見合いをしてみたけど、中々アタシが添い遂げたいと思う人とは巡り合えなかったのよ。なら、トーナメントを開いて勝ち上がってきた者を結婚相手にしようと思ったの。アタシたちは王位を決めるために決闘をするんだもの。結婚相手も戦って決めるのも悪くないって思ったのよ」


 なるほど。王位も決闘で決めるなら結婚相手も戦いで決めるか。うん、納得も理解もこれっぽっちもできねぇ。


「でも、戦える女性なんてそういないのでは」


 異世界に転生して暫く経つが、俺が出会った中では前線に立てる女性はそういない。回復や魔術を操る後方支援型ならそれなりにいたと思うが、それば武力とは言えないよな。シルマやクラージュは戦える女性としては特例中の特例だろ。


 王の花嫁の座を狙う人は多そうだが、知力はともかく武力が求められるのであれば、トーナメントができるほど人が集まったのかも怪しい。


「そうでもないわよ。男女混合での開催だったし、優勝した者には国王の妻になるほか、なんでも1つ願いを叶える特典付きだったから、すごく人が集まって来たわ」


「男女混合!?でも、国王様の恋愛対象は女性ですよね」


 シャルム国王はしれっと言ったが、自分の恋愛対象は女性と先だって本人の口から聞いた。しかも決めるのは結婚相手。男女混合ともなれば腕力や体力の差もあるし、当然男の方が勝ち上がって来る数は多いだろう。


 ……ってかその前に王の結婚相手に男も立候補するのか。


「わからないわよ。確かにアタシの恋愛対象は女性だけど、理想の同性出会って共にとして過ごしていく内に価値観もかわるかもしれないじゃない。実際、割と魅力的な男性もたくさんいたわよ」


 あっさりと言ってのけるシャルム国王に開いた口が塞がらない。自分の価値観を持ちながらもそれに囚われることはなく、柔軟に対応しようとするその姿勢はもうドン引きレベルだ。


「そのトーナメントに参加して最後まで勝ち残ったのがクラージュだったのよ」


 シャルム国王がクラージュを話題に出したと同時に、本人が大きな銀のトレーを持って部屋に備え付けのキッチンから元気に戻ってきた。


「お待たせしました!お茶の準備ができましたよー」


「あら、ありがとう。クラージュ」


「えへへ。御礼なんていらないですよ」


 クラージュは照れ笑いをしながらも豪華な造りのテーブルの上にこれまた豪華な造りのティーカップを並べてゆく。

 金縁の青い薔薇の模様のカップに香ばしくも少し甘めの匂いが混じる紅茶が、クラージュの手によって丁寧に注がれて行く。


 そしてそれぞれの前にカップが手早く置かれて行く。この一連の動作で一度として食器の音を立てなかったクラージュにちょっとだけ驚いた。


 出会った当初の雰囲気から、子犬の様に明るく飛び回っていて落ち着きのないイメージを勝手に持っていたが、時折見せる騎士らしい立ち振る舞いには感心してしまう。


「あとは……こちら、お口に合えばいいんですけど」 


 ミルク、砂糖、輪切りのレモンと並べられ、最後にテーブルに置かれたのは一口サイズのフルーツタルトだった。蜜がかかっているのか、赤いイチゴはより一層艶やかな赤色に輝いていた。


「あら、こんなのいつ作ったの」


 甘いものに興味があるのか、シャルム国王の興味はフルーツタルトに向く。

 俺は話が逸れそうになる空気を察した。


「遠征前にフルーツを頂いた際に、シロップ漬けにしておいたんです。生地も作り置きのものをオーブンで焼いただけです。急な客人用に用意しておいたものです。純粋な作り立てではなくて申し訳ございません」


 申し訳なさそうに頭を下げるクラージュにシャルム国王は微笑みかける。

 

「十分よ。それにクラージュが作るものだと毒見が必要ないから助かるのよね」


 そう言ってタルトにフォークを入れ、美しい所作で皿の音どころか咀嚼音すら立てずに食べた。タルトもまったく形が崩れていない。


「でも一応、フルーツを頂いた際にはある程度毒見と成分検査は済ませてあります。調味料も同じく」


 ……怖い話をされている。やっぱり、王族たるもの命は狙われるんだな。毒殺が日常に潜んでいるなんて怖すぎる。


「アナタたちも食べなさいな」


 紅茶とタルトに手をつけていない俺たちをシャルム国王が促す。

 いやあ、あんな綺麗な食べ方見せられたら食べにくいっすわ。と思いながらも手をつけない方が失礼なので頂くことにした。


 案の定タルトはボロボロになった。人間の道具に慣れていないシュバルツのタルトは俺以上に悲惨なことになっていた。シルマは流石と言うべきか、とてもきれいな形を保たせて食べていた。


 でもおいしい。紅茶もタルトも極上だ。シュバルツには茶葉が渋過ぎたのか、顔をしかめながら小刻みに震えていた。なんか和む。って違う。まったりしている場合ではない。


「クラージュ様はどうして結婚相手を決めるトーナメントに参加されたんですか」


 まったりムードの中、世間話のようなノリでシャルム国王の隣に佇むクラージュにシルマが聞いた。


「最初の動機はお金ですねぇ。私、貧しい家庭環境にあったんですが、王族になれば家族に楽させてあげられるかなぁと思っていました」


 クラージュは誤魔化すことなくはっきりと答えた。シャルム国王が動揺を見せていないところを見ると、どうやらその事実を知っていた様だ。


「トーナメントに参加できるってことは、当時から武術の心得はあったんだな」


 大事なペンダントを盗んだシュバルツを追い詰めた時、ものすごい速さでレイピアを振るっていた姿を思い出す。


 それに初対面でクラージュと衝突して彼女を助け起こすため手を握った際も手にマメができており、傷まみれだったことを考えると、随分と長間訓練をしていた様にも思える。


「はい。私の実家は昔はモンスターが侵入しやすい地域にあって、家族と自分の身を護るために独学で武術を学んでいました」


「独学で、あの動き……」


 絶句とはまさにこのこと。レベル1の俺でも前世で武術の心得があったら苦労しなかったのだろうか。いや、もしかすると心得があったらレベル1じゃなかった可能性もある、のか?


 前世の己を悔いて1人唸る俺を横目にシャルム国王は話を進めて行く。


「因みに、ルールとしてはトーナメントのチャンピオンはアタシと戦って勝利して初めて優勝扱い。晴れて国王の妻になることができる」


「え、国王様自ら戦うんですか」


 驚いて思わず声を上げればフンと鼻で笑って返された。


「何をバカなことを言うのかしら。国王の妻になるのよ。私に近づく思惑はどうあれ、いざと言う時に私と共に国を守れないでどうするの」


 共に国を背負う相手を見つけるためのトーナメント。そう思うとすごく重たいものを感じる。でも、そんなことを考えずに参加した人も多いだろうなぁ。


「それに、これでもアタシ国王になる前に一度()()()()()()()()をした実績もあるのよ。だから強さには自信があったから、アタシに勝てなくても追い詰めるぐらいの実力は求めていたわね」


 世界を救う手伝い?そう思った時、シャルム国王の視線が宙に浮かぶ聖の方に向いているのが分かった。しかし、俺がそれに気がつくと同時に国王は聖から視線を外し、俺に戻した。


「結果は相打ち。剣の打ち合いが続いてお互いに剣がバッキリ折れちゃって。でも、アタシを追い込んだのは事実だし、実力は十分。国王である私と戦うことになっても物怖じしないところも評価できたし、クラージュを妻として迎え入れる決断をしたの」


「そして、なんでも願いを1つ叶えるって言う特典で、妻と兼任で王国騎士にしてもらうことにしたんですよ。もちろんお給料は貰ってます!それを実家の仕送りに充ててるんです。自分の家族は自分のお金で養いたいので」


 クラージュは胸を張って言ったが、凄いな。妻になればそれなりにお金は貰えるだろうにそれでも騎士になる道を選んだのか。


「なんと言うか、変わってるなお前」


 思わず正直な感想が口からこぼれる。それなりの地位を手に入れたら、少なからずそれに甘えてしまうことが普通だろうと思うが。


「でも、夫婦とは言え旦那様から見たら私の両親は他人です。他人の為に旦那様にお金を使って頂くなんて、それこそ変な話です」


 クラージュは唇を尖らせて言う。すごい自立してるんだな……クラージュは。まだ若いのに感心するよ。

 むくれるクラージュを見てシャルム国王がクスクスと笑って言った。


「こう言うところが好きなのよねぇ」


「私も旦那さまが好きです」


 はいはい、ごちそうさまでした。いちいちのろけないで下さい。どんだけラブラブなんだよ。何がどうなってこうなったか詳しく知りたい。


 けど、長くなりそうだし聞いたら聞いたで最終的に砂を吐きそうな気配がする。身分違いの恋愛ものは俺も二次元で親しんできたが、あのジャンルも人気が高いよな。


 お互いを想い合っているのに変に遠慮してすれ違っう。でも、大きな事件が起こって命の危機に瀕した時に想いが通じ合ってなんやかんやでハッピ-エンド。大概が「愛の力」で片づける傾向にあるが、お約束だからこそ感動できるんだよなぁ。


「まあ、最初はお互いに形だけの結婚ぐらいしか思っていなかったんだけど、一緒に公務をこなしたり、夫婦として生活を続けていく内にこの子のひた向きさで素直なところとか、努力家なところが愛おしくなってね。アタシのトゲもすっかり抜け落ちてしまったってわけ」


「私も騎士となり、妻となってからはお金目当てでトーナメントに参加したことに恥ずかしさを覚えました。旦那様はこんなにも素敵で懐が深い方なのに……。ああ、あの時の自分を殴りたい」


 シャルム国王はうっとりとした表情を見せ、クラージュは顔をしかめてで過去の自分に怒りをぶつけていた。


 そんな2人を紅茶をすすりながら交互に眺めていた時、シャルム国王がふいに言った。


「さ、アタシたちのことを話したのだから、こちらからも質問してもいいわよね」


「はい?」


 質問、なんだそれ。俺たちに話せるようなことは特に何もないはずだが。そう思って首を傾げていると、シャルム国王の細く長い指がスッと俺の右上を指す。


「そこのAIとお話がしたんだけど」


 名指しされたのは、ここに来てからずっと様子のおかしい聖だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「やだ!やだやだ!話なんてしたくないよぅ」


クロケル「おい。予告始まってるぞ」


聖「はっ!つ、ついに僕のこと追及されちゃった。最初から気づかれている気はしたけど、特に何も言われなかったから安心してたのに。何を話されるんだろう。はあ~」


クロケル「俺としてはお前と国王の関係がやっと解明されそうで嬉しいがな」


聖「次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第17話 『異世界の神子の過去』気が重いなぁ。ねぇ、席外しちゃダメかな」


クロケル「ダメに決まってるだろ。ん、タイトルからするとお前の過去もわかるのか?」







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