第165話 正義を求めればこそ争いは起こる
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私生活で最大級に忙しいことが起こり、投稿がまちまちになる気配がして参りました……極力期間は空けない様に心がけますが、毎日の投稿は厳しいかもです……。
ですが期間が空いても投稿は続けますので、お付き合い頂けますと幸いです。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「……これだけ、これだけ怒りをぶつけても世界を守るために娘の命を奪ったことが正しいことであるととまだ思うのですか」
聖の淡々とした“ヒトの死”を割り切った冷たい言葉にライアーは声を震わせて静かに抗議した。確かに、先ほどのアストライオスさんや聖の言葉は戦いに重きを置いている発言であり、前長の死は必然であったと言う捕え方をしていると部外者の俺ですら思ってしまう。
『そうだね、僕は自分の選択は正しかったと思うよ。君の娘の命を奪ったことを後悔しているかと問われれば、僕は“していない”とハッキリ返せるよ』
聖が冷酷な言葉を返し、ライアーはこんな言葉をぶつけられるとは予想もしていなかったか、ヒュッと喉を鳴らして固まり、そして恨めしそうに聖を睨んだ後に唇を噛みしめた。
「おい、そんなドストレートに言わなくても……」
『だって、事実だもん。神子の決断と行動によってこの世界は救われた。そのことについて神子は本当に後悔なんてしていないと思うよ』
ここにいる複数人に素性を隠している聖は自分と神子は他人だと言う表現をしながらも自分の気持ちを口にした。
恐らく本当に何の後悔もないのだろう。やんわりと止めに入った俺に聖はひどく不機嫌に抗議し、意見を否定されたと感じたのかさらに威圧してくる。
『何、クロケルはこいつに同情してるわけ?世界の命運よりも同情を優先するの?』
「いや、そう言うつもりはないが……」
目に見えて不機嫌になり、刺々しい言葉を投げかけてくる聖に少しだけ恐怖と戸惑いを感じてしまい、俺は即座に言葉を返すことが出来なかった。
でも考えてみて欲しい。自分の近しい人間の死に対してそんな表現をされれば誰だっていい気分に離れない。寧ろ不快だ。こればかりはライアーに同情と言うか、気持ちが傾いてしまう。
これもきっと戦中においては甘い考え何だろうな。でもなぁ……命がかかった争いとは無縁の人生を送って来た俺には、どんな背景や事情があってもヒトの死を“戦いにおいて招かれた結果”だから仕方ないと割り切るなんてできない。
心が同情や罪悪感に支配されてしまうのだ。まあ、ライアーから見ればこれも偽善なんだろうけど。だが、こう言う時いつも思うのだが同情すると言うことはそんなにいけないことなのだろうか。
俺は可哀そうだとは思っているが別にライアーを憐れんでいるわけではない。自分の人生と比較して下に見ている訳でもない。ただ、単純に第三者が彼の精神を乱すこの状況を良しとできないだけだ。
「俺はこいつの味方をしているわけじゃない。ただ、敵だからってこんな風に精神的に攻撃する様なことや家族の死を義務的に扱うのは良くないと思ってじはいる。……神子たちが前長の、ライアーの娘の命を奪ったのは事実なわけだし」
敵にも味方にも偽善だと思われても構わない。そう思った俺は正直に、そして少しだけトゲがあり厳しめの言葉で意見した。
『む、随分トゲのある言い方をしてくれるじゃん。“命を奪った”なんて中々ストレートな表現だよ。キッツイなぁ』
「ああ。そうじゃのう。クロケルよ、お主は味方に喧嘩を売るつもりかのう」
聖の声色が更に不機嫌なものに変わり、アストラオスさんも髭をいじりながら俺をジトリと見て言う。周りを見ればシャルム国王、ケイオスさん、シェロンさん、ペセルさんも先さきほどの俺の発言に思うところあったのか、それぞれが様々な感情を抱えた様子だった。
シャルム国王とシェロンさんは痛いところを突くな眉間に皺を寄せ、ケイオスさんは俺の言葉は間違いではないが生意気だと口を尖らせてブツブツと言っている。
ペセルさんも空中に映し出された画面向こうで苦笑いを浮かべて反応に困っている。あ、やべぇこれ言い過ぎたかも。変な空気にちまった気がする。
仲間の功績を批判する様なことを言うのはあまり良くないかもしれないが、聖たちだって散々ストレートな物言いをしたんだ。俺だってはっきり意見する権利がはあるよな!てきに回したくない連中が多いけど!
かつての神子とその一行からの不穏な視線をじわじわと感じて俺はくじけそうになりつつも、大丈夫、間違ったことは言っていないと自らに言い聞かせ、なけなしの根性で己を奮い立たせる。
「クロケルさんの言う通り!あたしもここまでのみんなのライアーへの対応はちょっとひどいと思う。平和的な対話をしようって言う姿勢じゃないもん」
ついさきほどライアーにきつい言葉を浴びせたアストライオスさんを嗜め、彼を擁護する姿勢を取っていたエクラも大きく頷いて俺に同意する。そうだった、エクラは元々正義感が満遍なくあるというか中立な傾向があるんだった。
よかった俺と意見が同じ人間が1人でもいてくれと本当によかった、味方がここにいた。俺一人でライアー擁護派だったら多分、精神的にも物理的にもリンチでミンチにされてたよ。想像しただけで寒気がするし怖い。
「ははっ、良く言うねぇ。エクラちゃんだっけ?君もライアーにめっちゃ怒って詰め寄ったくせに」
みんな態度が冷たいと頬を膨らませて怒るエクラにケイオスさんが爽やか且つ真っ黒い笑みを浮かべて嫌味たっぷりの言葉を投げかけた。
「そりゃあ、このヒトのフィニィに対する対応は気に入らないし、私も文句を言って喧嘩腰な態度をとっちゃったけど、でもそれと精神的圧力をかけるのは別物だよ。ヒトの心を無駄に傷付けるのは良くないって言いたいの!」
エクラは己のしっかりと行動を認めた上で臆することなくケイオスさんにハッキリと物申した。
『はいはい、要は優しくすればいいんだよね。ねぇ、ライアー。フィニィちゃんはね、俺たちと話し合って復讐は空しいってことに気が付き始めているんだよ。自分を犠牲にしてまで得るものが世界の滅びなんて悲しいって感じ始めた。ね、そうでしょ』
すっかり黙り込んでしまったフィニィに聖が唐突にそんなことを確認すると、フィニィは「あ、う……」と言葉を詰まらせ、ライアーの顔色をチラチラと何度も窺い、そしてアンフィニィを見て、俺たちを見た後にぎこちなく頷いた。
それを見た聖は満足そうにライアーに言う。
『ほらね。ちゃんと話合えば価値観や考え方が変わることだってあるんだ。だから、僕たちの……フィニィちゃんの話を聞いてあげてよ。何か変わるかもしれない。僕としては、世界を滅ぼすことを諦めて欲しいなぁって思うけど』
「それは正義の押し付けです。私には私の正義がある。それを否定するのであれば、例え“家族”であるフィニィの話であっても私は聞き入れるつもりはございません」
比較的優しい口調と言葉をチョイスして再び問いかけた聖にライアーはツンと外方を向いてしまった。俺たちとライアーのただでさえ谷底の様に深~い溝が更に深くなったのが目に見えて分かる。
「おい、どうするんだよ。事態が悪化したじゃねぇか!お前が変に圧力をかけたせいだぞ!」
「最初のおじいちゃんの言葉も絶対影響してるよ!態度を改めてッ」
聖に抗議する俺に続いてエクラもアストライオスさんを叱る。
『えええ……嘘でしょ、この状況って僕のせいなの?』
「ワシは間違ったことは言っておらぬと言うたじゃろうて」
俺とエクラに怒られた聖とアストライオスさんは納得がいかないと言う態度で他の仲間たちに助けを求める様に視線を送るが、全員にふいっと視線を逸らされてしまい、言葉を詰まらせる。
援護を求めたのにあっさり仲間から拒否された2人から「ガーン」と言う効果音が聞こえて来た気がしたが自業自得である。
『あー!もうわかったよ、確かに僕の態度も悪かった。この手の話になると違う一面が出て来ちゃうのは僕の未熟なところだ。先を急いで言い過ぎました。謝る!謝ります、ゴメンナサイ!』
何とも言えない空気に包まれる中、聖がやけくそに、面倒くさそうに叫んだ。自分の非は認めているようだが、後半の謝罪は凄く早口だったので多分、半分ぐらいは納得せずに口先だけで謝ってる。
どんな状況でもいい加減な一面しか見せない親友に少しだけうんざりしてしまったが、聖は勢いのまま言葉を続ける。
『正義の押し付けだって言うんだったらそれはお互い様だ。確かに“理解してもらおう”と思うのは良くない。だから、僕は思い切ろうと思う』
話は平行線で中々意見を聞き入れないし受け入れようとしないライアーに聖は唐突に切り出した。軽い口ぶりで一体何を言うつもりなのかと誰もが思ったことだろう。
聖は一呼吸置いた後に簡潔にキッパリと言葉を述べた。
『価値観の押し付け合いって良くないよね!お互いに正義を理解してもらおうとするから拗れるんだよ。だから、ここは一回お互いの正義を捨てちゃおう。どっちが正しいかとかとりまナシな感じで行こう』
それは敵も味方も、とにかくこの場にいる全員の思考が停止するほど突拍子もなく、困難な発言だったが、当の本人は得意げに宙に浮き続けていた。
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聖「次回予告!あれぇ?結構いい提案だと思うのに、どうしてみんな凍り付いてるの。僕、変なことは言ってないよね」
クロケル「変、ではないかもしれんが“何言ってんだこいつ”みたいな発言ではあったことは自覚してくれな」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第166話『何故、世界を存続させたいのか』なんでだよー、価値観のぶつけ合いはやめるって結構合理的なこと言ってると思うけどなぁ」
クロケル「うん、まあそうなんだが……さらっと軽口で言ったことが災いしたのかもしれんなぁ」
聖「軽口じゃないよ。ライアーに対して偉そうにならない様に敢えてああ言う言い方をしたの!親しみを込めたって言って欲しいな」
クロケル「残念ながらお前のさっきの態度と口調からは味方の俺ですら親しみを感じなかったぞ。寧ろふざけてんのかと思ったぐらいだ」
聖「えええ!そんなぁ……むむぅ言葉にするって難しいね」
クロケル「んー、今回の場合はニュアンスがちょっと違うような……?」