第163話 神子としての選択
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
そして、新年あけましておめでとうございます。こんなにも拙い文章を読んで頂いている方々には本当に感謝しております。
今年もなるべく投稿間隔を開けず、より良い内容の小説を書くことが出来ればいいなぁと思いますので、今年もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
新作も投稿したいのですが、仕上げる時間取れない悲しみ……。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
『どうしてって……それが世界の決まりだからでしょ。世界の存続をかけて価値観の違うもの同士が戦って、勝った方が意見を貫くことができる。特にその戦いに関しては数多の命を預かった大きな選択なのだから、どちらかの命が奪われるのは運命なんじゃないかな』
聖がかつて前長に打ち勝った神子であり、現長であると言うことは極秘である。その事実を知っているのは俺と、戦いに関わった神子一行のみだ。
そのため聖は自分が神子であり、長であり、最重要人物であることを悟られない様に言葉を選んで発言した。
「命が奪われることが、運命……」
俺は聖の言葉がひっかかり、思わずそれが口を突いて出る。聖は最初から死ありきの戦いに身を投じていたってことなのか?
でもよく考えればそれは当然とも言えるもの捉え方なのかもしれない。俺は異世界召喚だったり、選ばれし者になって旅をしたりした経験はあたりまえだが二次元でしか経験したことがない。まあ、異世界転生を経験することになるとは思いもしなかったが、それは一旦置いておいて……。
二次元作品はシナリオがあるので帰還が約束されている。バットENDは存在するが正規ルートではほぼほぼ生き残れるし、作品の傾向にもよるが生き残るのが普通だと言う価値観が当然の様に脳内で根付いている。
この世界で再会してから生前以上に自分の世界観を持って常にヘラヘラしているせいで神子であったころに恐らく持っていたであろう悩みだったり、恐怖心だったりを考えたことがなかった。
考えれば考えるほど親友が重い責任と運命を背負っていたと言うことを再確認して少しだけ、ほんの少しだけ見る目が変わる。俺にない苦労を経験したのかと思うと遠い存在の様に感じてしまう。
『かつて神子だって、できれば話合いで解決したかったと思うよ。でもね、長は世界の命運を動かす権限を持っている。自分の意見を世界に反映するには長としての座が必要なんだ。それをどうあっても譲ってくれないと言うのであれば、戦うしかなかったんじゃないかと思う』
「余程の戦好きでもない限り、誰だって戦うのは嫌だと思うわ。でもね、話し合いで解決しないことだってあるのよ。現にアンタだって今のところ話合いに応じる気はないでしょ。話し合いは平和的で一番安全な解決方法ではあるけれど、確実性が低くて困難なものでもあるのよ。それぐらい理解できるでしょう?」
真剣に淡々と言葉を紡ぐ聖に続いてシャルム国王もクール意見を述べた。そして現段階で自分たちも話し合いと言う道を選びながらもその難しさを問う。
「話が通じないなら斬り捨てる、世界を救うなどと大それたことを言っておきながら、多くの命を守るためなら1人の命は捨ててもいいと言うことですね。そんな人間たちがどうして世界を救い、人々から感謝をされるのでしょうか。私の娘は世界を滅ぼそうとした悪者扱いだと言うのにっ!!」
ゆっくりと穏やかに反論していたライアーだったが後半になればなるほど言葉が激しくなり、最終的には目を見開き、興奮状態でシーツを乱暴に掴んで床に投げ捨てた。
「これこれ、そんなに興奮する出ない。何度も言うが我たちはお主に話をしにきただけなのじゃ。こちらの対応も良くなかったが、そこまで感情的になられては困るぞ。お互いにな」
シェロンさんがシーツを拾い上げ、埃を払いながらライアーを宥める。ライアーは肩でふぅふぅと息をしながらぎろりとシェロンさんを見やる。
「あなた方は勝者だからそのような態度でいられるのです。例えどんなに辛い思いをしても仲間とバカみたいなことをして、馬鹿みたいな人生を楽しもうと思えるんです」
言葉を吐き出したことで大分気持ちが落ち着いたのか先ほどよりは比較的落ち着いた様子でライアーは言葉を紡ぐ。だが声ははやり怒りと同様で震えてた。
そしてこちらが返答に困ってしまう思い言葉を投げかけて来たので俺たちは言葉を失う。俺たちが口を噤んでしまっている間にもライアーの怒りと切なさが入り混じった言葉は続く。
「ですが、私は敗者です。娘が突然姿を消して世界の長と言う立場についたかと思いきや、世界の消滅を選択したせいで命を奪われ人々から悪人扱いされて人々の記憶に刻まれた!」
「ライアー……」
ライアーの語調がまた激しくなる。そんな不安定な彼の様子を見て、ここまで返す言葉もなく口を噤んでいたフィニィがこれまで精神的に脆すぎて感情の起伏が激しかった自分と重ね合わせてか、見ていられないと言った様子で彼の名を呼んで目を背ける。
「まあ、酷なことを言うが事情を知らない世界の住人からすると突然長が世界を滅亡させると言い出したのじゃ。悪人判定をされても仕方あるまい。お前の言葉を借りるのであれば、世界の住人当時のお前の娘は長でありながら世界を滅ぼそうとした人類の“裏切者”であろう」
「はあ!?自分たちが命を奪った相手のことを裏切者と呼んでさらに侮辱するのですか。あなた方はどこまで卑劣な人間なのです」
アストライオスさんがストレートな物言いをし、ライアーの負の感情がヒートアップする。あー、多分わざと怒らせるような言い方をしたな。
何のためにわざわざ相手の心の傷を抉りに行ったのかは知らんがここにいる奴は何故、怒っていたり苦しんでいる相手の心を乱すか傷口に塩を塗ることしかしないのだ。
まさか中々話合いに応じないライアーに対し精神的な拷問をかけているのだろうか。だとしたら鬼か、ここにいる連中は鬼畜なのか。
だが、仮にそれが敵から情報を聞き出すために必要な行為だったとしても、こんな風に相手の弱い部分にプレッシャーをかけていくスタイルは道徳的によろしくないと思うんだが、俺は騎士として甘いのだろうか。
「ちょっとおじいちゃん!どうしてそんなひどいこと言うの」
エクラが腕組みをし、ジトリとアストライオスさんを睨んで先ほどの物言いを窘めた。見ればここまでのやりとりを見守っていたシルマたちも“これはやりすぎなのではないか”と微妙な表情を浮かべていた。
ああ、よかった……俺の感情は間違っていなかった様だ。そうだよな、精神的に相手を追い詰めることが場合によっては“必要な行為”かもしれないが“正しい行為”なわけないよな。
「そんなに怒らないでおくれ。それにひどいことではないぞ。本当のことを伝えたまでじゃ」
「本当のことを何でも言えばいいってっものじゃないの!言わない優しさとか気遣いってあるんだよ」
可愛い孫に指摘されても自分の発言は間違っていないと言う態度を崩さないアストライオスさんにエクラはさらに凄んだ。そうだな、エクラ。その通りだと思うぞ、もっと言ってやれ。つでに聖にもその言葉聞かせてやれ。
『じゃあ何、君にとって僕たちの方が悪だって言いたいわけ?』
聖も少し苛立って来たのか、少し乱雑な口調でライアーに問いかける。それを受けてライアーはしっかりと頷いてこちらもイライラした様子で言葉を返す。
「ええ、私にとってあなたたちはただのヒト殺しですから。世界を救ったぐらいで自分たちが正義だと思わないで頂きたものですね」
前長の命を、自分の娘の命を奪った事実を突きつけ、ツンとした態度を貫き通すライアーに向かって聖がゆっくり言葉を突きつけた。
『君が悲しむのは分かる。神子一行のことは一生、それこそ世界が滅んでも憎いだろうし恨み続けるだろうとも思う。でも、君の娘が世界を滅ぼすことを選択した様に、かつての神子も神子としての任を背負い、選択しただけだ。命を背負う選択をね。それを悪だと捕えないでもらえるかな』
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聖「次回予告!僕には僕にしか分からない覚悟があるし、それを否定されるのだけは許せない。だからはっきり言わせてもらう。ライアーは自分の想い囚われ過ぎて周りが見えてないんだよ。これはもう分からせるしかないよね」
クロケル「声を弾ませて圧力をかけます宣言をするなよ。物騒だな」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第164話『正義を求めればこそ争いは起こる』物騒じゃなよ。解り合うためにはお互いの価値観と意見を示すのは必要なことだろう?フィニィちゃんの時もお互いの気持ちをぶつけ合ったわけだしね」
クロケル「お前の場合、対話をする様な姿勢じゃないんだよな。なんかこう……喧嘩腰としかおもえないんだよ」
聖「えー、僕は喧嘩を売っているつもりはないんだけどなぁ。人間さ、想像を絶する苦労を経験してそれを超えちゃうとスレて他人に厳しくなっちゃうのかも」
クロケル「自分でスレたって言っちゃったよこいつ。いやいや、待て。辛い経験をしたらその分他人に優しくできるものなんじゃないのか。色んな歌詞にそんなこと書いてあるじゃんよ」
聖「それはヒトによりけりじゃないかなぁ」
クロケル「そんな身もフタもない……」