第162話 どうして命は奪われたのか
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
いよいよ2022年が終わりますね、そしてこれが年内最後の投稿です。来年はもっと良い内容のものをコンスタンスに投稿できればいいなぁと思います。抱負は言うだけタダですもんねっ!(キリッ)
みなさま、良いお年をお過ごしくださいませ。そして良い新年をお迎えください。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「私はこうして自分の意思をまともに保つ様ことが出来るようになって、本当によかったと思っているの。もちろん、長様のことを思うと腸が煮えくり返りそうになることもあるけど……でも憎しみばかりに支配されていた時よりは、世界が楽しく思えるの。生きてみてもいいかもって思う様になったの」
この感情はあなたにとっての裏切りになってしまうとはわかっているのだけれど……と辛く切なそうに呟いて、ライアーと視線を合わせることが辛くなったのか目を伏せてしまった。
ライアーは相変わらず感情を抑え込んだままま始終無言を貫いていたが、フィニィが“世界が楽しい”と口にいた瞬間、明らかに纏う空気がピリついた。
「世界が楽しい、ですか。愛しい娘を、アナタの母とも言える人物が滅びを望んで、命を奪われた世界を楽しいと思える様になったですって。ふふ、大胆な告白ですねぇ……やはりあなたは裏切りものです」
ライアーの口調は穏やかで丁寧だが、所々語調が強い。抑揚も不自然だし、明らかに苛立っている。そしてやはりしつこくフィニィを裏切り者扱いして圧力をかけて行く。フィニィは裏切者と口にされる度に傷ついた表情を浮かべ、もう見ていられなくなる。
やはり彼にとってフィニィの心変わりは相当許せないものらしい。それは同じ志だったはずの家族が心変わりをし始めていることへの怒りなのか。それともフィニィを感情のない復讐マシーンに仕立て上げたかったのに失敗してしまったことへの苛立ちなのかはわからない。
だがフィニィの心変わりはライアーの思い描いていた未来に大きな影響と打撃を及ぼしていると言うことだけは彼の機嫌を窺えば容易にわかった。
「ねぇ、ライアー。あなたが世界の消滅を望むのは、長様の意思を継ぎたいからなの?それとも、長様がいなくなった世界が単純に憎いの?私もヒトのことは言えないけれど……もし後者ならその、ただの八つ当たりじゃないかなって、思って見た……り」
心を痛め、ライアー機嫌を気にしながらも彼の心を探る様な言葉を投げかける。どう聞いてもライアーの勘に障る内容だが、フィニィはビクビクとして言葉を途切れさせながら懸命に自らの考えを言葉にした。
「八つ当たり、ですか。何です?つい最近まであなたも同じような考えを持って行動していてではないですか。私と手を組む前も神子一行の暗殺を試みていたのでしょう?一番接近しやすいそこの国王陛下にしっかり攻撃を仕掛けたではないですか」
投げかかられた言葉にライアーは淡々と抗議し、フィニィに怪我を負わされた経験があるシャルム国王を半笑いで見やる。
「う、そ、それは……そうだけど」
「自分のことは棚に上げておいて説教ですか」
「う、うううっ」
自身がやってしまったことを思い返し、フィニィはまたゴニョゴニョと言い淀んでしまう。だめだ、会話だけで完全にライアーに押されてしまっている。
元々フィニィはライアーに負い目があるし、やっぱり説得は困難を極めそうだな……普通の会話ですら突き放され続けているし、対話は厳しそうだ。
「ああ、そんなこともあったわね。まあ、あれは敵対していたころの話だから仕方がないわ。それに、自分の回復魔術で間に合うぐらいの軽傷だったから気にする必要はないわよ、フィニィ」
しゅんと肩を落として自虐モードに入っているフィニィにシャルム国王は優しい言葉をで助け船を出す。フィニィの魔術を受けて真っ青になるほど手からかなり出血させられたのに余裕の態度で気にしないでと言える器のデカさには関心しかない。
「アナタ、さっきから随分と苛立っているみたいね。そんなにフィニィに裏切られたことが腹立たしいのかしら。家族だと思っていたことは認めるとして、散々フィニィを酷使したくせにいい身分じゃない」
フィニィの背中を優しく撫でて慰めた後、シャルム国王はフィニィに精神的圧力をかけ続けるライアーを睨みつけて言葉で威嚇する。
ああ、シャルム国王までライアーを挑発するカンジです?もうダメだ、もう話合いができる空気じゃなくなりつつある。世界の存続がかかっているかもしれないライアー説得はのまたお流れになりそうだ。
家族が、ヒト同時が話だけで解り合うってそんなに難しいことなのだろうか。難しいから戦争なんてものが存在してしまうのだろうか、と嫌な気分になった時。シャルム国王の威嚇を受けたライアーがふぅと息を吐いてから再び口を開く。
「そですね、志を同じくしたフィニィに裏切られたことで私の心に大きな怒りが生まれたことは事実です。簡単には許そうとは思いません」
「……ライアー」
容易に許すつもりはないときっぱりと言い切ったライアーの名をフィニィは切なそうに口にしたが彼はそれを無視して続けた。
「ですが、一番気に食わないのはこうしてあなたたちが話合いで解決をしようとしていることです」
今までは苛立ちを伺わせながらも比較的落ち着いた静かな態度を保っていたライアーの語調が唐突に強くなった。声は震え、興奮していることが伝わって来る。
「なんでキレてんだよ、無意味な戦いを避けたいからこうして話し合いの場を作っているんじゃねぇか。戦ってお互いに大怪我するよりもよっぽど安全で平和的な解決方法だ」
苛立ち始めたライアーに負けじとケイオスさんが強い口調と態度で言葉を返す。高圧的に返すのは逆効果なのでは、と不安がよぎったが、驚くことにライアーは唐突にスンと気持ちを静めたのだ。
「な、なんだ。突然静かになったぞ」
先ほどまで纏っていた怒りのオーラが唐突に消え去ったことが逆に不安となり、思ったことが口から出る。
「ご主人様、お気を付けください。このヒト、外見は落ち着いている風ですがバイタルが異常な数値を叩き出しています。心の中は大嵐。いつ感情が爆発するかわかりません」
俺の肩の上でアムールがライアーの精神状態を素早く分析し、とんでもない結果を報告して来た。大嵐!?爆発!?不穏な言葉を並べるなよっ。
アムールの言葉はもちろん他の仲間たちにも届いており、ライアーが予想外の行動をする可能性を警戒して構える。
……がアストライオスさんが平然としている辺り、現状は危険はないのかもしれない。何度も、何度も何度も言うが未来視したならその結果を教えて欲しいものである。
相変わらず助言とホウレンソウをするつもりのないアストライオスさんのせいでいらぬストレスが溜まり思わず歯ぎしりをしていると無表情だったライアーの唇がゆっくりと動く。
「ならば、何故あなたちは前長と……私の娘と話し合ってくれなかったのですか」
ポツリと呟かれた言葉に俺たちは全員息を飲んだ。戦いにおいて場数を踏んでいるだけあり、どんな事態にも比較的動揺をしない聖たち神子一行もこの発言には同時に目を見開き固まった。タブレットのため表情が見えない聖もわずかに息を詰まらせたので動揺しているのがわかる。
それはまるで前長の命を奪ってしまったことに罪悪感を持っているかのような反応の様にも思えた。どうやら神子一行は前長に関して少なからず思うことがありそうだ。
世界を消滅の危機から救い、英雄の地位を築き上げたながらも過去を突きつけられて動揺する姿に数秒気を取られていると、ライアーが声を震わせて言葉を続けたので視線が再び彼の方に集まる。
「どうして、あなた方は娘の命を奪ったのですか」
それは、ライアーが初めて俺たちに見せた弱く脆い一面であり、怒りとも悲しみとも取れる静かで切ない問いかけだった。
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聖「次回予告!ライアーから投げかけられた悲しい問いかけ。僕たちはどう答えたらいいのだろう。ああ、嫌な思い出が蘇るよ……世界を背負うって本当に辛いね」
クロケル「そうだな。現実問題、特定の選ばれた人間が世界を救うなんて簡単なことじゃないし、完璧に任務を遂行できるわけがないよな」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第163話『神子としての選択』そうだよ、僕だって異世界で苦労したんだから。あんまり僕をいじめないでよね」
クロケル「あ?いつ俺がお前をいじめたよ」
聖「僕がツッコミを入れる度にキレるじゃん」
クロケル「それに関してはキレて当然だろ。お前は基本揚げ足を取るかドストレートに現実を突きつけるしかしないんだから。進んで批判を受けに来てるだろ」
聖「僕はドMじゃないんだから。進んで批判を受けに言っているわけないだろ?僕の普段の言動は意図的じゃないの!性格なの!言うなればデフォルト」
クロケル「なら直せ、その性格」