第161話 一度結ばれた絆は簡単には崩れないものだ
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
いや~忙し過ぎて4日も投稿が開いてしまったことを大反省しております。せっかくストックあったのに……投稿を忘れるっていうね!
年末年始は仕事も家庭も大忙しで一番体重がこそげ落ちる日なので嬉しいような悲しいような感覚なのですが、残り数日、何とか走り切りたいと思います。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「……アキラ、アタシの話を聞いてなかったのかしら。発言と行動は慎重にって言ったわよね。あれはエクラに対してはもちろん全員に言ったつもりなのだけれど」
聖の突拍子もない行動に頭を痛めたのはどうやら俺だけではないらしく、シャルム国王が眉間を押さえて盛大にため息をついてから平然と宙に浮くタブレットを睨みつける。
「僕はいつだって慎重に行動してるつもりだよ。でも、こいつ結構強情だし。ある程度の挑発は必要だと思うんだよね」
聖は軽口でそう言った。タブレットの向こうで絶対肩を竦めているなと思うぐらい“やれやれ”と言った感情が伝わって来る口調だった。え、なんでお前がうんざりしてるの。こっちの物分かりが悪いみたいな態度やめろや。
んでやっぱり自覚を持って挑発してたんかい。んでそれを本人の前で言うかね。仮に挑発するのが作戦だったとしたら本人の前でその思惑を暴露したらあかんやろおい。
「あなた方はヒトの神経を逆なでする作戦がお得意の用ですがそう何度も挑発には
アストライオスさんと聖にさんざん煽られて来たライアーはそう簡単には挑発に乗るつもりは怒りを我慢しているのか声と方は若干震えている。これは精神がギリギリ綱渡り状態だな。プッツンされないように気をつけないと。
『大丈夫だよ~プッツンされても向こうはほとんど何もできないもん。まあ、飛びかかるぐらいはあるかもだけど』
「飛びかかられて首を絞められたり、ぶん殴られたりしたらどうするんだ。他の奴らなら躱したり、抵抗できるだろうが俺は!どうなるんだよ!」
『そこは自分で何とかしてもらわないと』
「この野郎、絶対いつか叩き割ってやる」
もしもの時は自分でなんとかしろとしれっと言われて、恐らくライアー以上の怒りを覚えて歯ぎしりをする俺を「あはは」と適当にあしらって睨む俺の傍を通過し、聖はライアーに近づいた。
『君たちは同じ思いを持った“家族”なんだろう?どうして絆を信じないんだ』
さっきまでの俺へのふざけた態度はどこへやら。唐突に真面目なトーンでライアーに呼びかけたので俺はのどまで出かけていた追加の文句を引っ込めた。なんで急にシリアスになるんだよ。ハンドルの切り方おかしいだろ。どんな情緒で言葉を吐いてんだこいつ。
「私は目に見えるものしか信用しない主義ですので。絆や縁の強さと言った精神論など理解できないのです」
ライアーは穏やかに微笑みながら“絆”を否定した。目に見えるものしか信じない、形がないヒトの感情は鼻から端から理解しないし信用するつもりもないということか。
これは……こいつと和解目的で話をするのは難しいな。このハイパー現実主義者で偏屈な奴をどう説得するんだ。
フィニィは罪悪感からライアーの顔色を窺ってばかりで話を進めることが出来ないし、突き放されすぎてオドオド感が増している。
そんな状況に俺だけでなく、他の仲間たちも困惑し時にため息をつく者もちらほら現れたが、聖だけは淡々と冷静な態度を貫いて言葉を続けた。
『そうかな。例外もあるかもしれないけど、目には見えないからこそ大事なことだってあるよ。だって君は娘を大事に思う気持ちがあったわけでしょ。それを僕たちに形で証明しろって言われてできる?できないでしょう?』
「……」
冷静に淡々と聖に切り返されたライアーは眉をピクッと動かしてグッと口を結んだ。これは明らかに動揺しているな。痛いところを突かれた、と言ったところか。
流石は聖揚げ足を取ることとそれをストレートにぶつける遠慮のなさと図太さに関しては抜きんでているな。
「わかりました。フィニィのことを信じる信じないは別として、話だけは聞いて差し上げますよ。私の器が小さいと思われたままであることも癪に障りますしね」
いつもであればイラッとしてしまう聖夜のAKY行動に俺はこの時初めて感謝と感心をしたのだった。
『ほら、フィニィちゃん。まだ話を聞く気があるって。遠慮なく話しちゃいなよ』
渋々と苛立たし気に会話の続行を了承したライアーの反応を見て、聖は嬉しそうにフィニィの後ろに回ってこの状況に戸惑う彼女の背中をグイグイと押して会話を続ける様に促した。すげぇなあいつ、めっちゃぐいぐい行くじゃん。
「ち、ちょっと押さないでよっ。あなたに言われなくたって話の続きぐらいできるんだから」
フィニィはまとわりつく聖を手でバタバタと払いのけ、体制と心を整えるために軽い咳払いを1つして改めてライアーと向き直った。そして少し不安を抱えたままの表情でおずおずとライアーに言う。
「ごめんね、ライアー。私、あなたが私を裏切り者だって思う気持ち、少しだけ理解できるんだ。私の雰囲気が変わったから、そう思うんでしょ」
「……ええ、その通りです。今までは安定剤や魔術治療をしないと不安定だった情緒が今は嘘の様に治まっている。皆さんの反応を見る限り、過剰な精神攻撃にはまだ弱いようですが」
刺々しい態度のままのライアーだが今度はフィニィを突き放すような言葉は吐かず、まともな言葉で返した辺り、本当に話を聞くつもりではある様だ。そしてライアーの言葉はまだ続く。
「私があなたを裏切者だと判断した一番の要因は神子一行を前にしても感情を取り乱すことがないことです。それはあなたが神子一行に心を許し始めている証拠。裏切りと呼ばずしてなんと言いましょう」
「そ、そう……そうよね。それは確かにそう思われても仕方がないよね」
フィニィは冷たい態度のライアーにビクビクしながらもポツポツごにょごにょと言いながら胸の前で手遊びをすると言う明らかな動揺を見せる。俺たちはその様子をハラハラしながら見守り、ライアーは感情のない瞳で黙ってその様子を見つめていた。
ひとしきりモジモジとした後、フィニィは決意した様に顔を上げて勢い任せに再びライアーに言葉を投げかける。
「私の考えが変わったのはあなたが私から切り離したもう1人の私と出会ったからなの。あ、あなたが私から理性を切り離したことについては恨んでないんだけど、でも自分の理性と客観的に向き合って、それが私の中の戻って心に馴染んだ時、気持ちが落ち着いたと言うか、考えが変わったの」
ライアーの気分を損ねない様に言葉を選び見ながら、それでいて嘘はつきたくないのかフィニィは素直に正直に自らの思いの丈を語る。しかしライアーからの反応はない。
「あなたの勘は当たっているかもしれない。私はもう1人の私と向き合って、お兄様の存在を認めた時、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、世界を壊すことに迷いが生まれたの。世界を消滅させたい、神子一行が憎いっ言う気持ちはあるけれど、前ほど黒い感情に支配されてはいないのは自覚してる」
それは俺たちも初めて聞くフィニィの感情だった。思えばミハイルが言った様に捕虜部屋に捕らえていた時の彼女は今のライアーと同じ様に俺たちを拒絶していたし、兄としてフィニィの将来を思って復讐をやめて欲しいと望むアンフィニを突き放し続けた。
しかもつい最近、数時間ほど前までの出来事だ。理性が本体と統合された随分と変わるものだ。フィニィは話せばわかるタイプだったのかもしれない。
人工魔術師の実験のせいで精神が不安定だったことと、ライアーが彼女の実力を見込んで理性を抽出したのが災いして余計に色々と拗れたのかもしれないな。
家族を突き放し続けたフィニィが今度は家族を説得しようとして拒絶されるなんて悲しいことだよな。俺は生前、家族仲は悪くない方だったから家族同士でギスギスしてしまうこの状況は経験がないし、理解もできない。
そのため不用意なフォローを入れることができない。幸せに家族と過ごして来た人間が家族との対話に悩む人間に下手に口出しするのはたとえ慰めであっても失礼過ぎると思うのだ。個人的に。
聖の遠慮がない図太いフォローのおかげで会話は続く様になったが、話が平行線な状況を俺は無言で見守ることしかできないことにもどかしさを覚えた。
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聖「次回予告!ちょっと、色々と心外なんですけど。誰が遠慮がないって!?誰が図太いって!?君たちが話を進める能力がないから僕が代りに話してあげてるんでしょ。長と言う中立の立場でギリギリの協力をしてあげているのに心外だよ」
クロケル「うるさい。文句を言われるのはお前の日頃の行いのせいだと言うことを自覚しろ。後、全く次回予告になってねぇから。ちょっとぐらい予告らしい内容を喋れ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第162話『どうして命は奪われたのか』ついに、ライアーが僕たちに感情をぶつける」
クロケル「待って、次回のタイトルがとんでもなく重いんですけど。それに何故に急にシリアスな口調になったんだビビるわ。数秒前とのテンションの温度差がえぐい、風邪ひく」
聖「君が次回予告らしいことしろって言ったんでしょ」
クロケル「いや、ふり幅!またシリアス展開なのかよ」
聖「ギャグだけじゃ続かない話もあるんだよ」