第160話 家族の話を聞かない人間は大概器が小さい
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
本日はクリスマスですね!個人的にはケーキとかチキンを焼きまくる日と言う認識なので全く心躍りません。苦労して作ってもなくなるのは一瞬ですのでぇ……。
イベントごとの日って忙しいからホント嫌い。まあ、料理してる時は楽しいんですけど。
みなさまは良いクリスマスをお過ごしくださいね、ハッピーメリークリスマス!
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「……大切?どう見てもそちら側の人間になって私を裏切ったあなたにそんなことを言われても信用できませんね。残念ながら気持ちと言うものは可視化できないですし」
フィニィが懸命に伝えた言葉をライアーは無情にも一蹴した。しかし、冷たい言葉を突き続けつつも少しだけ間があった様にも思える。もしかしたら、言葉とは本人の言葉とは裏腹に少なからず響くものがあったのかもしれない、と思いたい。
「うん……そうだね、気持ちは見えないから私があなたを裏切ってないって証明は難しい。それに、今はこのヒトたちを攻撃する気が起きないって言うのも事実だし……信じて欲しい、としか言えない」
思った通りの反応が返って来たのか、フィニィは悲し気に肩を落としてポツリポツリと言った。ライアーと話すことを諦めてはいないようだが、これまで突き放され続けていることもあってどんどん気力を失い、言葉が尻すぼみになって行く。
最終的には紡ぐ言葉が見当たらず、ただ切なげで悲しそうな声でライアーの名前を呼んだが、奴は返事どことろか言い訳は聞きたくないと言わんばかりに視線をフィニィから外してしまった。
その行動を見たフィニィはますます泣きそうになり、そのまま目を伏せて込み上げる悲しみに耐える様に自らの体を搔き抱いてそのまま黙り込んでしまった。
「ちょっとあんた!フィニィちゃんがこんなに一生懸命に気持ちを伝えてくれているのに突き放してばっかりでヒドクない!?あんたち家族なんでしょう?もっと優しさを持つことはできないわけ?」
完全に動きが止まってしまったフィニィ変わってこれまでのやりとりを見て大変ご立腹になったエクラが椅子から立ち上がり、眉間に皺を寄せて腕組みをしながらツカツカと歩き、目を三角にしてライアーに詰め寄った。
「裏切者に優しさを持てとおっしゃる?あなたは随分とお人好しですね。それに信じていた家族に裏切られて傷ついているのは私の方なのですが」
「むっか~!!だから、フィニィちゃんはあんたを裏切ってなんかないっての!!今までの話聞いた?」
今も尚、フィニィを裏切者呼ばわりするライアーに対し地団太を踏んでエクラは何も言えないフィニィに変わって猛抗議をした。
もう大興奮である。確かに懸命に自分の想いを伝えるフィニィに対するライアーの態度は俺だってひどいと思うし、許せないとも思う。エクラが怒りを覚えるのもわからなくはないが……ちょっと興奮し過ぎだろう。
「ブレイクブレイク!落ち着けエクラ。こう言う場で無暗に精神を乱すのは良くないぞ、アストライオスさんも言っていただろ、選択肢次第で未来が大きく変わることがあるって。世界の命運が懸かっているんだ。なるべく冷静に行こう」
俺は立ち上がってライアーの顔面を覗き込むようにして睨みつけているエクラの肩を掴んで距離を取らせる。
「放してよ、クロケルさん。こいつにもっと文句を言ってやらないと気が済まないのっ」
まだ言ってやりたいことがあるのだと体をねじる様にして俺から逃れようとするエクラを必死で抑え込んでいるとシャルム国王の凛とした声が響く。
「クロケルの言う通りよ。少し落ち着きなさい、エクラ。こう言うことは冷静さを欠いた方が負けよ。アナタがフィニィのことを思って腹が立つのは分かるし、気持ちは素晴らしいわ。けれど、あまり感情的になるのは良くないわ」
「あ、う……そう、ですよね、ごめんなさぁい……でもこいつがフィニィちゃんにあんまりひどい扱いをするから」
足を組み、優雅に座った状態で冷静に厳しくシャルムに窘められ、エクラは三角にしていた目をいつもの穏やかな雰囲気に戻し、ようやく落ち着きを取りもした。
俺とシャルム国王に同じ注意を重ねて受けたことにより、自身の行動を客観視して反省したのか、いつものパリピハイテンションはどこへやら。まるで飼い主に怒られたペットの様にしゅん、と肩を落として項垂れていた。耳と尻尾の幻覚も見える。
「しかし……あいつに関してはつい自分も兄に同じ様な態度を取っていたんだから他人のことをとやかく言う資格はないと思うがな」
ミハイルが小声で場の空気をぶち破る発言をした。とんでもねぇことをとんでもねぇタイミングで言う名こいつは!だが小声なだけまだマシである。フィニィには聞こえていない様でホッとした。
「今それを言うのは超絶空気が読めていないし、ヒトデナシ発言だぞ」
俺はミハイルの首根っこを秒速で掴み上げて小声で注意した。この状況で何を言うとんだこいつは。ただでさえ空気が重いんだぞ、余計な発言で掻き乱すな!と言う思いを込めて。
だが、ミハイルは悪びれる様子はない。残念ながら俺の気持ちは伝わらなかったようだ。悲しい。寧ろ不遜なない度のまま返答がある。
「生憎俺はヒトじゃないからな」
そうでした、魔族でフクロウ(仮の姿)でした~ってそう意味で言ったんじゃねぇよ。ちょっとは己の発言を悔いてくれ、頼むから。
「おい、シャルム。あまりワシの可愛い孫を責める出ない。エクラは心優しい自慢の孫じゃ。仲間の心を傷付けられて感情的になってしまうのはとうぜんじゃろう」
空気を読まないミハイルに頭を痛めていると今度はアストライオスさんがいらぬ茶々を入れて来る。
「ええ、仲間想いなのはいいことって言ったわよね。でも、状況を考えろって話よ。この状況でライアーの機嫌を損ねる様なマネをしてみなさいな。聞ける話も聞けなくなるわよ」
シャルム国王が発言を撤回する気はないとツンした態度で返し、こっちはこっちで場の空気が悪くなる。
だが、これに関しては俺はシャルム国王の意見に激しく同意である。ただでさえガッチリ心を閉ざしているライアーに嫌悪感を重ねて心の鍵を増やされたくはないからな。慎重な対応がしたい。
「ほほう、エクラの行動が間違っていると?」
「間違っているとか言ってないでしょ。今はそう言う行動をするべきじゃないって言っているのよ」
お互いの口調は穏やかだが、俺には見える。アストライオスさんとシャルム国王の間で散る真っ黒な火花が。
おい、なんかこっちはこっちで無益な言い争いが始まったぞ。もうダメだ、これはまた話が脱線コース……コミカル空気じゃないのに話が逸れたらもう終わりだよ。と言うかある意味俺たちは話を逸らす天才だろ。もうずっと話それてるじゃん。
「はあ……なにやら話がゴタゴタとして参りましたが、私がフィニィに失望したと言う事実は変わりません。なので、彼女を使って私から情報を聞き出そうとしても無駄ですよ」
進まぬ話に頭を抱えていると、敵であるライアーが話を戻した。やばい、ちょっと感謝しちゃったよ。すっごい腹立つこと言われたのに。
『家族の話を聞けない人間は大概器が小さいんだから』
どんなに気持ちを伝えられようと。あくまでもフィニィを裏切者と決めつけて彼女の気持ちも言葉も聞き届けようとしないライアーに俺を含めこの場にいる誰もが苛立ち始めた時、聖が涼やかにすっぱりと言い放った。
その穏やかで厳しく、良く通る声導かれる様にライアーを含めた全員が注目した。聖は集まった視線に物怖じすることなく、堂々と言葉を続ける。
『前長の、娘意志を継ぐとか言葉だけは恰好いい事言ってるけどさ、君の行動原理の半分以上は自分の気持ちを紛らわすためでしょ』
聖が厳しい言葉を毅然として言い切った。うわ、めっちゃ挑発してるじゃん。おいおい……シャルム国王の話聞いてたのか?
心を閉ざしているライアーから話を聞き出すためには挑発したり、気を悪くさせる様な行動や言動は避けた方が良いってさっきエクラが注意されていたことを忘れたのかこいつは。もしくは分かった上で無視して行動してるな、こいつ。
「……なんだと」
聖の言葉を受けたライアーの肩と眉がピクリと動く。口調もいつもの穏やかで丁寧なものではなく、ドスが効いていて荒い言葉になっている。それに加えて明らかに禍々しいオーラを放ち始めているのがヒシヒシと伝わる。
うわわわ、怒ってる!めっちゃ怒っていらつしゃる。ライアーが怒りの導線が短いのを目の当たりにしているくせにどうしてああ言うことを言うかな!?
突如厳しい言葉を投げかけた聖のせいでライアーがイラつき、それによって空気がピリついた。空気が!重い!すごくヒリヒリするし寒気もするよ、空気で怖さを感じるって凄いね!
じゃない!どーすんだよぉぉぉぉこの状況!!心の中で内なる俺が頭を抱える。自発的に空気を悪くしてくれやがった親友兼世界の長様を恨めしく睨みつけたのだった。
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聖「次回予告!クロケルったらこわーい!睨まないでよぉ~僕何にも悪いことしてないじゃんか。ちょっと挑発しただけだよ。個の挑発がいい結果に繋がるかもしれないんだから、イライラしないで欲しいなぁ。怒るのは結果が出てからにしてよ」
クロケル「もしそれが良くない結果の場合はどうするつもりなんだ。そんでわざとらしい且つその開き直った態度をやめろ。余計神経に障る」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第161話『一度結ばれた絆は簡単には崩れないものだ』も~起こりん坊だなぁ。君だってライアー並に気が短いんじゃないの。もっと大らかにならないと」
クロケル「どの口が言うか。余計なお世話だし、それを言うなら人様の神経をサ逆なでしない様に気を遣うのも人間としての器が試されるんじゃないか」
聖「ん~、僕はほら、厳密に言うともう人間じゃなくて“神様”みたいなものだから。器とかじゃない医だよねぇ。器よりは多くを見通す広い視野と心の方が重要なの」
クロケル「お前、自分には広い視野と心があると思ってるのか?」
聖「もちろんだよ~。実際こうして長としての使命はこなせているわけだしね。神子として世界を旅して救った実績もあるし」
クロケル「ドヤるな!鬱陶しい」
聖「ひどーい!!つめたーい!!」