第15話 薔薇と子犬の夫婦
この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。
今回はいつもより短めです。私生活がまた忙しくなってまいりましたよ。毎日投稿できるかなぁ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
夫婦、夫婦!?国王と騎士が!?
「え、だって、えええええ?」
パニックになってまともな言葉が出て来ない。シルマも明らかに困惑してこの状況を理解しようと必死で思考回路を回している様に見えた。ひどく狼狽える俺たちを見たシャルム国王が不服そうに眉間に皺を寄せる。
「なあに?性別が男で女性らしい人間は恋愛対象も男でないといけないわけ?」
「いや、そんなことないですけど」
恋愛の価値観は人によって違うし、否定する気もない。ないのだが、色々とツッコミたいことが多すぎる。
国王と騎士が結ばれることなんてありえるのか。なにがどうなってそうなった!?
「アタシは美しくありたいだけ、男性が持つ力強さも素敵だけれど、アタシには美しくしなやかな生き方が性分に合っているの。見た目や仕草は女性を手本にしているけれど、男としての在り方を捨てたわけではないわ。だから、こんなのでも恋愛対象はしっかり女性よ」
俺が恋愛観に偏見を持っていると勘違いしたのか、シャルム国王は毅然とした態度でキッパリとそう言った。
「私は旦那様が男性でも女性でも大好きですよ」
「あら、嬉しいわありがとう。アタシもよ」
「えへへっ」
会話に割って入って来たクラージュが突然シャルム国王に愛を語り、シャルム国王も甘い声でそれに応え、愛を返されたクラージュは頬を染めて嬉しそうに笑った。
「じゃあまさか、クラージュが預かったペンダントに国王様の写真が入っていたのは」
動揺で震える俺にクラージュはあっさり答えた。
「お守りとしてお預かりしたんです。離れていても国王様と心は同じ。みたいなっ」
クラージュは真っ赤になりながら両手を頬に当て体をくねらせる。うわー、すっげぇデレデレするじゃん。恋心大爆発じゃん。
「で、でもお前、年いくつだよ。この国の結婚年齢はどうなっているんだっ」
そう言えば見た目で15~16歳と勝手に思い込んでいたが、本人には確認していなかった。この国が15歳で結婚できる可能性もあるが、まさか、もしかして……。
「この国の結婚年齢は18歳ね」
シャルム国王が簡潔に返答して、その後にクラージュがけろりとした表情で続けた。
「私、童顔でちびっこですが、これでも19ですよ。国王様の正式な妻になったのは18の時ですが」
クラージュは年齢を間違われることになれているのか、にこにことして真実を話した。
「えええぇ……」
もう驚きすぎて声も出ない。戸惑うことが多くて精神的にしんどい。
「アタシの性別を間違えたことと言い、見た目で相手を判断するのは良くないわよ。まあ、アタシはクラージュの年齢なんて気にしないけど」
「はい!私も例え結婚できない年齢でも、旦那様のお傍にいたいです」
痛い!ハートが飛んでくる。いや、実際には飛んできてないが、そんな錯覚が見える。キラキラしたピンクのハートが飛び交っている。
突然のろけられた俺たちは思わず固まってしまう。俺は砂を吐きそうだったが、シルマはこう言うものが苦手なのか、顔を真っ赤にして視線を下に向けていた。
『うっそ。こんな奴だったっけ』
聖が信じられないと言いたげに呟き、俺はやっぱりこいつはシャルム国王と知り合いだなと確信した。
色々な思いを抱える俺たちに向き直り、シャルム国王はつっけんどんに言う。
「ってわけで。アタシたちの間に一般の恋愛論は無意味なの」
いや、俺が気にしているところはそこじゃないんですって。あなたが誰を好きでも構いません。恋愛は自由ですとも。偏見とかじゃなくて単純に疑問に思っているだけなんですよ。
でも人様の家庭(?)の事情を他人がどこまで聞いて良いかなんてわからない。でも、このまま戸惑い続けて国王に変に誤解されるのは嫌だ。
とりあえず、偏見なんか持っていないと言う事実は伝えておこう。あと、可能な範囲で色々聞いてみよう。それでもし、気分を害されるようであれば全力で謝ろう。うん、それしかない。
「いえ、国王様の価値観を否定している訳ではありません。ただ、俺は身分の違うお2人がどうやって出会って結ばれることになったのか気になっただけで……」
「あら、アタシたちの馴れ初めを聞きたいの」
シャルム国王は少しだけ嬉しそうな表情をしていた。どうやら馴れ初めを話すことはまんざらでもない様だ。そして隣に控えるクラージュに聞く。
「クラージュ、この後の予定は?」
クラージュはさっと端末を取り出すとそれを手早く操作し、浅い礼をして告げる。
「まずは3時間後にヘリオス王国へと赴き、国王様とのご会談です。その後に新しく建設された施設ビルの式典挨拶に、食事会……」
つらつらと並べられてゆく国王のスケジュール。会議や視察の他にセレモニーへの参加と盛りだくさんだ。やっぱり国のトップは忙しいんだな。これは時間を取ってもらうのは無理か。
そう思って諦め様とした時、シャルム国王がクラージュが全ての予定を言い終わる前に言葉を遮ってすっぱりと言った。
「もういいわ。全部断って。この子たちを優先するわ。先方には大切な友人が見えたとでも言っておいて」
「かしこまりました。では、キャンセルの手続きをしてまいります」
クラージュは動揺1つ見せず、当然の事の様に了解して頭を下げ、手続きをしに行くのか国王の傍から一旦離れた。
その際、俺たちの隣を通ったので目が合ったのだが、にこりと笑みを返した後真っすぐ前を向いて謁見の間から姿を消した。
「え、ええっ。良いんですか!?予定がたくさんあった様ですが」
割と大事そうな用事を目の前で堂々とドタキャンする光景を目の当たりにし、狼狽していると、シャルム国王は平然として言った。
「別に構わないわ。他国との会談なんていつでもできるし、内容もさして重要なものでもないしね。適当に話をして食事をするだけ。時間の無駄。食事会も同じよ」
「差し出がましいようですが、予定をドタキャンするのは良くないのでは……先方も国王様用の準備をされているでしょうし、下手をすれば国王様の評価が下がってしまうのではないでしょうか。時間を作って頂くのは大変光栄ですが、私たちは急ぐ旅ではありません。国王様のご都合がよろしい時に日を改めます」
心配そうにシルマが言えば、シャルム国王は虫を掃う様に左手をヒラヒラとさせて鬱陶しそうに言った。
「あー、そう言うのいいから。アタシがいなくても何とかなるものばかりよ。特にセレモニーなんてアタシを広告塔にしたいだけでしょ。一応、資金援助はしているもの。わざわざ客寄せパンダになりに式典に出る必要なんてないし」
ツンとするシャルム国王を見て俺は思う。確かに国のトップとして外交や国民たちとの交流は大切なこと。だが、それを毎日の様に続けるのは確かに辛いものがあるのかもしれない。
「それに、アタシは割と真面目公務をこなしているしね。たまのドタキャンぐらい多めに見てくれるわよ。多分。久々に合法で休めて嬉しいわ」
多分って言いましたよ。この方。本当に良いのかな。あと、明らかに俺たちの訪問を休むための口実にしておられる。
『ははは。相変わらずだなぁ』
俺の隣で大人しく浮く聖が乾いた笑いをしたのがわかった。離れた高い位置に座っている国王には聞こえないであろうとても小さい声だったが、俺の耳にはしっかり届いた。
いい加減、聖が自分の素性を隠す理由を教えて欲しい。俺が節に思っているとシャルム国王が緩やかに立ち上がる。
「さ、アナタたちはアタシの最愛であるクラージュを助けてくれた大切な客人。ワタシの権限で特別室に案内してあげるわ。ついて来て」
コツコツとヒールを鳴らし、シャルム国王が玉座に繋がる階段を下りて俺たちの元へ近づいて来る。
「と、特別室って」
話をどんどん進めるシャルム国王に
「アタシとあの子の結婚事情は少し複雑でね。立ち話するには長すぎるの。お互いきちんと座って話しましょう」
それだけ言ってシャルム国王は振り返り、静々と歩いてゆく。何が何だかわからない俺たちは顔を見合わせて首を傾げた後、小走りでシャルム国王の後を追った。
国王に促されるまま、謁見の間から特別室へと通され俺とシルマはふかふかのソファーの上で小刻みに震えていた。
震えているのには理由がある。だって、このソファーものすごぉく高そうなんだもの!!座り心地は抜群でシルク生地なのかつるりとした肌触りだ。白地に青バラの模様に気品を感じる。手すりなんて金だぞ、金。メッキじゃない。純金。
シュバルツはソファーの感覚が気に入ったのか、ぽよぽよと小さく弾んで遊んでいたが、俺は気が気ではなかった。頼むから壊さないでくれよ。そう思い無言でシュバルツの肩を押さえればキョトンと言う表情を返された。
「シュバルツくん、これは遊ぶものではないんですよ。大人しくしましょう」
「はぁい……ごめんなさい」
シルマがやんわりと注意し、シュバルツは素直に返事と謝罪をした。
シルマもかなり緊張している様だ。それもそのはず、豪華なのはソファーだけではない。部屋の造りもドン引くほどに豪華だった。貝殻や植物がモチーフで、S字やC字のデザインのものが多い。色合い白や青のものが中心だ。
こう言うのはあれだ。ロココ調とか言うんだったか。とにかくすごくベルサイユな匂いを感じる。これでもかと言うほど豪華なここはまさに特別室と言うにふさわしい場所だった。
豪華すぎる部屋の圧に潰されそうになっている俺たちを他所にシャルム国王はいつの間にか戻って来ていたクラージュに身に纏っていたローブを渡しながら言う。
「クラージュ、お茶の用意をお願い。アナタたち。何か飲みたいものはある?」
「あ、いえ!お気遣いなくっ」
「はい!私たちは何もいりませんっ」
国王にリクエストなんてできるか!と内心ツッコミを入れなら必死で返事をすればシルマも同じようにド緊張丸出しで言った。
「そう、なら私と同じでいいわね。クラージュ、いつものよろしくね」
「はい」
クラージュは短く返事をして預かったローブを片手に部屋にのなかにある台所らしき場所へと消えて行った。
ってかなんで部屋の中に台所があるんだよ。いや、その前に特別室ってなんだよ!もうツッコミが止まらない。でも口に出せない。だって不敬だもの。
緊張と言いたいことが言えないもどかしさに震える俺にかまうことなく、シャルム国王は静かに言った。
「それじゃ、お茶の準備を待ちながら始めましょうか。私たち夫婦の昔話を」
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聖「次回予告、なんやかんやで他人の馴れ初めを聞くハメになったクロケルたち。はぁ、僕としては早く御礼を貰って退散したいところだよ」
クロケル「そう言えば今回もお前大人しめだったよな。なあ、国王となにがあったんだよ。隠してんじゃねぇよ」
聖「いや、隠してると言うか、本人がいる場所ではちょっと……」
クロケル「やっぱりお前だって気づかれたらヤバいのか」
聖「うーん。ヤバい、というか個人的に僕が苦手なだけ。次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第16話 『薔薇のトゲが落ちた時』でも、人間って丸くなるんだねぇ」
クロケル「ますます気になるんですけど」