第154話 家族を裏切ることはできない
本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
前にもチラッと書いた様な気がしますが、このお話ってタイトルとか設定とかうまく活かせてないですよね……読み返して自己嫌悪しました(泣)
でも、楽しんでいる方がいる限り、設定等の軌道修正を頑張りつつ物語を形にできればと思いますので、もう少しお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「ふ、ふふふ……か、勝った……」
フィニィの歓迎会ラウンド2が始まり、そして終わった。俺はグロッキーになって大量の料理皿がすっかり綺麗に片づけられたテーブルにおでこをつっぷして半分ぐらい魂を天に召されかけていた。
そう、俺はあの大量の料理をなんとか胃に収めたのだ。もちろん自分の皿に乗せたものだけだが。え、だったらどうしてそんなに苦しそうなのかって?
自分の胃袋と相談して食べられる量を確保していたのだが、気前が良くみんなに料理の見た目と味を褒められてテンションが爆上がり状態のエクラが「遠慮しなくてもいいでよっ★」と余計な気を回し、どんどん更に盛ってくれやがったせいでこの始末である。
なお、あの地獄の様なクリームモリモリケーキはケイオスさんとシュバルツがほぼ片付けた。追加で出て来た試作のクリームもこの2人が平らげた。猛スピードで平然とクリームを食べ進める姿にめっちゃドン引きした。
一応、せっかくなので苦しいなりに俺もケーキを頂いたが、美味しいと思ったのは最初の一口。甘くて少し硬めだがくちどけは良く、口の中でふわっとほどけて広がる甘さに幸福を感じたのは本当に一瞬で、後は中々スポンジに辿り着かない絶望感と押し寄せるクリームの甘さがただ辛かった。
「や、やっぱり新手の拷問だわ……だってお昼のアレから全然状況が変わっていないもの。量を減らしてって言っているのにまだ量を増やしてくるんだもん。これは絶対に拷問よ」
俺の目の前に座るフィニィも俺と同じ様に苦悶の表情でお腹を押さえて苦しそうに震えている。お前も良く頑張って食べるなぁ。
ちょっと前までお粥すら施しは受けないとか言って抵抗していたのに、随分と心境が変化したもんだ。これが光堕ちの力か。本人に取ってはちょっとこの状況はちょっと気の毒だとは思うが。
「拷問じゃない拷問じゃない!フィニィちゃんに満足してもらいたくてたくさんご馳走を用意したのに。あんまり食べないんだもん。クロケルさんもそうだけど意外と小食なんだね」
エクラは恨めしそうにしているフィニィにしっかり拷問ではないと否定して、苦しそうにする俺とフィニィを見て不思議そうに小首を傾げた。
「小食じゃないわ。普通な方よ、どうしてあなたが提供する量の方が異常だと思わないの」
俺とフィニィがノックアウト状態の理由が本気で分かっていないエクラにフィニィが恨みつらみをたっぷり込めて猛抗議をする。俺もその言葉には激しく同意なので力いっぱい頷いた。
「ええぇ~。でも2人以外は何ともなさそうだし、あたしもあれぐらいの量は普通だしぃ」
確かに、周りを見ればこの場でグロッキーなのはたった2人だけ。他の面々は皿を綺麗に開けた状態で平然と各々が食後の飲み物を頂いている。何でまだ入るんだよ、俺なんてもう腹がパンパンで一滴の水分すら取り込むのが辛いよ。
いやいや、待て。この場の人間の大半があの量をこなせたからと言って俺たちが異端だと言う理論はおかしい。先ほど提供された食事の量並におかしい。
何だったら俺はシルマが意外に食べることに驚きを隠せない。見た感じだと多分甘いもの限定で大食い傾向にある気がする。それはそれでちょっと怖い。
「やっぱり2人が小食なんだよ~。パーティなんだし、あれぐらいの量は普通だって」
「「普通じゃないから!!」」
俺たちの方がおかしいと言いたげなをエクラの言葉と態度を否定した俺とフィニィの声が重なる。そうだよ、普通ってか一般的な胃袋は俺たちの方だからね!?
「わ、すご。息ピッタリ」
ステレオ調で攻められたエクラが目を丸くして驚いていたが、普通じゃないと注意したことに関しては完全スルーである、むぅ……解せぬ。
『打合せもしてないのに声が揃えるとか仲良しさんだねぇ』
聖がヘラヘラして呑気なことを言い、それを聞き逃さなかったアンフィニがフィニィの膝を乗り越えてテーブルを猛スピードで駆け抜けて俺の胸ぐらを掴む。ふかふかのぬいぐるみの手なのに割と力が強いせいで俺の首をギリッと絞めてめっちゃ苦しい。
「お前、やっぱりフィニィのことがっ」
「うげ、苦しいっ。お前の妹に対して下心は何もないって言ったばっかりだろ!ちょっと声が揃っただけじゃねぇかっ。おい、聖!てめぇが余計なことを言ったせいだぞっ」
『なんでさ、僕は客観的な感想を言っただけだよ。変な捉え方をしたのはアンフィニ自信だしぃ~僕は悪くないよ』
くっ、こいつ……しゃあしゃあとっ。と言うかフィニィが仲間(暫定)になったと思うや否や唐突にシスコンフルスロットルキャラになりやがって。こんなんじゃこれから先めっちゃ発言に気をつけなきゃならねぇじゃんよっ。
「賑やかなものねぇ。でもまあ、フィニィもこの空気にすっかりほだされているみたいだし、傾向としては良いのかもしれないわねぇ」
シャルム国王が口元を拭いて優しい眼差しをフィニィに向けた。その言葉を聞いたフィニィはすっかりこちらのぺーズに巻き込まれていることを自覚し、ハッとした表情をした後に気を取り直そうとしたのか勢いよく首を左右に振った。
「ほだされてなんかないわ!私はまだあなたたちに気を許したわけじゃないんだから」
「まだってことは将来的には可能性はあるってことよね。それは光栄だわ」
「む、むぅぅぅっ」
揚げ足を取られたフィニィが悔しそうに唸る。もう完全にシャルム国王のペースである。眉間に皺を寄せて悶絶するフィニィを眺めて気分よく笑っていたシャルム国王だが、唐突に真顔になって真面目な口調で言った。
「さ、美味しい料理で心も体も満たされたし、空気も和んだところでここからは真面目な話よ。それで、フィニイ。あなたはお兄様との未来を考慮することにした様だけれど……ネトワイエ教団の実態を提供する気にはなったのかしら」
「ああ、それは確かに最重要事項だな。できればお兄様の件と共にその辺りの事情も心変わりしてくれていると助かるなー」
シャルム国王とケイオスさんの言葉を聞いたフィニィの動きがピタリと止まる。そして迷う様に唇を何度か噛みしめて、そしてゆっくりと口を開いた。
「私はネトワイエ教団に恩がある。だから、仮に今後あなた達と手を組むことになったとしても、必要以上に教団を売ることはないわ」
今までギャグ路線で悔しそうな表情をしていたフィニィも突如として真面目モードになって淡々と、そしてはっきりと言い切った。
「教団の情報提供が大好きなお兄様のためになったとしても、その思いは変わらないかしら」
シャルム国王はもの凄く卑怯な聞き方をしたが、フィニィが躊躇いを見せたのは、ほんの一瞬で直ぐに返答がある。
「ええ、変わらないわ。……お兄様には悪いけれど、こればかりは譲れない」
和解したばかりの大好きな兄を引き合いに出されようと、フィニィの考えは変わらないらしく、やはり迷いのない真っすぐな目で言い切る。
アンフィニはその態度と発言に少し複雑で傷ついた表情を見せていたが、妹の気持ちは汲みたいと思ったのか必死で平静を装っていた。
「恩って言ってもお前が教団に身を置いていた時間は短いだろう。恩を感じるほどの情なんて湧くものか?」
眉間に皺を寄せたミハイルがめずらしく会話に割って入って来る。やっぱりライアー関連だと関心があるんだな。
ミハイルの言葉を静かに受け止めたフィニィは瞳を揺らし、ぎこちなく視線を泳がせて下を向いて、それから顔を上げて何か言葉を紡ごうとしてやっぱりやめたのか口を堅く結んだ。
『僕が思うに、フィニィちゃんはライアーと大切なヒトが同じだから共感と言うか、家族意識に近いものを持っているんじゃないかな』
聖の言葉にすっかり身を固くしていたフィニィがビクッと体を震わせて動揺し、その場の視線を集めた。彼女が直ぐに言葉を発することはなかったが、明らかに図星であることが分かる。
聖って妙に鋭いところがあるよな。心を読む能力を持っているがこれに関してはテレパスせずに状況から判断して言い当てたみたいだし。
ってかそれだけの観察眼があるならテレパス能力なんていらんだろ。今のところ俺の心を読んで辛辣なツッコミをいれるか面白がっているだけだし。あー、自分で言って腹立っていた。ブレイク、落ち着け俺。今は親友にイラつきを覚えている場合じゃないぞ。
「……そうなのか、フィニィ」
中々口を開こうとしないフィニィにアンフィニが遠慮がちに問いかけ、そしてやや間が合ってフィニィの口がゆっくりと動く。
「うん。そのタブレットの言う通りよ、お兄様。ライアーは長様のお父様。私たち以上に長様を愛し、その死を悲しんで心を壊してしまったヒト。共感できるとことも多いし、ライアーも私が長様と養子同然の関係だと知った時、孫の様に目をかけてくれた」
抑え込んだ感情と言葉を一気に吐き出す様にフィニィはすべらかに思いの丈を語り、その場の誰もがそれを真剣に黙って聞く。
言葉を出し切ったフィニィは最後にすっと息を吸ってそれから一度間を置いてから強い意志を宿した瞳で言った。
「私の体に負担をかけようと、私をだまそうと、ライアーが私を家族だと思っている事実は変わらないし、私もライアーを家族だと本気で思っている。だから私はライアーを、家族を裏切ることはできない」
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聖「次回予告!想像以上に強かったライアーとフィニィちゃんの絆と家族意識。これは色々と複雑で難しい展開になりそうだね……これからの行動に色々と支障がでそうだ」
クロケル「二次元によくある悪が完全なる悪じゃないって展開だな。やりにくいわ~」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第155話『君に、ライアーの説得を任せたい』どんなえげつない悪事を働いても、信念のある敵キャラって人気を集めがちだよね」
クロケル「多分に漏れず俺もそうだが、何かを背負って悪に手を染めるキャラって何で魅力があるんだろうな」
聖「同情とか健気さとか感じるんでしょ。僕はメーター全振りな完全悪のゲス野郎の方が好きだけど。いっそ清々しいでしょ」
クロケル「……好みはヒトそれぞれだから否定はしないが、少なくとも俺は悪にメーター全振りのゲス野郎と関わるのは遠慮したい」
聖「あ、そうだね。実際に関わるのはナシだよね~」
クロケル「ハッ、これ変なフラグじゃないよな!?」