第151話 これぞ窮鼠猫を噛む!?クロケル、最大の頑張り
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
最近、クロワッサンづくりにハマってしまいました。スタンダードなものから、あんこ、カスタード、チョコレート、ツナやウィンナ……色んなものを入れては巻いて焼いてを繰り返しております。
食べやすい様にミニクロワッサンにしているのでお皿にクロワッサンが山を作っており、毎回「あ、これ作りすぎたな」って思いつつも胃袋が大きい家族に提供しております。一番人気はカスタードですね。一から手作りしているので美味しいって言われると嬉しいです。
何故私は本編と全く関係のない前書きを毎回するのか……さらっと流して下さいませ……。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「え、えっと……とりあえず何か出ろっ」
気持ちに踏ん切りはつけたものの、突然魔力を使える力が閃くほど人生は甘くなく俺は適当に力を込めて叫んだ。同時に脳裏に青い脈が浮かび、体の血管がブワッ熱くなる感覚がした。
この感覚は魔術を使った時の感覚、そう思った瞬間俺の指先から投げ網漁を思わせる大きな膜の結界が現れて俺と一番近い距離にいたケイオスさんを包み込もうと迫る。
「おっ!?」
自分でもよくわかっていない攻撃に危険を感じてもらえたのか、ケイオスさんが目を見開いてバックステップで俺と距離を取る。
ああ、躱されたか……と気持ちが萎えかけたが膜は消えることも止まることもなく、ケイオスさんを追いかけてじわじわと迫る。
「うわ、まさかの追尾機能つきかよ!お前が結界魔術を使えるのは理解してたがマジで進化してんじゃん!やっべ、やっぱ舐めプはよくねぇな」
追いかけてくる結界の膜から逃れようとバックステップのまま逃げ続けている。表情にはまだ余裕が窺えるが、僅かに困っている様な感じもする。
って言うか俺もこの攻撃の止め方が分からないんですけど。どうしたらいいの、自分でも予測不能の能力過ぎて次の行動の予想がつかない。どうしよう、俺超パニック!
「あら、ケイオスだけ遊んでもらえるなんて狡いわ。アタシの相手もして頂戴」
自分から繰り出される攻撃に自分でパニック状態に陥っているとシャルム国王の声が耳に届いてハッとする。視線をやればシャルム国王が左手を振り払い、吹雪の衝撃波をこちらに飛ばす姿が目に映った。
あわわわ、ヤベェ……ケイオスさんと自分の意味不明な攻撃に気を取られてまだ敵がいたことをすっかり忘れていた。
「な、何のッ」
俺はケイオスさんに向かって翳していた手をシャルムさんの方に向けて何とか抵抗しようと試みた。頭の中にはまだ青い脈がイメージで来ている。血管も熱を持っているので今なら魔術が発動できる気がするのだ。
……どんな魔術が出るかは全く分からないが、何もしないよりはマシだ。今はどうかシャルム国王の攻撃を防げる様な攻撃が出ますようにと祈るしかできない。
そう思って破れかぶれで気張って出た魔術は透明な縦長の壁で、迫って来る吹雪の衝撃波を吸収し、それを一拍置いてから跳ね返した。
「わあ!?」
「あら、嫌だわ。アタシの攻撃を跳ね返すなんて」
全く予想していなかった魔術効果に間抜けに驚いてしまった俺、そしてシャルム国王は冷静にな態度に少し拗ねた態度を交えつつ、跳ね返って来た攻撃を右に飛んで軽々と躱した。
「ははは~国王様がざまぁねぇな」
シャルム国王が攻撃を避けた先で豪快に笑いながらケイオスさんが並び立つ。シャルム国王は眉間に皺を寄せ、腰に手を当て見るからに不機嫌になって言った。
「それはこっちのセリフ。クロケルの攻撃から逃げ回っていた人間に言われたくないわ」
「うるせぇ、回避できたからいいんだよっ」
んべぇっと子供の様に舌を出すケイオスさんを見て俺はショックを受けた。せっかく抵抗ができたのにあっさり回避されてしまった……くそぅ、あのまま謎の結界の膜に飲み込まれてしまえばよかったのにぃっ!!
まあ、アレ飲み込まれたとてどんな効果があるのかは知らんけど。敵は1人でも潰しておきたかった……あれっ、俺も大分物騒な思考回路になってる?もしかして毒されてきちゃった感じか。嫌な影響受けちゃったなぁ~。
「我たちの存在も忘れてもらっては困るのう」
「そうじゃぞ、クロケル。ワシにもお前の力を見せてくれ」
「ヒッ!迫って来ないでっ」
意地が悪くなり始めている自分にちょっと絶望しているとシェロンさんとアストライオスさんがジリジリと距離を詰めて来た。
攻撃を仕掛けて来ないのは恐らく俺のカウンター攻撃を警戒してなのかもしれない。それはちょっと助かったかも。でもオーラは怖いので俺、超逃げ腰……カッコ悪い。
「ってか、待って!弱い者から潰す理論は理解できますけど、4対1みたいになってますよ!?俺ばっかり攻撃するのやめて下さいよっ」
いつの間にやらシャルム国王とケイオスさんまで俺に詰め寄って来る。そう、俺は鬼に四方を囲まれているのだ。これはある意味結界である。……なんと質の悪い結界だろうか。
「何度も言っているでしょ、これもポイントを稼ぐためよ」
「ああ、楽にポイントを稼ぎたいと思うのは悪いことじゃねぇよな」
「それに強い相手と戦うのはお楽しみにとっておきたいしのぅ」
「ああ。ワシもみなの言うことに同意じゃ。と、言うことで悪いな、クロケル。尊い犠牲となれ」
シャルム国王、ケイオスさん、シェロンさん、そして最後にアストライオスさんが無常に言葉をぶつけて来たので俺は絶望で膝から崩れ落ちそうになった。
もー!その理論やめて!!犠牲ってなんだ!尊くなってたまるかちくしょー!!この理不尽なヒトたちの思う通りにさせてなるものか!ぜってぇ抵抗してやるっ。
とは思えど困った。困ったと言うかチビリそうなぐらい恐怖を覚えているのだが、四方から自分だけを標的にしている相手どもから詰め寄られているこの状況をどう乗り切るべきか……。
「こいつは俺が叩きのめして更にポイントを稼いで勝手
「、負けないわよ」
「要は早い者勝ちじゃ、素早さならお前たちには後れを取らぬぞ」
「
ちょっとぉーーーーーーーー!?勝利条件か変わってますけどぉ!?
「待って下さいよ!あんたらさっきシュティレが俺を助けた時は、個人戦だか何だっていちゃもんをつけたくせに、共闘して俺をボコそうとしてるのおかしでしょーーーーーっ!!」
心の底からの不満を全力でぶつけるが返って来た言葉は無常でしれっとしていてあっさりとした、腹が立つほど清々しいものだった。
「共闘じゃないわ、この中で誰が一番にアナタを倒してポイントを取れるかの競争よ」
「ああそうだな。共闘するつもりは毛頭ない。寧ろ出し抜きたいぐらいだ」
シャルム国王もケイオスさんも普段は意見がすれ違いまくっているのにやっぱりこう言う時だけ一致するんだよな。似た者同士めが!
「出し抜くとは聞き捨てならんなぁ。ならワシも若造には負けんようにクロケルを倒してポイントを手に入れて見せようじゃないか」
「ははは、みな面白いことを言いおるのぅ~、次にポイントを取るのはこの我に気待っておろう。その後はお前を片付けてやるから心して待って居れ、ケイオス」
誰よりも先にポイントを取って調子に乗っているっぽいケイオスさんにアストライオスさんとシェロンさんが穏やかな口調と笑顔で言ったが、言葉が不穏だし変に圧を感じて怖い。しかもシェロンさんに至ってはしっかりと標的宣言してるし。
「やれるもんならやってみろよ。なんなら俺は最初からここにいる全員を倒して全ポイント獲得するつもりだったぜ?」
シェロンさんの物騒な言葉を受けても動揺することなく、寧ろ不遜な態度で煽りの言葉を煽りで返してにやりと笑って見せたケイオスさんの精神にちょっと大分引いた。
何で火に油を注いだり寝ているドラゴンを起こすようなことをするんだろうこのヒト……そんなに戦いたいのかな。そのために相手の神経をわざと逆なでるとかもう馬鹿じゃん。
「あら、言ってくれるわね。それじゃ、クロケルを倒した後にお相手願おうじゃない」
「ワシも相手をしてやるぞ。クロケルを倒した後にな」
「いやいや、ケイオスの相手をするのは我ぞ。クロケルを倒した後にな」
ああ、空気が重いしギスギスしてる。息が苦しぃ~居心地わりぃ~。みんなエンジンかかってんなー。なんで鍛錬中に仲間相手に殺る気が出るかなァ。後、“俺を倒した後”って言葉を強調するのヤメて。
「ってことでぇ……覚悟しろよ、クロケルゥ!!」
とんでもなく怖い空気の中、話に一区切りがついたと思った瞬間、ただビビり散らかして全く動けないでいる俺に向かってケイオスさんが唐突に語調を強めたと思った瞬間、地面を蹴って迫る。
このヒトいっつも先陣を切るよな!しかも意気揚々と拳を振り上げて迫るのやめて!しかも拳に魔力溜めてやがるしっ。無理無理!怖い、あんなもん食らったら体が爆散するわ!やっぱりあわよくば命を取る気だろ。
「抜け駆けなんていい度胸ね!させないわよ」
「ケイオスばかり見せ場を作らせてなるものか」
「我に勝利することは何人たりとも許さぬぞ」
ケイオスさんに先を越されまいとシャルム国王たちも遠距離から魔法攻撃を繰り出す。前方から物理攻撃が1つ、三方向から明らかに威力抜群の魔法攻撃が3つ迫って来て、俺の精神状態はついに限界突破した。
「も、もう、本当にっ……いやだぁーーーーーーーーーーーっ!!」
イラつきと恐怖でどうしていいかわからなくなってパニックとストレスで情けなくも大絶叫してしまったその時、体と血管が生前と転生後とも合わせて感じたことがないほどの熱くなったのを感じた。脳裏に見えていた青い脈も弾ける様に真っ白になったのが見えた。
瞬間、俺の周りを囲む様に透明な壁が現れて、全ての攻撃を吸収して跳ね返した。先ほどシャルム国王の攻撃を受けそうになった際に使ったものに似ているが、攻撃を跳ね返した際に威力が数倍になっている様に思えた。
ただでさえ強力な攻撃の威力が上がったせいで跳ね返した時の衝撃が凄い。壁の内側で守られているはずの俺までバランスを崩しそうになる。と言うか耐えきれずにふらついた。
「おおお!まさかのカウンター倍返しか、やるのう」
シェロンさんが驚きつつも楽しそうに俺の魔術を分析して、跳ね返って来た攻撃を軽々と後方宙返りで避ける。
「おっと、危ない。容赦がないのはどっちじゃ、全く」
「……ここにきてまた力を得たの!?アナタのポテンシャル凄すぎだわ。やっぱりきちんと訓練した方がいいわよ」
アストライオスさんは悪態をつきながら、シャルム国王は目を見開いて驚きつつも冷静に、それぞれ防御壁を張って攻撃を凌いだ。
「げっ、しまった!!」
英雄たちの中で唯一焦った反応を見せたのはケイオスさんだ。物理攻撃で間近まで迫って来ていたケイオスさんが突然現れた俺の防御壁に跳ね飛ばされる。
余程勢いをつけて攻撃を繰り出していたのか、弾丸の用に跳ね飛ばされ、弧を描いて吹き飛びその勢いのまま地面にどしゃっと鈍い音を立てて落ちた。
うげぇっと痛そうなうめき声が聞こえたが大丈夫だろうか……いや、大丈夫じゃないだろうな。あんなに勢いよく地面に落ちたんだから。
ん……地面に、落ちた?相手の体を地面につけたらポイント先取なんだよな。えっ、俺ポイントとれたんじゃねぇの?
動揺と驚きで思考が上手く回らないが、確かにケイオスさんは俺の魔術に吹き飛ばされて体を地面につけた。
その事実を実感し徐々に喜びが込み上げてきて、体中が言い様のないむず痒さに支配されかけた時、この戦いを遠くで観戦していた聖が戦いの場に割って入って来た。
『みんな、そこまで、制限時間いっぱいになったよ。1ポイント先取していたケイオスがクロケルの魔術に跳ね返されて地面に体をつけたから敗北。よって、時間ギリギリでポイントを取ったクロケルの勝利!!』
聖の宣言を聞いて俺は心と体がふわっと軽くなる。待ち望んでいた制限時間が訪れたと言うのも十分嬉しいのだが、それ以上に俺の心を浮きだたせる事実がある。
「か、勝った……?」
またもや自分でも分からない能力が無自覚に開花し、俺はただ呆けてその場で立ち尽くした。
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聖「次回予告!まさかまさかのクロケル勝利~!主人公補正ってやつなのかな、凄いね!まぐれも甚だしいけど、勝ちは勝ちだ。やったね」
クロケル「貶しながら褒めるとかお前は本当に毎回器用なことするなぁ。そんで俺の神経を逆なでるなぁっ!」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第151話『特訓じゃなくてレベル上げがしたいんです』だから~毎回言ってるけど僕は別に馬鹿しているつもりも、君を怒らせるつもりもないよ」
クロケル「怒らせるつもりがないならせめて言葉を選べよ」
聖「何?クロケルは僕に褒めて欲しいの?」
クロケル「いや、そう言うわけじゃなくてだな」
クロケル「君が褒めたくなるような行動を取ったらいくらでも褒めてあげるし、認めてあげるけど、今のところずぅっと逃げてるしねぇ。今回もまぐれ勝利でしょ?それじゃ褒められないなぁ」
聖「そこ!そう言うところだぞっ」
クロケル「ええ?難しいなぁ」