第14話 氷艶の薔薇
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
氷艶と言う言葉は私が勝手に考えた言葉なのですが、一応調べてみましたところ、既にフィギュアスケートの公演名(?)で使われていました。こう言うのってパクリになるんですかね(震)
問題がある様でしたら変更しないとですよね……。言葉を考えるってむづかしいですねぇ(遠い目)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
見惚れるほどに優雅で美しい目の前の国王の声は少し高めだが明らかに男性で、俺は動揺して性別を叫んだ後に間抜けにも口をパクパクとさせしまった。
同じく国王を女性だと思い込んでいたシルマもで何度も目を瞬かせながら国王を見つめている。
「そうよ。当たり前じゃない。それがとうかしたの」
国王は当然の様にそれを認め、そして呆気に取られる俺たちを見やって椅子の手すりに肘をつき、更には細く長い足を組んで首をもたげ、鼻で笑いながら言った。
「ああ、あなた達もアタシを見た目で判断したクチね。嫌だわ、どうして人間って性別を見た目で判断するのかしら」
性別を間違えられたことを憂う国王を見ながら俺は思った。この国の国王は確実にオネエだと。
「すみま、いえ、申し訳ございません。男性にしては優美だと感じ、つい女性だと思い怒んでいました」
国王の気を損ねてはならないと慌てて取り繕えば、隣で同じく呆けていたシルマもハッとして頭を下げる。
「わ、私もです。とてもお美しい方だったのでてっきり女性かと。ご気分を害してしまって申し訳ございません」
もう内心ひやひやだった。国王の性格がどんなものかわからない以上、下手に気分を損なわせてはいけない。
クラージュを手出けしたことを帳消しにされて打ち首獄門とか嫌過ぎる!そうなってなるものかと必死で頭を下げる俺たちに国王は素っ気なく言った。
「別に良いわよ。慣れているし。こんなアタシを嘲笑って言ったんじゃなくて、美しいから勘違いしたわけでしょ。なら、誉め言葉として受け取っておくわ」
「そ、うですか。ありがとうございます……?」
この言葉が正解かは不明だったが、性別を間違えると言う不敬を働いてしまったことをお咎めなしにしてくれたことには感謝をしておこう。
しかし、びっくりした。国王がまさかのオネエとは。いや、別にオネエでもかまわないけどさ。もっと言うなら国王が男でならないと言う偏見もない。
それにオネエキャラは得てして二次気では人気と注目を集めがちだ。なお、俺の経験上オネエキャラは大きく分けて2つ種類がある。
1つは見た目はゴリゴリの男。何だったら筋骨隆々で青髭をお持ちだったり、ケツ顎だったりする。大体は怪力でパワータイプの強キャラだが、お酒とイケメンが大好き。心は乙女で女性扱いをして欲しいと願う一方、それなりに人生経験も積んでいて下手をすれば男よりも内面がイケメンなタイプ。
そして大事なギャグ要因。ただ、ゴリラオネエは敵キャラだとかなり強敵なケースが多いんだよな。
もう1つは見た目はどう見ても女性で、かわいい系も存在するが、よく見るのは綺麗系だ。美を追求し、常に強く美しくあろうとする。他人にも自分にも厳しいタイプだが、芯は通っており、このタイプのオネエは決して心まで女性でありたいわけではない場合も多く「女性扱い」をされることを好まない。
常に自分に自信を持ち、さらに高みを目指すタイプだ。苦悩する主人公を厳しい言葉でバッサリ斬り捨てながらも励ましてくれる。
モブオネエですら例え捻くれ弱小キャラであっても土壇場で「漢気」を見せる。そう、普段はなよなよしていたり、女性の様な立ち振る舞いをしていても時折見せる「漢気」それがオネエキャラの大半を占める。どのタイプのオネエも各作品内ではかなりの人気を誇る。
この国王は圧倒的後者だな。だってもう絵に描いた様なオネエキャラだし。俺はどちらかと言うとゴリラ系オネエに重きを置くが、綺麗系を実際に目にするとちょっとだけときめいてしまった。
「申し遅れたわね。アタシはグラキエス王国の王、シャルム・セレーニタ。一応、よろしくと言っておくわ」
シャルム国王が優雅に足を組んだまま名乗る、なお、この世界で名字は上流階級の者にしか与えられないらしい。
国王が先に名乗ってくれたため、俺たちも片膝をついて頭を下げる。
「俺、ああっと……私はクロケルと申します。魔法騎士です」
「私はシルマと申します。魔術師です」
俺の隣ではこの状況を理解していないシュバルツが、自分はどうすればいいのかと直立不動のままオロオロとしていたので、俺は頭を下げたまま小声で注意する。
「こら、シュバルツ。頭を下げろ。マネするんだよ、俺たちの!」
「は、はいっ」
シュバルツはビクビクと返事をしながら俺とシルマの格好をマネて恐々と名乗った。
「シュバルツ、です」
「クロケル、シルマ、シュバルツね。覚えたわ。楽にして頂戴。クラージュもね」
俺たちを品定めする様にゆっくりと眺めてシャルム国王は微笑んだ。国王から許しも出たので、俺たちは立ち上がって姿勢を正す。
クラージュもすっと立ち上がり、国王の隣へと真っすぐ歩いて行き、その隣に立った。
「で、そっちの浮いているタブレットは何かしら」
シャルム国王が切れ長の瞳を動かして先ほどから己の存在を消すかの様に無言で浮いている聖を見る。
「あ、こいつは俺の相棒で……おわっ!」
聖と言います、と言おうとしたがそれを遮る様に俺の眼前まで飛んできた。突然のことだったので思わず声を上げてしまい、驚かされたことを追及してやろうとしたが、タブレットの画面に出た文字を見て言葉を飲んだ。
『僕の名前を言わないで。と言うか僕のことできるだけ内密に』
短く書かれていた文章に俺は戸惑いを覚える。シルマにもその文字が見えたらしく、目を見開いていた。シュバルツはモンスターのため文字があまり読めないので、首を傾げて画面を眺めていた。
「は?お前何言って……」
理由を聞こうとしたが聖が画面の文字を素早く書き変えて重ねて願ってくる。
『お願いだから!僕のことが知られちゃうと面倒なんだよ。君も困ることになるよ』
「で、でもお前なぁ」
何故聖がそんなことを願うのかと疑問に思いつつも、国王に問われている以上、名乗らないと言うのは失礼に値する。
「シルマ、なんて書いてあるの」
「しっ、今は黙っていましょうね」
無垢なシュバルツが問いかけたが、空気を読んだシルマに優しく咎められ、シュンとして黙る姿が見えた。ごめんな、シュバルツ。
しかし、この状況、どうしたものかと悩んでいるとクラージュがキョトンとして言った。
「おや、どうされましたアキラさん。あんなにお喋りだったのに今日は静かですね」
タブレットの画面が見えておらず、事情を知らないクラージュがそう言うのは仕方がないが、俺たちはビクッと動揺してしまった。
クラージュの言葉を聞いたシャルム国王の眉がピクリと動く。
「アキラ……?」
『あ~最悪だ』
あっさり自分の名前がバレてしまい、聖は弱々しく嘆きながらへなへなと地面に落ちて行く。
「す、すみません。こいつは俺の相棒で旅のナビゲートをしてもらっているAIのアキラと申します。なんかちょっと調子が悪いみたいで」
あははは、と笑ってごまかして見れば、シャルム国王は鋭い眼光で聖を眺めてそしてふいっと視線を逸らして興味なさげに言った。
「ふぅん。AIねぇ……まあ、言葉を話すAIなんて珍しいものではないし。それに機械に不敬を働かれて怒るほどアタシの器は小さくないから、謝らなくてもいいわよ」
ん、なんだ。一瞬国王は聖のことをいっている様な気配がしたが気のせいか?
俺が疑問を深めていると、クラージュがシャルム国王に向き直り、浅く礼をした後に毅然とした声で言った。
「国王様、そろそろ本題に入った方がよろしいかと。これ以上時間が長引けばこの後のご公務にも差支えがございます」
「そうだったわ。本題に入りましょう。そのために人払いをしたんだし」
シャルム国王は思い出した様に言った。
そう言えばこの謁見の間に入った時に思ったが、ここには俺たちの他には国王とクラージュしかいなかった。
あくまでイメージだがこういう場所では国王に何かあってはいけないと、もっとこう……ずらっと護衛騎士や参謀が並んでいるイメージだが、ここに控える騎士はクラージュただ1人だ。不思議だとは思ったが意図的だったのか。
「人払い、と言うのはどういうことでしょう」
恐れ多いとは思ったが俺は聞いてみた。するとシャルム国王は呆れた表情と声でクラージュを見て言った。
「アナタたちはこの子の騒動に巻き込まれたんでしょう?こんな見た目でもクラージュは王国騎士団一番隊の隊長なのよ。それがカゲボウズなんて擬態しか能力がない弱小モンスターにアタシがあげたペンダントを盗まれた挙句、一般人を巻き込んで大捕り物なんて、そんなこと知られたら部下に示しがつかないでしょう?」
なるほど、要はクラージュの尊厳を守るために人払いをしたと言うことか。事情を知っているのは俺たちだけだもんな。
「クロケル、ボク、怒られるの?」
自分のことを話題に出されたシュバルツが不安そうに俺の服の裾を掴む。
「心配するな。もしそうなっても俺が守ってやるから」
「うん……」
シュバルツは元気なく返事をした。だが、俺が言ったことは本心だ。レベル1の俺は戦うことは出来ないが、説得ぐらいはできる。いざという時は国王に話をつければいい。
「ああ、アンタが件のカゲボウズね。クラージュが随分と世話になったみたいね」
「ひっ」
冷たい視線を向けられたシュバルツは恐怖が増し、真っ青になりながら俺の服を更に強く握った。
「国王様、こいつに悪気はなかったんです。生きるために必死で……反省もしていますのでどうかご慈悲を頂けませんか」
「わ、私からもお願いします。どうかシュバルツくんを許してあげて下さい」
俺が必死で訴える俺の隣でシルマも懸命に頭を下げる。
そんな俺たちを見てシャルム国王はふぅと短いため息をついた。
「あのね、窃盗は立派な犯罪よ。生きるための犯罪を許していたら、この世は犯罪者だらけになってしまうわ」
「そ、それはそうですけど」
シャルム国王の言うことは正しい。同情で犯罪が許されるならこの世の中にルールはいらない。犯罪者にはそれ相応の罰は必要だでも……。
シュバルツに視線を移せば半泣き状態で震えていた。鈍いところが災いし、1人だけ擬態できず、家族に置いてけぼりにされて、それでもなお擬態対象を探して必死で生きてきたこいつのことを思うと同情してしまうし、犯罪者だと突き出すこともできない。
これは偽善かもしれないが、それでも俺はジュバルツを救ってやりたい、自信をつけさせてやりたい。そう思うのは本心だ。
だが、この気持ちをどうやって国王に伝えて納得させればいいかがわからない。シルマも悲しそうに瞳を伏せながら、必死で言葉を考えている様に見えた。
「まあ、いいでしょう。幸い、その子は人間に危害を加えるようなコじゃないみたいだし、今回は見て見ぬふりをしてあげるわ。感謝してね」
シャルム国王は仕方がないと言った気持ちを全く隠さずにそう言ったが、つまりはこの件についてシュバルツに対するお咎めはなしと言うことだ。
俺がホッと胸を撫で下ろせばシルマも安堵した表情を浮かべていた。俺は震えるシュバルツの頭を撫でてやる。
「よかったな。シュバルツ。怒られないってよ」
「ほ、本当!?」
俺の言葉に不安でいっぱいだったシュバルツの顔がパァッと明るくなり、そして俺から離れたかと思うとシャルム国王に向かって直角に頭を下げた。
「あの、あのっ!ありがとうございますっ」
力強く感謝の言葉を叫んだシュバルツから視線を逸らしてシャルム国王は不服そうに言った。
「別に、アンタに感謝される筋合いはないわ。元々は不覚を取ったこの子が悪いわけだし」
そう言いながらシャルム国王はジトリとクラージュを睨みつけた。凍てつく視線を送られたクラージュは見るからに体を震わせ、そして小柄な体を更に小さくしながらしょんぼりとして言った。
「申し訳ございません。旦那様」
「人前でその呼び方は慎みなさいと何度も言っているでしょう。大体、せっかくアタシがお守り代わりにあげた物をどうして盗まれるのかしら」
クラージュは呼び方とシュバルツにペンダントを盗まれたことをシャルム国王に注意され、一瞬だけひるむも半ばムキになりながら己の意見を主張した。
「だ、だって今回の遠征は本当に長旅だったから写真を見る暇もなかったんですよ。仕事を終えて、宿についてやっと旦那様の顔が見られると思ったら嬉しくて、気持ちがふわふわして……」
「それでモンスターに不覚を取ったのね」
「はい……」
シュンとして自分の非を認めるクラージュにシャルム国王は優しい口調で言った。
「長旅をさせてしまったアタシも悪いけど、アタシに逢えないだけで隙ができては騎士として生きて行く上では危険よ。無事アナタが帰還することが、アタシにとって一番の喜びなのよ」
「旦那様……。はい!私もこうして旦那様のお傍に戻ることができて光栄です」
ん?んんん?なんだこの会話。なんか王と騎士には似つかわしくない会話だな。主従と言うよりはもっと距離が近い関係のような……。
すっかり2人の世界だったシャルム国王とクラージュが、妙なやり取りを見せられてぽかんとする俺たちの存在にようやく気がついた。
「失礼、客人の前で見苦しい姿を見せたわね」
「い、いえ別に。それは良いんですがその、お2人はまさか」
先ほどのやり取りから俺はある1つの可能性を導き出した。まさかとは思い、確認しようとすると、質問を予想したシャルム国王が先に口を開いた。
「まあ、別に隠す様なことでもないし、いいわ。よく聞きなさい」
シャルム国王は俺たちを淀みのない真っすぐな瞳で見ながらはっきりと言った。
「アタシとクラージュは王と騎士であり、夫婦でもあるのよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聖「次回予告!国王と騎士であるクラージュさんが夫婦だと言う衝撃の事実が判明。と言うか、御礼目当てで来たのに中々思う様に話が進まないぞ。どうするクロケル!」
クロケル「いやあ、もう色々ありすぎて御礼とかどうでもよくなってきたわ」
聖「だめだよ。貰えるものは貰っとかないと。寧ろ搾り取ってやりなよ」
クロケル「お前、国王に恨みでもあるのか?」
聖「……恨んではないかな。次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第15話 『薔薇と子犬の夫婦』うーん、まさか結婚してたとはねぇ」
クロケル「いい加減事情話せよ。やりにくいから」