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第147話 良いもてなしは時として拷問になりうるのです

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


唐突ですが、本屋って危険ですよね……漫画とかなら決められたものしか買わないので問題ないのですが、レシピ本とかになるとあれもこれも欲しくなってしまう……。そして大量に購入してしまうのです。お財布大打撃ですよ。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「いや~、結構複雑だと思っていた問題が早期に解決してよかったなぁ」


 日中のパーティーが始まって暫く、ケイオスさんが何個目かのミートローフの塊を飲み込んだ後に幸せそうに気分よくそう言った。


「問題が解決って言ってもまだ1つだけよ。大本の問題は片付いていないわ。安心するにはまだ早いわ」


 シャルム国王が口元を紙ナプキンで上品に拭きながらジト目でケイオスさんを見やって素っ気ない言葉を投げかけ、それを受けたケイオスさんがムッとした表情に変わる。


「何だよ、相変わらず堅物だなお前は。問題が1つでも解決して良かったね~で流せないのか」


「そっちこそ、お気楽過ぎるのよ。何事も慎重になることは大事よ。そこのお嬢さんも今は落ち着いているけれど、復讐心は消えていないと明言しているしね。解決したのはあくまでアンフィニたち兄妹の問題。一番重要な世界の命運に関してはなに1つ片付いてないの。理解していて?」


 ケイオスさんの不満にあくまで冷静に淡々と返すシャルム国王からは氷の様に凍てつく冷たさを感じるが、クールに口元を拭くこの方、ケイオスさん以上にミートローフを召し上がっていおられるのである。唐揚げも多分1人でほぼ1皿開けているので未来を見据えた発言をされたところで説得力はない。


 なお、各種おかずは少なくなる度にエクラが追加してくるわんこビュッフェとなっており、中々皿が空にならない。普通の胃袋且つ既に満腹になっている俺からすれば主に視覚的に地獄だ。


「いっぱい食べてね!フィニィちゃん。これはあなたの歓迎会パーティなんだから」


「た、食べてる。ちゃんと食べてるから、もう私のお皿に食べ物を乗せないで」


 焼きたての総菜パン(しかも大分太さのあるウィンナー)を差し出したエクラにフィニィは顔を真っ青にして断りを入れた。しっかり人並みに食事してるのにまだ食べ物を進められたらそりゃそんな表情にもなるわな……。


 俺もおいしそうな見た目に惹かれて文庫本ぐらいの厚みがあるハムカツサンドを食べたら大分序盤で胃にがっつりきたから絶賛後悔中である。脂っこくなくてうまったけど、胃力には限度があるのでしかたがない。


「え、エクラさん凄い張り切りようですね……食べてもお皿から食べものがなくならないのはある意味では有難いですが、私は少し苦しくなってきました」


 ほぼ大食いパーティーの様な状況にシルマもお腹をさすりながら困り顔で笑っていた。だよな~空腹よりは満腹の方がいいんだろうけどこれはキツイよな。かと言って変に食べ散らかして食べ物は残したくないし。


『あれ、シュティレさん何してるの、メモ?』


「あ、ああ。まあな……私は菓子は得意だが、手料理のレパートリーは少ないのだ。だから味を覚えて自分でも作ってみたいのだ。特にミートローフはソースも含めて本当に美味いからな。是非、参考にしたいのだ」


 聖に行動を指摘されたシュティレが恥ずかしそうにメモを隠し、珍しく動揺を見せてしどろもどろになりながら理由を口にした。食事中に時折こそこそしていると思ったらそう言うことだったのか。


 そう言えば前にシュティレがくれたお菓子、美味かったな。あれほど美味いものが作れるのに更にステップアップがしたいだなんて、武術以外にも真面目で勉強熱心何だなぁ、と感心していると会話を聞いていたエクラが恥ずかしさで赤面するシュティレに明るく声をかけた。


「なぁんだ、そんなの自分で分析しなくてもレシピぐらい教えてあげるよ」


「本当か、それは有難い。心遣い、感謝する」


「うんうん、今度一緒に作ろうねっ」


 快諾して微笑むエクラと嬉しそうに頭を下げるシュティレを見てほっこりとした気持ちになりつつも俺は祈った。シュティレが調理に参加したことによって料理が2倍になませんようにと。



 その後、わんこビュッフェを全員で何とか片付け、胃疲れからぐったりとしていると空いた皿を片付けに厨房へと消えて行ったはずのエクラが意気揚々と戻って来た。


 ……手にとんでもないものを抱えて。


「は~い!お待ちかねのデザートだよぉ!クリームとフルーツたっぷりのパンケーキだよ!」


 そう言ってドンッと目の前に置かれたのはパンケーキではなくパフェではないかと尋ねたくなるほどの山盛りクリームとフルーツで埋め尽くされた俺の顔位はある皿だった。パンケーキisドコ?ケーキの部分が見えないヨ?そんで何でプリンも乗せたんだよ。甘さマシマシにするなよっ!


『う、うわー……やばぁい。僕何ひとつ食べてないけどこれはヤバーい』


 次から次へと登場するデカ盛りに流石の聖もドン引きだった。同じモノが運ばれて来たフィニィも呆然いや愕然として皿を見つめていた。もう驚きの言葉どころか断りの言葉すら出ないらしい。


「あっ、フィニィちゃんは本日の主役だから、アイスクリームとフルーツ増量しておいたよ~。アイスとフルーツ、好き?」


 にっこにこしながら尋ねたエクラだったが、フィニィは完全に意識を飛ばしていた。反応がない彼女にエクラがもう一度おーいと呼びかけたところで、ワンテンポ遅れてフィニィは意識を取り戻し、声を震わせながら答えた。


「アイスもフルーツも好き。好きだけどこれは……」


「好きなんだ!よかったっ、じゃあもっと追加してあげる」


「えっ、ちょっと!違っ」


 恐らく“これは限度がある”と続けたかったであろうフィニィの言葉を遮ってエクラは心の底からの善意でフィニィの皿にアイスとフルーツを容赦なく追加で盛りつけた。


「……」


 フィニィは絶句。更に豪華になった特製パンケーキを最早感情のない表情で見つめていた。善意からの目も当てられない状況に彼女の膝の上で食事状況を見守っていたアンフィニがとうとう戸惑いながら声をかけた。


「ふ、フィニィ……大丈夫か?兄ちゃん、思うんだが無理して食べる必要はないと思うぞ」


 そう言われたフィニィは山盛りパンケーキを眉間に皺を寄せながら見つめ、そしてエクラを見た。視線を感じたのかエクラはにっこりとフィニィに微笑みを返し、それを受けたフィニィの喉が「うぐっ」と鳴る。


「し、心配しないで、お兄様。私、食べる。せめてこのお皿だけでもっ」


 フィニィは意を決してフォークを握りしめ、パンケーキを食べ進めた。んん?フィニィ、もしかしてエクラに気を遣っているのか。確かにエクラは面倒見がいいからなぁ。ここにいるメンバーの中で真っ先に心を開くのも分かる気がする。


 ……まあ、今はその面倒見の良さと優しさが妙な方向に向き始めているけど。何回見てもこのパンケーキの量はヤバいだろ、デザートと言うレベルではないぞ、完全に。しかもあれだけ豪華な食事をした後だだからな!?


 こ、このパンケーキは流石のシャルム国王たちも引いているだろう。そう思ってちらりと様子を確認すれば信じられない光景が目に飛び込んできた。


「ちょっとクリームが多いかと思ったけど、意外と甘くなくて軽めね。甘酸っぱいフルーツともよく合うっているし、パンケーキとの相性もばっちりね」


「俺はもう少しクリームに甘さが欲しいかもなぁ」


「あっ、ケイオスさん甘党?ハチミツのチョコクリームなら用意してあるよ」


 食べてるー!!しかも美味しそうに食レポしてるぅー!?ケイオスさんに至ってはまだ甘さを追加しようとしている暴力性……なんか怖くなってきた。なんで食に対して恐怖を抱いているんだ俺。


「シルマ、お前腹いっぱいじゃなかったのか?」


 突然湧き上がって来た謎の恐怖に震えながらふとシルマの方に目を向けて思わず二度見した。シルマ、山盛りのパンケーキ、平然と食べてる。


「あ、甘いものは別腹で……」


「それは全く同意だな」


「クロケル、このぱんけーき?ふわふわでしゅわしゅわだよ!凄く美味しい」


 恥ずかしそうにパンケーキを頬張るシルマに続いてシュティレも深く頷いていた。シュバルツなんて大はしゃぎでパンケーキを食べ進めて完食寸前だ。


 嘘だろ、みんなコレを味わえる余裕がある訳?みんなフードファイターなのかな。まさか俺って胃袋まで最弱なのか。それともレベルと胃袋は直結するのか!?


「ほぇー、みなさん凄いですねぇあれだけ食べているのに胃袋がつかれていませんよ。ご主人様はちょっともたれぎみですね、大丈夫です?」


 流石のアムールも仲間たちの食欲に驚きを通り越して感心していた。そして凡人な俺の胃袋を心配してくれた。


「うう、大丈夫じゃないかも……ってかシャルム国王っ、トータル的に結構ハイカロリーですけどいいんですか!?美容に気を遣っていたのではっ」


 常に“何事も調子に乗らないと言っているのに完全に調子に乗って食事を続けるシャルム国王にそんなツッコミを向けてみればしれっとした回答が返って来た。


「食べてみて分かったけど、エクラの食事は全て無添加でオーガニックみたいだから体には悪くないわ。それに取り過ぎたカロリーは動いて消費するから平気。アストライオス、ケイオス、それにシェロン。あと後でアタシの鍛錬に付き合いなさい」


「ええ~、面倒だな。でも、ま腹ごなしの運動は悪くないし、付き合ってやるか」


「強い奴との手合わせは最高のたのしみじゃからのう。もちろん我も鍛錬に付き合わせてもらうぞ」


「ふむ、たまには若造の相手をしてやるのも悪くはないか……よし、エクラにもいいところを見せたいし、特別にワシもその申し出を受けよう」


 神子一行たちの意見が見事に一致する。しかもみんな手合わせができることに前向きだし、なんだったらちょっと全員がワクワクしてる気さえする。我が強いし、ぶつかり合いも多いが何だかんだでお互いの強さはリスペクトしてるんだなぁ。


「そう、じゃあ決まり。休憩したら鍛錬しましょ」


 全員からYESの言葉を貰いご満悦なシャルム国王がクールに頷いてから俺をチラッと見る。うわ、目が合った。そこはかとなく嫌な予感。


「良かったらあなたも参加する?」


 はい、予感的中~。自分のスキルアップと言う意味では鍛錬は大事かもしれない、大事かもしれないが参加メンバーがえぐいのでちょっと無理かもしれない。


「え、えっと俺はその……」


 即答できずに言葉を濁していると、新しいお皿を手に持ったエクラがひょっこりと現れて言った。


「お?クロケルさん、これから鍛錬なの?それじゃあ、たーんと食べなきゃだネッ★」

 

 ほい、おまけとエクラは俺のパンケーキの上に一口サイズのベビーカステラを5個ほど乗せた。俺の返事を聞かずに乗せた。


「あっ、そーだっ!甘いものが苦手なヒト用にコーヒープリンも用意してあるからねっ」


 そう言ってテーブルに置かれたのは漫画でしか見たことがないバケツサイズのプリン。ぷるぷるとして美味しそうではあるが。えっ、同じサイズで同じものが8個ぐらい並んでるけどまさかこれが1人分なの?


 ああ、これはあれだ……ばあちゃんちに遊びに行った時におかずとおやつが無限に出て来る状況に酷使している。ヤバい、鍛錬うんぬんの前にモンスターパンケーキとの戦いがただひたすらに辛い……。


「もう、勘弁して……」


 俺は涙ながらに呟いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!拷問って食事がいっぱい食べられるってことだったんだねぇ。今回の面倒事は軽度でよかったじゃない。今後もこんな感じでゆるくドタバタだといいねぇ」


クロケル「状況は確かに平和で緩いよ、それは認める。だがな、胃袋は超絶ヘビーなめに遭って今にも潰れそうなんだよ。うえぇ苦しい……」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第148話『敵だった奴が味方になると大概ギャグ落ちする』これぞ物語の鉄板だよね!怖かったり無機質な性格だった敵が急に面白くなったり可愛くなったりするご都合主義!光り堕ち万歳!」


クロケル「ご都合主義とか言ってやるなよ……そう言う展開になるのは主人公側に溶け込むために必要なものなんだよ」


聖「でもあれだけ暴走してたフィニィちゃんがどんな感じで光り堕ちちするかは楽しみではあるよね」


クロケル「ワクワクするなよ……ってかシリアス展開マジでどこ行った。ライアーの問題も残っているんだが」


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