第144話 たった1人の大好きな家族だから
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
私、リズムゲームを好んでやる方なのですが、高難易度ばっかりやっているとイージーモードがもの凄くゆっくりすぎてタイミングとリズムが取りづらく一発パーフェクトクリアできません(泣)
しかも大体はイージーか普通のモードからじゃないと高難易度は解放されないのでとても苦労します……。これって音ゲーに慣れている方はほぼ全員同じ感覚を覚えているのではないでしょうか……。
いや、本当にリズム感があるなら難易度に関係なくリズムをとれるのか。うわぁ単純に自分が異常だったら嫌だなぁ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「それは、本当か!?」
今まで話を聞こうともしなかったフィニィが歯切れは悪いが復讐を貫き通すこと以外の言葉を、それもあれだけ否定して突き放し続けていたアンフィニを受け入れる様な発言をした。
思いもよらない言葉にだんまりを決め込んでいたアンフィニは興奮気味に、そして前のめりで彼女の意思を確認する。
「ほ、本当にあなたがお兄様だったらの話よ」
グイグイと迫るアンフィニに戸惑い、押し返しながらフィニィは自分の発言を認めた。こ、これは事態に好転の兆し!?嘘だろ、急展開にも程があるぞっ。
「ちょっと、落ち着きなさい。せっかくアンタと向き合う方向に話が流れつつあるんだから、そんなに唐突にグイグイいかないの!」
フィニィに拒否されて以来、あれだけ距離を置いていたのに突然積極性を見せ始めたアンフィニの首根っこを掴み上げて引きはがす。
「だ、だって俺と生きてくれるって」
思いもよらない言葉に興奮冷めやらぬアンフィニが掴み上げられた状態のままじたばたともがく。それをシャルム国王が力いっぱいに抑え込む。
「アンタ、あの子の話を聞いてなかったの?かもって言っていたでしょ。可能性であって決定事項ではないの。そんなに回答を急いでいたらまた距離を置かれるわよ、それでもいいの?」
「う、それは……困る」
シャルム国王に強く注意をされ、釣れたての魚の如く活きが良かったアンフニィの動きがピタリと大人しくなる。
『もう、チャンス到来で気持ちが急くのは分かるけど、例え相手が妹でも女の子に積極的になりすぎるのは良くないよ。良くてドン引き、悪けりゃ嫌われちゃうから。肉食系でもしつこいタイプは敬遠される場合があるんだから』
聖も軽口で妹のことになると前が見えなくなり、どうしても気持ちが逸る傾向にあるアンフィニを諭す。って言うか、何故お前が女子の気持ちを語る。俺が知る限りではお前に彼女がいたことは一度たりともないだろう!
はっ、まさか異世界に召喚されてお約束のボーイミーツガール的な展開になったとかか?でも見た感じパーティーメンバーとはフラグは立たなさそうな気がするが……。
『ちょっと、変な事考えないで。僕の恋愛の知識は全部ギャルゲーから来てるの!それに前世で女の子と縁がなかったのは君も同じでしょ!』
テレパスの能力で久々に俺の心を読んだ聖が小声で俺に小さな怒りをぶつけて来た。恋愛の知識が二次元オンリーってのは問題じゃないか。色々と解釈違いがありそうだぞ。
それに冷静に考えてゲームみたいな恋愛ができるわけがなかろうて。オタクとしてゲームの内容やジャンルを否定するつもりはないがそう言うものに夢を見過ぎるのもどうかと思うぞ俺は。
「お前こそうるせぇよ、別に俺は女児と縁がなくても困って来なかったからいいんだっ」
『今は違うけどねぇ~』
「は?」
半ば呆れた声色で意味不明発言をした聖に思わず呆けた反応を返してしまった。違うって何だよ。俺は恋愛フラグなんて立てた覚えはないぞ。
今のパーティメンバーは確かに女子が多めだが、俺なんかよりも実力があって頼もしい仲間なんだから、恋愛とか邪な感情を向けるのは失礼だろ。全く!
飄々として妙なことを言い始めた聖に更に文句を言ってやろうとした時、シャルム国王の鋭い声が俺たちに向けられる。
「外野、うるさいわよ。今は兄妹の大切な話し合いの場なの。おふざけと私語は謹んで頂戴」
「はっ、はい、すみませんっ」
『ごめ~ん。クロケルの反応が面白いのと腹が立つのもあって……つい』
先ほどまでの小声のつもりだったが少しヒートアップし過ぎたかもしれない。自分の状況を考えない軽率な行動に反省して謝罪し、思わず小さくなっている俺とは対照的に聖は軽口で謝っていた。こいつ、絶体反省していないな。
ってか、おうおう!俺の反応を面白がってんのか。腹が立つって具体的にどこがだよ、ついって何だついって!不用意に親友をおちょくるんじゃねぇっ!
俺が聖にストレスを募らせている間にアンフィニは徐々に落ち着きを取り戻してきた様で、未だに自分の首根っこを掴み上げるシャルム国王に向かってゆっくりと言った。
「急いてしまってすまない。大分気持ちが落ち着いて来た。だから、降ろしてくれないか。フィニィときちんと話がしたいんだ」
「ええ、構わないわ。話し合うのはいいけれど、くれぐれも急いてはダメよ、相手がどんな反応を返しても心を落ち着かせること。わかったわね」
「ああ、努力はする」
注意を促すシャルム国王に自信なさげに、それでいて力強く約束の意思を見せるとアンフィニはベッドに座るフィニィへとゆっくりと距離を詰めて行く。フィニィは近づいて来るアンフィニを拒絶することなく、ただ黙ってその見つめていた。
距離して数センチまで近づいたところでアンフィニは小さな体を懸命に動かしてフィニィが腰掛けるベッドへよじ登る。やはり、彼女からの拒絶の反応はない。いまのところはまだ対話ができる余地がありそうだ。
「俺が兄だと信じても信じなくてもいい。俺と話をしてくれるか」
「……話を、聞くだけなら。言っていくけどこれまでみたいな説得だったら応じないけど」
説得はお断りだと事前に念を押してフィニィはアンフィニを受け入れた。
「第一関門突破か」
「ああ、後はアンフィニがどれだけフィニィの心に寄り添った言葉をかけられるかにかかっているな」
ハラハラする俺の言葉にシュティレが淡々と答えた。肩の上のアムールも俺を安心させるためか、明るく言葉を返してくれた。
「ご安心ください、ご主人様。彼女のバイタルは非常に安定していますよ。このままお互いに落ちついて話を持って行けば大丈夫です」
「そうか、ならいいけど……」
ここからは他人が口を出せない否、出してはいけない家族の領域だ。他人の口出しは無用、俺たちは見守るしかない。この状況は兄妹が話し合える最大のチャンスだ。頑張れ、アンフィニ。
「俺はあの日、実験施設で体を失った。でも奇跡的に命をつなぎとめることが出来たんだ。だから、お前が大事にしていたぬいぐるみに入り込んで、お前を守ろうと決めた」
「うん、知ってる。それはその時に直接聞いたし」
フィニィは素っ気なく返した。相変わらずの冷たい態度に一瞬心が折れそうになったのか、ぐっと言葉を詰まらせたアンフィニだったが、頭を左右に勢いよく振りフィニィをしっかりと見据えて言葉を紡ぐ。
「これは俺の気持ちの押し付けなのかもしれない。でも、想いを押し付けたくなるほどお前が大事なんだ。今すぐ復讐をやめろなんて言わない。でも、自分の未来も考えて欲しんだ。今の感情に流されるんじゃなくて、人生の先を見て欲しい」
なるべくフィニィの抱える想いを否定しない様に慎重に、ゆっくりと焦らない世にアンフィニは何度目かの思いの丈を伝えた。
今までならこの言い方でも感情を乱していたフィニィだが、今回はどうだろうか。アンフィニはもちろんのこと、こちらも妙な緊張を抱いてフィニィの反応を待つ。
フィニィは自分を落ち着かせる様に自分の胸に手を当てて、アンフィニを見つめる。その瞳に今までの様な敵意はない。
「……私はまだ、復讐を諦めていない、諦めるつもりもない。ここにいる神子一行を今にでも消し去りたいと本気で思ってる。でも、自分のその後も少しは考えてもいいと思ってる……お兄様との未来を」
「本当に、俺と未来を歩んでくれるのか?」
最初の様に興奮してはならないと逸る気持ちを押さえながらアンフィニは慎重にゆっくりと尋ねた。その言葉を受けたフィニィはまだ決断と覚悟が明確にできていないのか、迷う様にクッと喉を詰まらせた後、すーはーとゆっくり息をすってからぎこちなく言葉を紡いだ。
「長様を失った私にとってお兄様は……あなたは私のたった1人の大好きな家族だから。一緒に未来を歩んでもいいかなって、思う……かも」
歯切れの悪い言葉ながらも、フィニィは確実にアンフィニに心を開き始めていた。道を違えた兄と妹の心が今、近づこうしている。待ち望んだその状況をここにい誰もがただ静かに見守った。
フィニィの子供らしいふくふくとした小さな手と、アンフィニのふわふわのぬいぐるみの手がどちらともなく躊躇いがちに伸ばされ、そしてしっかりと繋がりぎこちない握手を交わした。
まだ心の中は複雑なのか、フィニィとアンフィニの間にある空気はどこかぎこちない。しかし、これまで様にギスギスとしたものではなく、確かに歩み寄っていることが分かる雰囲気だ。
擦れ違いを続けてようやく互いに向き合い始めた兄妹。その傍でツバキも嬉しそうに、そして切なそうに呟いて微笑んだ。
「よかった…やっと素直になれたんだね、私」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聖「次回予告!やっとまともに歩み寄ることが出来たフィニィとアンフィニ。フィニィの復讐心が消えたわけじゃないけれど、これはとてもいい傾向だね。僕も心が軽くなったよ」
クロケル「そうだな。フィニィのことに関しては細かい問題はまだ多いが、兄妹がまともに会話できただけでも全身だ。と言うか、お前この件について気に病んでいたのか?」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第145話『手を取り合った兄妹、訪れた別れ』そりゃあ、僕はこの世界を守る長だからね!この世界の生命たちの幸せは常に考えているし、祈っているよ」
クロケル「そうなのか。ここまで一緒に行動しているが全くそんな風には見えないぞ」
聖「何それ、君にとって僕ってどんな存在に映っているわけ?」
クロケル「ただ傍観するだけのクソ長」
聖「即答!?しかも大分えげつない認識!ショックなんですけどぉ」
クロケル「てめぇの言動と行動を顧みてからショック受けろ、ばぁーか」