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第143話 私はあなたであたなは私

この度もお読みただ来まして誠にありがとうございます。


あかん、お話のストックがなくなって来た……結構溜めていたのに。下半期の忙しなさガッディム!!


隙間時間を見つけて書き進めたいですが、この時期に隙間なんてあるかい!とセルフツッコミをする毎日でございます。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「何、私のぬいぐるみが、喋った?」


 パニック状態ながらその声は耳に届いたのか、フィニィは呆けた表情で鋭い眼光で自分を睨みつけるツバキを見つめ返した。


 第三者が介入し話の流れが途切れたことにより、少し精神が落ち着いたのか、顔から険しさも消え、呼吸も正常になりつつある。


 そう言えばフィニィはぬいぐるみ(ツバキ)にの正体については一切認識がないんだったな。確か魂を分けていることは知らされているがツバキの正体と言うか本質はライアーから知らされていないんだっけ。


 分けられた魂はあくまで不足の事態の保険で、ぬいぐるみは自分が戦闘に武器。ツバキに意思があることも、彼女が喋れると言う事実すら知らないのだ。そう認識していた存在が突然喋りだしたらそりゃ驚くわな。


 フィニィを完全なる復讐神に仕立て上げる為、ライアーが彼女に残ったわずかな戸惑いや罪悪感、つまりは“理性“を特殊な技術をつかって分離させ、ウサギのぬいぐるみの中に閉じ込められた存在、それがツバキだ。


「お、おいっ、フィ……じゃなくてツバキッ」


 突然のツバキの行動に目の前のフィニィに取られていたアンフィニの意識がそちらへと移る。アンフィニは真っ青な表情で、ひどく焦ってツバキの行動を咎める。


 それもそうだろう。実のところ俺はあせっている。なぜなら、ツバキはフィニィに“認識”されては不味いからだ。


 世界の理とやらで同じ次元に“同一人物”は存在できない。何かの理由で分かたれた魂は存在する力が強い方、つまりは本体に自分の魂の半身だと知られてしまうと力の弱い方が消滅、と言うよりは本体に吸収されてしまうのだ。


 見方を変えれば“分かたれた魂が本体に戻るだけ”なのだが、本体とまともな会話が成立しない以上、フィニィと存在を同じくし、こちら側に協力する意思があり、様々な事情を持っているであろうツバキに消滅されては非常に困る。


「お兄様、勝手な行動をしてごめんなさい。でも、私はもうこんなにも醜い私を見たくはないのです」


 どうして、と悲しそうに自分を見つめるアンフィニに向かってツバキは同じく悲しそうな表情ではにかんで、そして謝った。


『もしかしたらツバキちゃん、消える覚悟なのかもしれない』


「えっ」


 聖の淡々とした呟きに、俺の焦りが加速する。ツバキからある程度の話は聞けたがまだまだ聞きたいことはあるし、ツバキはフィニィなのだから彼女の気持ちがわかる貴重な存在。なるだけ色々と片付いてから1つに戻るべきだろうと思うのだ。


 それに出会って間もないが、せっかく知り合った存在が突然消滅してしまうのは正直辛いし……。態度はツンケンしているが、協力はしっかりしてくれるし、兄想いだし、悪い奴じゃないもんな。消えてしまう運命なのはやっぱり悲しい。


 アンフィニィもいずれ消えゆく存在ではあるが、やっと思いが通じた妹の魂を失うのは怖いだろう。


 当の本人はいつでもフィニィの中に戻る運命(さだめ)を受け入れているが、事が片付くまではなるべく本体(フィニィ)には消えない様にしたいとも言っていた。なのにどうしてこのゴタゴタの中、口を開いたのだろうか。


 しかも自分とフィニィは同一だと取れる発言もしてるし。ツバキの行動の意図がわからず、ただ呆けて彼女の姿を見つめることしかできない。


「あなた、あなたは何、何なの」


 全く状況がわからないフィニィが狼狽し、声を震わせながらツバキを見つめる。視線を受けたツバキは自分が認識され消滅する覚悟が完全に決まっているのか落ち着いた様子で言葉を返した。


「気が付かないの?私はあなたよ。そしてあなたは私」


「それは……魂が分かれているってことで、だよね?」


 未知との遭遇をしたかの様にフィニィは恐る恐る確認の言葉を口にする。まだツバキと言う存在の本質については掴めていない様だ。


「よ、よかった……認識されたからと言って直ぐに消えるわけじゃないんだな」


『うん、僕もその辺りは正直わからなかったけど、まだ大丈夫みたいだね』

 

 色々な緊張感が入り混じる空気の中、俺の口から思わず呟きが漏れる。それは本当に自然に出た自然なもので誰に向けた言葉でもない。


 ツバキが自分の正体を明言したので即消滅、と思ってしまったが幸いなことにまだ消える気配はない。このケースは聖にとっても未知らしいので、少し安心した頷きを俺に返した。


 フィニィがまだツバキに対して理解が追いついていないのか、認識されてから消滅までに猶予があるのかは不明だが、とりあえず突然の別れは回避できたっぽいので一安心と言ったところか。


「ええ、魂が分かれていると言う部分は肯定できる。でも、あなたがライアーから聞かされた認識では少しズレがあると言えるわ。私はね、厳密に言えば魂そのものではない。あなたの理性なの」


「えっ、そこまで言うのかっ!?」


 安心したのも束の間、ツバキはどんどんと話を進め、自らの素性を平然と明かして行くので、思わず大分大きめの驚きの声が漏れる。


『クロケル、声が大きい』」


「うう、悪い……つい」


 声を出したせいで緊張感あふれるその場の注目を集めてしまい、それを聖に咎められて口を塞いでその場で小さくなった。


 そして言い得ぬ不安を募らせながら、いつ消滅のきっかけが訪れるとも分からない状況にハラハラとしてこの話の行く末を見守る。


「ツバキ……」


 当たり前のことではあるが、アンフィニはここにいる誰よりも気が気ではないらしくそわそわとして落ち着きがない。


 ツバキもフィニィもアンフィニにとっては大事な妹だ。彼にとってはどちらも失いたくない存在なのだろう。だが、悲しいことにそれは叶わない願いなんだな……どうあってもツバキは消える運命にある。それを思うと切なくなる。


「あなたが、私の理性?どう言うこと……私がこんなにも心を乱されるのは“あなた”がいないからなの?なんで、どうして……ライアーが私に嘘をついていたってことなのっ」


 突然色々な事実と情報を突きつけられたフィニィは心と頭を上手く整理できないのか、またパニック状態に陥りそうになっていた。


「落ち着いてフィニィちゃん。分からないこととか信じられないこととか、認めたくないことがあって心がぐしゃぐしゃになっちゃうのはかもしれないけど、不安に負けちゃダメだよ。ますます心が疲れちゃう

んだら」


「……」


 エクラがいつの間にか水を用意しており、優しく差し出した。それをフィニィは無言のまま受け取り、一瞬だけためらってコップに口をつけ、ほんのわずかだが水を飲んだ。


「ありがとう、エクラ。どう?落ち着いたかしら」


 事の成り行きを黙って見届けていたシャルム国王がフィニィにお礼を言い、それからフィニィに声をかけた。今は尋問をしているわけではないためか、その声色は優しい。心からの気遣いが感じられる柔らかい声だった。


 先ほどまでフィニィに真正面から事実をぶつけて圧をかけていたヒトと同一人物だとは思えない。こういう一面を見せられると、今までの厳しい態度は話を進めるためには必要なモノだったのかもと納得してしまう。なんだろう、すっごい悔しい。


「少し、落ち着いた」


 フィニィはコップを両手で持ち、膝に乗せた状態で俯き加減に頷いた。確かに、数秒前までのパニック寸前の状況ではなくなった様だ。


「そう、ならよかった。なら今のうちに話しておきましょう。アナタが知らないアナタの真実を」


 シャルム国王は浅いため息を1つついてから、ここまでに俺たちが得た情報と事実を淡々と語り出した。フィニイは時折信じられないと目を見開きながら、そして動揺して声を出しそうになりながらも、パニック状態になることなく、水を飲んで気持ちを落ち着かせながら話を聞いていた。


「……話を聞いても信じられないし、仮に真実だとしても私は自分の志を曲げるつもりはないわ。それに、ライアーがやってきたことは私もほぼ同意しているし」


 こちらが真実を伝えてもなお、やはりフィニィは自分の意見を曲げる気はない様だ。ライアーに対して不信感を持った様子もない。やはり彼女の意思は固い様だ。まだ説得がとその場の誰もが落胆しかけたその時だった。


「でも……」


 フィニィが初めて否定以外の言葉で続けようとしたので彼女に注目が集まる。不安げに遠慮がちに紡がれた言葉の先をその場の誰もが固唾を飲んで待つ。


 そのまま数秒間が空く。どうやら自分の中にある思いを言葉にするのに非常に葛藤している様だ。口ををモゴモゴとさせ、視線を四方に泳がせ、そして決意したのかスッと息を吸ってから気まずそうな表情を浮かべて黙り込むアンフィニを見据えてポツリと言った。


「そこクマのぬいぐるみの中にの魂が本当にお兄様なら、私はお兄様と生きる道を選んでもいい、と思っている……かもしれない」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!度重なる対話を続け、ついにフィニィが心を開いた!?このまま無事に兄妹仲が修復すれば万事解決だね」


クロケル「まさか圧力バリバリのゴリ押しなやり取りが功を制するとは思いもよらなかった……正直に言葉を伝えるのって時としては有効なのか?」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第144話『たった1人の大好きな家族だから』前から言ってるでしょ。僕もシャルムも悪口じゃなくて正論を言ってるんだって。相手をいじめている訳じゃないんだから悪い方に話が進むわけないでしょ」


クロケル「いや、でも相手の精神とか自尊心をめった打ちにするのは非常によくないことだと俺は思う」


聖「それは相手の捉え方次第でしょ。どんな言い方をされても、どんな表現をされても、悪いところを直そうとしない奴は一生変わることなんてできないよ」


クロケル「それはそうかもしれないが、少しは相手の心を考えろと俺も毎回言っているだろ。って言うかそれは嫌味か?俺は何においても逃げてばっかりだと言いたいんだな」


聖「いや、そこまでは思ってないけど。でもいつまで経っても逃げ腰が直らないなぁとは思ってるカナ」


クロケル「同じだろ!?」

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