第142話 家族にきつく当たるのは甘えなのです
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
この物語も長くなって参りましたね。長いと言うよりはぐだぐだに近いかもしれませんが……。もう少し続けたいと思いますのでお付き合い頂けますと幸いです。
新作も投稿したいですがそちらは下半期の忙しさで全く進まず……新作の方は自分の多忙さを考慮してある程度溜まってから投稿したいのですが、溜まらねぇ!
仕事は処理しても処理しても溜まるのにっ(震え)家事のワンオペはあんまり辛くないのですが、仕事のワンオペ辛ぇです。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「わ、私は甘えてなんかいない!私を否定する奴を敵視しているだけよ。それに、そいつはお兄様じゃない」
フィニィが言葉を詰まらせながら全力でシャルム国王が突き付けた言葉を否定する。その表情には怒りではない動揺が覗えた。怒りに任せたヒステリックな雰囲気から一転、目が泳いで声も震えている。
「いいえ。甘えね、依存と言ってもいいわ」
シャルム国王は狼狽するフィニィを容赦なく突き放した。どこまでも厳しく現実を突きつける情け容赦ない姿に恐怖すら感じ始めた。このヒト、他人を精神的に追い詰め過ぎだろ。
フィニィの心が繊細で不安定であることは伝えてあるのに敢えて厳しい言葉と現実を突きつける姿勢なのは荒療治のつもりだろうか。
今まで俺たちはフィニィの精神が危うくなるたびに引いていたがそれでは話が進まないからまさかの押すと言う手段を取っているのか?だとしたらちょっと極端過ぎるし厳し過ぎるぞ、国王陛下さんよ。
そんな真正面からプレッシャーかけられたら俺なら押しつぶされた挙句再起不能になるわ。敵に容赦がないだけかもしれないが……いや、味方にも似たような態度と言動をしそうな気がしなくもないな。何となくだけど。
シャルム国王にあんな風にプレッシャーをかけられない様に今後は少なくとも国王の目の届く範囲では自分も言動や行動に気をつけようと心の底から誓った。
「依存なんてしてない!私はあの日、長様を奪われた日からずっと頑張って来たの!強くなって、私たちの幸せを奪った奴らに絶対に復讐することを誓って強くなったんだから。お兄様の存在は心強かったけれど、でも私はちゃんと自分で努力した!きちんと自立はしているわっ」
甘え、依存と厳しい言葉を投げかけられたフィニィにが必死になって否定する。怒っているのではなく、それを言うなと焦って拒絶する態度はまるで自分が気づいている事実を指摘され、目を逸らしている様にも見える。
「そうかしら。私が今までのアナタの言動を見る限りは自分の意見を大好きなお兄様とやらに受け入れてもらえずに癇癪を起して駄々をこねる子供よ」
「うるさい!うるさいうるさいっ!みんなして私を否定するなっ」
フィニィがヒステリックさを増して叫ぶ。痛々しさすら感じられる感情の激しさに見ていられなくなってくる。
あまりの迫力に俺とシルマ、シュバルツが気圧される。圧力の風を全身で感じてたじろいでしまった。俺たち3人以外の面々は怖いぐらい冷静にフィニィを眺めていた。
シャルム国王たちはともかく、年も若く血縁を除き比較的一般人に近いエクラも動揺を見せない辺り、神の血族としての貫禄を感じてしまう。見た目はギャルだけど。いや、寧ろギャルだから肝が据わっていたりするのだろうか。
「おい、もういいだろ。やめてくれっ」
精神崩壊寸前のフィニィの姿が見るに堪えなくなったのか、悲壮な表情を浮かべてアンフィニが張り詰めた空気の中激しいやり取りを繰り広げるシャルム国王とフィニィの間に体をねじ込み、割り込んで止めに入る。
そして、髪の毛をぐしゃぐしゃにして頭を抱えるフィニィに背を向け、立ちはだかる体制で涼しい表情のまま自分を見下ろすシャルム国王をとても苦しく辛そうな表情で見つめ返して言った。
「フィニィに話を聞かなければならないと言うのは分かる。だが、こんな風にプレッシャーをかけるのはやめてくれ!こんなの、拷問と同じゃないかっ」
「あら、拷問だなんて嫌な感じねぇ。アタシが悪者みたいな言い方はやめてくれない?アタシはただ質問をしているだけ。そしてこの子が目を逸らしている真実を口にしているだけよ。辛いことから目を背けて意固地になるから対話にならないのよ、うやむやなことはハッキリさせておかないとね」
アンフィニの必死の懇願をシャルム国王は悪びれることなく、間違ったことはしていないと言う風にけろりと流した。
バッサリと切り捨てられてしまったことにより、ぐうの音も出なくなってしまったアンフィニは、何も言い返さないことが悔しいのか強く唇を噛んでいた。
「しゃ、シャルム国王。恐れ入りますが俺もアンフィニと同意見です。確かに彼女の精神を気遣い過ぎるのは良くないかもしれませんが、プレッシャーをかけ過ぎて心を壊してしまうことになればそれこそ対話にはなりませんし、後味も悪いです。その、もっと言葉を選びませんか?」
俺もこの状況は精神的な拷問に近いものを感じていたし、フィニィに自分の心と向き合わせるための言葉とは言え、せめてもう少し優しい言葉に言い換えられないものかと恐る恐る申し出る。
意見するのは怖いけど!もの凄く怖いけど!見過ごせないものは仕方がない。頑張れ、俺っ。負けるな!ファイトだっ!大丈夫、相手は器がデカい国王陛下、少し意見したくらいでは不敬扱いにはならない。ちょっと睨まれるだけだ……多分。
「はぁ、まったく……アナタたちは甘ちゃんね。アンフィニは妹を想っているから必死になるのは分かるけど、クロケルは感情に流され過ぎ。そんなんじゃ戦場では真っ先に命を奪われるわよ」
「う、た、確かに戦場においては甘い考えかもしれませんが今回はアンフィニとフィニィの気持ちを尊重して欲しい……デス」
うんざりとため息と悪態をつくシャルム国王にジトリと睨まれて俺は冷や汗をかきながら目を逸らす。後半なんて自信がなくなって来たのと視線から逃げたい一心で片言になっていた。毎度のことながら情けない。
なんで俺がディスられてるんだ。そもそも俺は戦場に立ちたくないんだよ!レベル1の雑魚だから!レベル上げの旅が始まるはずだったのに何故か複雑な案件に巻き込まれて雑魚のまま世界の運命を背負っちゃってるから!
「気持ちねぇ……それを尊重するからこそ本人に聞いているのだけれど。ねぇ、アナタは今後どうしたいわけ」
シャルム国王が不服そうな表情を浮かべて俺を見た後、直ぐにフィニィに視線を移して淡々として問いかけた。凄いな、俺とアンフィニがプレッシャーをかけないで欲しいとお願いしているのにまだグイグイいくのか。俺たちの意見は無視か。
己の行動を正すつもりのないシャルム国王に不安と不満を募らせつつ、問いかけられたフィニィの反応を待つ。
「私、私はもうどうすればいいかわからないっ。自分が何をしたいのか、何を成し遂げたいのか、もうわからないのっ」
すっかり精神的に追い詰められてしまったフィニィには頭を抱えたまま蹲り、声を震わせ泣きじゃくりながらパニック状態になっていた。
本格的に対話どころではない、今回もここで話を切り上げコースかと諦めかけた時、緊迫した空気を打ち破る様な凛とした声が響いた。
「しっかりしなさい。私のくせに情けない」
声の主に視線が集まり、静寂に包まれる。いつもの様に精神崩壊寸前で泣き崩れたフィニィに苛立たし気に声をかけたのは、存在を知られない様にずっとぬいぐるみのフリをしていたツバキだった。
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聖「次回予告!今まで大人しかったツバキちゃんがついに動いた。彼女の真意とは一体……そしてシャルムにプレッシャーをかけられまくったフィニィは大丈夫なのか。そしてやっぱり見せ場がないクロケルはどうなってしまうのか」
クロケル「俺のことはどうでもいいっての!てめぇはいちいちうるせぇな。俺は別に見せ場も出番もなくていいんだよ!できれば平穏にやり過ごしたいんだっ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第143話『私はあなたであたなは私』本体に認識されると消えちゃうツバキちゃんが覚悟を持って動いたのに、君は何も行動しないの?」
クロケル「いや、何も行動しないとかじゃなくて……できることがないだろ」
聖「大バカ者!できることを見つけてこその主人公でしょうが!」
クロケル「お前それ何キャラのつもりだよ」