第141話 何度目の正直!?フィニィとの対話
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
新しいことを学ぶ時、最初はめんどくせぇなって思うのですが、いざ挑戦してみると楽しいことが多いですね!自分が知らなかったことを学べて、それを吸収して自分の力に加えられるのは嬉しいです。
普通の勉強はあまり好きではないんですけどねぇ……バリバリの文系なので理数との知識落差がえげつない……
なんて毎度の自分語りはどうでもよいですね!
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
問題解決のため、善は急げとまたフィニィの元へと向かうことになった俺たちは彼女が身を置く部屋の前に立っていた。この重そうな鉄の扉を見るのはもう何度目だろうか。
「はぁ……」
扉を目にした瞬間、アンフィニの口からため息が漏れる。それは緊張ともうんざりとも取れる複雑なもので、表情も憂鬱だ。それはそうだろう、何度話しても最愛の妹に否定をされ続けて来たのだから。顔を合わせるのも怖くなる。
『憂鬱そうだねぇ。でもこれは君たち兄妹が話し合わないといけないことなんだ。辛いかもしれないけど、今回も頑張って妹と向き合って』
聖が励ますどころかプレッシャーをかける様な言葉をアンフィニに投げかける。闇を抱えて苦しむ家族に心を痛めている相手にそう言う言い方は非常に良くない。
「おい、もう少し言い方があるだろ」
『いっつもいってるでしょ。僕は本当のことしか言わないって』
「またそれかよ、もう聞き飽きたわ!なんでも正直に言えばいいってもんじゃねぇって何度も言ってるだろ。オブラートに包めこの馬鹿」
『馬鹿ってなんだよぅ!言っておくけど間違ったことは言ってないし、相手を気付けたいわけでもないからね』
何度目かのフィニィとの話し合いを目前に緊張感に包まれる中、言い争いを始めた俺たちの間にシェロンさんが少し呆れ気味に「はいはい」と宥めながら割って入って来る。幼女の小さな体が俺の膝をぐいっと押してくる。
「これから大切なやり取りをしなければならないと言う時に仲間割れをするでない。今はフィニィとの話し合いをどう上手く運ぶかが重要じゃろう」
「う、確かにそうですけど……」
そう、確かに仲間同士で言い争っている場合ではない。実のところ俺たちはフィニィとの話合いを優先すると決めた後、ノープランでここまでやって来たのだ。
「ああ、シェロンさまの言う通りだ。このまま扉を開けて彼女と会話を再開したとて、同じ様な行動や質問をしたとことで結局のところ、いつまで経っても平行線だぞ」
シェロンさんの言葉を受け、シュティレが深く頷いて言う。そうなのだ、俺もそれについては重々承知しているし、非常に難しい問題だと思っている。
今まで何度もフィニィとは話合いの場を設けて来たが、兄であるアンフィニィと対話をした瞬間に取り乱して毎回話合いが中断し、何の解決にも繋がらないと言う現状が続いているのは事実であり、何をどうすればいいかが検討もつかない。
行動を決めたはいいが肝心の目的がそこにいると言うのに扉の前で立ち尽くしてしまう俺たちを見て今度はシャルム国王が左手を頭に当てて深々とため息をついた。
「はあ、フィニィとアンフィニの溝が深くて複雑になってしまっているという話は聞いていたけど、ここに来て二の足を踏むのは良くないと思うわ。早く扉を開けて、彼女と会いましょう。考えるのはそれからよ」
冷静に、そしてドライに感情に流されることなく割り切った発言をするシャルム国王の言葉にケイオスさんが深く頷いた。
「そうだな、ウジウジと迷っていても仕方がない。フィニィと話をして、相手の反応や状況を見ながら慎重かつ臨機応変に話を進めていくしか方法はないだろ」
基本は意見が分かれることが多いケイオスさんとシャルム国王の意見が珍しく一致する。明日は雪か槍が降るかなもなぁと心の中でそっと冗談交じりに思いつつ、俺は勇気を持って意見した。
「臨機応変って……それが一番難しいんですが」
「なぁに?この土壇場でアタシに意見をしようと言うの?いい度胸じゃない。何か考えがあるなら言って見なさいよ。聞いてあげるから」
実力者かつ一国のトップに意見をするのは非常に、もう非常に怖かったが頑張って言葉を発したがシャルム国王に軽い圧力と氷の様に冷たい視線で睨みつけられてしまい、チビリそうになった。何だったら小さい声で「ヒッ」って言葉が自然と出た。
「か、考えと言うか……今まで細心の注意を払ってフィニィと接して来ましたが中々上手くいかなかったので同じことの繰り返しになるよりは彼女にかける言葉とか、話の内容とかをある程度決めてからの方がフィニィが暴走する可能性が低いんじゃないかと思っただけです」
凍てつく視線から早急に逃れたい一心で俺は視線を下に落としながら早口かつほぼ一息で言葉を言い切った。そしてちらりとシャルム国王の表情を窺うと、スンとしたまま俺を見据えていた。て、鉄面皮過ぎて感情が分からないっ。
「たかだか会話をするのにわざわざ台本を作るってこと?それも今から?笑えない冗談ね、そんな回りくどいことをしてられないわ。さっきも言ったけれど、状況を見て判断すれば問題のないことよ。もし、精神的な暴走があってもアタシが止めるわ。ってことで、扉を開けるわよ」
シャルム国王はクールにそして流れるように俺の意見を却下し、有無を言わさずに扉に手をかけて何の躊躇もなく扉を開けた。
「わっ、そんな唐突なッ」
「平気よ。ここは私に任せて頂戴」
何とか止めようとする俺をシャルム国王は一瞥もせずに軽くあしらい、心の準備をする間もなく開け放たれた扉。そしてシャルム国王はコツンとブーツの音を立てて部屋に入り、ベッドの上で体を起こしてぼんやりとしているフィニィに近づいた。
「ああああ、本当に大丈夫だろうか」
「あいつが任せろって言ったんだ。お手並み拝見と行こうじゃないか」
強引に進んで行く展開に思わず頭を抱えて悲壮に呟いた俺の肩をケイオスさんが笑いながら叩いた。シェロンさんとアストライオスさんも続いて口々に言った。
「そうじゃな。我もここはあやつに任せていいと思うぞ。と言うか適任ではないか」
「ワシの未来視でもシャルムに任せるのが最善じゃな」
「う、皆さんがそう言うなら、大丈夫……なのか?」
ノープランで前進する事態に若干の不安を覚えながらも仲間たちに太鼓判を押されていることを信用して、フィニィの傍に歩み寄ったシャルム国王の背中を見守った。
「お久しぶりね、お嬢さん。その節はどうも」
涼やかに言葉を投げかけるシャルム国王の声に反応し、アンフィニはゆっくりと視線をこちら移す。“
その節”とは初めて出会って時に暗殺されかけた時のことを示しているのだろう。
シャルム国王の言葉尻からは特に恨みは感じられなかったが、手に怪我をさせれれた際の嫌味は若干込められている気はした。シャルム国王って基本は落ち着いていて器も大きいけど、たま~にせっかちになったり、根に持つところがあるよなぁ。もしかしてそっちが本質に近かったりして。
「これは、国王陛下。お久ぶりですね」
声をかけられたフィニィはツンとして、そして淡々とした反応を返した。元々暗殺が目的だったため、当然のことながら彼女からシャルム国王への謝罪の言葉はない。軽い挨拶の言葉だけでスッと視線を俺たちから逸らした。
「今回はアタシが話し相手になるわ。今の体調はよろしくて?」
話しかけるなと言う雰囲気を出しているにも構わず話を進めるシャルム国王に少し苛立ちを感じたのか、逸らしていた視線を戻してジトリとシャルム国王を睨んで語調を強めて言った。
「体調は平気、気分は最悪。話は以前ある程度話したわ。まだ聞きたいことがあるわけ?」
「アタシはアナタときちんとお話をしていないしね。質問ぐらいさせて頂戴な」
「……断っても質問するつもりなんでしょ、勝手にしたら。私も前回同様、答える質問は選ばせてもらうから」
引き下がる気配がなく、強い姿勢を崩さないシャルム国王を前に色々と面倒くさくなったのかフィニィはうんざりとしていることがありありと感じられる深いため息と、見るからに深いで不満そうな顔をして話を続けることを受け入れた。
「あら、意外と寛容で助かったわ。話によるとアナタ、大分我がままでまともに対話にならないって聞いたからちょっと心配していたのよ」
シャルム国王が嫌味っぽい言葉を混ぜつつさらりと言った。そんな落ち着いた態度と淡々かつ辛辣な言葉を宣っておいて何が心配ですか。と言うか何に対して心配をしていたのか。何があってもゴリ押しする気満々だったくせに。
などと言うことは当然口には出せず、ただ黙ってフィニィの反応を待っていると、先ほどの発言はやはり彼女にとって気に入らないものだったのか、眉間に寄っていた皺を一層深くして言い返した。
「私のいないところで不名誉な事を言われているみたいだけど、私は我がままを言っているんじゃないわ。悪いのはそっちよ。特に!そこのお兄様のふりをするぬいぐるみっ」
突然声を荒げ、フィニィはシュバルツの足元で身を隠す様にして立つアンフィニを強く睨みつけた。あ、これヤバい。今回はだいぶん早い段階で精神の暴走が始まっている気がする。
今までは彼女の言葉を否定したり、彼女にとって地雷となる言葉を発言した際に暴走の片鱗が垣間見えたが、ここに来てアンフィニの姿を見ただけで感情が昂る様になっている。
「アナタはアンフィニィのことが気に入らないの?昔は仲のいい兄妹だったんでしょう。どうしてそこまで目の敵にするのかしら」
冷静に淡々と決してフィニィから視線を逸らすことなくシャルム国王は尋ねた。それに対しフィニィは感情を高ぶらせながら返す。
「そいつはお兄様ではないからよ。お兄様の名をかたり、お兄様の声で私の考えを否定して、私を拒絶するの!私はお兄様が憎いんじゃない。そいつが憎いのよ」
血を吐く様に言いきったフィニィを前に場の空気が凍る。名指しされたアンフィニが辛く悲しそうに顔を歪めた。やっぱりこうなってしまったかと頭が痛くなる。これは対話どころではないぞ。
フィニィの精神を守るためにも早急に彼女を落ち着かせなければと思っていたが、シャルム国王は一切の動揺を見せず更に言葉を投げかける。
「否定も何も、家族だから意見が一致するわけないじゃない。違う人間同士なのだから、考え方が違うことはあるだろうし、間違っていると思っていたら意見も注意もするでしょう?それはとても普通の行動よ。恨む様な行動ではないわ」
緊迫した空気の中、俺たちはフィニィとシャルム国王のやりとりをハラハラとしながら見守る。さっきから中々厳しい言葉をかけているが本当に大丈夫だろうか。拘束魔術が施されているため、反撃されることはないだろうが、フィニィの精神に負担がかからないか心配だ。
「違う!お兄様は今まで一度も私を否定したことがなかった!私の意見をいつも受け入れて、尊重してくれたもの!だから私の志を否定するそいつはお兄様じゃないの!お兄様が私の意見を否定するなんて、あり得ないんだからっ!!」
フィニィはヒステリックに叫び、体を丸めて頭を抱えて呼吸を荒くして髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱す。
「おいおい、これやべぇんじゃねぇの。止めた方がいいだろ」
『いや、もう少し待って』
流石に心配が限界になって来た俺を聖が制した。もう少しっていつまでだよ、見た感じは大分限界が近いぞ。
「ふぅん、薄々は気付いていたけどやっぱりね」
いつもの様に取り乱し始めたフィニィを腕組みをしながら冷たく見下ろしてシャルム国王は何かに納得していた。俺は状況を把握しようとそっと2人の元へと近づく。
「あの、やっぱりって何ですか」
短い会話のやり取りの中でシャルム国王は何に気が付いたと言うのだろうか。戸惑いながら尋ねればシャルム国王は腕組みを解いて腰に左手を当て、お手本のようなモデル立ちをして軽く鼻で笑った後に自らが見出した答えを口にした。
「あら、気が付かないの?この子はアンフィニを拒絶しているんじゃないわ。寧ろその逆、甘えているのよ」
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聖「次回予告!拒絶を続けるフィニィを前にシャルムが辿り着いた答えは“甘え”だった。慎重に対話をした方がいいのに追い詰める方向に話を持って行くあたり、シャルムもいい性格してるよねぇ。オブラートって言う言葉を知らないのかな」
クロケル「お前、全然ヒトのこと言えないからな。今自分で言った言葉を自分自身に向けて復唱してみろ。そしてこれまでの自分の言動を反省して悔い改めろ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第142話『家族にきつく当たるのは甘えなのです』僕はシャルムほど厳しくないし、容赦がないわけじゃないと思うけどなぁ」
クロケル「自覚がないって怖いな。と言うか自分の意見が正義だと思っている奴って漏れなくそう言う価値観を持ってそうな感じがする。と言うか神子一行全員お前と同じ感覚なんだろうな。俺はお前らの人間性が怖いよ」
聖「ええ~悪いことしてないのに心外~」
クロケル「そう言うわざとらしいところと反省の色がないところも直せよ」