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第13話 美しき氷の王への謁見

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

危ない。また次回予告詐欺をするところでした。もういらんところを極力削ってねじ込みました。


あと、キャラが増えると扱いきれないのが怖い。特にシュバルツよ、すまない。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 国王への挨拶……国王への挨拶!?

 意味が解らな過ぎて思いのほか大きな声が出てしまったことに反省しながら、俺は声のトーンを落としてクラージュに詰め寄る。


「なんだよ!国王に挨拶って!そう言うことは最初に言ってくれよ。心の準備とかいるし!!」


『いやぁ、御礼をするって言われた時点でその可能性は十分の予想できたと思うけどなぁ』


「なんだよ、礼が貰えるかもしれないから関わっとけって言ったのはお前だろ」


 隣をふよふよと浮きながら何故か投げやりな言葉を吐く聖を睨んでみれば、くるりと空中で体を一回転してから少し反省したのか元気のない声で言った。


『うん、そうだったね。ごめん』


「別にいいけどよ」


 うーん、やっぱり聖の様子がおかしいな。グラキエス王国行きが決定した時からずっとこんな感じだ。

 嫌がっている、というかためらっている感じがするな。まさか、聖の神子だった時代に何か関係しているのか?

 それを聞きたいところだが、今ここにはシルマとクラージュ、シュバルツがいる。俺の過去と聖の素性を隠している以上、こんなところで問いただすことはできないし、うむむ……どうしたものか。


 色々考えること、悩むことが多すぎて渋い顔をしている俺の様子を見て、クラージュが申し訳なさそうに言った。


「こちらから招待しておきながらお手数をかけてしまい申し訳ございません。しかし、私にも騎士としての義務がございますので、一連のことを国王に報告せねばなりませんので……まあ、とりあえずどうぞ、我らが国へお入りください」


 そう言ってクラージュは背筋を伸ばして氷の門の前に佇む屈強な門番の元へと歩いて行き、そして銀のブレスレットを掲げて言った。


「王国が第一騎士、騎士団長クラージュ。国王様より仰せつかった任務を終え帰還した」


「は、お帰りなさいませ。クラージュ様……その者たちは?」


クラージュがキビキビとして門番に向かって言えば、門番はビシッと敬礼をしてクラージュを迎え入れ


「ああ、私が旅先で世話になった方々だ。事前に連絡して入国手続きは済ませてある。故に、このまま通せ」


「は、かしこまりました。ではお入りください」


 キィンと氷同士が反響し合い、大きな氷の門がどう言う仕組みなのかは不明だが、自動で開いて行く。すげぇ……ゲームとか漫画でよく見る光景だ。門って自動で開くんだなぁ。

 

 なんかワクワクしてきたかもしれない。異世界を冒険してる感半端ない。気分を高揚させて門をくぐり、俺は目に飛び込んできた光景に驚いた。


「うおっ。すげぇ、雪と氷だらけだ」


 俺が転生したこの世界、クレイドルは基本的に四季が存在する。確か今の季節は春のはずだがここは雪と氷に埋め尽くされた一面銀世界。


 屋根や道路の雪は綺麗に取り除かれているが、通行の影響にならない場所には雪避け後であろう雪が白い山を作っていた。


 遠くに連なる山は雪が積もって真っ白だし、民家にできた氷柱は屋根と地面を繋ぎ、氷の檻となっていた。小さな子供たちがその氷の檻の中を出たり入ったりしながら遊んでいる光景がなんとも微笑ましい。


「グラキエス王国は年中、雪と氷に覆われた場所なのです。年中雪が降っていると言うわけではないですが、他の地方と比較しても太陽の日は当たりにくく、気温は低いかもしれないですね。今は春なので温かい方だとは思いますが」


 門をくぐり抜けた後、クラージュが先導する形で俺たちは王国内を歩いていた。物珍しそうに辺りを見まわす俺たちに丁寧に王国の説明をしてくれる。


「じゃあ、冬はもっと寒いと言うことか」


「そうですね。冬は吹雪くこともありますから。コートでは間に合わないこともあります」


 なるほど、そう言う事か。俺はこの国へ入った時から肌寒さを感じていた。

ゲームとかだと半そで半パン、もっと言えば例え水着であろうとも極寒の地でも平気で冒険できるが、今の俺は生身の体。神経も感覚もしっかりとある。故に寒い。凍えるとまでは行かないが、ちょっとだけ皮膚が冷たい。


 前世でプレイしていたRPGもので遊び心から軽装で主人公を操作していた自分を思い出して、主人公に申し訳ない思いでいっぱいになった。


 そう言えば町の人々も長そでか上着を羽織っているな。それだけこの国の気温が低いと言うことか。俺は体をさする。ふと横を見ればシルマも少しだけ寒そうにしていた。


「そう言えば、この国の周りを囲んでいる氷壁はなんなんだ。あんなのがあるから余計に寒いんじゃないのか」


 俺が歩きながら壁を見上げれば、クラージュは誇らしげに言った。


「この氷壁は国王様の魔力で作られた特別なものなんですよ」


「なんだって!?このデカい壁、国王が作ったのか」


 驚いて壁を2度見すれば、クラージュはふふんと鼻を鳴らして頷く。


「うんうん。国王様はやはりすごいお方ですよね!この氷壁はこの国を守るために国王様自らが作られたものです。国王の魔力で維持されています故に例え日が照ろうとも、大砲を食らおうとも国王様がいる限りは決して壊れません」


「まあ。それはすごいですね、まさに鉄壁です」


 シルマが驚きと尊敬の声を聞いてクラージュはまるで自分が褒められたかの様に誇らしげに胸を張って言った。


「そうですよ!鉄壁です。例え壁を越えて何者かが侵入しても、壁を越えた時点でそれを感知しますので。どんな侵入者にも即対応できます」


 確かにすごいけどなんでそんなに自慢げなんだ。こいつ、国王のこと大好きか。いや、まあ王国騎士なら忠誠心は強いだろうが、クラージュのこの感じはちょっと違うような気がする。忠誠と言うよりは敬愛、親愛、そんな言葉が近い。


「そしてそして!国の中心、遥か奥に見えますのが我らが国王が住まう場所、グラウベン城でございまーす」


「うわ、なんだあれ」


 自慢げなクラージュが手で示す先、遥か向こう、距離にして数十キロはあるかもしれないその先に見えるのは白銀に輝く氷の城だった。尖がった屋根の塔に近い造りのそれはまさに俺がイメージする城そのものだ。この距離から見ても大きいと感じるのであれば、実際に目の前でみればそれは巨大なんだろう。


「わあ!氷のお城ですね」


 シルマがその城を眺めながら言えばクラージュは元気よく頷いた。


「はい。あの城は現国王様が元々あった城をベースに一から創り直したんです。あの氷はこの国を守る氷壁と同じで国王様の魔力で作られた氷なんです。なので、何があっても溶けることはございません」


 ってことは国王は壁と城の2つに魔力を費やしていると言うことか。しかも危機感知機能つきとはすごい、すごすぎる。これは確実にレア5で高レベル確定だな。


「さっそく馬車を用意して城にご案内を、と言いたいところなのですが……申し訳ございません。少々お時間を頂くことになります」


「別に構わないが、なんでだ」


 クラージュは申し訳なさそうに眉を下げて言ったので、特に不満はなかったが理由を聞いてみれば、クラージュは苦笑いを浮かべて続けた。


「さすがの私でも外の者をおいそれと入城させることはできません。私が一度城に戻って報告とあなたたちの入城許可を頂いてきます。……害はないと言えどもモンスターもいますしね」


 チラリと視線を送られたシュバルツは怯えながら俺の服の裾を掴んで俺の背後に身を隠す。

 クラージュはそんな様子のシュバルツを見ながら小さくため息をついた後、腰につけていた鞄から黒い端末を取り出した。


「これを渡しておきます。入城の許可が出ましたらこの端末にご連絡しますので、しばらくは町の観光をお楽しみください」


 黒い端末を受け取ればそれにはグラキエス王国の紋章である銀の薔薇が刻まれている以外は前世で俺が使っていた様な普通の携帯端末だった。

 

 異世界にもあるんだなぁ。携帯電話。そんなことを思いながら俺はポケットにそれをしまう。


「それは光栄です!クロケル様、一緒に町を見て回りましょう」


 観光ができると知って、シルマはもの凄くウキウキしながら俺の腕をグイッと引っ張った。よほど興奮しているのか割と強い力で引っ張られ、思わずよろけそうになる。なお、この間もシュバルツは俺にしがみついているため、体が左右から引っ張られる形になりグンッとなった。


「ぐえっ」


「あっ!ごめんなさい」


 はしゃぎ過ぎたと自覚したのか、シルマがパッと手を離して恥ずかしそうに顔を赤らめた。シュバルツは何が何でも俺から離れようとはしなかった。


「ふふ、入城手続きが済むまでぜひ、我らが王国を満喫してください。あ、そうだ。この国は外の人間には寒いかもしれませんね。コートを用意させます……ああ、私だ。頼みたいことがある」


 俺たちのコントじみた行動にクラージュは微笑ましげに笑った後、端末を使い、騎士口調でどこかへ連絡した。


 数分後、王国の紋章が刻まれた馬車が俺たちの前に止まり、中から降りてきた騎士たちが手早くコートを渡してくる。

 おお、これはありがたい。本当に寒かったから助かる。こう言うところにも気が回るのはさすが騎士、よく人を観察している。


 関心と感謝をしながら袖を通した王国の紋章入りのコートは内側にもこもことした生地でとてもぬくぬくしていた。


「それでは、私はこのまま馬車に乗って城へ向かいますので。また後で」


「ああ、わかった」


 こうして俺たちは一旦クラージュと別れ、グラキエス王国を観光することになった。

 シルマとどこに行こうかと相談した結果、お互いに土地勘もないことだし、特に目的を決めないぶらり旅をしようと言うことになった。


「聖もそれでいいか」


『あー、うん。好きにして』


 この国に入ってからやたらだんまりを決め込んでいる親友に一応確認したが、素っ気ない返事をされた。こいつ、何をそんなに気にしてるんだ。


「わ、クロケル様見てください。おいしそうな焼き菓子があります」


 俺が聖に気を取られているとシルマが弾むような声で俺の腕を今度は優しく引っ張る。そちらを見てみればそこには甘い匂いがする丸い形をした焼き菓子が湯気を立てながら袋に入って並んでいた。

 

 見た目はどう見てもベビーカステラだった。縁日とか初詣の時に必ずと言っていいほど露店に並んでいるやつ。懐かしいな。でもちょっと大きいか。俺が知ってるのは一口でいけた気がするがこの大きさでは無理そうだ。


 俺は興味津々で丸い焼き菓子を見つめるシルマとシュバルツに提案した。


「買ってみるか」


「はいっ」


 シルマは嬉しそうに笑って返事をした。シュバルツは勢いよく首を立てに振った。


 焼き菓子を買った俺たち座れる場所を探して広場へとやって来た。この国は基本的には外での飲食は禁止されているが、この広場ならゴミは必ず指定のゴミ箱に入れるか持ち帰ることを条件に飲食可能らしい。


 さっそく焼き菓子を口に入れて見て俺は驚いた。俺が想像していたものと違う。べビーカステラではなく、ボールドーナツに近かった。でも、生地が甘くもちっとした食感はベビーカステラそのものである。


「うお、中に生クリームが言ってる」


「私のはチョコレートですね。甘くておいしいです」


 ふと隣を見ればようやく俺の体から手を離したシュバルツが1つの焼き菓子を両手で持ち、一生懸命頬張っていた。ハムスターかな。


「うまいか。シュバルツ」


 俺が聞けばパッと顔を上げてにこっと笑った。うーん。もう喋れるはずなんだけどなぁ。もう少し慣れが必要か。


シュバルツの今後を心配しながらも俺たちは観光気分でグラキエス王国を見て回った。小物の店や絹織物の店も見て回ったのだが、俺たちは食い気の方が強いみたいで、ほとんどの時間は食べ物の店に吸い寄せられていた。


 まあ、いいお昼にはなったと思う。惣菜パンに菓子パン、野菜のスープや魚料理に肉料理。とにかく色んなものに舌鼓を打った。


 そうして満腹になった俺たちは最初の広場へと戻り、3人並んでベンチに腰を掛けた。なお、聖は宙に浮いている。


 現在の時刻は昼過ぎだろうか。多分、13時ぐらいだと思われる。クラージュと別れて随分時間が経ったが、やっぱり入城許可を取るのに時間がかかってるんだな。


「国王ってどんな人なんだろうな。シルマは知ってるか」


 国王に会わなければならないと言う緊張感からか、そんなことをシルマに問うとシルマは口元に手を当て首を傾げた。


「そうですね……シュバルツくんが擬態するまではおウワサていどにしか存じ上げませんでしたが、確か氷艶(ひょうえん)の薔薇の名を持つとか」


「氷艶の薔薇って、なんじゃそりゃ」


 まあ、シュバルツが擬態した姿を見る限りでは確かに美しくはあったが。それが「艶」を意味しているのであれば「氷」と「薔薇」ってなんかアレだな。綺麗だけどトゲがある的な感じか。


「女性の国王だもんな。他国との外交で他の王に嘗められない様に毅然としているのかもしれないな」


「そうですね。年齢も20代ぐらいでお若いと聞きましたし、女帝として強くあろうとしておられるのかもしれません」


 俺たちはカゲボウズであるシュバルツの擬態で一度だけ国王の姿を見ている。多少冷たい雰囲気はあったが、細身で美しい女性だった。


『ねぇ、2人とも、そのことなんだけど』


 勝手に色々と想像する俺たちに聖が何か言いかけた時、クラージュに渡された端末が電子音を発した。連絡がきたんだ。そう思いそれに出てみれば、とてつもなく明るいクラージュの声がした。


『クロケルさん。許可が下りました、今から馬車を向かわせます。あ、この端末には位置特定機能がついておりますので、その場で待っていてくださいね』


 え、この端末GPS的な何かが付いてたの。こわ、行動把握されてたのかよ。

 俺が恐怖に震えながらもシルマと雑談をしながら迎えを待っていると、物の数分で迎えの馬車がやって来た。


「聖、なにか言いかけててたけどどうかしたか」


『ううん。なんでもない。一度会ってみればわかると思う』


 せっかく聞き直してやったのに、聖は半ば諦めたような反応を示したので取り合えず追及はしないことにした。


 馬車にクラージュは乗っていなかったが、別の騎士に促され俺たちは城へと向かうことになった。

 馬車に揺られること数分、俺たちはついに城へと辿り着いた。間近で見る氷の城はやはり迫力がある。


「あっ、みなさーん!こちらです」


 門の前ではクラージュが立っており、俺たちの姿を見るなり笑顔で駆け寄ってきた。親しい友人を見つけて尻尾を振る子犬の様な姿に俺は思わず吹き出しかけたが何とか耐えた。


「入城許可が下りたのですね」


 シルマがクラージュの笑顔に答えれば、彼女は元気よく頷いた。


「はい!私を助けてくれた人たちだとご説明したら、直接御礼がしたいとのことです。既に謁見の間でお待ちですのでご案内しますね」


 クラージュに連れられ城の中を歩いてゆく。外側は氷だったが内側は普通の造りだった。壁や家具まで氷づくしかと思っていたのでちょっと意外だった。城内では暖房も聞いているのか、コートを着た状態では暑いぐらいだった。

 

 数分ていど歩いた先に重厚感のある氷の扉が現れ、クラージュがその扉を開ける。


 開かれた扉の先は大きなホールの様になっており、鉄製の壁には王国の紋章が施されたタペストリーがいくつも並んでいる。


 床には青色の細長い絨毯が敷かれ、その先の一段高くなっている場所、つまりは俺たちの真正面に氷でできた椅子に姿勢を正して優雅に座る美しい人物がいた。


「国王様、客人を連れて参りました」


 クラージュは真っすぐその人物の前まで行き、片膝をついて頭を下げた。

 国王はゆっくりと俺たちの方に視線を送り、そして口を開いた。


「話は聞いたわ。ようこそ、我が王国へ。()()()()クラージュが世話になったみたいね。感謝するわ」

 

 シュバルツが擬態した姿でも十分に美しいと思ったが、本物を目の前にするとやっぱり違う。氷のような煌めき、薔薇の様に艶やかで凛とした美しさ、そしてそれに加えてシュバルツがコピーしきれなかった国王としての圧を感じて圧倒されてしまう。

 

 どこか冷たくて刺々しく、堂々としたその姿は氷艶の薔薇と呼ばれるにふさわしいと感じた。

 

 銀に輝くシニヨンの髪も、妖艶に施された化粧も溢れる色気も、その口調も、とてもしなやかで女性らしさを感じた。


 しかし、その声を聞いた時にある違和感を感じ、そして思わず口から思っていたことが零れる。


「お、男……?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告、ついに国王と出会ったクロケルたち、でも国王はクロケルが想像していた人物像とは少し違っていたみたい」


クロケル「なんかいつもよりまともな次回予告をするんだな」


聖「やだなぁ。僕はいつだって真面目だよ。次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第14話 『氷艶の薔薇』国王はちょっとクセがあるよ。頑張ってね」


クロケル「お前、やっぱり国王のこと知ってるな」






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