第137話 眠れない夜は夜風にあたりましょう
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
ああ……頑張って溜めていたお話のストックが瞬く間に消化されて行く……。下半期に入り、仕事も私生活も忙しくなって来たせいですね。後、単純に私の執筆速度が遅い。
隙間を見つけて何とか書き進めるぞー!(なけなしの)気合い。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「ふ、2人ともどうしてここに」
「あら、この件を手助けすることに関しては既に了承したでしょ。だからここにいる。必然で当然なことじゃない」
「約束は果たすものだからな。何を寝ぼけたことを言っているんだ、お前は」
驚いて動揺してる俺にシャルム国王とケイオスさんからそれぞれケロリとした返答が返って来た。シェロンさんと同じパターンか。
モニター越しに話した時はシャルム国王は自分の国を守るため、ケイオスさんは校長として学校学校を守るため準備整えるから助太刀するにしても時間がかかると言っていたではないデスカ。
このヒトたちが言う準備って激しい戦いが予想されるライアーとの戦いで、もしものことがあって自分の立場に穴を空けて残して来た場所に大事があってはいけないわけにはいかないから、もしもの時に備えて準備を整えたいってことで間違いないよな。
そうだとしたらシェロンさんの時も思ったけど準備とやらが早すぎだろ。モニター会議をしてから1日も経ってないですよ!?
まさかこの戦いをそれほど深刻に捉えてないとか。そんなアホな、一国の主とこの世界一優秀な魔法学校の校長だぞ。流石に慎重になるだろ……なるよな?
「で、でも手助けには準備があって時間がかかるって」
そう聞けばシャルム国王は「ああ、なんだそんなこと」と一呼吸置いてから、涼やかに説明を返して来た。
「そこのタブレットさんからライアーを捕えることに成功したって聞いたからね。とりあえずは命を懸ける戦いは回避できたみたいだし、そこまで慎重に準備をしなくても国を離れてもいいと思ったの。とりあえずクラージュに国を任せて来たわ。王女と騎士の兼任でね」
「ああ、そうか。クラージュってそう言えば女王でもあったんでしたね。元気がいっぱいなのと騎士成分が強すぎて忘れかけてました……」
クラージュは平民出身で小柄な女性ながら王家専属の騎士でシャルム国王の伴侶を決めるトーナメント方式の決闘だか試験だかで見事その座を勝ち取り、最終的には形式的な関係ではなく、何があったか非常に気になるところだが一般的な夫婦以上にラブラブになっている。
こうして表現してみると二次元界隈でよく使われる設定だとは思ってしまうのは自分がオタクなせいなのかもしれない。
「ふむ、そろそろ到着するころだと思っていたぞ」
アストライオスさんが何の前触れもなく現れたケイオスさんとシャルム国王を笑って出迎える。ははぁん、この反応は多分、2人の来訪を未来視で見たんだな。そしてまたそれを俺たちに黙っていたな。もうこの展開にも慣れたけど、やっぱりイラッとしてしまうジレンマ。
「はいは~い。お席はこちらでーす」
数秒前に登場した突然のお客2人に対しても一切慌てることなく、エクラはささっと動いて椅子を用意し、流れる様な動きでコーヒーを並べた。
「あら、ありがとう。やっぱりアストライオスに外見も中身も似てないわね、本当にいい子」
「ああ、本当にこの爺さんと一緒に生活してるか怪しいぜ。こんな傍若無人な奴と暮らしていてこんなにいい子になるわけない。この状況は奇跡だろ」
シャルム国王とケイオスさんが自然な流れでアストライオスさんをディスって席に着いた。聖もそうだが神子一行の面々って結構平気で他人をディスるよな。んで口をそろえて「悪口ではなく本当のこと」って言うよな。似た者同士の集まりかよ。
それだけ自分の在り方に自信があるってことなのだろうけど。でも、でもですよ。相手の気持ちも考えましょうよ。言葉だってヒトの心を抉るんだぞぅ。せめてオブラートに包んで優しく諭す感じでお願いしたい。
「なんとでも言え。お前たちにかける優しさなどないわ。そもそも、全てが終わってから現れた奴らが偉そうな態度をとるな」
「それを言われると痛いから言ってくれるなよ。これでも急いで準備を整えて来たんだぞ、戦いに参加できなかったことは謝るが、俺たちの立場を考えて爆速で来てやったことには感謝はして欲しいところだなんだが」
アストライオスさんがツンとして厳しく言い返した言葉に、ケイオスさんは出されたコーヒーを早速一口飲んで少しだけむくれて返した。
ああ、空気がギスッてして来たなぁと感じた時、今後の展開と空気を読んだシェロンさんがまあまあと間に割って入って言った。
「しかし、せっかく来てもらったところ悪いが、今話し合っていることは大分複雑でのう。意見が出れも話がまとまらないし、戦いで心身の疲労もある者もおることに加え夜も遅くなっている故、そろそろ切り上げようと提案しようと思っていたのじゃが」
「シャルム国王様もケイオス先生も急な準備と旅でお疲れでしょう?本日はここにお泊りなさって下さい。即席になってしまいますがお食事もご用意します」
シェロンさんの言葉を受け、エクラも続いて今日はこれ以上話をしないことを提案した。シャルム国王とケイオスさんはゆっくりと顔を見合わせてから改めてこちらに視線を向きな直って口々に言った。
「そうね。確かに疲労はあるし、お言葉に甘えて休ませてもらおうかしら。ああ、申し訳ないけど、アタシは夕食は結構よ。夜9時以降は食べないって決めているの」
「俺も。今から宿を探すのも野宿も遠慮したいから、ここに泊らせて欲しい。んで、面倒をかけて悪いが俺は夕食を貰えるかな。パンと水だけでもいいんだ。急いで来たから何も食ってなくて」
2人の意見をうんうんと聞いてエクラは笑顔で返事をした。
「はい、かしこまりました!お泊りの部屋を2つ追加でご用意します。ケイオスさんには簡単なお食事をご用意しますね。明日用にほぐしておいた丸鶏の残りがあるのでそれでサンドイッチを作ります。お飲み物はコーヒーでいいですか?」
「おお、いいねぇ。ありがとう」
エクラの提案にケイオスさんが嬉しそうに頷く。そしてエクラはくるっとアストライオスさんに方に向き直って冷たい眼差しと声で言った。
「と、言うことでおじいちゃん。追加でお部屋のお掃除、お願いね」
「う、わ、ワカリマシタ」
肩を竦め、小さくなってカタコトで答えるアストライオスさんに均衡粒々の星の一族の威厳など欠片もも見当たらなかった。
その後、片付けのためすごすごと部屋を出で言ったアストライオスさんを見送り、今後の話は明日に置いておいて部屋が片付くまでは重たい話は一切なしにしようと言うシェロンさんの提案でまったりとした時間を過ごした。
そして片付けを終えてヘロヘロになって帰って来たアストライオスさんが戻って来たので、今日は解散しようと言う流れになり、それぞれが部屋用意された部屋に向かった。
基本は1人部屋で、シュバルツは一瞬俺と同室にしてもらいたそうに見えたが、不安を払拭する様にぷるるっと首を左右に振って「ボク、1人部屋で大丈夫」と鼻息を荒くして勢い勇んで1人部屋へと足を踏み入れて言った。怖がりで甘えん坊なところがあるシュバルツの自立に喜びと少しの寂しさを覚えた。
因みに、俺の肩の上が定位置のアムールは俺と同室が良いと主張したが、AIとは言え見た目や心情はどう見ても女性なので流石に同室は不味いと思い、断った。アムールはむくれて俺から離れようとしなかったが、その態度のイラッとしたシュティレに首根っこをつままれる形で連行されて行った。
そうして仲間たちを見送った後、俺も自分の体を休めるために部屋へと向かった。
「うう、何でだ……眠れない」
疲れを取るためにベッドに入ったは良いが中々寝つけなかった。決して部屋が散らかっているからとか、狭いと言うわけではない。寧ろ部屋の大きさもベッドの大きさも一般的な宿よりも広いぐらいだ。
いや、厳密に言うと俺たちがかな~り散らかっていたっぽいが、前もってエクラに説教されたアストライオスさんが魔法に頼りつつ全力で片付てたらしく、眠れないのはこの空間が問題ではない。
心も体も疲れきっていると言うのに、全く眠れないのだ。真新しいシーツの上で布団に潜り込み、目を閉じてゴロゴロと芋虫の様に寝返りを斬り返すこと数回と数十分、このままベッドに潜り込んでいてもミダと判断して俺は起き上がることにした。
『わぁ、どうしたの。急に起き上がって』
設定上では“俺のタブレット”であるため当然の様に俺と同室になって、ベッドで横になっている俺の真上で空中浮遊をしていた聖が、油断していたのか勢いよく起き上がった俺に驚く。
「いや、何か眠れなくて」
『なんで?今までもこんな感じの状況を経験してるでしょ。今更なにが不安なのさ』
聖が少しだけ呆れた声色でキョトンとして言った。親友が眠れないっていってるんだぞ、少しは心配しろよ。別に心配して欲しいわけじゃないけど、ドライな対応が過ぎるとちょっと悲しいと言うか寂しい。はっ、これが俗に言う“面倒くさい彼女”の気持ちなのか?
『ちゃんと寝なきゃだめだよ。特に君の場合はレベルも低いし、体力には人一倍気をつけないとダメなんだからね』
……これはもしかして一応心配してくれている感じか。ちょっと癇に障るワードもあったけど、ツッコむのも面倒だし、流してやることにしよう。
「それは分かってるけど、眠れないものは仕方がないだろ……この感じだと気分を変えた方が良いかもしれないな。ちょっと夜風に当たって来る」
『僕も行こうか?』
聖の何気ない提案に少しだけ考えてから俺は返事をした。
「いや、いい。俺一人で行く。1人でしんみりしたい気分だんだ。宮殿の敷地から出るつもりはないし、危険もないだろ」
『そう、一応気をつけて行ってきなよ』
「わぁってるよ。じゃ行って来る」
聖に送り出され、俺は1人で部屋を後にした。
当てもなく、ただ夜風を求めて適当に歩き続けて俺が辿り着いたのは中庭だった。その中央に位置する大きな噴水の縁に何気なく腰掛ける。
「静かだなぁ」
鳥の声と虫の声しか聞こえない空間でポツリと独り言が漏れる。宮殿全体は既に消灯しているため、月明かりと星明りしかないが、ここは町から離れているためかの月と星々の光が人工的な明かりに邪魔されることなく、己の光だけで十分に俺の視界を照らしていた。
暫くぼんやりと静寂の中庭でぼんやりと座っていると、暗くて冷たくて少し怖さを覚え始めたその時だった。
「クロケル様、こんなところでどうなされたのですか」
聞き覚えのあるおっとりとした声が聞こえてそちらを見やると、コツコツと軽やかな足音と共に月明かりに照らされて薄暗い闇からシルマがきょとんとして現れた。
「シルマ」
「はい、シルマです」
俺が名前を呼べば笑顔と弾む様な復唱が返って来て、夜の闇と静けさに支配されかけていた寂しさが心が和んだ。
「ちょっと眠れないから夜風に当たろうと思って散歩してたんだ」
「まあ、奇遇ですね。私もなんです」
理由を聞いたシルマが目を丸くした後、嬉しそうに微笑んだ。そして辺りをきょろきょろと見回した後、コテンと首を傾げる。
「アキラさんはいらっしゃらないのですか?」
「今は俺1人だな。と言うか、俺とあいつは腐れ縁だがニコイチじゃないぞ」
「あっ、すみません。いつも一緒にいらっしゃるのでお1人だと違和感があって」
そんなに俺は聖といるイメージがあるか。いや、よく考えたらよく2人してコソコソしてるしそう思われても仕方がないかもしれん。そう言えば生前も必要以上につるんでいるってクラスの女子たちに言われてその道の女子たちに色々妄想されてたなぁ。
あれ、俺と聖ってひょっとしなくてもちょっと気持ち悪いかんけいなのか。親友として普通に隣にいただけなのにまさかの普通じゃない感じ?
「ま、まあ、今は聖のことはどうでもいいだろう。良かったら隣、座れよ」
色々と思うことがあるが、今はそれから目を逸らそう。できれば深く考えない様にしよう。今更聖との距離を変えるのも変な話だし。向こうも変な
そんな思いを誤魔化すようにして、ポンポンと噴水の縁を叩き自分の隣に座る様に促せばシルマは何故か一瞬で顔を赤らめ「ぴゃっ」と小動物の様な泣き声を上げて体を弾ませた。
「ん?どうしたたシルマ。あ、服が汚れるか……待てよ、確かハンカチが」
「はっ、いえっこのまま座ります!で、ではお隣、失礼しますっ」
顔を真っ赤にしたまま固まったシルマに声をかけると、ハッと意識を取り戻してもの凄く動揺して声を上ずらせながらロボットの様なぎこちない動きで俺の隣に着席した。
「せっかくだから俺の話し相手になってくれよ。大した話題もなにもなくて悪いけど」
自分でも驚くぐらい行き当たりばったりの発言に苦笑いを浮かべるとシルマは首を勢いよく左右に振ってから、今度は首を力強く縦に振って言った。
「いえ!私もお話ししたいです」
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聖「次回予告!夜風に当たりに外に出たクロケルを待ち受けていたのはなんと!好感度上げイベント、もしくはラブコメフラグだった。レベルは全然主人公じゃないのに、こう言うところだけ主人公気質なのは本当にズルいぞっ」
クロケル「俺にはお前が何を言っているか全く理解できん。シルマと会話するだけでなんでラブコメフラグなんだ?お前は異性同士が会話してたら付き合ってるのって聞く輩か?」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第138話『いい雰囲気になった時に邪魔が入るのはラブ展開の王道です』いや、普通の状況ならそうは思わないけど、この状況はどう考えてもそうでしょ?」
クロケル「そうってなんだよ」
聖「ええぇ~、マジで言ってる?モテ男の余裕って癇に障るよね」
クロケル「別にモテてないと思うが……僻み過ぎじゃないか」
聖「無自覚なのが余計にムカつくよね、そんなんだから思わせブリな態度になるんだよ。もう少し自覚持つって言うか、分からないなら気をつけて行動した方がいいよ」
クロケル「ただ喋るだけでか?」
聖「いいなぁ、無自覚モテスキル」