第135話 美味たる食卓
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
昨日は投稿するのをすっかり忘れておりました……。ちょっと時間あるし、後でいいかな~と言う油断がダメでした……。
今度からは気をつけようと思います。最近は主に家の用事でバタバタしているので余裕のある時こそやるべきことはきちっとやらねばですよねぇ。
なんて言い訳は凄くどうでもいい。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
ライアーに対するイライラと、一旦は尋問が問題なく(?)終わったことへの少しの安堵感を覚えながら俺たちはエクラに案内されて宮殿内の食卓へと通された。
もしかして散らかっているのかもと思っていたが、流石に食べる場所はモノ1つ、塵1つなく綺麗に片付いていており、頑丈な木製で数十人は着席できる数十メートルある長い机と椅子に俺たちはぞれぞれ着席していた。
なお、ひとまずは戦いを終えたと言うこともあり、様々な事情を抱えているため別室で控えていたフィニィの半身改めツバキとアンフィニ、ミハイルも呼び寄せてここまでの報告をした。
ミハイルには本人から碌に話を聞きだ出ていないと嫌味を言われたが、捉えている以上いつでも話は聞けるとシェロンさんに宥めれて、フンと鼻を鳴らした後に口を閉ざした。
「ここはお客さん用の食卓だから、毎日あたしが掃除してるの。だから、衛生面でも安心してもらっていいよ。家族用の食卓はもう、ひどい有様だから今は使えないの。ごめんね」
エクラが温かいスープをそれぞれの前に並べながら、申し訳なさそうに眉を下げて言ったが、食卓がひどい有様ってどう言うこと。普通は調味料以外に置くものないだろ、何を置いたらひどい有様とやらになるんだ。
「わー!おいしそう。オレンジ色がきれいだね」
家族用とやらの食卓を想像して苦笑いを浮かべていると、隣に座るシュバルツが瞳を輝かせてスープを覗き込んでいた。確かにこのスープは良い匂いもするし、食欲をそそるとがシュバルツって毎回食への興味が半端ないな。
「赤河栗カボチャって言う品種だよ。オレンジ色がきれいで甘味があって美味しいんだよね~。どうぞ、先にスープから召し上がれ★あたしはサラダとかメインの料理も持ってくるから、遠慮なく食べてて。ああ、感想は教えてねぇ」
料理に興味津々なシュバルツを見てエクラは嬉しくなったのか、ウキウキとしながら軽くスキップをして厨房へと戻って言った。
「ふむ、エクラと食卓を囲めないことは非常に残念じゃが、可愛い孫が作ってくれたスープじゃ。温かい内に頂こうではないか。頂きます」
アストライオスさんはエクラが料理のために席を外していることを見るからに残念そうにしていたが、行儀よく手を合わせて食事の挨拶をしてからスープを口に運ぶ。
「我も頂こう。確かにこのスープは魅力的じゃしな!頂きます」
シェロンさんも元気よく両手を合わせてから上機嫌にスープを口にした。シェロンさんってこうして見てると普通の無邪気な子供なんだよなぁ。あくまで外見の話だけど。中身は推定数百年を生きる竜だけど。幼過ぎる外見のせいで未だにぞの事実が信じられない。
年長者2人がスープに手を付けたことを確認して、俺たちもご馳走になることにした。ぞれぞれが手お合わせて、必要なヒトは祈りも済ませてスープを頂く。
「甘くておいしいです」
「ああ、とても飲みやすいな。疲れた体に染み渡る優しい味だ」
シルマが感嘆しながら感想を述べ、シュティレも微笑みを浮かべて頷いた。シュバルツは熱さもあってか最初はゆっくりとスープを口にしたが、一口食べるや否やパァッと瞳を輝かせて瞬く間に飲み干し、いの一番に皿を空にした。勢いが凄かったが、それだけ美味しかったと言うことは伝わる。
かく言う俺もこのスープには感動を覚えていた。それはもう一口食べたら震えるぐらい。カボチャのくどくない、すっきりとした甘み、そして牛乳のまろやかな味がするりと喉を通る。
完全かつ丁寧にペーストされており、ドロッと感はほぼなく、とても飲みやすい。よくテレビの食レポで目を見開いて食べ物を口に入れた後に「ん~!」と言う反応をする芸能人がわざとらしいなぁと思っていたが、そんなことはなかった。これは目を見開いて声を出したくなるレベルの感動と美味しさだ。
『いいなぁ。見てるだけでも美味しそう~。僕も食べたいなあ』
スープを食べて幸せ気分に浸っている俺たちをやましそうにしながら、タブレットこと聖が周りを旋回する。ウザい、非常にウザい。
「アキラさんはAIですからお召し上がりになることはできないですものね……あ、写真をお取りになりますか?記録として残せば少しは食べる感覚に近いかと思うのですが……」
非常にウザくうらやましがる聖にシルマが気を遣う様にそっとお皿を差し出す。そうか、シルマは聖がマジモンのAIだと思っているのか。優しい気遣いが真実を知る俺としては申し訳ない。そいつはAIだから食べられないんじゃなくて、神に近い存在だから食べる必要がないだけなんだよ……。
『ありがとう~。シルマちゃんは優しいねぇ。大丈夫、写真じゃなくて動画で記録したから』
聖が軽い口調で御礼の言葉を述べたが、多分写真も動画も撮ってないな。記録をするほどうらやましくは思ってないのだろう。断り方が分からないから適当に流しているのが事情を知っている身からすればありありと伝わって来る。
「わたしもヒト食べ物を見るのは好きです。彩が綺麗だし、机の上の絶景って感じがしますよね!」
本物のAIであるアムールが話に入って来てアピールをした。これが偽りのAIである聖へのフォローなのか、本当に自分の趣味を伝えたかっただけなのかは分からないが、聖よりかは興味深そうにスープを眺めているので恐らく本心だと思われる。
そんな感じでエクラ特製のカボチャのスープにそれぞれが舌鼓を打って胃と心を休めていると、ガラガラとカートを押す音と共にエクラがここからは死角になっている厨房から意気揚々と姿を現した。
「お持たせ~、コース料理みたく順番に出そうかと思ってたけど、もうメンド~だからサラダもメインも一気に持って来ちゃった★」
テヘペロッと舌を出すエクラが引いて来たカートの上には今にも落下しそうなぐらいの量の大量の皿がギリギリのバランスを保って乗っていた。皿は盛りの料理で彩られ、美味しそうで魅力的な匂いと湯気を放っている。
「あ、お手伝いします」
「私も手伝おう」
もてなしにしても尋常ではない量の料理を見て、1人で皿を並べるのは大変だと思ったのか、シルマと主ティレが中腰になって手伝いを申し出た。
「いーのいーの。あなたたちはお客さんなんだから座ってて。配膳ぐらい簡単だから」
エクラが笑顔で申し出を断ったので、シルマとシュティレは顔を見合わせてから申し訳なさそうに座り直した。
その後、大量にあった手早く料理が並べられ、テーブルの上は名画ダヴィンチの『最後の晩餐』やセレブリャコワの『食卓にて』顔負けの料理が鮮やかな光景である。
「カートに乗っている時も量に驚いたが、こうしてテーブルの上に並べるとまた壮観だな……」
シュティレが食卓の上を見て呆然と感想を漏らす。確かにこれは圧倒されるレベルだ。
「ああ、肉に魚に野菜に果物……バランスも彩も完璧だ。これ、いつ作ったんだ」
エクラは出会ってからここまで戦って来てずっと俺たちと行動を共にして来たから、これだけの量と種類の料理を作る暇はなかっただろうに。
「サラダは野菜を切るだけだから直ぐに準備できるし、煮物系は作り置き。だからよく見ると食材も結構庶民的でしょ?彩と盛り方で誤魔化してるの。映えてるっしょ?」
えへへと笑って説明するエクラの発言通り、ポテサラや野菜の炊き合わせ、パスタはひき肉とトマトクリーム、キノコと生クリームの二種類。揚げ麺のサラダなど、料理自体は庶民派な俺でも見慣れたものが多かったが、盛り付け方はデパ地下顔負けのキラキラ感だ。
確か客から見て正面になる様に山を作ると商品の魅力度が増すと聞いたことがある。それにそれぞれの料理の中の具材がバランスの良い色合いになる様にいい感じにレイアウトされていてほぼ芸術である。
「でもこの丸鶏は突然用意はできないだろ」
テーブルの中心には漫画やテレビ越しでしか見たことがない、艶やかな茶色にローストされた丸鶏が存在感バリバリで存在していた。
作り置きはできないことはないが、こう言うものを作ろうと思うシュチエーションって大体パーティ系だろうし、エクラはアストライオスさんと2人暮らしだから晩御飯用にたまたま作り置きをしていたと言う可能性は低いだろう。
「ああ!メインはねぇ~おじいちゃんの未来予知で客人が来るって言ったから、じゃあおもてなしをしないとね!ってことで事前に仕込んでおいたんだ。持っているオーブンは特注品で魔法で遠隔操作ができるから、焼くタイミングもばっちりなんだ」
得意げに言うエクラだったが、焼くタイミングが遠隔操作できるってまさかフィニィやライアーと話し合いをしている時もずっとタイミングを計ってたのか?あのシリアスな空間で?だとしたらびっくりだよ。結構余裕あるじゃねぇか。
「クロケル、このお肉食べてもいいの?」
丸鶏を見るのは初めてなのだろう。戸惑い半分、興味半分と言った表情でこんがり美味しく仕上がった鳥を眺めていた。
「ふふ、今切ってあげるからね~。シュバルツくんは多めがいいかな」
「うん、ありがとう」
料理を見る度に興味を示すシュバルツの反応がよほど嬉しいのだろう。エクラは嬉しそうに笑い、鼻歌交じりで器用に丸鶏を捌き始め、大きな肉塊だった丸鶏はすっかりバラバラになって、それぞれの皿に並べられた。
「ソースは3種類ね!醤油ベーズの甘ダレ、タルタル風のソースに、唐辛子と花椒ベーズのタレはちょっと大人向けかな」
饒舌に説明しながら小皿を並べて行く。タレまで用意してるのか。それも手作りで。こだわりが凄いな。エクラって芸が細かいんだな。いや、デコレーションまみれの端末とか凝った髪型やファッションを見る限りこだわりが強い奴なんだとは理解できるけども。
配膳が終わり、エクラも席に着いたところで俺たちは捌いてもらった丸鶏に手を伸ばした。俺は全種類のソースをつけたみたが、どれも鶏肉との相性は抜群だった。
シュバルツは辛いタレが口に合わなかったらしく、一度だけつけてビビビッと体を震えさせて慌てて水を飲んだ後は手をつけなかった。うん、これはちょっと辛いからヒトを選ぶだろうな。俺は辛いの得意だからいけるけど。
こうしてゆっくりと食べ進め、時たま雑談しつつ、テーブルと皿に山盛りだった料理があっと言う間に空になった。
正直あの量を食べきれる自信はなかったのだが、想像以上に美味だったから遠慮なく食べてしまったと言う自覚はある。まあ、シュバルツとシェロンさんが一番爆食してた気がするが。
途中でエクラが2匹目の丸鶏を運んで来た時は正直引いた。エクラは「こんなこともあろうかと2匹めを用意していた」と得意げに笑っていたが、この少人数で丸鶏を2匹用意するって中々ないぞ。多分、彼女は料理を作ると楽しくなって作りすぎるタイプだと思われる。
「さて、腹も満たされたことじゃし、そろそろ会議を始めようか」
「会議?」
食後のデザートであるプルプルの杏仁豆腐を食べ終えた後、満足な表情を浮かべ紙ナプキンで口元を拭き、不意にアストライオスさんが発言したため思わず首を傾げて聞き返してしまった。
言葉の意図をなにも理解していない俺をアストライオスさんがジト目で見つめて来て、そして大きく溜息をついて、俺でも視界が改めて丁寧に言い直した。
「ライアーとフィニィの今後についてじゃよ」
その言葉を聞いた瞬間、美味しい料理で心も体も満たされていた俺の精神が一瞬で凍り付き、考えなければならない物事の多さを思い出して、せっかく幸せ気分だった胃が締まるのを感じた。
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聖「次回予告!おいしい食事も食べて小休止。心も体も満たされたクロケルたちは今後の行動について話し合うことになったんだけど……色々と難しそうだよね。特に精神的によわよわなクロケルはこの先が思いやられるよ」
クロケル「またてめぇはそうやって俺をディスる。誰が精神よわよわだ。ファンシーな方向にディスるな。いい加減泣くぞ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第136『今後の行動を考えたいけど良い案はありますか』でも身体も精神も強くはないよね?」
クロケル「う、まあ強くはないけども……」
聖「ほらぁ~」
クロケル「いや、ほらぁじゃなしに。お前の発言のどこに俺をディスっていい理由があると思ったんだ」
聖「でも事実を言うのとディスりは違うよね?僕は事実を言っているだけだよ?」
クロケル「おし、喧嘩だな。喧嘩をするんだな、かかって来いやァ」