第132話 語られる過去
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
気温が突然下がって夜は震えております。一応分厚い布団を2枚重ねにしていますが、寒い。住んでいる地域にもよるとは思いますが、冬に近づく度にこれだと地獄ですね。いっぱい着こんで寝よう……。
みなさまも変化する十分による体調管理には十分にお気を付け下さいませ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
罪の重みを知れとキツイ前置きに心臓がギクリとする。かつて世界を救った聖たち神子一行はその代償として前長の命を奪った。
だがそれは前長が世界の消滅を望み、それを阻止するために当時召喚された神子、新たな長候補の聖と戦って迎えた結末。別に聖が長に成り代わるために暗殺をもくろんだわけでもなく、お互いの思想をぶつけ合った上で迎えた結末だ。
どちらかの目的を果たすためにはどちらかが命を落とすって言うか前長が勝利していた場合は世界ごと消滅していたわけだが……。
何にせよ、ライアーもフィニィも聖たち神子一行が前長の望みを阻止し、命を奪ったことが許せないのだ。家族と言う立場から見れば当然な恨みの感情かもしれないが、関係のない立場の人間からすると逆恨みなのではないかと思わなくもない。
そんなことをモヤモヤと考えているとライアーは真っ白なシーツに視線を落としてポツポツと語り始めた。
「そうですね。何から話したものでしょう。妻は娘が幼い頃に流行り病でなくなりました。私は男で1つで彼女を育てて来たのですよ」
話すと宣言した後のライアーは恐ろしいまでに潔く、つい先ほどまでは全く話すつもりがなかったであろう自らの過去を滑らか話していく姿は意外だった。
いざライアーの過去を知れるとなると何だか緊張して来た。俺は前長の戦いに直接関わったわけではないが事情は知っているし、大分深入りしてしまった。何より親友が関わっている案件だ。全くの無関係とは言えない。
非常に複雑で微妙な感情を抱いたまま俺は体の中を冷やしながら心臓をドクドクと脈打たせ、緊張でカチコチになりながらライアーの言葉に耳を傾けた。
因みに、蛇足ではあるが話が長くなりそうだからとシェロンさんが魔術で木製の椅子を作ってくれたので俺たちはそれに腰かけて話を聞いている。魔術って何でもできるんだな。
「私たち親子はここよりずっと田舎の小さな村で平穏に暮らしておりました。当時は世界の治安も悪く、職にあぶれた方も多かったですが幸いなことに私はそれなりに収入のある職につけていたので、生活には不自由しておりませんでした」
『へえ、因みになんの仕事をしていたの?』
一応、ライアーへの尋問の場であるはずなのだが、聖が本筋とはまるで関係のない世間話レベルの質問をした。
俺と同じことを思ったのかその質問を聞いたライアーも一瞬「何を言っているんだ」怪訝な表情になったが、それを答えることに関しては特に問題も抵抗もないようで直ぐに返答した。
「とあるお屋敷の執事ですよ。流石に所在と雇い主の名前は言えませんが、当時の世界情勢を考えると信じられないぐらいの富裕層でしたよ。そう言う意味では職場環境に恵まれていたのかもしれません」
まさかの執事。いや、まさかでもないか。見た目も雰囲気も執事っぽいわ。丁寧な所作と物腰とかまさにそれとしか思えない。
「執事なのにナイフの扱いが上手いのはやっぱアサシンとしての役目も担っていたからなのか」
俺の脳裏に過ったのはシャルム国王の下で働くメイドと執事コンビ、エクレールさんとプロクスさんだ。あの2人も給仕とアサシン職を兼任していた。
二次元の世界でも給仕職は何故かアサシン設定なことが多いし、もしかしたらライアーも同じなのかもしれないと興味が湧いてきて、つい俺も本筋とはあまり関係のないことを聞いてしまった。ライアーの表情浮かぶ不満が深まった様な気がした。
「……先ほどから意味のない質問が続いている様な気がしますが答えるとするならば“YES”ですね。執事とアサシンの仕事を兼任しておりました」
「執事もアサシンもそう簡単に就けない職だと思うのだが、学んだり修行した経験はあるのか。貴様のステータスがジャミングされているせいで推測ができないんだ。それについても教えても答えてもらおうか」
こちらからの連続の的外れな質問のせいで早々に面倒くさそうな態度になりつつあるライアーにシュティレがそう質問を投げかけた。ライアーはようやくまともな質問が来たかと言う表情になり、やれやれとして口を開いた。
「私はアサシン適正がありますので、それを活かした職に就いたまでです。給仕の仕事については研修で何とでもなりますしね。アサシン業はともかく、給仕に関しては未経験可で就職ができるところも多いですし」
給仕の仕事にもやっぱり研修とかあるんだ……。でもそりゃそうか、家でする家事とかと違って特殊なこともそうだし。
ってか未経験可って……ファンタジーの世界ではあまり聞かない現実的な採用条件だな。が俺がいた世界と一緒じゃん。業種は特殊なものが多いけど条件はあんまり異世界っぽくないんだな。いや、異世界っぽいってなんだよ。などと一人ツッコミをしている場合ではない。
「ほう、あれだけ口を割るのを渋っていた割には普通に答えるのじゃな」
ジャミングをしてまで隠し続けていた己のステータスをあっさりと答えたライアーを意外に思ったのかアストライオスさんが少し驚いた反応を見せる。
確かにそれは俺も驚いたところである。魔術を駆使して隠していたことを捕虜になったからと言う理由でこんなに簡単に答えるだろうか。さっき答える質問は選ぶみたいな発言をしていたし、嘘だと言う可能性もあるかもしれない。
ライアーと言う存在が胡散臭すぎてさっそく疑心暗鬼になっていると、ライアーからはツンとした反応があった。
「何をおっしゃいますか。既に魔術拘束で魔力を奪われている身、既にジャミングは解かれているはずです。現状では魔術をかけ直すことも叶いませんし、これについては隠しても誤魔化しても無駄でしょう?」
私、無駄なことはしない主義なので。と張り付いた笑顔を浮かべながらライアーは言い切った。口調からして多分、魔術を使えなくされたことに対して相当ブチ切れていらっしゃる。
「そいつが言っていることは本当ですよ、ご主人様。今、アナライズしたところ魔族のヒト型でジョブは執事兼アサシンと言う情報が読み取れました。今はこちらが抑制していますが、魔術・身体能力にはアイテムによる強化が施されています」
『うんうん、スタータスばっりちり丸見え。レアリティは5。レベルは100か。あはは、予想はしていたけど、かなり優秀な性能だね。余裕もあるし、手強いわけだ』
アムールと聖が早速と言わんばかりに同時にライアーをアナライズをして情報を伝えてくれたがどちらもライアーが相当な実力者であると言うことを突きつけられるものであったため、途端に胃が痛くなってゆくのを感じた。
さらっと分析してるけレベル100って相当ヤバい数値だからな。特殊な拘束魔術と武器が取り上げられていて本当によかった。いつ寝首をかかれるか分からんレベルで恐ろしい。
「ほほお。レベルが100かつ性能も強化済みとは……そこまでして我らに復讐をしたかったのか?」
明かされたライアーのステータスに感心しつつも呆れた口調で聞くシェロンさんにライアーは少しだけムッとした表情を見せてきっぱりと言い返した。
「お言葉ですが、私のレベルも性能も娘を失う前から今のステータスでしたので。それなり給料を貰ってはいましたが、実力があるほど給与も上がりますので努力をしたまでです。勝手に想像をして勘違いをするのはおやめください」
「なぁんじゃ、そうじゃったのか。すまんすまん。お主の執着心が凄すぎてつい勘違いをしてしまった」
シェロンさんは思い違いをしたことを詫びたがヘラヘラとしていたので多分、自分が言った言葉に対しては反省していない。それに謝罪の仕方が心なしか軽い。
そんな態度に腹が立ったのだろうか、ライアーは真顔で数秒シェロンさんを睨みつけて小さく舌打ちをした後、すぐに胡散臭い笑顔を作って穏やかな口調で言った。
「でもまあ、娘を失ってから訓練を積んで色々な魔術や科学技術を身に着けたことは確かなので、あなたの言うことも強ち間違いではないかもしれませんね」
「ははは、やっぱり復讐を糧に力を上乗せしてんじゃねぇか」
結局のところ、復讐がきっかけで強くなったことが発覚し、先ほどの否定の言葉が全く意味をなしていないことについて思わず乾いた笑が出たと同士に思わずぼやいた俺にライアーは無言で微笑みを返して来た。おい、何か言ってくよ。無言の笑顔は怖い。
「しかし、小さな田舎の村で暮らしていた娘が何故、世界の長などと言う大それた立場になることのなったのじゃ」
ライアーの圧など痛くもかゆくもないらしいシェロンさんは小首を傾げて平然と次の質問へと移る。しかも割と重要なことをさらっと聞いているし。
だがそれはこの話の確信とも言える部分だ。質問には選んで答えると宣言したライアーは語ってくれるのだろうか、少しだけ不安を覚えながらライアーの反応を待つ。
「本人曰く、声が聞こえたそうですよ。私の意思を継いで欲しいと。当時の世界の長からね」
「当時の長?」
この質問は答えてもいいと判断したのかライアーはあっさりと返答したが、気になるワードが出て来たので無意識に言葉を疑問系で繰り返してしまった。
当時の長と言うことは聖と前長の前、先々代ってことだよな。何かややこしいことになってないか、コレ。
「そもそも長ってどうやって代替わりをするものなのでしょうか。今回場合、前長は先々代に“呼びかけられて”任に就き、そして“神子に倒されて”代替わりしたのですよね。まるで結末が異なりますが長になる定義って何なのでしょう」
「さあ、それを私に聞かれても答えようがございません。声を聞いたのは私ではなく娘ですので。娘を疑うつもりはないですが、声の主が本当に当時の長だったのかも不明です」
シルマが口元に手を当てて真剣な表情で唸る。ライアーはその言葉に対して肩を竦めて返事をし、娘のことを思ってか一瞬だけ寂しそうな表情を見せた。
そうか、世界を守る長ってずっと前から存在しているのか。長になったら不老となって通常よりは寿命が延びるっぽいが、代替わりと言う概念が存在していることに今更気がついた。
確かに疑問ではあるが、それについては多分詳しい人間がここにいる。と言うか長そのものがここにいる。解説は容易いだろうが聖は自分が長であることをかつての俺と仲間以外には隠しているし、今ここでは説明はしづらいと思うが……。
この中で唯一、真実を知っているであろう聖はそれを話すつもりはあるのだろうかと無言で宙に浮く聖の方を見る。タブレットの体であるため、表情も見えないし今は声も聞こえない。
表情が確認できないが自分が知る情報を言うべきか、言わざるべきかで悩んでいると言うことは伝わって来た。
俺個人としてはすぐにでも話して欲しいのだが、聖も長としての事情を抱えているのでそう簡単には話せない故の葛藤があると言うのもわかる。
しかし、気がついてしまったが世界の長よりも世界の理の方が立場的に上なんだな。何故そこが分けられている意味が分からんが。長が世界の全権限を持っている訳ではないと言うのがややこしい。
「それについてはここで考えでも仕方がないことだと思うぞ。長と言う存在は全てが謎に包まれているからな。それについては一度おいておいた方が良いだろう」
「そう、ですよね。関係ないことを口走ってしまい申し訳ございません」
その長がここにいるとは知らないシュティレが今は答えの出ない質問はすべきではないと指摘し、シルマは少し後ろ髪を惹かれる様子を見せながらも納得して先ほどの疑問を取り下げようとしたその時だった。
「……これはあくまで聞いた話。古くからの言い伝えみたいなものがとあるデータベースにあったんだけど」
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聖「次回予告!まさか長について語る日が訪れるなんて夢にも思わなかったよ。シルマちゃんたちだけならともかく、今はライアーもいるわけだからバレたらシャレにならないよ。だから、クロケルもフォローしてよね」
クロケル「フォローって言っても何をどうしろと言うんだ。長は基本孤立している存在なんだろ?お前がトチった時に変に俺が庇おうとする方が怪しまれるんじゃないのか」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第133『明かされる長の秘密』はあ……ライアーへの尋問じゃなかったの?なんで僕が暴露するカンジになってるんだよぅ」
クロケ「おお。めずらしく聖がしょげてる。本当に嫌なんだな」
聖「嫌って言うか、長についてはあんまり語っちゃダメだからね。話す時に神経を使うの」
クロケル「ははは、普段俺が戸惑いからの胃炎を起こしている気持ちが少しは理解できたか?」
聖「うわ、それを笑うとか性格悪っ!親友なら心配するところでしょ、ヒトデナシのロクデナシー!見た目だけ強いレベル1のモブ雑魚~」
クロケル「言いすぎなんだよ!どんだけ悪口で返してんだてめぇは!お前だって普段から俺に結構辛辣だろうが!」
聖「だって全部ホントのことだもん」
クロケル「だもんじゃねよ。腹立つ!」