第12話 氷壁の国、グラキエス王国への招待
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
今回は次回予告詐欺なしです!よかった……やっぱり少しだけ長くなった気がしますが(汗)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「クロケルさん、シルマさん、おはようございます」
次の日、俺たちが宿から出るとそこにはにこにこ笑顔のクラージュが背筋をピンと伸ばして立っており、俺はとてつもなく嫌な予感がした。
「まあ。クラージュ様、本日は王国へと戻る日ではなかったのですか」
シルマが目を丸くして尋ねればクラージュは弾むような声で返答した。
「はい。その予定です。ですが、その予定にちょっぴり変更がありまして」
「「変更?」」
俺とシルマが同時に同じ言葉を紡げばシルマは「んんっ」と喉を鳴らして深々と頭を下げて言った。
「昨晩は大変お世話になりました。今回の御礼がしたいのです。どうか我らが国、グラキエス王国にいらして下さい」
「はあ!?」
突拍子もない発言に俺は思わず声を荒げてしまうが、隣に立つシルマはとても嬉しそうに言った。
「グラキエス王国、氷壁に囲まれた自然豊かで美しい国と聞きます。一度行ってみたかったんですよね」
そして何か言いたげにこちらをチラチラと見て来る。うん。行きたいんだな。でもちょっと待ってくれよ。色々考えたい。
御礼、と言う言葉には正直興味がある。自分でも意地汚いかなと思ってしまうが、聖が当初予想していた通りの展開にちょっと期待はしている。
でもなあ、このまま関わり続けるとなんか変な縁ができる気がするんだよなあ……。二次元の世界において、こう言うケースは完全にパーティが増えるフラグなんだよ。このまま城について行って、国王に御礼の言葉なりなんなりを頂いた後に「その実力を見込んで頼みたいことがある」みたいな展開が待っているんだ。
そして「クラージュを同行させるから我が依頼を解決してきてはくれないか」みたいな展開になるんだよ。大概は!
だめだ。そんなことになっては俺がレア5でレベル1と言う笑うしかない事実がどんどん余計なところへ露呈して行く……。こんな悲惨で惨めな俺の現状をもうこれ以上誰にも知られてなるものか!
「クロケル様、どうかされましたか。ご気分が優れないようでしたら私の回復魔法で……」
今度予想される展開を妄想して無言で震える俺をシルマが気遣う。回復魔法を使おうとしたので慌てて止める。精神的ダメージを受けているだけなのに無駄に力を使わせるわけにはいかない。
「大丈夫だ。ありがとう、シルマちょっと考え事をしてただけだから。心配しなくていい」
「そ、そうですか」
きっぱりと断ったせいか、シルマは納得のいかない様子でおずおずと引き下がった。悪いな、シルマ。こう言う相談はお前にはできないからな。できないと言うか理解してもらえないだろうし。
「あの、いかがです?グラキエス王国へと来ていただけませんか」
最初に意気揚々と発言した後、俺の余計な妄想のせいですっかり存在を忘れ去られていたクラージュが遠慮がちに声をかけてきた。
いかん。思わず彼女を無視する形になってしまった。とりあえず返事をせねば。
俺は今後のことを必死で考えて、大分熟考して決断をした。
「それじゃあ、お言葉に甘えて、お前と一緒に行かせてもらってもいいか。グラキエス王国に」
俺は十分に考えた結果、王国行きを決めた。俺が想像した未来はあくまで仮説、と言うより妄想に近い。実際に待つ未来とは限らない。
だが、御礼と言うのは確実に約束された未来だろう。聖やシルマの話ではグラキエス王国は大きな国らしいし、御礼とやらに期待ができる。今後の俺の人生にプラスになる様なものが貰えるかもしれない。
御礼目的と言うのは少し情けない気もするが、俺は自分に正直に生きたい。変に遠慮はしたくない。貰えるもんは貰う。この世界で生き残れる確率が上がるのであれば何だって縋るさ!!
俺の真っ黒な思惑はさて置き、YESの答えを出せばクラージュの瞳がきらりと喜びに煌めき、ガッツボーズをしながらうんうんと嬉しそうに頷いた。
「はいっ!共にグラキエス王国へ向かいましょう!もちろん、君もね」
クラージュは俺の背後で張り付く様にしながら様子を窺う影を覗き込む様にして言った。俺の肩にしがみつくようにして震えるのは、外見年齢が高校生ぐらいの少年。
髪色、瞳の色、服と、肌以外はとにかく頭の先から足の先まで全身真っ黒のその人物の招待は昨晩騒ぎを起こしたモンスター、カゲボウズだ。
なお、肌は陶器の様に真っ白である。モノトーンと言う言葉を全身で表現しているキャラクターだ。
国王の擬態に失敗したはずのカゲボウズが何故、全身黒ずくめの少年の姿をしているのかと言うと、その理由は俺にある。
昨晩、俺が聖に提案したこと。それは前世の二次元のキャラクターの情報を引っ張って来ることは可能なのか。可能であれば、適当なキャラを見繕ってカゲボウズにそのキャラの情報を与え、擬態させる。というものだ。
なお、俺が二次元のキャラの姿を選んだ理由は「実在しないから」だ。下手に実在する人物の姿を投影しまうとドッペルゲンガー的な事態を招く恐れがあるからだ。二次元のキャラはどの時空にも実在しない。カゲボウズがドッペルゲンガーになることもない。我ながら良い考えだと思う。
聖はふたつ返事で了承し、チートの能力を使い、時空の狭間で混在する情報をかき集め、見事それを夜の内に成し遂げて見せた。
しかし、自分で申し出ておいてこう言うのもアレだが、ほぼ不可能だろうと思っていたのだがまさか本当に実現させるとは……さすがこの世界の長。なんでもありだな。能力に格段の差がある。
因みに、カゲボウズに与えられた姿は前世で俺の世界に存在していた超絶人気アニメ「青春奇譚妖怪学園」に出て来るキャラで、名前をまさに影坊主。
ただ、この世界のカゲボウズとは異なり、戦闘能力はそれなりに高い。影がある場所であるなら全ての影を操る事ができ、例え影が消えるほどの闇に包まれた場所であったとしても闇を影と見なして操る。
普段はクールで一匹狼。どこか儚く、ぼんやりとした視線が印象的で、淡々としたところが特に女性人気を集めている。そのキャラの声、技、動き、能力などを一晩かけてカゲボウズに見せ、その姿を擬態させた。
そうやって面倒を見てやったせいかこいつに妙に懐かれてしまい、俺から離れなくなってしまったので放置することもできず、とりあえず今後しばらくは行動を共にすることになったのだ。
先ほど確認してみたところ、一応声は出せる様だが戦闘能力は未知数だ。ただ、昨晩のこともあってか今はクラージュに完全にビビってしまい、せっかく新しい姿を手に入れたと言うのに一言も話せていない。
「ほら、シュバルツ。挨拶しろ」
この姿になってから簡単な顔合わせは済ませてあるが、このカゲボウズ、奥手なのか怖がりなのか、中々俺の後ろから出ようとしない。このビビり体質、コピーの元となった「影坊主」とは真逆である。
と言うか、なんで俺には安心感を覚えてるんだ。俺がレベル1でこの中で一番危険性がないと判断しているのか。もしそうだったらちょっと悲しいぞ。
「お名前、シュバルツくんにしたんですね。とてもいい名前だと思います」
俺の言葉を聞いたシルマが微笑む。それに対し、俺は満足そうに微笑み返した。
「だろ」
シュバルツと言う名は俺が命名した。日本語訳だと単純なものも外国語に変換するとそれなりにかっこいい言葉になるんだよな。
成り行きとは言え仲間になったわけだし、いつまでもカゲボウズと言う種族名じゃかわいそうだしな。
「よ、よろしくお願いします」
カゲボウズ、シュバルツは俺の肩越しに小さな声でそれだけ言うとぴゃっとまた俺の背後に身を隠す。
「おい……」
俺が擬態させたキャラ「影坊主」は見た目はクールなイケメンの中高生。そんな人物がこんな子供みたいな行動を取るのはいかがなものか……。
10代男子にべったりとくっつかれている成人男性(俺)って傍から見たら滑稽すぎないか。親子でもこんなことしないと思うが。
ビビりまくっているシュバルツに俺が呆れているとクラージュがあははと笑った。
「相当恥ずかしがり屋の様ですね。ゆっくりと慣れて言ってもらいましょう。ではその子も共に参りましょうか」
こうして、俺たちはクラージュの招待でグラキエス王国へと向かうことになったのだが……何か違和感があるな。いつもなら会話のどこかで聖が茶化すところなのに、やけに静かだ。
「どうした。聖、なんかいつもより静かだな」
『あ、なんでもないよ。ほらぁ、よかったね、クロケル。御礼が貰えるかもしれないって言ったでしょ』
ここまで黙って宙に浮いていた聖に声をかけてみればいつもの調子で軽口を叩いたが、いつもよりテンションが低いと言うか、乗り気じゃない感じがする。
こいつの軽口は基本的にはウザいし、正直イラッとするがそれがないならないでちょっとだけ寂しいと言うか心配になる。体調でも悪いのか?いや、そもそも世界の長って健康管理する必要があるのか。
その辺りの事情はよく分からないがまあ、本人が何も言わないのなら仕方がないよな?
そんなこんなで話もまとまり、俺たちは出立。本来なら馬車や馬を使う予定だったらしいが、グラキエス王国はここよりうんと遠い北の大地にあるらしく、今回は王国と連絡を取り、自家用ジェットなるものが用意された。なんでもこれを使えば北の大地までひとっ飛びだとか。
『わぁ、これ知ってる。マッハ2ぐらいある飛行機だよ』
調子を取り戻したのか、聖が興味深そうに飛行機の周りを飛び回る。
いや、マッハ2て。まさかの音速。コンコルドかよ。
規格外に早い飛行機に乗り込み、俺たちはあっという間に北の大地、氷壁の国グラキエス王国へと到着したのだった。
「うーん。本当にあっという間だったな」
「あんなに速い乗り物は初めてでした!良い経験です」
シルマはもの凄くはしゃいでいた。うん、こう言うところは相変わらずかわいいの一言に尽きる。
あと、シュバルツが未だにびったりとくっついて離れない。身動きが取れないので割とつらい。
そして聖がまた静かになっている。思う事は色々あるが、ともかく何事もなく目的地には到着したのだ。良しとしよう。
しかし、本当にもの凄く短い旅だった。そう思いながら飛行機を降りた俺は驚愕した。ふわっと風がいて少し肌寒さを感じ、ふと見上げればそこには数百メートルはあろう氷の壁が領地全体を包み込むようにしてそびえ立っていたのだ。
「ひ、氷壁の国ってそう言うことか」
とんでもない圧力を感じるその氷壁を、俺は大口を開けて見上げていた。シルマも「ほぇー」と言いながら氷壁を見上げている。
そして俺たちの正面には氷壁と同じぐらいの大きさの巨大な氷の門が構えていて、その傍らには銀の甲冑を着た体格の良い2人の門番が武器を片手に佇んでいた。
色々な光景が目に入り、開いた口がふさがらない俺たちの前に回り込んだクラージュはとびきりの笑顔で言った。
「ようこそ!グラキエス王国へ!まずは国王さまにご挨拶ですね」
「はあ!?」
国王に挨拶、というパワーワードに動揺した俺は大きな声で叫んでしまった。自分の声が氷壁に当たって反響して辺りに響き渡った。
門番にめっちゃ見られた。ってか睨まれた……恥ずかしかった。
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シルマ「次回予告です。えっと、ついにグラキエス王国に到着しました。雪や氷が美しく輝くその場所で私たちはなんと、国王様にお会いすることになったのです」
クロケル「え、なんでシルマが次回予告してるんだ」
シルマ「それが、アキラさんからなんか乗り気じゃないから変わって欲しいと言われまして……あっ!次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第13話 『美しき氷の王への謁見』国王さまにお会いできる機会なんて中々ありません。楽しみですねっ」
クロケル「うん、まあ。そうだな」
聖「ああー、僕も謁見しなきゃダメかなぁ」