第128話 食はいつだってヒトの心を温かくするものです
本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
先だって大食い番組を見ていた際、モンスターカレー食していたファイターの方が味変と称して福神漬けを小壷ごとひっくり返して食べた際に見ていた芸人さんが「自ら量を増やしに行った」と言ったことに対して「???」ってなりました。
家族に「福神漬けの量が具としてプラスされたってことだろう」と言われてようやく理解。えっ、でも私福神漬けをたくさん入れてもお腹が膨れたことないですよ?(いっぱい入れるのは家庭内のみです)
最近話題のコメダさんでもボリュームがあるとは思いますが「多い」と思ったことがなく、友人の「お前チビガリなのにどこに入ってんの。全身が胃なの?」と言う腹立つ言葉が冗談ではないかもと思い始めた今日この頃です……。
はい、また日記を書いてしまって申し訳ございません(汗)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
アストライオスさんに続き、また空間が曲がりくねった迷路を進み、俺たちはフィニィを保護している部屋へと辿り着いた。
シュバルツの腕の中でスッと息を飲み、緊張するアンフィニに構わず、アストライオスさんは勢いよく扉を開いた。いやもう少しアンフィニに心の準備をさせてやれよ。
扉が開けはなられた先には、体を光の輪に拘束されたままベッドに大人しく腰掛けるフィニィの姿があった。
虚空を見つめぼんやりとしていたが、俺たちが入って来たことに気がつき、ゆっくりと視線をこちらに映した。
1人1人をゆっくりと見つめ、最後にアンフィニと目が合ってピクリと眉が動くのが分かった。ぼんやりとしていた表情が一瞬で嫌悪に変わり、何か言いたげに唇を噛んだ後に忌々し気にアンフィニを視線から除外した。
その表情も目も、すっかり疲れきっているのがわかる。頬には僅かに涙の痕も確認でき、俺たちが外で戦いに挑んでいる間にも相当精神を疲弊していたことが分かり、彼女を無理矢理捕らえてしまったことへの罪悪感が今更ながら湧いて出る。
「気分はどうじゃ。食事を食べる気にはなったかの」
衰弱とまでは行かないが、すっかり覇気がなくなってしまったフィニィに最初に声をかけたのはアストライオスさんだ。
その言葉を受け、待ってましたと言わんばかりにエクラが筋肉粒々で無駄に体がデカいアストライオスさんの背後からひょっこり顔を出した。手には両手で持つのがやっとの大きな銀色のお盆を持ち、その上にはクロッシェが被された何かが乗っている。
「じゃーん、実は用意して来ました!敵さんでも苦しい思いはさせたくないもんね!キチンと食べなきゃだめだよ」
そう言ってエクラは別途サイドにあったテーブルを引き出してその上にお盆を置いた。俺たちを見ていたフィニィの視線が自然とそちらに移る。
ここへ向かうことになった際、エクラが何やらキッチンらしきな場所へ消えて行ってゴソゴソとしていると思ったらドでかいクロッシェを手に戻って来たので驚いたが、フィニィの食事だったんだな。
「……いらないわ。敵からの施しは受けたくないし、毒が入っているかもしれないもの」
フィニィはテーブルに乗るそれからすいっと視線を逸らして、淡々と素っ気ない態度で拒絶した。
「はあ!?めっちゃ失礼なんですけど!毒なんて入れるわけないでしょ。めっちゃ頑張って用意したんだから食べてもらわない困るんですけど」
せっかく用意をした食事をあっさりと拒絶されたことに苛立ちを覚えたエクラは眉間に皺を寄せ、声を荒げたがフィニィは抑揚のない声で言い返してきた。
「いらない。それに体を拘束されている状態でどうやって食事を取れと言うのかしら」
「ん?飯を食うのであれば拘束のタイプを変えてやるぞ。光の腕輪タイプでどうじゃ」
アストライオスさんがパチンと腕を鳴らすとフィニィの体を縛り付けていた光の輪が腰回りと足だけになり、腕が自由になる。しかし、その左右の手首には光の輪がブレスレットの様にしてまとわりついている。
「これで手は動かせるじゃろう。腕輪の効果は先ほど体に巻き付いていた輪と変わりはないから抵抗は無意味じゃぞ」
「抵抗する気なんてもう失せたわ」
いともあっさりと対応されたことが悔しかったのか、フィニィはプイッと目を逸らし苛立たしそうに言った。
「よし、じゃあこれで食べられるよね!四の五の文句を言わずに食事を取りなさい」
エクラは頷き、有無を言わさずクロッシェを開けた。その瞬間、捕虜部屋にふわっと美味しそうな匂いが広がった。嗅ぐだけでうま味を感じるこれは鶏ガラだろうか。ほんの少し魚介の香もする感じる出汁とほのかに甘い香りにこちらの心まで癒される。
「わ、いい匂い」
俺の隣で様子を窺っていたシュバルツが湯気と匂いに吸い寄せられる様にしながら身を乗り出す。確かに、この出汁の匂いは食欲をそそる。
「でしょー!あたしが得意なのはお菓子作りだけじゃないんだよ。ちゃーんと普通のご飯も作れるの。誰がおじいちゃんの健康管理をして来たと思ってるの」
「エクラは飯も菓子も絶品じゃからな。特に飯は3食筋肉に良いメニューを作ってくれておる故、筋肉も体力もついて常に体が万全の状態じゃ、ははははは」
自分の料理に興味を示したシュバルツを見て嬉しそうにするエクラの隣で、自分は褒められたわけでもないのに何故かアストライオスさんが得意げに胸を張って笑っていた。
3食筋肉にいい食事ってなにさ。エクラはアストライオスさんのパーソナルトレーナーか何か。本人の努力もあるかもしれんがご老体にこれだけモリモリの筋肉をつけるなんて中々の管理能力だぞ、家庭的を通り越してプロじゃねぇか。
「でも、美味しそうな匂いですね。わあ、これはお粥ですね!あら、お米の他に何か入っていますね」
シルマも興味深そうに皿の中を覗き込む。俺も匂いにつられる形で上から皿を覗き込んだ。他人の食事の皿を覗き見るなんて良くない行為だとはわかっているが、この匂いの誘惑には逆らえない。
少しの遠慮を覚えながらも興味津々で覗き込んだ皿の内容はシルマの言う通りお粥で、ふわふわの卵と細かく刻まれた人参、シイタケの他に米とは異なった、少してろんとした柔らかい何かが入っている様に見えた。
「何だこれ……パン?」
「違うよー。お麩が入ってるの」
「お麩!?」
お粥にお麩とは個人的に珍しい。と言うか異世界にお麩が存在していることにまず驚きだ。“異”世界ってぐらいだからもっと食べ物とかも非現実なもので溢れていると思ったけど、意外と俺たちといた世界と変わらないんだな。
魔術やモンスターがいるところはいかにもファンタジーって感じだけど、特に食べ物に関しては結構俺たちがいた世界に近しいものを感じる。個人的には得体の知れなものを食べなくてすんでいるので助かっているが。
転生前の世界と今現在生きている異世界との食文化についてぼんやりと考えていると、お麩と言う言葉に反応した俺に対してエクラが丁寧に解説をしてくれた。
「そうだよ、お米を少な目にしてお麩を入れると糖質が抑えられるかなって思って」
お粥を食べるのに糖質とか気にするのか。俺なんてお湯に顆粒の出汁とごはんを適当にぶち込んで梅干し入れて食ってたわ。
『中華粥みたいなものかな。出汁もしっかりめだし』
「中華?が何を指すかは分からないけど、確かに味は濃い目かも。ああ、病気をしているヒトには薄味で作るよ。でも今回は栄養をつけてもらうことが目的だからね。具も味も栄養優先で作ってみたの」
「いいな、ボクも食べてみたい」
素直なシュバルツが己の感情を正直に吐露し、それを受けたエクラが気分よく笑って言った。
「あははは、そんなに美味しそうに見える?めっちゃ嬉しい~。材料はまだあるし、ゴタゴタが片付いたらシュバルツくんにも作ってあげる。あ、お粥じゃなくてフツーのご飯でもいいよ」
「ホント!?ありがとう。エクラ」
快い厚意の言葉にシュバルツが目を輝かせて感謝の言葉を口にするとエクラは「かわいいなぁ」と呟いてシュバルツを見て微笑んだ。
シュバルツと和やかにそんな約束を交わした後、こちらから視線を逸らしたまま動かないフィニィに向き直り少しだけ強めの口調で話しかけた。
「ねぇ、せっかく持って来たんだから、一口ぐらい食べなよ。ホントに毒なんて入ってないし!ほらっ」
エクラはまだ温かいお粥をレンゲで掬って自分の口へと運び、一瞬熱さに耐えながらもそれをゆっくりと飲み込んだ。
「ね、大丈夫でしょ。だから食べてなよ、お腹が空いてるとまともに話し合いもできないでしょ。それに、自分の目的を果たすまで死にたくないんでしょ。なら食べなよ」
エクラはこの展開を予想していたのか、元々用意していた新しいレンゲをフィニィにずいっと押し付けるようにして差し出した。
目的を果たすまで死にたくないのだろうと問われた瞬間、フィニィがピクリと反応し視線がエクラに戻り、2つの視線が交差する。フィニィの視線はそのままお粥に移った。
フィニィが湯気が立つお粥をとにらめっこすること数秒、あんまり放置するとせっかくの温かいお粥が冷めてしまうのではないかと心配になって来た、その時だった。
「……」
「あっ」
ついにフィニィフィニィが自らレンゲをとり、俺は驚きから思わず漏れてしまった声を慌てて塞いだ。
食べるべきか、食べざるべきか葛藤している様で、レンゲを手に取ったままフィニィはまた数秒ほどお粥を見つめ続ける。
施しを受けることを抵抗していたフィニィがようやく食べることに前向きになったのだ。無理に急かしてまた意固地になられても良くないと判断した俺たちは、冷めゆくお粥が気になりつつも黙ってその行動を見守った。
「はぁ……」
視線が自分に集中していることもあってか、フィニィは悔しそうに或いは鬱陶しそうな溜息をついた後、意を決する様に短く息を吸い、そして止めてレンゲでお粥を少量救いそれを口に素早く運んだ。
割と勢いよく口に含んだ様に見えたが問題なく咀嚼できるぐらいには冷めていた様だ。もう冷めたかなって思って口に含んで大惨事、とかあるもんなぁ。たこ焼きとか小籠包とか、何回食べても地獄を見る。
「どう、美味しいでしょ」
エクラがコテンと首を傾げてワクワクとしながらフィニィからの感想を待つ。そんな視線を向けられていることを感じたフィニィは眉間に皺を寄せて食べにくそうにゆっくりと咀嚼を続け、そして小さな喉でこくりと飲み込んだ。
「……確かに毒は入っていない様ね。不味くもなくてよかったわ」
フィニィから返って来た言葉は素直さの欠片もない素っ気ないもので、それを来たエクラの表情があからさまに不機嫌になる。
「ええ、なにそれ~。こっちが勝手にしてることだし、感謝しろとは言わないけどさぁ。もうちょっとマトモな感想をくれてもいいんじゃない?」
ぷくぅっとフグよろしく頬を膨らませるエクラを真っすぐ見つめて、フィニィは素っ気ない態度で淡々として言葉を返した。
「不味くないって言ってるでしょ。それに、そんなにじっと見られていたら食べにくいし、まともに味わえないわ。自分の行動を考えてから発言したらどうかしら」
「む、むむっ。確かに食べているところをガン見されるのはあたしも苦手だけどぉ。そう言う言い方は良くないと思うんですけどー!一言ぐらい感想ぐらいくれてもいいじゃん」
ズバリと指摘をされ、自分の行動があまり良くないものだと気がついたエクラは痛いところを突かれて言葉を濁しながらも、やっぱりキチンと感想は欲しいのか不満を口にした。
「感想なら言ったでしょ、不味くない。これが私の感想」
フィニィはツンとして答え、再びレンゲを口に運ぶ。少量ずつ、ゆっくりではあるがお粥は着実に減って行った。もしかして結構気に入ったのかもしれない。それを口にすればまた否定の言葉が帰って来そうなのであえては言わないが。
そしてフィニィの行動を黙って見守ること数分。フィニィは無言で食べ進め、皿の上のお粥はすっかり空になった。レンゲにも米粒1つ残っていない。
「やった!完食。めっちゃ嬉しい。作った甲斐があったよ」
感想は貰えなかったものの、完食してもらえたことが嬉しかったのかエクラは上機嫌に鼻歌を歌いながら皿を下げる。フィニィは口元を紙ナプキンで口元を拭きながら何も言わずに俺たちから視線を逸らした。
とりあえずフィニィの腹ごしらえは終わったものの、ここからどう話合いに持って行くかが大事かつ大変なところである。
漫画やアニメだったら温かい食事を提供されたことによって相手の気持ちがほぐれて話合いに応じてくれる、と言う流れになるだろうが現実はそう都合よく話が動くわけが……。
「話」
「えっ」
短い単語が聞こえたが意味が汲み取れなかったので俺が聞き返すとフィニィは逸らしていた視線をこちらに戻して声を大きくしてもう一度言った。
「話を聞きたいんでしょ。してあげるわよ」
あった。めっちゃ都合のいい展開になった。え、なんでどうして……食の力凄すぎない?そんなにヒトの心に影響を与えるものなの?もうほぼ魔法じゃん。
『おお、えらくあっさりだねぇ。全然こっちと対話をする気がなかったのにどう言う心境の変化?』
あえて空気を読まない系の聖が直球の質問をぶつけると、フィニィはそれを冷静にキャッチして特に気を悪くする様子もなく答えた。
「私は捕虜なんでしょ。どうせ話を聞き出すまでここへ来る予想はついているし、そう言うのウザいから早く済ませたいの。話す内容はこっちで判断させてもらうけど」
捕虜になったから必要以上の抵抗するのは諦めた、と言うことだろうか。彼女の言葉から察するに質問の全てに答えるつもりはない様だが、少しでも話が聞けるのは良いことだ。
アンフィニとの和解の件もあるが、これはまだ様子見だな。フィニィの怒りのスイッチはアンフィニと神子一行にあるっぽいし、せっかく落ち着いている精神が暴走したら台無しだしな。
俺は皆に目配せをして今から質問をすると言う意志を見せた。仲間からは頷きが返って来たので、フィニィの地雷を踏み抜かない様に、慎重に言葉を選んで質問をした。
「じゃあ、まずは基本的な質問から。お前は神子一行に復讐を果たすため、ずっと単独行動をしていたのに、どうしてネトワイエ教団に入ったんだ」
ライアーは俺たちの目の前でフィニィを教団にスカウトした。あの時フィニィは精神的負担からひどく暴走し、最終的には放心状態に陥っていたが割と素直にスカウトを受け入れていた様な気がする。
アンフィニィによればフィニィは随分長い間、神子一行に復讐するためだけに兄妹で修行や暗躍を続け、時に励まし合って生きて来たらしいし、そんなに意志が強いのにポッと出の意味不明サイコ教団のスカウトに応た真意がわからない。そう言う理由で俺はこの質問を選んだ。
話の都合上“神子一行”と“復讐”と言うワードを出すことになってしまい、少しハラハラしたがフィニィは特段心を乱すこともなく、少し考える素振りを見せてから答えた。
「最初にスカウトされら時はあなたたちとの戦いで精神が疲弊していたし、思考が回らなかったのかもね。何となくスカウトを受け取ったのかもしれないわ」
「ほほう、なら精神が落ち着いた際に思考も冷静に回るようになったじゃろうに。何故そのまま教団に居続けたのじゃ」
シェロンさんが首を傾げて疑問を口にするとフィニィは迷いのない真っすぐな声で即答した。
「だって、ライアーは私の気持ちを一番理解してくれているもの。それこそ、お兄様よりもね」
この部屋に入ってから完全にだんまりを決め込んでいるアンフィニを呆れた視線でチラリと見やる。不意にな名指しをされたアンフィニはビクッと体を震わせフィニィを見つめ返したが、彼女は冷たく視線を逸らした。
「気持ちを理解ってどう言うことだ。ライアーがお前をスカウトしたのは人工魔術師としてのお前の力を利用しようとしたからだろ」
絆の修復を望むアンフィニには気の毒だかここは話を進めるのが先だ。俺が更追及すると、フィニィは意味ありげににやりと口角をあげて言った。
「そう、やっぱり知らないのね」
ライアーにはまだ秘密が多い。フィニィの一部であるはずのツバキでさえ、その素性は分からなかったと言のに、この口ぶりからすると彼女は確実に重要な何かを知っている気がする。しかし、それを俺たちに明かす気は果たしてあるのか。そう思いながらも俺は恐る恐る聞いた。
「し、知らないって何が」
言葉の先が気になり、すっかり緊張してしまっている俺たちを楽しそうに見つめ、フィニィは小さく笑ってからとんでもない事実を口にした。
「ふふ、知らないなら教えてあげる。ライアーは長様のお父様なのよ」
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聖「次回予告!対話に応じたフィニィの口から出た衝撃の事実。前長とライアーが親子関係にあったとは一体どいうことなのか。謎に包まれたライアーの過去と彼が抱える渦巻くドス黒い感情の正体がついに明かされる!」
クロケル「うん、まあ……今思い返したらそんな感じのフラグは立っていた様な気がしなくもない……何か人間関係がこんがらがって来たって言うか、世間が狭すぎだろ。なんでこんな身近でおもしろいぐらいに偶然が重なるんだ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第128『話し合いが叶っても解り合うのは容易いことではありません』僕もビックリだよ。でもここまで身近な場所でピースが揃っていればこの案件はスピード解決しそうだし、そう言う意味では助かるよね」
クロケル「お前、めっちゃ前向きだな。もうちょっと動揺とかしないのか。一応、未来視は使ってないんだろ」
聖「うん、使ってない。だからこの展開は新鮮で面白いし、しっかり驚いてるよ」
クロケル「だとしたら大分呑気な奴だぞ、お前」