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第127話 束の間の休息

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


以前も書いた気がしますが私は自分の作品を「誰か1人でも多くの方に楽しんでもらえたらな」と言う意識はあるのですが、ブクマ数など厳密でシビアな評価は逐一チェックはしないし、気にしない馬鹿者なのですが、先だってたまたま見て驚きました。


ブクマ数20だと……。いや、他の方と比べると多くはないと思うのですが、まさか自分の作品につくとは思ってもみなかった数に驚いております。


大変光栄に思っております。ブクマして下さった方、この作品に興味を持って頂いた方、誠にありがとうございます。少しでも面白い作品と慣れる様に努力していく所存でございますので、いつか訪れる最後までお付き合い頂けますと幸いです。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「うわ、眩しっ」


 アストライオスさんが軽く指を鳴らした瞬間、真っ暗だった空間が一瞬で掻き消えて辺りに光が戻った。


 暫くぶりの光を目にしてせいで一瞬目が眩んだが、直ぐに目が慣れて元の場所、つまりはアストライオスさんの宮殿の前に戻って来ていたことが確認できた。


 元の時空に戻れたことにホッとしたのも束の間、結界を解いて早々シルマの魔術である程度は回復したものの、未だに意識を取り戻さないライアーを見下ろしてやれやれと言った風に言った。


「こやつも捕虜部屋かのぅ。意識が戻った後にゆっくりと話を聞こうではないか。もちろん、先に捕らえている少女とは個別にな」


「ああ、万が一何があっても言い様に我も同席させてもらうぞ。シュティレ、その男を運べ。大丈夫だとは思うが細心の注意を払えよ」


 アストライオスさんの言葉にシェロンさんが頷いて、そしてすっかりショックから立ち直り、冷静さを取り戻したシュティレに指示を出した。


「はい、かしこまりました。シェロン様」


 命を受けたシュティレはお手本のような綺麗な角度で一礼をした後、力なく横たわるライアーを片手でいとも簡単に肩に担ぎ上げた。


 うわぁお、力持ち~。と、緩く驚いてはみたものの、待ってお前どんな怪力してんだよ。確かにライアーは細身だが意識を失っている壮年の男性を肩に担ぎ上げることが出来る女子がいてたまるか。


 女性でゴリマッチョの恰好いいタイプならそれも可能かもしれんがシュティレは鎧を着ていても十分細身に見える体系だ。見た目で言えば格好いいと言うよりかはモデルに近い。背は女性の平均よりも高い気はするが、それでも男性を平然と抱え上げられるのは凄い。


 転生後の今の俺は割と長身な方だが、成人男性を担げと言われたらちょっと厳しいかもしれない。と言うかヒトを担いだことがないので運べる自信も恐らく技量もない。


 自分のヘッポコ加減にへこみそうになったが、自尊心を守るために、竜の一族は性別を問わずに力持ちなのだと言い聞かせることにした。そして今後はレベル上げも大事だが筋トレぐらいはしようと固く心に誓った。


「では、先にそやつを捕虜部屋へ。ワシが案内しよう。シュティレ、こちらへ。他の奴らは客間で適当に体を休めるがよい。エクラ、案内してやれ」


「りょーかーい。じゃあ、シュティレさん以外のみんなはあたしについて来てね」


 アストライオスさんに指示を貰ったエクラはビシッと敬礼をした後に、俺たち満面の笑みを向けて手招きをし、宮殿へと歩みを進めた。


 俺たちはその後に続き、途中の通路でライアーを捕虜部屋へと運ぶためアストライオスさんとシュティレとは一旦別れてエクラの後について行き、客間で待機することになった。


 最初に通された雪崩が起きたら絶命しそうなほど書物まみれの部屋とは異なり、余計なものは一切置かれていない、しっかりと手入れえをされた机や椅子が綺麗に並ぶ部屋だった。


「ごめんねー、もうお菓子の作り置きなくてさぁ~。今から作ってもいいけど時間がかかるから。とりあえずお茶でもドーゾ。アッサムで用意してみたよ★」


「いや、ここを訪問した時におもてなしはしてもらっているし、お茶をだけで十分だよ」


 着席後、エクラは手際よく暖かいお茶を淹れてくれた。それを一口すすれば戦いの緊張感から解放された体に温かさが染みて、心の底からほっとした。まあ、俺は特に何もしていないけど。


「みなさま、意外に早いお帰りでしたね。先に聞いたお話では苦労をされると伺っていたので驚きです」


 安堵に包まれた空気の中、淡々とそう言ったのはツバキだった。実は彼女は戦に出た俺たちを見送った後はずっとこの場で待機をしていたらしい。


 もちろん、今もアストライオスさんの拘束魔術で全身を光の輪で拘束されているが特に苦しそうにする様子もなく、寧ろその状況に慣れた様子で涼しい顔でちょこんと椅子に座っていた。


 一応彼女も関係者なので、先ほど起きたことを簡単に話すとぬいぐるみ特融のつぶらな瞳を大きく広げて驚いた。


「まあ、ライアーの不意を突くことに成功したんですか。無茶な作戦だとは思っていたのに本当にやってのけるなんて驚きです」


「ほぼシェロンさんの独壇場だったがな」


 さっきの衝撃的な演技を思い出して若干苛立ちを蘇らせながらシェロンさんの方を見ると、話題になる気配を察知した彼女は胸を張り、ドヤ顔で自らの行動を称えた。


「ふふん。我にかかればあの様な小童に隙を作るなど簡単なことじゃ。アストライオスが視た未来が変わるといかんからあえて行動には移さなかったが、あのまま我は奴に攻撃を仕掛けてもよかったんじゃがのう」


「流石、竜の長ですね。強力な助っ人が来てくれてよかったですね、みなさん」


 ツバキは得意げなシェロンさんを必要以上におだてることはなく、軽い称賛の言葉を送って冷静な態度でそう言った。


 アストライオスさんが視た未来を考慮しての行動と言うのは初耳である。あの一瞬でそこまで色々考えていたのは流石だとは思うが、それでもリアリティ追及のためとは言え仲間を騙した罪は重いぞと思う。と言うか心臓に悪いことをされたので根に持っている。


「作戦成功と言えばミハイルもナイスヒットだったな。確実に致命傷を負わせたじゃないないか。それにお前の存在も認識されていないみたいでよかった」


 しつこく心に沁みつくシェロンさんへの恨みを抑え込みつつ、俺はここまでの会話に一切介入せず、窓の傍にクールに身を置くもう1人のキーパーソン、ミハイルに声をかける。


「そうだな。まあ、俺の実力があればライアーに致命傷を負わせるなんて簡単なことだったがな」


 話題を振られたミハイルは軽口を叩きながら言った。お前も自信家な奴だな……素直に自分を称え過ぎるのもどうかと思うぞ。


 まあ、それはそれとして……ライアーにミハイルがどう言う存在であるかは悟られてはいない様だ。背中を取られた際、一瞬だけライアーはミハイルの方を見たが少なくとも襲った人物が“自分と同一の存在”とは認識していなかったと思われる。


 それについては本体に認識されてしまうと消える運命を持つミハイルが存在し続けていることが何よりの証拠である。


 この作戦で一番危惧していたミハイルの消滅を回避できて良かった。そう思う一方、俺には少しだけ気になっていることがあった。


「しかし、お前よくあんな遠慮なしに攻撃できたな。仮にもライアーはお前と同一の存在なんだろ。あのままあいつが絶命したらどうするつもりだったんだ」


 ミハイルはライアーが自ら切り離した彼がこの世界で過ごした“楽しい記憶”が意志を持った存在。言わば同一人物とも言える。


 そのツバキとフィニィの関係性に似ており、そこから考えれば本体(ライアー)が消えれば自分の存在も危うくなるとは思わなかったのだろうか。自分で自分に致命傷を負わせるなんて俺なら無理だな。仮に決意が出来たとしても実行に移せる勇気が出ない。


「どうもこうも、俺は元々あいつに認識されてしまうと消える可能性があるからな。この戦い参加すると決めた時から俺には“ライアーに存在を認識されて消滅”か“本体(ライアー)が命を落とした場合、一部である俺も消滅”の2択だった」


「ま、マジか……前者については理解していたが、後者は初耳って言うか参戦を頼んだ時にはそこまで気が回らなかった。すまん……」


 改めて理由を聞いて、ミハイルが思った以上のリスクを背負い覚悟を決めてくれたことを知って申し訳なさが込み上げくてる。もう終わったこととは言え、俺は謝罪をした。


「今更謝られてもな。まあ、戦いに参加する時点で消滅する覚悟だったんだ。だから、ライアーの命を奪うことにも抵抗はなかったんだよ。それに俺の心残りなんてラピュセルだけだし」


 だから気にするな。とミハイルはぶっきらぼうに言った。ラピュセルさん、ミハイルの想い人の名を聞いて消滅を覚悟で戦いに挑むことを決めた彼を悲しそうに見送った彼女の姿が俺の脳裏に蘇る。

 

「ラピュセルさんにも顔向けできそうな結果になってよかった」


『そうだね、きっと作戦の成功を涙を流して喜んでくれるよ。いっぱい褒めてもらえるかも!よかったねぇミハイル』


 この作戦を一番不安に思っていたラピュセルさんにも良い報告が出来そうだと胸を撫で下ろす俺の隣で聖がミハイルを楽しそうにからかった。


「ら、ラピュセルが喜んでくれるなら、喜ばしいとは思う」


 めっちゃ照れてるし。褒められるところを想像して想いが溢れちゃってるじゃん。ミハイルって普段は感情に乏しいくせにラピュセルさんが関わってくると途端にわかりやすくなるよな。


 そう言うところを見てるとミハイルも案外可愛いところがあるんだと思って笑いが漏れそうになる。これでもあのライアーの一部とか言うんだもんなぁ。そう思うと違和感しかない。


『うんうん、嬉しいよねぇ。ライアーに致命傷を負わせて拘束することもできたし、ミハイルも認識されることはなく消えずに済んだので、作戦は完璧に成功したんじゃない?まさに完全勝利』


 聖がテンション高めに言って、俺も「そうだな」と返事をして紅茶を一口すすったところで客間の扉が開かれた。


「ライアーを捕虜部屋にぶち込んできたぞい」


 アストライオスさんが笑顔でそう言いながら入って来て、シュティレも黙ってその後に続いて姿を現した。


「お2人共、お疲れ様です」


 シルマが笑顔で2人に労いの言葉をかけつつ、手に持っていたティーカップを置いて素早くソファーを詰めて席を作る。


「お疲れー、2人の分のお茶も入れてるよ~」


 いつの間にか淹れたての温かいお茶を追加で2人分用意していたエクラがそれぞれの場所に手際よくカップを置いた。


 アストライオスさんは上座に、シュティレはシルマの隣に着席し、これで仲間全員でつかの間の休息を取ることができた。


『ライアーの様子はどう?』


 2人が着席して直ぐ、聖が早々に質問をした。アストライオスさんは湯気が立つお茶を一口啜り、ふぅと一息ついてから言った。


「どうもこうも、先ほど捕らえたばかりじゃからのう。まだ目を覚ます気配はない。話を聞きたいところじゃが、今は無理じゃのぅ」


『そっかぁ。ネトワイエ教団のこととか、世界の消滅を望む理由について色々聞きたいんだけどなぁ。早く終わらせたいよ、こんな面倒な案件』


 聖が残念かつ面倒くさそうに溜息をつき、あからさまにがっかりしていると、シェロンさんが軽い口調で言った。


「そんなに焦ることでもないのではないか?仮に今この瞬間に奴が目覚めたとて我の拘束魔術とアストライオスの強固な結界で簡単には抵抗できないのじゃから、これ以上面倒くさいことにはならんじゃろう。多分」


 なんで多分、そこは言い切ってくれよ。何か変なフラグ立つじゃん。お願い、大丈夫って言って、怖いから。


 アストライオスさんとシェロンさんのことは信用しているし、大丈夫だとは思うが、フラグの前ではどんな優秀な人物の能力も意味をなさないことが多い。余計なフラグを立ててはいかんのだ。


「シェロンの言う通りじゃな。ワシの未来視でも特に問題は起きておらぬ故、安心して構わない。そうささなぁ、あの少女……フィニィの方は大分落ち着いて来た様じゃ。先に話を聞くとしようかの」


「え、今からですか」


 今帰って来たばっかりなのにもう行動に移るのか。嘘だろ、とんだ急展開だわ。


「今じゃなくていつ聞くと言うのじゃ。ホレ、早う準備をせい」


 数秒前に焦らなくても良いって話になってましたよね!?めっちゃ話進めようとしてますやん。お茶もまだ残ってるのに。しかも温かい状態で。


 突然の展開について行けず戸惑う俺を呆れた視線で見ながらアストライオスさんが急かす。そして「行くぞ」と短く言った後に、返事を待たずに踵を返して歩き始めたので俺たちは慌てて立ち上がり、文句も言う間もなくバタバタとその後に続いた。


「フィニィ……」


 シュバルツに抱えられているアンフィニが緊張気味に呟く。不安と緊張を抱えるのも無理はない。今まで幾度となく対話と説得に失敗して来たのだ。


 アンフィニの中ではまた自分の言葉でフィニィが心を乱してしまうのではないか言う思いが渦巻いているのだろう。兄として、妹にあまり精神的な負担をかけたくないと言う想いが伝わって来る。


 それに今はフィニィの半身であるツバキの存在も彼の中では重要になっているのだろう。復讐に染まりきってしまったフィニィの心に残っていた理性である彼女は、フィニィとは“同一の存在”ではあるが本体とは異なり、まともに会話ができる存在なのだ。



 同一の魂は同じ世界に存在できないと言う世界の理があるが故、本体に“自分の一部”と認識されてしまうと消えてしまうし、そうでなくても力の弱いツバキはいずれは本体に戻る運命にある。


 ツバキが本体に戻ればその意志は消えてしまうため、話し合うことがまた困難になってしまうと言う可能性があるのだ。


 ツバキと言う存在のおかげで取り戻せそうになっていた兄妹の絆が、こちらの行動次第ではまた大切な妹を失ってしまうことになる。アンフィニはそれが不安で怖いのだ。


「お兄様、私は大丈夫ですよ。前にも言いましたが、私は消えるのではありません。あるべき場所に戻るだけです。本体(フィニィ)さえ説得できれば、(ツバキ)のお兄様への想いは変わらず在り続けます」


「……ああ。わかっているよフィニィ……いや、ツバキ」


 兄の淀んだ雰囲気を察したツバキがシルマに抱えられた状態で穏やかに、そして優しく励ましの言葉をかける。アンフィニは少しだけ寂しそうにして、これ以上感情を悟られない様にするためか短い返事をした。


「……」


 そのやり取りはその場の全員に届いていたが、誰も言葉をかけることはできず、何とも言えない思いを抱えたまま、目的地へ向かってひたすら足を動かした、


 兄妹の絆の修復とフィニィの心に巣食う復讐心を取り除くにはフィニィと本人と対話をしないことには何も始まらない。そう、まだ何も始まっていないのだ。


 この道を進んだ先での対話がフィニィとアンフィニ、そしてツバキの今後を大きく左右することは間違いない。


 悔しいことに現状では俺たちがフィニィを保護したことにより、生まれてからこれまで辛い運命を背負い続ける双子の今後が少しでもいい方向に動いてくれる様にと静かに祈ることしかできなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!フィニィとの面談が再会するわけだけど、今まで通りのやり取りの繰り返しだと上手くいかない気はするなぁ。多分、あの子が一番耳を傾けるのじゃアンフィニだと思うし、彼がどんな風にして彼女の心に訴えるかが鍵だよね」


クロケル「よく考えたら一度志を違えたもの同士の会話って凄く難しよな。それに兄妹だからこそ意地になることもあるだろうし」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第128話『食はいつだってヒトの心を温かくするものです』そうだね、もしも大切なヒトと志や道を違えた場合は素直になってみるのもいいかも」


クロケル「おお……なんかいい言葉なんだろうけど、何かサムイな」


聖「えー!何でそんなひどいこと言うかな。結構本気で言ったんだけど」


クロケル「わ、悪い。でも何かこう背中がぞわっとして。なんだろう?名言恐怖症?日常ではあんまり聞かない言葉を言われるとうすら寒くなるんだよ」


聖「そんな症状聞いたことないんだけど。君って変なところで現実主義者(リアリスト)だよね」



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