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第126話 死闘の一段落、役立たずだった俺…… 

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


最近この物語がギャグ路線なのかシリアス路線なのか自分でもわからなくなってまいりました……コンセプトがブレブレで泣きそうです。いや、自分の計画性のなさと情けなさでほぼ半泣きです。


シリアス路線なら主人公をもう少し格好よく……と言うか主人公っぽい活躍をさせてあげたいなぁ。と思うのですが、一切の秘めた力を持たない一般人系主人公っておもしろよな。と思ってしまうのです。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「う、ぐうっ……き、さまっ」


 ライアーが背中から夥しい量の血を流し、恨むように呻いてからその場にうつ伏せに横たわった。倒れても尚血は決壊したダムの様に流れ続け、闇に包まれた空間で地面を赤黒く染め上げ、傷の深さを物語る。


「う、えっ」


 立て続けにヒトが故意に傷つけられ、大量の血を流す姿を目の当たりにしてしまった俺は今更ながら吐き気を覚え、口元を押さえた。


 何とか耐えたのでこの場で戻すことはなかったが、鉄の匂いが鼻孔をくすぐる度に吐き気は増して下腹部がモヤモヤぞわぞわとする。気を抜けばせり上がって来たものが口からこぼれ出そうだ。


「大丈夫ですか。クロケル様」


 俺の顔色が相当悪かったのだろう。シルマが心配そうに俺を覗き込んできた。その隣ではシュバルツが真っ青な顔をして震えていた。目の前で起こった光景はシュバルツにとっても相当ショッキングな光景だったのだろう。


 目の前に横たわるシェロンさんとライアーの方を直視することができず、固く目を閉じて目を逸らしていた。


 シュティレは呆然と両膝をついた状態まま固まっていた。自分が慕う長が目の前であんなにも残確な目に遭ったのだ。この中で一番状況を受け入れることが出来ない状態であるのは当然と言える。


 声をかけてやりたいが、何を言っても偽善にしか聞こえない気がしてかける言葉も見つからず、俺はやるせない思いを抱きながらシルマに答えた。


「……少し気分が優れないだけだ。心配させてごめん。いや、俺よりもシェロンさんだ」


「はい!直ぐに回復作業に入ります」


 正直、手遅れではないかと思う量の出血ではあったが、明確な絶命を確認したわけではない。回復魔法で血を止めれば助かる可能性もある。例え可能性が低くとも、シェロンさんを助けたい。


 シルマも同じ思いだったのだろう。即座に頷いて地面に倒れ伏すシェロンさんの元へ駆けだそうとして、そして止まった。


「あ、あれ……。シェロン様の体が、消えた?」


「な、なんだって!?」


 ありえない言葉に驚いてシェロンさんが横たわっていたに目をやれば、確かにそこにあったはずの体がなかった。体どころから地面を染め上げていた血だまりすらみあたらない。


 まさかとは思いライアーの方を見てみたが、そこには目を背けたくなるような血だまりとピクリともしない壮年男性の体が横たわっており、先ほどまでの戦いは幻ではないと言うことが証明される。


「え、シェロン様の、お身体が……」


 呆けていたシュティレもようやく状況を理解した様で、ゆるりと顔を上げて辺りを見渡した。先ほどのショッキングな光景が頭から離れないのかいつもの凛々しさはなく、憔悴はしていたが、何とか思考は取り戻した様で少しだけ安心した。


「き、消えたって言っても一体どこに……誰が何のために移動したんだ」


 極限状況で起こった怪異に戸惑いを通り越してパニックを起こしていると俺たちの背後から聞き覚えのあるのんびりとした声がした。


「ふう、間一髪じゃったな。流石に焦ったわ」


「えっ」


 反射的に振り返り、驚いて心臓が飛び出そうになった。そこには先ほど心臓にナイフを突き立てられ、血だまりの中で瀕死の状況に陥っていたシェロンさんが頭を掻きながら呑気に佇んでいた。


「し、シェロンさん!?なんで、どうして!?」


 パニックのあまり失礼な行為だとは理解しつつ指を差して魚の如く口をパクパクとさせて狼狽えてしまった。


 もちろん驚いているのは俺だけではない。シルマもシュティレもシュバルツも目を大きく見開いて幽霊でも見たのかと思うほどの驚愕を浮かべていた。いや、そりゃあんな光景を見せられたら誰だって幽霊だと疑うだろう、普通。


 さっき刺されて倒れたはずでは……と言葉を続けようとして俺は更に固まってしまった。刺された場所、心臓はおろか服にすら血が付着していないのだ。つまり、シェロンさんは全く無傷の状態でそこにいた。


「流石はかつて神子と共に世界を救った経験がある者、と言ったところか。それに長く竜の谷の長を務めていることにも頷ける。中々の演技力だったぞ」


「ミハイル!?」


 空気が戸惑いと驚愕に包まれる中、淡々と言葉を紡ぎ地面からずるりと抜け出たのは、この闇の空間で映えるほどの純白体を持つフクロウ、ミハイルだ。彼はこの状況を理解している口ぶりでシェロンさんに話しかけたので驚きが増す。


「ふふ、長く生きておると様々な能力が身につくものなのじゃよ。と、言っても今回に限ってはタイミングが遅れると本当に昇天するところじゃったから笑えんが」


 シェロンさんは苦笑いを浮かべていたがこっちは全く以て状況が飲み込めない。説明を!説明を求むぅ!


「シェロンさん、怪我は!?さっきあんなに大量に血が出ていたのに、平気なんですか」


 心配とパニックと色々な感情を抱える俺たちを他所にゆるゆるな雰囲気のシェロンさんにようやく状況を確認する。


「変わり身の術じゃよ。この我がそう簡単に命を奪われるわけがなかろう」


 どうだと言わんばかりに胸を張るシェロンさんだが、説明が簡単すぎて理解ができない。割と重要な事実なのに何をけろっと言っているんだこのヒトは。


「変わり身の術っていつそんなもの使ったんですか」


「いつ、と言われるとそうさなぁ……刃物が心臓に到達する瞬間かのう。ああ、因みにもっと詳細を言うならば攻撃を受けたところまではガチじゃが、それ以降は演技じゃ」


 シェロンさんはドヤッとした態度のまま続けたが当然のことながら謎は深まるばかりである。さっきから説明が説明になっていない。


 あ、どうしよう。シェロンさんのことが心配だったはずなのにだんだんイライラして来たぞ。


 せっかく心配したと言うのに当の本人はけろっとして、何だったら自分は凄いだろうと言わんばかりにドヤッいること怒りから若干体を震えさせながらも、シェロンさんの言葉に引っ掛かりを覚えた。


「演技?あ、そう言えばさっきミハイルもそんなことを言っていた様な……」


 そう、ミハイルは数秒前確かに言ったのだ。“中々の演技力だった”と。じゃあ、刺されるのはこのヒトの想定内と言うか作戦の内だったと言うことか。


「そう、演技じゃ。アキラから連絡を行けた際、今回の作戦の旨を聞いての。ライアーの気を引くのが今回の作戦の趣旨じゃと教えてもらった故、戦いながらその方法を模索していたのじゃ」


「それで思いついて実行に移した行動があの衝撃的な光景と言うことですか。確かにライアーも騙されるぐらいの演技力ではあったと思いますが、仲間の心臓にも悪いのでもう二度とやらないで下さいね、と言うかそう言うのは事前に知らせておいてください」


 何事もなくて良かったと思うし、ライアーの隙は見事につけたのでシェロンさんの判断は間違っていなかったとは思うが、仲間の寿命まで奪うのはやり過ぎなので一応、緩く抗議をすると、シェロンさんはぷぅっとむくれて言った。


「むう、何をいうか。ああ言う演技は仲間も知らないからこそショックを受けた際にリアリティが出てより一層相手を騙しやすいのじゃ。作戦を成功させてやったのに、礼ではなく注文を付けるとは……・全く、礼儀がなっておらぬのぅ」


「いやいやいや、礼儀とかそう言う問題ではないんですよ。アナタのことを心配した上での抗議ですよ。ってか、そっちこそリアルを追及して仲間に精神的負担をかけるのは良くないですからね」


 今回ばかりは本当にびっくりしたし、ショックだったんだ。この文句だけは絶対に譲らない。みんなの精神を抉ってくれたことを猛抗議しなければこの怒りの感情は治まらない。


「なにおー!若造のくせに年長者に向かってまぁだ説教をするつもりかー!!」


「お二人共落ち着いて下さい~!えっと……ミ、ミハイルさんはよくあれがシェロン様の演技だと見破りましたね!私たちは全員騙されてしまったのに凄いです」


 小競り合いを始めた俺とシェロンさんの間にシルマが割って入り、必死で話を逸らす話題を振った。


「ああ。竜の谷の長からテレパシーを受信したからな。今から刺されるがわざとだから隙をついて攻撃をしかけろと」


「テレパシー!?」


 ミハイルはケロっとして答えた。またとんでもない事実をさらっと暴露され動揺が加速して声も大きくなる。驚く俺に追い打ちをかける様にシェロンさんが得意げに続けた。


「因みに、全員に内緒で刺される演技は流石に良くないと思った故、アキラとアストライオス、そしてお前の肩に乗るアムールにもテレパシーで我の作戦の旨は伝えておったぞ」


「何ですと!?」


 まさかの新事実に肩の上のアムールを勢いよく見るとアムールは申し訳なさそうに肩を竦めて上目遣いで謝って来た。


「うう、ご主人様。ごめんなさい、わたしもテレパシーで連絡を受けていたので知っていました。作戦を成功させるため、余計な手出しはするなと念を押されて黙っていたんです」


「あ、いや、いいんだ。アムール、ちょっと……大分驚いただけでお前を責めるつもりはないよ」


 テレパシー……よくある脳に直接語りかけていますとか言うやつか。そんな便利な能力があるなら尚更俺らにも教えろ。リアリティがナンボのもんじゃい。作戦は成功するかもしれんが精神衛生上よくないわ。


「シェロン様、ご無事で何よりです。私が至らぬせいで救援できずに申し訳ございません」


 忠誠心が高いシュティレは精神的負担をかけられたにも関わらず、心の底からシェロンさんの無事を喜んでいた。この中で一番ショックが大きかった分、安堵の感情も人一倍で瞳にはうっすらだが涙が浮かんでいた。何て素直なんだ、シュティレ……。


「なに、お前が気にする必要はない。それより槍捌きに磨きがかかっていたではないか。強くなったな、シュティレ。後は如何なる時も冷静さを失わぬことじゃ」


「はい、しかと肝に銘じます」


 うーん、美しい師弟愛……なのか?何か色々とうやむやにされた気がするけど。ああ、何かもう文句を言う気も失せて来た。


「ありゃ、これはもうあたしたちの出る幕ない感じ?レオに帰ってもらっても大丈夫な空気?」


 ゆるゆるになり始めた空気の中、エクラがキョロキョロと辺りの様子を窺いながら言った。


「ああ、暫くは戦闘にもなるまい。戦闘態勢はとりあえず解いても構わんじゃろう」


「そっかぁ。あんまり活躍させてあげられなくてごめんね、レオ。ゆっくり休んで」


 シェロンさんに戦闘になることはないと保証されたエクラは安堵の表情を浮かべながらも申し訳なさそうにレオの鬣を撫でた。


 白い獣は気にするなとでも言う様に軽く喉を鳴らしながらエクラに頬ずりをし、そして弾ける様にしてその場から姿を消した。


 エクラがしょんぼりとしてしまう気持ちは分からなくもない。だって、やる気満々でレオを召喚して、これから連携して戦うって時に助っ人参上でほぼ独壇場で敵を倒したわけだからな。


 俺的には助かったとは思うが、せっかくのやる気と気合のやり場がなくなってしまったといえなくもない。


「なあ、ライアーってどうなってるんだ。また意識を失ったフリをして回復している、みたいなことないよな?」


 不完全燃焼な空気ではあるが、まずは状況の把握が先だ。とりあえずアムールに状況説明を求めると「お任せ下さい」と満面の笑みで意気込んだ後、真剣な表情で瞳をチキチキっと鳴らしてライアーを分析し、そして言った。


「ご安心下さい、ご主人様。今回は完全に意識を失っています。体力・体温・心音も著しく低下中。俗に言う瀕死の状態です」


「えっ、じゃあこれ放置したら死ぬんじゃ……」


 意識がないからさっきみたいに自己回復をされることもないと安心しかけたが、瀕死と言う物騒な言葉をさらっと流す様に言われてまた不安と言うか、後味の悪さの様な感情が俺を飲み込み始める。


「まあ、そうなるじゃろうな。これだけ血を流していれば不死身でもない限り助からんじゃろう」


 まだ血が流れ続けるライアーを見下ろしながら平然と肯定したシェロンさんに恐怖を覚えつつも俺は頑張って意見した。


「そ、それは良くないと思います。ライアーには聞くべきことがたくさんありますし、このまま命が失われているのを見届けてしまうとネトワイエ教団の手がかりや世界を破滅させようとした理由も聞けなくなりますよ」


 俺から出た言葉は半分は本心で半分は目の前でヒトの命が消えゆく光景を見たくないと言う恐怖から来たものだった。


正直なところ、俺は異世界で生きることにおいても、戦うことにおいてもまだまだ未熟者だ。他人の死を背負えるほどの強さも責任能力もない。例え敵であろうとも、目の前に助かる命があるなら助かって欲しいの願ってしまうのだ。


「そうじゃの。聞けばこやつがネトワイエ教団の長の様じゃし、この騒ぎの最重要人物と言うか発端みたいなものじゃからのう。我とてこのまま死なせてやるつもりはない」


 そう言ってシェロンさんは指をパチンと鳴らした。するとまた赤い魔法文字が空中に浮かび、血だまりの中のライアーを取り囲み、そしてじんわりと体の中に消えて行った。


「あれは拘束魔術ですよね?相手の動きを封じるだけでなく、魔術を使えなくできて効果が永続するって言う」


 それは1度目にライアーが倒れた際にシェロンさんが施そうとしたものだ。あの時は自己回復したライアーに弾き飛ばされて無効化されてしまったが、今回はライアーが完全に気を失っているため無効化されることはなかった。


 魔法文字が体に馴染んで行ったのを確認できたし、恐らく今度は成功したと思われる。ただ、何かに体を拘束されている状態ではないので若干だが不安に思ってしまう。


「そう、我の自慢の拘束魔術じゃ。今度は抵抗をされなくてよかったわい。ああ、物理的には縛られていない様に見えるが、内側からしっかりと魔術で全ての力を抑制しておるからの。安心せい」


 俺に過った心の不安を察してかシェロンさんが肯定と同時に解説を付け加えた。まあ、そこまで言われたら安心するしかない。それにいつまでも細かいことに不安を抱いていたら自分の心が持たないからな。


 うん、落ち着こう、俺。すーはーと深呼吸する俺を見たシェロンさんは、やっと落ち着いたかと呟いてから血を流したまま動かないライアーを前に杖を持ったままどうすれば良いか分からずおずおずオロオロしているシルマに声をかけた。


「シルマよ。こやつの能力は完全に封じた故、もう抵抗をされることはない。回復魔法で命を繋ぎ留めよ」


「はっ、はい」


 凛とした口調の命令を受けたシルマはビクッと肩を震わせた後、緊張気味に頷いて即座に杖を振るい、地面に倒れ伏すライアーに回復魔術を施した。


 通常の回復魔術であればここまで血を流した状態からの回復は手遅れなのかもしれないが、そこはレベル500の実力を持つシルマ。攻撃魔術ではなく回復魔術の能力も高いらしい。


 あれだけ深かったライアーの背中の傷がみるみる内に修復し、壊れた水道管の様に溢れ出ていた血も嘘の様に止まった。


 流石はシルマだと思いつつも、シェロンさんはどうしてシルマに回復魔術を頼んだのだろうと言う疑問が浮上する。


 シェロンさんだって回復魔術は使えるよな?自分よりもシルマの方が適切な治癒ができると判断していたのだとしても、シルマのレアリティは3。通常であれば回復能力は凡人レベルと思うのが普通で、あの怪我の治癒は頼まないと思うが。


 シルマは俺と聖以外には自分のレベルのことを黙っていたはずだし、ここまで出会ったヒトたちはシルマのレベルが500であることは知らないはず、だよな?まさか、シェロンさんは全部知った上で頼んだのか?


 ふとそんな疑問が過り、思わずシェロンさんの方を見やればバッチリ目が合って、そして何か含みのある笑みを返された。ああ、これ多分あのヒト全部把握してるわ。と察したが、周りに他の仲間もいるし、面倒くさそうになりそうだったので口に出すのはやめた。


「バイタル、徐々にですが回復。まだ意識は回復してはいませんが瀕死の状態からは抜け出せた状態です。凄い回復能力ですね、シルマさん」


「ホント、シルマさんヤバくない?回復特化の魔術師でもないんだよね?なのにこの短時間であの回復力はマジで、ヤバい。シルマさんって実は凄いヒト?能あるタカは爪を隠す的な?」


 アムールがライアーの状態を実況しながらシルマを称賛する。それにつられる形でエクラが明るく同意して会話に割って入って来た。


「あ、あはは。回復魔術は一番大事かなぁって思って重点的に強化したからですよ」


 きらっきらとした尊敬の眼差しを向けられながら、グイグイとエクラに詰め寄られたシルマは自分はそれなりに強いと言う隠し事を持っている後ろめたさと、それがバレたくないと言う思いから、苦笑いを浮かべて適当に誤魔化しながら目を逸らして後退っていた。


 俺もポンコツがバレない言うに必死になっているが、お前も大変だな……シルマ。そう同情していると背後から足音がして振り返ると、アンフィニを肩に乗せた状態でにやにやとするアストライオスさんと、その隣で呑気にふよふよ~っと宙に浮く聖の姿があった。


 すっかり忘れていたが、こいつら今までの戦いを遠くで見て頂けだったんだよな。いくらシェロンさんからテレパシーで作戦を伝えられていたからとは言え、傍観を貫くとかひどくない?


 ちょっとぐらい手を貸してくれてもいいじゃん。シェロンさんが無事だって言うヒントくれるとかさぁ。


 そんな不満も込めて視線を送ると、アンフィニは手助けできなかったことに若干の罪悪感があるのかバツが悪そうな表情を浮かべていたが、確実に戦力になるはずに2人は一切悪びれることなく口を開いた。


「いや~、迫真の演技じゃったの~シェロン。流石に驚いたわ。まさかお前に演技の才能があったとは知らなんだ」


『ホント、テレパシーで作戦を聞いた時はシェロンに演技なんてできるの?って思ったけど、ちゃんと作戦成功して驚いた』


 こいつらの驚きポイントはシェロンさんが刺された(風に見えた)ことではなく、彼女に演技力があったことなのか。そこは仲間の心配しろよ。


 いや、でも心配をしないってことはある意味シェロンさんがやられないと信頼していると言うことなのか?うむむ、分からん。仲間意識はヒトそれぞれと言う言事なのだろうか。


 俺が小さなことに頭を悩ませているとアストライオスさんは待たされすぎて(?)体が強張ったのか、んーと軽く伸びをして言った。


「さて、目的も果たせたことじゃし、そろろそろ結界から出るか」


『賛成~。僕もうこんな光がなくて薄気味悪い場所にいるのごめんだよ』


 なんで碌に戦闘に戦っていない奴らがお疲れモードなんだよ!と内心でツッコミながら俺は戦いの終わりを感じて胸を撫で下ろしていた。


 こうして俺たちは意外とあっさりと強敵を拘束し、結界から出ることが叶ったのだった。そして、終わってよかったとホッとしたと同時になるべく考えない様にしていた事実に気がついた。


「俺、なんにもしてねぇわ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告。ついにライアーを撃破!これでこのややこしい事件も好転するのかな。それとも一筋縄ではいかない展開に……?どちらにせよ、ここまで何もしていないクロケルは今度こそ存在意義を発揮することができるのか」


クロケル「うるせぇ。人間は生きているだけで存在意義があるんだよ!無理に役目を見つけようとしなくてもいいの!高レアなのいレベル1ってだけで大分ストレスなのにこれ以上プレッシャーを感じてたまるか!」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第127話『束の間の休息』でも存在意義はともかく、ここぞって時に主人公っぽいことができないのはちょっと悔しいでしょ」


クロケル「まあ、確かに。普通だと“ここで覚醒”みたいなシーンでも一切才能が開花しないのはちょっと悲しいかもしれん」


聖「ほらぁ~君も主人公ポジに憧れがあるんじゃないか」


クロケル「せっかくの異世界転生だから正直チャンスはあるかと思った」


聖「やだなぁ。人生はそんなに甘くないよ」


クロケル「お前に言われると何か腹立つな」


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