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第125話 倒れた敵に油断をしてはいけません

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


お話がまとまらないっ(頭を抱える)自分では話を進めているつもりなんですが、ほとんど場面が変わっていないような……?


いえ、でも少しずつは進んでいるはずなので、是非とも気長にお付き合いを頂ければ幸いです。ノープランとは言えどもある程度の設定は用意している(思いついている?)のでそれを形にできればと思っております。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「ライアーの奴、全然動かないけど戦闘終了ってことで良いのか?」


 シェロンさんに蹴り飛ばされて数秒、地面に倒れたまま全く反応がないライアーの様子を一応警戒して少し離れた位置から確認する。浅く息はしているので生きてはいる様だ。


「いえ、意識はある様ですのであまり気を抜かない方が良いと思います。体の損傷は激しいので直ぐには立てないだけ、と言ったところでしょうか」


アムールの分析を聞いて少しだけ安心していた俺の感情が一気に不安へと変わる。頭から指の先まで異常な冷たさを感じる。血の気引きまくりで眩暈が空て来たぞ。


「意識があるってことは気絶じゃなくてあの体制で休憩してるってことか」


「はい。その通りです。なのでなるべく戦闘態勢を解かず、攻撃に備えてください」


 恐る恐る確認する俺にアムールがキッパリと頷いた。俺に嘘をつくつもりがないから明確に答えてくれているんだとは思うが、こう言う精神が擦り切れそうな案件にはもう少しオブラートに包んで回答して欲しいなぁと思うちょっと我がままな俺……。


「ふむ、我の本気の蹴りを防ぎおったか。まさか腕の骨しか折れぬとはのぅ。完全に動きを止めてやりたかったのじゃが……流石、と言う言葉を送っておくべきかのう」


 シェロンさんが残念そうにしながらもライアーを評価した。敵をリスペクトする姿勢は素晴らしい、しかし俺は結構怖いセリフを言っていたことを聞き逃さなかった。


「う、腕の骨1本しかって……あの蹴り一発でどれだけのダメージを与える予定だったんですか」


「そりゃあ再起不能になるまでじゃ。全身の骨を砕いておけば少なくとも直ぐには立ち上がることはできまい。仮にこやつ回復魔術を使えたとしても、砕けた骨の回復には時間がかかる故、その間に拘束でもなんでも出来るじゃろう」


 わあ、けろっとしてえぐいこと言ってる。口調は年長者っぽいのに幼女の口からそんなこと言われると違和感があることこの上ないし、狂気性と怖さが倍増なんですけどー。


「例え攻撃を防がれても腕を折るとは、流石ですシェロン様。それに比べ私は一発も攻撃を当てられることが出来ず情けない限りです……」


 シュティレが瞳を輝かせながらシェロンさんに駆け寄った。そして今までの自分の戦いを恥じてしゅんと肩を落とす。


俺からすればシュティレも十分な戦いっぷりだと思うけどなー。シュティレの戦いが情けないなら最初から戦うことすらできない俺なんてゴミ、いやゴミでもまだ燃料になったりサイクルできるから役に立つか……。


えーっと、なんだ埃?俺ってゴミ以下の埃なかもしれない。凄くヤダ。情けないにもほどがある。ここから頑張ろう。


「そんなに落ち込むほどのことではないぞ、シュティレよ。強敵を相手にし、倒れることなくこの場に立てていることは立派なことではないか。自分の弱さを認めることも強さだが、自分の良き所を見つけることもまた強さなのじゃぞ」


 意気消沈しているシュティレの腕に触れ、シェロンさんが優しく励ます。俯いていたシュティレが顔を上げる。


「長様……有難きお言葉。このシュティレ、竜の谷の戦士の名に恥じぬ様、しっかりと精進いたします」


「ははは、お前は相も変わらず真面目奴よのぅ」


 励ましの言葉を受け止め、しっかりと頷いて決意を新たにするシュティレにシェロンさんは苦笑いを浮かべつつもどこか嬉しそうに微笑みを浮かべていた。


 そして不意にすっと視線をライアーの方へと戻した。和やかな雰囲気はすっかり消え去って、冷静に冷酷に言った。


「さて、ライアーよ。意識はあるのだろう?あらかじめ確認しておいてやろう、腕の骨が折れて辛いところ申し訳ないが、お前には聞きたいことが山ほどある。このまま拘束させてもらうぞ」



 ライアーからの返事はない。シェロンさんは右手を広げ、呟く様に魔術を唱え始めた。するとライアーの体の周りに赤い魔法文字が円状になって出現し、彼をグルグルと回って取り巻き始めた。


「な、なんだ?」


「これは拘束魔術の一種ですね。アストライオスさんがフィニィと言う少女を拘束した際に使ったものと仕様が似ています」


 突然発動された魔術にすっかり戸惑っているとアムールが素早く分析と解説をしてくれた。俺の思考がそれを理解するよりも前にシュティレも俺に向けて説明を付け加えた。


「あれは竜の谷に伝わる強力な拘束魔術だ。相手の身体的な動きを奪い、魔術も発動できないようになる。アストライオス殿の魔術と異なるのは効果が永続することだ」


「効果が永続?」


 首を傾げる俺にシュティレは丁寧な解説を重ねる。


「アストライオス殿の拘束魔術は彼の魔術が組み込まれた光の輪で文字通り拘束をし、一時的に抵抗ができなくなるものだろう?」


「はあ……」


 いや、だろう?と聞かれても自分の魔術の使い方や質も良く分かっていないのに、他人の魔術のことなんてわかるわけがないだろう、と思ったがここでそうツッコミを入れると余計な解説が入って話が進まない気がしたので取り合えず生返事で凌ぐ。


 俺があまり言葉を理解していないことに気づかないシュティレは、シェロンさんの魔術の凄さを伝えたいのか少しだけ興奮気味に話をどんどんと進めて行く。


「シェロン様の拘束魔術は魔術で体を縛るのではなく、魔術を体に刻むのだ」


「ああ!要は入れ墨みたいなものですね。体に一生残る拘束魔術。恐ろしいですっ」


 多分、俺が話について行けていないと察したのだろう。アムールが怖がるふりをしながら少しわざとらしく震えながら言った。でもフォローありがとう、アムール。その表現はアホの俺でも分かりやすい。


「刻むってことは、その拘束魔術を施された者はもうそれから逃れられないってことか」


「そうだ。あの拘束魔術を一度でも受けてしまえばそれは一生体に残り続ける。つまり、あの魔術を施された者は例え素質があったとしても二度と魔術が使えないと言うことになる。戦闘における動きも著しく低下するだろうな」


「わ、わー……ぞれは実力者からすると辛いな」


理解したら理解したで現在発動中のシェロンさんの魔術が怖くなって来た。と言うか魔術の入れ墨ってそんなものが存在するんだな。魔術って怖い……。


非現実的なものとして受け入れていたときファンタジーや夢を覚えていたのに。それが身近になった途端怖さを感じるとかなんなの。


 身震いをしながらシェロンさんの方に視線を戻した時、今まで微動だにしなかったライアーの体がピクリと動いた気がした。


 えっ、と思った瞬間、ライアーの体に今にも巻き付こうとしていた赤い魔法文字が突如はじけ飛び、同時に足元に衝撃波が広がった。


「わっ」


 衝撃波と共に軽い揺れが起こり、バランスを崩しそうになりながらもその場に踏ん張り、改めて様子が急変したライアーの方を見る。


 流石のシェロンさんも発動中の魔術を無効化されたことに驚いて、一瞬だけ目を見開いた後、現状で距離が近いのは危険と判断したのか素早く後退して俺たちの隣に並んだ。


 そのタイミングで地面に倒れ伏していたライアーが表情を見せぬまま、力が抜けた状態でゆらりと起き上がったので恐怖のあまり俺の喉がヒュッと音を立てる。


「な、何が起こってるんだ」


 震えながらもなんとか声を絞り出したが、ライアーから溢れるどす黒い殺気を前に正直体はガックガクである。


少し離れた位置で控えるシュバルツも青ざめて震えており、エクラが呼び出した聖獣レオもただならぬオーラを感じてかけを逆なでてグルグルと威嚇していた。


場が嫌な緊張感に包まれ、各々が戦闘態勢を取りながらライアーの行動を観察する。アストライオスさんと聖は特に慌てることも戦闘態勢を取ることもなく、ひどく落ち着いているがどい言う神経をしているのだろうか。ちょっと大分腹立つ。


敵を鎮めたと思った後に予想外の事態が起こると言う二次元では王道の展開に何となく予想はつくものの、目の前で起こっていることを受け入れたくないあまりそんな言葉が口を突いて出る。


「ふむぅ、倒れている間に蓄えていた力を開放したと言ったところかのう」


 シェロンさんは拘束魔術をはじき返し、様子が変わったライアーを目の前にしても動揺することなく顎に手を当てて冷静に現状を分析した。


 すっごいさらっと言ってますけど、ヤバい状況ですよね。力の解放とか言ってますがそれってゲームとかで言うところの第2形態からの戦闘再開みたいなもんだろ。


 初見殺しだと最悪なパターンじゃん。元々無策なのに強敵がここから進化とか地獄ですか。せめてセーブをさせて下さい。


「い、今の内にさっき発動していた拘束魔術で捕えた方がいいのでは」


 さっき話を聞いた限りではかなり有能で強力な魔術だったし、弾き返されてしまったが、不都合がなければもう一度トライしてみてもいいのではないか。と言うかマジでヤバそうな気配しかしないのでトライして下さい。お願いします。


 俺とシュバルツ以外の全員はライアーに対して警戒はしているが目立って慌てたり、恐怖を抱いている様子はなかった。正直、何でやねんとツッコミたくなった。これが戦いを経験しているかいないかの差なのか?


ここで1人パニックになるのも情けないと思った俺は、外面では冷静を装って提案し内心では顔面蒼白で慌てると言う器用な行動を取った。我ながらいらん技術を身に着けたと思う。


「その提案については却下じゃな。一度無効化された技を再度使用したところで効果が得られるとは思えん。発動するだけ魔術の無駄じゃ」


「そ、そんな……じゃあこのままあいつのヤバそうな状態を見届けるってことですか!?」


バッサリと提案を斬り捨てられた俺は目を見開いてシェロンさん冷静を装おうと決めたのに早速それが叶わなくなってしまったが、これは驚いても仕方がない。


「下手に魔術を連発するよりも状況に見て対応をした方が良いとは思わぬか。こやつがこのまま強くなったとしても、それに合わせた戦い方をすればいいのじゃ」


「何を得意げにおっしゃっているんですかね!?それは実力者の理論であって普通は強敵との戦いはできるだけ避けたいと思うもので……」


「ふふ。そうですね、私が本気を出す前に止めていた方があなたたちにとってはよかったかもしれません。もう遅いですが」


 強い者基準で話を進めようとするシェロンさんに抗議をしようと更に詰め寄った瞬間、不気味なまでに穏やかライアーの声が俺の言葉を遮った。


 本当は視線を向けたくなかったが、そうもいかないので恐る恐る視線を声の主の方向へ移すとそこには先ほどぐったりしていたとは思えないほどピンピンとしたライアーがにこやかに平然と立っていた。


「あわわわっ」


 まさに開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。焦りと驚きと、とにかく色々な感情は入り混じって上手く言葉が出てこない。悲鳴すら上げられない。


 同時に先ほど折れたと聞いた腕が気になり、自然とそこに視線をやって俺の背筋が凍った。


「もしかして、腕が直ってる……?」


 一瞬見間違いかと思った。俺は医者でもその道の専門家でもないのでパッと見ただけではよくわからないが、明らかに曲がっていた腕が元に戻っている気がする。


「はい、残念ながらライアーは怪我・体力共に全回復をしてます」


ああ、これはもしかして敵が完全回復状態でパワーアップするパターンか。と頭を抱える俺にアムールからの現実を突きつけるトドメの一撃が俺にクリーンヒットした。


「ま、まさかの仕切り直し」


 驚愕して呟くしかできない俺の腰の辺りをシェロンさんが後ろからポンポンと叩いて小さく笑った。


「戦いも始まっていないのに絶望するのは早いぞ、クロケルよ。絶望と言うのは最後まで抵抗してもどうにもならない時にするものじゃ。戦いが始まる前から尻込みをしていては自分から絶望を招いている様なものじゃ。己の弱さに飲み込まれるでないぞ」


「そうは言いますけど」


 シェロンさんの言葉はもの凄く良い言葉だとは思う。漫画とかアニメの世界だと確実に主人公の背中を押す温かい言葉となるだろう。


 でもごめんなさい。俺は主人公属性ではない怖がりヘタレモブなのであんまり響きませんどうしたらいいですかっ。


「ふふ、そうですね。戦ってみないと分かりませんね……ではやってみますか」


「むっ!?」


 シェロンさんの強くで真っすぐな言葉を聞いたライアーが口元に手を当ててクスクスと笑った後、それをすっと引っ込めて瞬間移動で俺たちとの距離数センチのところまで間合いを詰めて来た。


「わっ!?」


「……っ速いっ」


 残像しか認識できなかった俺は体が硬直して何も反応できなかった。シュティレですら武器を構えるのが数秒反応が遅れてしまうほどの速さでライアーは距離を詰めて来たのだ。


「馬鹿者躱さぬか!!」


 唯一その速さに反応したのはシェロンさんだ。ライアーの動きを確認して直ぐに焦った叫びと共に俺とシュティレの方に向き直って、秒速で衝撃波を飛ばして来た。


「どわーっ!?」


「うっ、シェロン様っ」


 衝撃波と言っても威力は空気砲に近かった。俺とシュティレは強い風に軽く吹き飛ばされる形でライアーから強制的に引き離された。


 空中で一回転しながらもシュティレは1人ライアーと至近距離で取り残されたシェロンさんの名を必死に呼んだ。


「ふふふ、優しいシェロンさん。お仲間さんを守っていてはご自分のガードががら空きですよ」


「ぐっ」


 衝撃波で吹き飛ばされながもそんな会話が聞こえて来て、ライアーの拳がシェロンさんの腹のど真ん中に命中する。その一撃で小さな幼女の体がいとも簡単に宙を舞う。その光景に腹の底が一気に冷たくなった。


 シェロンさんの行動が俺たちを守るためのものだったと言うことに気がついた時には俺とシュティレは後方で控えていたシルマたちのところまで吹き飛ばされた後だった。


「ってぇ……ケツ打った」


「クロケル様、シュティレ様、お怪我はございませんかっ」


「あ、ああ。ちょっとケツが痛いだけで怪我はない、けどシェロンさんがっ」


 俺は飛ばされるがまま着地に失敗し尻から地面に落ちたが、身体能力の高いシュティレは重い鎧を纏った状態にも関わらず華麗に着地をして見せた。


 一連の状況を見守っていたシルマがいち早く俺たちに駆け寄り、気遣ってくれたが今はそれどことではない。俺たちを庇ったせいで飛ばされたシェロンさんの安否を確認するのが先だ。


「シェロン様っ!!」


 シュティレの悲痛な叫びにつられる形でみんなの視線がシェロンさんとライアーの方に集中する。


 軽々と弧を描きながら吹き飛んだシェロンさんはそのまま地面にどしゃりと惨たらし音を立てて落ちた。


「先ほど私の腕を折ってくれた仕返しです。いかがでしょう、臓器の1つでも損傷しましたでしょうか」


 スマートな動きで地面に横たわるシェロンさんに近づいたライアーはうすら寒い笑顔を浮かべて覗き込みながら言った。


「ははは、やられたらやり返す精神か。ねちっこい奴じゃのう。しかし腕一本奪った奴に対して肋骨と内臓を損傷させるのはちとやり過ぎじゃと思うがのう。痛くて動けんではないか」


 2人の会話は離れた位置にいる俺たちにも届いていた。シェロンさんは軽口で言葉を紡いでいるが、先ほどの一撃で相当な重症を負っている様だった。会話を聞いている仲間たちの表情も一気に曇る。


「動けないなら好都合。このまま楽にして差し上げますよ。あなたも痛いのは嫌でしょう」


 ライアーはうすら寒い笑みを浮かべてコツコツと靴音を鳴らして地面に倒れ伏したシェロンさんを物のように跨いだ。そしてそのまあまゆっくりとナイフを構える。


 その行動が何を示すのかは明白で、誰もがライアーを止めようと動く。が、全員がその場で真っ青になって固まった。


「ま、魔法が発動しない」


「ぼ、ボクも……影が反応してくれない」


「レオ、レオッ。なんで反応してくれないの」


 シルマが何度も杖を振る仕草を見せ、シュバルツが自分の手を見ながら力が使えないこことに泣きそうなり、エクラが呼び出した聖獣レオに呼びかけるがあれだけ敵を威嚇していたレオは銅像の様に動かなくなっていた。


「な、どう言うことだ」


 突然の事態にすっかり呆けているとライアーがシェロンさんに跨ったまま笑顔で言った。


「自分の任務を全うするため、遠距離攻撃が可能な魔術は使えない様にさせてもらいました」


「い、いつの間に」


 魔術を発動している素振りなんて一瞬もなかったのに。遠距離からではライアーを止められないと理解した途端焦りが加速して行く。


「ならば、接近戦からの物理で止めるっ」


 シュティレが槍を手に真っ先に駆け出したが、ライアーが軽く右手を上げると同時に吹き飛ばされる。重い鎧を纏った体が軽々と突き飛ばされ、にシュティレは着地態勢を取ることができず背中を強打する恰好で大きな金属音と共に仰向け倒れた。


「うっ」


 背中にまともダメージを受けたシュティレが苦悶の表情を呻く。


「大丈夫か、シュティレ」


 駆け寄って助け起こすと彼女は槍を杖代わりによろよろと立ち上がったが、相当ダメージを食らったらしく直ぐには動けない様子だった。


「黙ってそこで見ていなさい。私が目的を達成する瞬間を。そして、あなたたちの仲間の命が消える瞬間をね」


 ライアーは手の中でくるっとナイフを一回転させて構え直し、刃先を真下にいるシェロンさんに向けた。


「や、やめろっ」


 異常な空気に負け、怯んで動けない俺は満身創痍のシュティレを支えながら必死で叫んだが、ライアーの行動が止まるはずもなく、彼は最後にシェロンさんに薄気味悪く微笑みを向けて言った。


「せめてもの情けで一瞬で終わらせて差し上げます」


「ははは、そいつは助かるのぅ」


 負傷した場所が痛むのだろうか、シェロンさんは力なく笑った。もう自ら抵抗することが出来ないのか、紡がれる言葉は弱々しい。


「さようなら、シェロンさん」


 優しく穏やかな言葉とは裏腹に容赦なく降る下ろされる銀色に輝く凶器。無駄とはわかっていても俺は力の限り叫んだ。


「やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」


 絶叫の後に響いたのは力強く肉を貫く音とシェロンさんのものと思われるわずかな呻き声。そして成す術がない俺たちの瞳に映るのは小さなナイフで確実に心臓と言う急所を貫かれる仲間の姿。


 俺たちの時間が一瞬止まる。息ができなかった。息の仕方を忘れてしまうほどショッキングなできごとだった。


地面に倒れるシェロンさんの胸と背中に赤い血だまりがゆっくりと広がり始めたことにより、俺たちの思考と時間が徐々に動き始める。


「シェロン、さん……」


 俺の口からついて出たのは仲間の名前のみ。それ以外の言葉は出なかった。いや、出せなかった。


「あはははは。神子の仲間の内の1人目、やっと打ち取ることができたぞ」


 シェロンさんをナイフで貫き、手に付着した血を顔面に塗り付けるような直ぐさをしながら瞳孔を開いて高笑いをする姿は恐ろしく狂気的だった。


 その姿はいつもの紳士的な態度とは程遠く、ただの狂った人間でこれこそがライアーの本性なのだと悟る。


「そ、そんな……」


 シェロンが槍を落として膝から力なくその場に崩れ落ちる。シルマもシュバルツもエクラも、口元を押さえてその場で固まってしまった。


 俺も思考が停止し、何が起こったのか把握ができない、と言うか目の前の現実を受け入れたくない。


「さあ。これで戦力は1つ潰しました。次はどなたと戯れましょうか」


 狂気を纏いながら興奮していたライアーが突然いつもの落ち着いた雰囲気に戻り、血を流すシェロンさんの体を背にライアーは気分よく言った。


シェロンさんの血がたっぷりついたナイフを空中で振って血を落とし、次なるターゲットを品定めする様にその場に固まる俺たちを順に目で追った。


 仲間を失って戦意喪失しつつある俺たちは動くどころか声を発することも出来ず、遅れて込み上げて来たショックで涙が零れそうになったその時だった。


「油断は禁物だぞ、ライアー」


「ガッ!?」


 それはミハイルの声だった。声がしてから数秒後、目にも止まらぬはややで地面から抜け出た黒い手がライアーの背後を的確に捉え、その鋭い爪で背中を抉り取った。


 余裕の笑みを浮かべていたライアーの瞳が驚愕に見開かれ、攻撃の衝撃から体が弓なりになって空中浮く。


 肉が切れ、裂けていく生々しい音と共に飛び散る赤黒い飛沫。それがライアーの血だったと言うことに気がついた時、俺は作戦が成功した安堵と喜びを覚えたと同時に、武器を持って戦うことの残酷さを実感し、頭が痺れて体から力が抜けて行くのを感じた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告。隠密作戦成功!?ついにライアーに深手を負わせることができたのに、クロケルは何だか浮かない顔だねぇ。どうしたの、自分の作戦が成功したんだよ嬉しくないの?」


クロケル「だ、だってシェロンさんがあんなことになったんだぞ。作戦の成功を喜ぶ様な状況じゃないだろう。それにライアーも大分深手を負ったっぽいし……」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第126話『死闘の一段落、役立たずだった俺…… 』仲間や敵の死を怖がっていたら戦えないよ?って言うか、そう言う感情って戦いにおいてはただの偽善だからね」


クロケル「わ、わかってるよ。わかってるけど、ヒトが亡くなる姿はやっぱり見なくないし、仲間を失いたくない」


聖「もう、そんなこと言うならレベル上げるのやめて、騎士の称号も返還して農業でもやれば。ああ、でも家畜とか虫とかの命を扱うから君には無理かなぁ」


クロケル「なんでそんな嫌味っぽい言い方するんだよ。ってか何か怒ってねぇ?」


聖「怒ってないよ、戦うって決めたくせに甘いこと言うから呆れてるだけ」


クロケル「怒ってんじゃねぇかっ!」


聖「ヒトの人生で命と向き合わなくてもいい瞬間なんてないんだよ」


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