第121話 やっと固まった決意ですがゼリーの様にプルプルです
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
何故話が進まない……。思いつきで書くって本当に高い技術とセンスが必要だなぁとしみじみしております。
しかし、今度は現在構想中の新作の下書きやプロットに入念に力を注ぎ過ぎて全然書き進められないと言う事態に陥っております。
まさか自分が加減と言うものを知らない人間だとは思ってもみなかった(遠い目)ですが、決して適当には書いていないので、根気よくお付き合い頂ければ幸いです。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
先ほどまで神妙な面持ちで、黙って周りの様子を窺っていたアストライオスさんは両手を背に回して、今は戦闘に手を貸さない意志を示した。
それは悲しさと悔しさと情けなさで、地面に両膝をつきそうなぐらい脱力する俺がつい二度見をしてしまうぐらいの衝撃だった。
だが、その衝撃に心を刺激されたせいなのだろうか。自分の役立たず加減に精神的に押しつぶされそうになっていた心がスンと驚くぐらい急速に落ち着いて行く。
ほほう、この状況でそんなことを言うのはアレだな。ツッコんで欲しいんだな。なら、お言葉に甘えて……。
「この状況下で何てこと言ってんすか。未来視であんたの協力込みでも苦戦するって自分で言ってましたよね!?後、俺も若干忘れてましたがエクラが人質になる未来があるんですよね。かわいい孫を守るためにも早々に戦闘に参加した方が良いと思いますけど!?」
自分でもうるさいぐらいギャンギャンと早口でまくし立ててしまったが、アストライオスさんは呑気に伸びを1つしてから面倒くさそうに答えた。
「言ったじゃろう、最初に視ていた未来と変わったと。このまま行けばエクラも人質にはならんし、戦いにも余裕が出そうじゃしのう」
小指で耳をほじるな。失礼なヒトだなっ!でも、態度はとりあえず置いておいて、結構前向きなこと言ってないか。
そう言えばシャルム国王たちに相談したことによって未来が変わったって言っていたていたな……エクラも無事で辛勝と言われていた戦に余裕が出るのであれば確かにアストライオスさんの力は必要なかぁ……って、そんなわけあるかい!
「どうしてですか。戦力は多い方が良いでしょう」
未来が変わって前以上に戦いが楽になるにしても、戦力は多い方が絶対にいい。もっと言えば俺は戦いに参加せずにアストライオスさんがあの戦いに参戦した方が確実に勝利に近づくだろう。
「このまま行っても何も問題ないと言うに。ホレ、お前こそ早く戦いに参加して来るがよい」
「強い者に頼ってばかりではならん。もしも強者がこの世からいなくなったらどうするのじゃ。守られてばかり、逃げてばかりの弱者だけでは世界を守ることなどできん。若いもんの育成も大事じゃて」
「うう、確かにそうですけど……」
アストライオスさんの言うことは間違ってはいない。寧ろ正しいとさえ思う。世界を守る、と言うのは少々スケールが大きすぎるが、仕事でもなんでも“できるヒト”に頼りっぱなしだと、将来的にそのヒトがいなくなった時に非常に困るのは目に見えている。
マニュアルだけではできないことっていっぱいありしそうだしなぁ。親父が部下同士の連携ができてないって言ってたっけ。できるヒトに頼り過ぎるのも良くないし、“自分ができるからいいや”と言うが1人で仕事をするのも良くないんだなぁ。
なんか深いわ……一度学生のまま人生を終わらせている俺には経験したことのない深さである。過度な適材適所も良くないと言うことか。
「いや、でも待って。今まさに世界の命運と仲間の命が懸かってません?できるヒトに頼り過ぎるのは良くない論には納得できますが、これはできるヒトに頼るべき案件なのでは」
一瞬納得しかけたが、よく考えたら何か深くていい言葉に丸め込まれそうになっているだけなのではと気がついて、俺はアストライオスさんにツッコミを入れる。
すると彼は「んー」と明後日の方向を見て唸った後、ケロっとして左手をヒラヒラとさせながら見るからに適当な態度で言った。
「まあ、そうかもしれんが最終的に全てが無事ならノープロブレムじゃろ。なぁに、ワシだって鬼ではない。可愛い孫もおることじゃじ、本当に危ない時は助けてやるから安心せい」
言葉は頼もしいのに態度が適当なせいでイマイチ信用ができない。できないが、まあ孫であるエクラがいる限り、何かトラブルが起きた際に全く動かないと言うことはないだろう。そこだけは信用していいかもしれない。否、信用と言うか期待をするしかない。
『で、どうするの、クロケル。シルマちゃんたちの戦いも大分激化して来てるよ。手を貸すつもりがあるなら行かないと』
聖に促され、先ほどから全く鳴りやまない激しい轟音と金属がぶつかり合う方をもう一度確認する。
華奢な少女3人が各々の魔術や身体能力を駆使して、笑顔を保ったまま殺気をバリバリに放つ壮年の男性に物怖じせずに立ち向かう姿は本当に勇ましい。ああ言う姿をヒトは恰好いいと評価するのだろう。
本当は戦いたくないと言う思いが込み上げ、ついはあ~と大きく溜息をついてしまったが、何とか精神を持ち直した。
自分で思いっきり頬を叩き、気合いを入れて決意と覚悟を注入する。せっかく異世界に転生したんだ。主人公らしいことをやってやろうじゃねぇかっ。
そう、これは漫画の主人公になれるチャンスだ!と気合を入れ直し、俺は頑張るシルマたちをサポートする準備を始めた。
「アンフィニはここにいてくれ。もし、お前の力が必要だったら呼ぶから」
一応、アンフィニも“味方の術者の魔力を体内に取り込んで増幅させて吐き出す”と言う能力は持っているし、十分戦闘には役立ってくれるとは思うのだが、自分を防衛する能力は持ち合わせていない。
体がぬいぐるみのためどうしても動きも鈍いし、最近聞いたのだが魔力増幅の力は術者と接触していないと使えないらしいので、誰かが抱えて守りながらなければならない。
そう言う面を考えれば、とりあえずは戦いから離れた場所に待機してもらった方がお互いに安全だと思ったのだ。戦況が変われば力を貸してもらうこともできるし。
「ああ、もしもの時は力を貸してやろう。フィニィの運命が懸かっているんだ。俺だって足を引っ張りたくない」
アンフィニはあっさりと納得し、更にもしもの時は力を貸すとも約束してくれた。続いて結界の中に入ってから、暗闇と言う空間とライアーが怖いのか俺の隣でおどおどとしているシュバルツを見た。
「な、なに?クロケル」
俺の視線に気がついたシュバルツはやはりおどおどとして俺を見つめ返して来たので、なるべく不安や恐怖を与えない様に、できるかぎり優しく言葉を投げかける。
「シュバルツ、俺は今からシルマたちを助けに行かなきゃならないんだ。でも、お前にも分かるだろうけど、相手は怖くて強いだろ。だから、お前にも協力して欲しいんだ」
「協力……ボク、役に立てるかなぁ」
シルマたちの3人がかりの攻撃を平然と往なして戦うライアーを見ながらシュバルツは自信なさげに下を向いて言った。
こんなにも自信がなさげだが、ここ最近のシュバルツの戦いぶりを見る限り、自信を持っていいと思う。1対1は流石に厳しいかもしれないが、チームで助け合いながらであれば十分すぎるぐらいの戦力だ。
って言うかシュバルツってレア度5だけどレベル10じゃなかったっけ。もしかしてレベルによる攻撃力の高さと質ってレアリティに付随するのか?
「なあ、聖……もしかして高レアだったらレベル10でもそれなりの火力が出る感じか」
『ああ、そうだね。言い忘れてたけどそうだよ。基本的にはレアリティが高いほど基礎ステータスも高い。まあ、それはレベルを上げた場合の話だけどね。レベル1だと流石に雑魚の部類だよ。実際、君はレアリティは最高ランクだけど激弱でしょ』
「う、お前はまたそうやって遠慮なく現実を突きつけてくるな。この鬼め」
毎回毎回毎回毎回っ!何でこいつは本当のことしか言わないんだ。現実を突きつけて来るなと言うにっ!!
『戦闘に置いて実力がない人間が勘違いするのは一番良くない傾向だからね。こう言うのは正直に伝えた方が相手のためだって僕は思ってるから』
そっけなくすっぱりと俺の自尊心とプライドを斬り捨てられ、俺はがっくりと脱力した。そんな真正面からディスられたらもう怒る気力も起きねぇわ……いや、ダメだ。やっぱりムカつくわ。腸が煮えくり返っとるわ!
「はいはい、最弱キャラで悪うございましたねぇっ!!」
自暴自棄になって叫んで聖に言葉を返せば、俺がへこんでいることに気づいているはずなのに構わず飄々と俺へのディスりを続けた。
『ああ、でもこれまでの戦いを見た感じだとシュバルツも攻撃力に限って言えば弱い部類だと思うよ。それを補うぐらいの魔力を持ち合わせているんだと思う。だから例えアニメキャラの能力をコピーしただけなのにあれだけ戦えるんだ。でも、君は……ねぇ』
それだけ貶しておいてなんで最後だけ何で言葉を濁す。そして何故にそんな含みのある言い方をしたんだよこの野郎。数秒前に正直に伝えた方が相手のためとか抜かしてなかったか。ああん?
ああ、凄く文句を言ってやりたい、タブレットの体を引っ掴んでジャイアントスイングをしてやりたい。でも、今はそれどころじゃない。こみ上げる怒りのツッコミをグッと押し込め、俺は不安で心を鎮めているシュバルツの両肩を優しく掴んだ。
真正面か俺に覗き込まれたシュバルツの方がビクリと震える。怖がりで臆病なシュバルツにあまり精神的な負担はかけたくないが、今回ばかりはそうも言っていられない。俺はシュバルツの目をしっかりと見据えた。
「ごめん、シュバルツ。不安だろうし、怖いかもしれないがシルマたちが頑張ってくれているんだ。だから俺たちも助けてやらないといけない。仲間が頑張っているんだ、お前も助けたいって思うよな」
協力しろと強要している訳ではない。ただ仲間のために力を貸して欲しい。そう言う思いを込めて俺は確認する様にシュバルツに声をかけた。
俺に見つめられたシュバルツはキョロキョロと目を泳がせ、泣きそうになりながら下を向き、最後に今この瞬間も激闘を繰り広げているシルマたちの方を見てから、ぎゅっと口を結んだ。
「うん。ボク、みんなの力になりたい。みんなを助けたい」
体は少し震えていたが、紡がれた言葉には力強さがあり、シュバルツが本気でそう思っていることが伝わって来たので少し安心した。
基本的には怖がりなのに仲間のためとは言えこんなに一瞬で覚悟を決めることが出来るなんて凄いなと思う。俺なんて非常に情けないことにまだちょっと躊躇いがあるぞ。
まあ、自分の往生際の悪さは置いておいて……うん、これでこっちも戦う準備は整ったな。俺も色々諦めて気合いを入れるぞ。
「よ、よぅし!根性だ!根性で何とかしてやるっ」
俺が超弱いのは覆す覆すことが出来ない事実だし、未だに剣はまともに使えない寧ろ扱うことに恐怖を覚える。なけなしの勇気を振り縛り、半ばヤケクソに久しく剣を抜き放った。
抜刀した際の金属音にぞわりと体が震えたが、しっかりと柄を握りしめ、なけなしの根性で気合いを入れた。
「ご主人様、かっこいいです!もちろん、戦いにはわたしもご一緒しますよ!しっかりサポートしますね!」
「ああ、ありがとうアムール。俺、頑張るよ」
こう言う時は俺を全肯定してくれるアムールが精神的な支えになるよな。応援、マジで大事。
『じゃあ、僕とアストライオス、アンフィニは一旦ここで待機だね。何かあった時のサポート組ってことで、信頼して行っておいで』
俺が決意を固めるや否や聖が勝手に話を終わらせ、あっさりとした言葉で送り出した。アストライオスさんも穏やかな笑顔で行って来いと手を振っていた。
アンフィニは特に何もアクションはなかったが、小さな声で「気をつけろよ」と言ったのが聞こえたので、励みになった。
この危険と隣り合わせの状況で呑気な応援を寄こしてくる、世界を救った元神子と英雄
には若干腹が立つが、いざと言う時は助けると言う言葉を信用しようと思う。
「よし、行くか……っとその前に」
いよいよシルマたちの元へ駆けだそうと決意を固めた直前、隣に立っているすっかりおどおどが半減して気合い十分なシュバルツに念のためと声をかけた。
「いいか、シュバルツ。くれぐれも無理はしない様にな。相手に攻撃を当てようなんて思わなくてもいい。とりあえず、ライアーの気を引ければこの空間のどこかに潜んでいるミハイルが隠密攻撃を成功させる可能性が上がる。何とか隙をつくろう」
「うん、無理はしない。でも、ちゃんとクロケルとシルマたちを守る」
「そうか。じゃあ、行くぞ!」
強く首を縦に振って答えるシュバルツに信頼と頼もしさ、そして本当に無理はしないだろうかと言う少しの不安を覚えながら、俺とシュバルツはシルマが張ってくれた防御壁を潜り抜け、今度こそ戦いの中へ身を投じるべく駆け出したのだった。
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聖「次回予告!ここにきてやっと決意が固まったクロケル。これが漫画とかなら、まったく話が進まず、数話かけて戦への決意をするという読者をイラつかせる展開だねっ★ダメだよ、こう言うことは焦らすの厳禁。次こそちゃんとライアーと戦ってよ~」
クロケル「お言葉だが俺の人生は漫画じゃねぇんだよ、リアルなんだよ。命がけの一世一代の戦いへの決意にイラつきを覚えるな。泣くぞ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第122『結界内での死闘、クロケルのド根性』ええ~でもさぁ、主人公ならこう……悩むのは一瞬でさっと決意してバッと戦うもんでしょ、フツー」
クロケル「俺が選ばれしものじゃないと最初に言ったのはお前だろ。モブはモブらしく泥臭く生きますぅ~。あと、普通って何基準だよ。言っておくが主人公目線の普通はアテにならないからな!」
聖「でもさぁ、主人公ポジには憧れるでしょ?せっかくの異世界転生だよ?」
クロケル「いや、ここまで生きて来てレベルは上げたいと思っても主役になりたいとは思わねぇ」
聖「えええー!何でぇっ」